一陽来復 中国古典に四季を味わう

  • 岩波書店 (2013年3月22日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (224ページ) / ISBN・EAN: 9784000221993

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  • 中国文学者である井波律子先生は、このエッセイを書かれたころに、35年にわたった勤め人生活に終止符を打ち、定年退職される。それから1か月もたたないうちに、ずっとともに暮らしてこられたお母さまを亡くされた。
    そのショックを、少しずつ癒してくれたのは、ベランダに並べた鉢植えの植物だったそうだ。
    「年年歳歳 花相い似たり、歳歳年年 人同じからず」
    自然は再生をくりかえすが、人は成長し、また老いていく。

    いつの頃からか、わたしは桜よりは梅や桃の花、洋花よりは牡丹や蓮、紫陽花の花が好きになっていた。今思えばそれは、中国や日本の古典へと興味を抱きはじめたことに無関係とは言えないような気もしてくる。
    井波先生は中国古典文学者であられたから、エッセイには花木のなかでも、梅や桃の花、牡丹の名が度々登場した。また紫陽花がお好きなようで、ほんの些細な共通点だとはいえ、何だか嬉しい気持ちがこみ上げてくる。
    それらの花が登場するエッセイのうち、可愛らしさが印象に残った花のエピソードを2つばかり紹介したい。

    先生もお好きなアジサイは日本原産のようだが、古来、どういう径路を経たのか不明ながら、唐代の中国に伝わり「紫陽花」(しようか)と表記されたという伝説もあるそうだ。
      何年植向仙壇上
      早晩移栽到梵家
      雖 在人間人不識
      与君名作紫陽花
            白楽天「紫陽花」
    「(この花は)いつの年か仙界に植えられ、いつごろか寺院に移植された。人の世にありながら人はその名を知らないので、あなたのために紫陽花と名づけよう」
    まるで神話のようなロマンチックな伝説。
    つい紫陽花を擬人化してしまう 笑

    また梅については、どれだけ中国の人々に春を告げる花として愛されてきたのか、「九九消寒図」のエピソードでその一片を知ることができた。
    「九九消寒図」の「九九」は寒さがつづく冬至以後の81日間を指し、「消寒図」は、冬至の日に梅の枝と枝につく81個の梅花を素描しておき、以後毎日、1個ずつ花を塗ってゆくという「塗り絵」のことらしい。
    81日かけてすべての花を塗り終わったときは、すでに春爛漫、花の咲き匂う季節になっているわけで、17世紀前半の明末の北京の人々の風雅で美しい風習だったようである。

    先生にとって懐かしい想い出や日常の楽しみは、必ずや漢詩や中国古典文学へと繋がっていく。
    先生の心とそれらは、生涯切り離すことのできないものであったのだろう。
    四季おりおりのベランダの花木を愛で、お住まいの京都の祭祀や行事に触れながら、中国古典の世界に思いを馳せる。
    優しく温かみに溢れた日常が綴られたエッセイ集であった。

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著者プロフィール

中国文学者。国際日本文化研究センター名誉教授。07 年「トリックスター群像」で第10 回桑原武夫学芸賞受賞。主な著書に個人全訳「三国志演義」( 全4巻)「世説新語」( 全5巻)「水滸伝」( 全5巻) など。20 年5 月逝去。

「2021年 『史記・三国志英雄列伝 戦いでたどる勇者たちの歴史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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