ルポ イチエフ――福島第一原発レベル7の現場

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000221948

感想・レビュー・書評

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  • 「本当に浜通りが復興するのは、子ども達の世代になってから。彼らが、あまの俺らの年齢になった時、みんながんだ白血病だ、子どもが奇形児で生まれたなんていったら、復興もできねえ。そうなるとは限らないけど、ならないとも言えない。だから、子どもがいるやつは帰ってこないほうがいいと思ってる。俺は、子どももいねえし、ここまできたら自分の目で結末まで見届けたい」

    イチエフ、フクイチとは、福島第一原発のことだ(原発作業員はイチエフと呼ぶ)。近い将来作られるに違いない(作らないといけない)原発事故の映画には、現場作業員たちの活躍がメインでないと、リアリティが出ないだろうと思う。その時にセリフに採用出来る様な証言が、特に前半には散りばめられている。

    後半は一転して、異常な労働がレポートされる。ピンハネの仕組み(ほとんどの作業員が一日1万円-1万5千円しかもらっていないというから驚きだ)も凄いが、その原因はその原発労働ヒエラルキーにある。日立、東芝などの元請を頂点として地元登録業者の3次請、非登録業者の7次請までの構造である。偽装請負と違法派遣が恒常化している異常な状況が、この異常な原発事故労働でも全く改善されていないという「異常な状況」がレポートされる。労災隠しや被曝隠しも公然と行われている。

    「もうちょっと現場の人間が報われてもいいと思いますよね。線量パンクしたら使い捨てですから」

    私たちはまだまだ原発労働現場を知らない。もちろん私は今すぐ原発をゼロにしないといけないと思っている。そのことは、原発労働の仕事がこれから数十年間無くなることは意味しない。廃炉作業は多大な時間とコストを要するからだ。
    原発労働者の労組つくりの動きはわずかにあった。しかし、すぐに潰される。もし、下請労働者の組織つくりが成功しても、ヒエラルキーの上から仕事が降りなければそれで終いだからだ。だから、大手正社員の労組が作られ、それに非正規社員も参加するという形か、一挙に圧倒的な数の下請労働者の組織化がはかられるということが必要だ。と私は思う。それに組織つくりに世論の圧倒的支援が必要不可欠だろう。その芽は今のところ無い。だからこそ、この様なルポで、原発労働の「現場」の理解することはその出発点になるに違いない。

    いつの日か、一緒に手を携えて原発ゼロの運動が出来ないものか。
    2012年11月23日読了

  • 「ルポイチエフ」布施祐仁著、岩波書店、2012.09.27
    196p ¥1,785 C0036 (2019.03.13読了)(2018.03.28購入)(2013.01.25/3刷)
    副題「福島第一原発レベル7の現場」

    【目次】
    プロローグ なぜ「彼ら」なのか
    第1章 決死隊
    第2章 被爆作業
    第3章 ピンハネ
    第4章 原発労働ヒエラルキー
    第5章 犠牲と補償
    エピローグ 「距離」を埋めるもの
    あとがき

    ☆関連図書(既読)
    「原子炉の蟹」長井彬著、講談社、1981.09.10
    「神の火(上)」髙村薫著、新潮文庫、1995.04.01
    「神の火(下)」髙村薫著、新潮文庫、1995.04.01
    「恐怖の2時間18分」柳田邦男著、文春文庫、1986.05.25
    「チェルノブイリの少年たち」広瀬隆著、新潮文庫、1990.03.25
    「原発事故を問う」七沢潔著、岩波新書、1996.04.22
    「原発労働記」堀江邦夫著、講談社文庫、2011.05.13
    「朽ちていった命」岩本裕著、新潮文庫、2006.10.01
    「ホットスポット」ETV特集取材班、講談社、2012.02.13
    「死の淵を見た男」門田隆将著、PHP研究所、2012.12.04
    「知ろうとすること。」早野龍五・糸井重里著、新潮文庫、2014.10.01
    内容紹介(amazon)
    放射能汚染のなか、原発事故の現場で作業にあたる原発作業員が「イチエフ」と呼ぶ福島第一原発。なお改善されない劣悪な労働環境。横行する違法派遣・請負、労災隠し。危険手当さえ、ピンハネされる。それでもなぜ、彼らは働くのか。「誰かがやらなければいけない仕事」にあたる作業員数十名の肉声を伝える。

  • 再稼働だったり、除染作業だったり、注目されるのは、政治家や東電の動向だけ。この本は、現場で働いている作業員の方々にも光を当てるべきだという問題意識から生まれた。基本的に、作業員、元作業員のインタビューで構成されている。中には、作業中亡くなった方の遺族のインタビューもあり、痛切な言葉が胸をつく。
    原発事故から、早数年。いままた読み解く価値あり。

  • 3・11」の大事故以来、いつ果てるとも知れない復旧作業。放射能汚染のなか、原発事故の現場で作業にあたる原発作業員が「イチエフ」と呼ぶ福島第一原発テで作業に当たる労働者たちにスポットを当てたルポです。

