裏切りの晩餐

制作 : 上岡 伸雄 
  • 岩波書店 (2016年4月22日発売)
3.17
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000222310

裏切りの晩餐の感想・レビュー・書評

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  • 二児の母親として平穏な人生を送っていた元CIAのスパイ『シーリア』の元へ、かつての同僚で恋人だった『ヘンリー』が訪ねてきた。食事をしながら昔を懐かしむ二人。だがヘンリーの本来の目的は、六年前に百二十人もの犠牲者を出したウィーン空港のテロ事件の話を聞くことだった。
    裏切り者は誰か?二人の思いが交錯する中、事件の真相が姿を現す。


    カリフォルニアのレストランでひっそりと進行する心理戦。物語はヘンリーとシーリアそれぞれの視点で交互に語られるにつれ、事件の全容が明らかになっていく。
    スパイトは言え人間、守りたい大切なものも出来るだろ。守りたいものが弱みになる男と、強くなる女。勝負は最初から着いていたのだ。
    役者後書きに映像化が決まっていると書いてあった。確かに映像向きのような気がする。細かいカットを多用して緊張感を高めるようなものが見たい。それに、正直言うと主要人物以外の名前が入ってこず誰?ってなることが多かったのでその点でも助かる

  • 難しい。

  • ウィーンで起きたテロ事件。その当時ウィーンに駐在していたCIA部員ヘンリーが、事件直後に退職した元同僚であり元恋人でもあるシーリアを5年ぶりに訪ねる。彼らはシーリアの住む町のレストランで夕食を共にする。過去のテロ事件がどういうものだったのか、ヘンリーは何故シーリアを訪ねてきたのか、シーリアは何故事件直後に退職したのか。二人の会話の中から徐々にいくつもの謎が吹き出して真相が明かされていく。その過程がスリルに満ちていてぞくぞくした。
    詰めの段階がちょっと不満足だったことを除けば、ル・カレを彷彿させるとても面白い作品だと思う。

  • ル・カレの次はスタインハウアーかよ。どうしちゃったの、岩波。ありがとう、岩波。新しい家庭を築き、新しい人生を歩んでいる元恋人に恋々の男ってみっともない。犠牲を払ったんだから、自分は報われて然るべきだという思いが拭えなかったんだろうな。スパイものであると同時に、裏切られた恋の復讐ものとも読めた。

  • スパイの見る世界は、私たちが目にしている表面の世界だけではない。
    あらゆる事件に裏があり、登場するスパイは、その景色を見ている。
    さらにスパイは、その是色の裏を歩く。
    そして、相手を欺く。
    そんな複雑なスパイ小説を堪能しました。

  • これぞエスピオナージュと呼ぶにふさわしい一作である。作者はジョン・ル・カレの後継者と呼ばれているというから、その評価のされ方がどれくらいのものかが分かる。読後の印象をいえば、ル・カレから英国人臭さと、独特の文章のあやを取り去ったらこんな感じになるのかもしれない。慎重な構成、巧みなプロット、彫りの深い人物造形、恋愛や結婚に対するシニカルな視線等々、後継者を名のる資格はじゅうぶんにある。

    主人公は二人。そして、その二人が交互に話者となって、過去の事件と現在二人が陥っている状況について語る構成になっている。巻頭に置かれた「謝辞」でもふれているように、作者はドラマを見ていて「レストランのテーブルですべてが起こるスパイ小説」を書いてみたいと思いついたという。たしかに、すべてではないにせよ、ほとんどがレストランのテーブルで起こっている、という点で、きわめて珍しいスパイ小説といえる。ル・カレにもこんな手法の小説はなかったのではないか。

    ヘンリーは現在はオフィスで働いているが、六年前のウィーン時代はバリバリの外回りのスパイだった。当時、大使館のオフィスで働いていた同僚のシーリアとは互いの部屋でベッドを共にする関係だった。その後二人は別れ、シーリアは引退した実業家と結婚してアメリカに帰り、今では二人の子の母親となっている。物語は、ヘンリーが、すでに現役を退いた元スパイであり、かつての恋人シーリアのもとを訪ねようとする機上から始まる。

    ヘンリーは飛行機で眠れない。六年前ウィーン空港で旅客機がテロリストに乗っ取られ、乗客全員が死亡するという悲惨な事件が起きた。当時直接その事件に関係していたからだ。実は、事態がそこまで悪化した原因として、大使館の中の誰かがテロリストに情報を漏らしたのではという疑惑があった。事実は疑心暗鬼のまま闇に葬られていたのだが、ここに来て内部調査の手が入った。ヘンリーはそのためにシーリアに会おうとしているのだ。

    裏切り者は誰だったのか、という謎を追ってスパイと元スパイの闘いが始まる。しかし、闘いの場はウィークデイのためか閑散としたレストラン。元恋人同士の久しぶりの再会を祝す晩餐である。表面上は穏やかに近況を報告しあいながら、少しずつ間合いを詰めてゆく二人。運ばれてくる料理やワインも味わいながら、過去に何があったかを細大漏らさず数え上げてゆく。バーテンダーとウェイトレス、二組の相客という限られた数の登場人物で進行していく緊迫のドラマは、まるで舞台を見ているようだ。

    その間に過去の回想シーンが挿入される。舞台は大使館のオフィス。登場人物はそこで働くスパイ仲間とやはり人数はしぼられている。情報漏洩の電話の出所は指揮を執るビルの部屋だが、ドアはいつも開いていて、事件の最中、すべての者が出入りしていた。シーリアがつかんだ手がかりは通話記録にあった通話相手がアンマンにいることを示す数字と、試しにかけてみた相手のロシア語らしき言葉だった。

    スパイという仕事はひとつ誤れば命が危ない。たとえ相手が愛する人であったとしても自分の命を守るためには裏切ることさえためらわない。そんな非情な仕事に携わる男と女の文字通り命を懸けた闘いを、アクションではなく言葉で、路上や秘密のアジトではなく、一般客もいるレストランでの晩餐を舞台にして描くという、作者の苦心の試みは成功したといえる。晩餐の席上、真相が少しずつ明かされてゆくのだが、合間合間に回想や通話記録を挿入して謎解きを進めていく手際は上質のミステリにも通じる鮮やかさ。

    しかし、最後に明らかになる真実は、やはりエスピオナージュならではの苦い味わいだ。それまでのいかにも西海岸風の明るさが背後に遠のき、男と女の相容れない世界が暗く冷たい相貌を現す。このあたりの風合いは、まさにル・カレの後継者という呼び名を首肯せるものがある。それまでに張っておいた伏線がピリッと効いたいいオチが待っている。

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