    先日、夜のニュース番組で福島第一原発の元作業員が労働基準監督署に原発内での被曝を巡って東京電力と関電工を安全管理を怠っていると申し立てを行っていたというニュースを見ていて、「3・11」以前はこういった原発の被爆労働に関しては東京電力側があの手この手で闇から闇に葬ってきていたので、こういったニュースが流れるということは東京電力の力そのものが弱体化してきたのかな?といぶかしんでいた時期に、本書にめぐり会いました。

    ここに筆者の執念にも似た思いで記録される放射能汚染のなか、原発事故の現場で作業にあたる 原発作業員が「イチエフ」と呼ぶ福島第一原発の中で、通常ではありえないような猛烈な放射能を受けて被曝しながらも、「誰かがやらなければいけない仕事」としてある種の『覚悟』を持って働く原発労働者の『声なき声』でありましたそこには『使命感』だけでは割り切れない生々しい世界。

    具体的に言えば劣悪な労働環境であり、現場では後期を絶対に遅れさせてはいけないということで『安全より工期』の元に横行する違法派遣・請負、さらには労災隠しの現実。そして、文字通り寿命を削って働いて得たはずの危険手当さえ、人夫出しの「親方」たちにピンハネされるという話には、以前から樋口健二氏の著作やYoutubeなどの動画サイトを見るなどして、知識として知ってはおりましたが、こうして書籍という形で改めて突きつけられると、報道されていないことはたんまりとあるのだな、とつくづく思ってしまいました。

    ここに記録されているインタビューそんな彼らの『声なき声』であり、現場の悲痛なまでの『叫び』であります。それでもこの事故を収束させるため。地元を元に戻そうとがんばり続ける彼らには本当に尊敬以外の念はございません。

  • 地方に厄介なものを押し付けて、その処理まで弱者に押し付けた上での豊かさとは?

  • 原発事故後に働く人々の心意気に涙。彼らがいたから、今の日本があるんだ。
    とは言え、環境は劣悪。日当だって末端(ピラミッドの底辺)では一万円ちょっと。危険手当ですら中抜きされている。そして許容量を越える放射線を浴びたら(食うと言うらしい)使い捨て。

    これが現実ですか。

  • ふむ

  • 福島原発の事故1年以内の様子をまとめた本。
    これと漫画のイチエフを併読した。
    この本のような理想主義を忘れない視点と現実に近い漫画の双方の視点が必要だとおもう。
    そうはいっても、この本の価値はとても高い、原子力がひたすら弱者の犠牲の上になりたっていることを忘れてはならない。また完璧に安全な原発もつくれないことも忘れてはならない。それでも原発やりますか。

  • 福島原発事故に関して、東電・政府・避難住民についての本はいくつか読んできたけれど、現場で働く人たちについてはあまり語られていないなぁ。…と思いつつ手に取ってみた本。

    実際に事故現場で瓦礫処理や収束へ向けた作業を行っているのは、下請けのそのまた下請け、「人夫出し」という派遣で働いている人たちだ。職のないこのご時世で全国各地からやってくる人もいれば、地元出身も人もいる。

    作業員の被曝という犠牲の下、安定化に向けた作業は進められていったが、作業そのものの統制や安全管理・被曝管理もずさんだった。

    非正規雇用で、給料もピンハネされ、何の補償もないまま被曝労働させられている。それでも声をあげることができないのは、労働者を弱い立場に置く「重層下請け構造」に原因がある。
    これまでも、原発はさまざまなことを隠すことで発展してきた。「安全神話」のもと、都合の悪い事実には蓋をし、下請け作業員を被曝労働で「使い捨て」にすることで成り立ってきた。
    福島原発事故後もそれは変わらない。

    海外メディアが3月15日の「一時退避」の際に残った者たちを「フクシマフィフティ」と報じることはあったけれど、その生の声は伝えられない。

    今後何十年とかかる廃炉作業には、やはり彼らは必要。
    そんな危険な原発自体をなくしていくことが一番の方法なのだろうけれど、今そこにある原発と対峙している彼らを、もっと大切にしなければいけない。

    新しい東京都知事が選ばれた。「原発を即時なくす」と訴えた候補は落選した。フクシマがどんどん風化していきそうで、恐ろしい。

  • 本裏表紙よりの引用

    誰が原発事故の現場で働いているのか?
    高濃度の汚染の中で、事故の真の収束をめざし、日夜、作業員が働いている。
    被爆は避けられず、過酷な現場では労災も続発する。
    だが、それでもなお、劣悪な労働環境は改善されない。
    横行すえう違法派遣、請負、労災隠し.....。
    危険手当てさへ、ピンハネされる。
    それでもなぜ、彼らは働くのか、作業員の肉声を伝える。

    被爆することを「食った」と表現するそうだ。
    元々必ず誰かが食わないと存続できない原発って?????
    今も放射能をだし続けている原因は改善されないまま、繰り返される除染とは?????
    この現状をしっかり再認識しないといけないなと思う。
    必ず読んでほしい本です。

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著者プロフィール

1976年生まれ。ジャーナリスト、「平和新聞」編集長。著書に『経済的徴兵制』(集英社新書)『主権なき平和国家』(共著、集英社クリエイティブ)『日報隠蔽』(共著、集英社)ほか。

「2023年 『日本は本当に戦争に備えるのですか?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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