海を渡る「慰安婦」問題――右派の「歴史戦」を問う

  • 岩波書店 (2016年6月24日発売)
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  • レビュー :4
  • Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000222327

作品紹介・あらすじ

「米中韓が連携し、「慰安婦」問題で日本を攻撃している」。そんな危機感を抱く歴史修正主義者たちは「歴史戦」と称して、アメリカなど海外への情報発信を強めている。ネットによる情報拡散のみならず、現地での集会や訴訟も展開。政府も加わった「歴史戦」の実態を詳細に報告し、歴史認識と政治のあり方を問う。

海を渡る「慰安婦」問題――右派の「歴史戦」を問うの感想・レビュー・書評

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  • 著者:山口智美、能川元一、テッサ・モーリス・スズキ 、小山エミ 

    【書誌情報+内容紹介】
    本体1,700円+税
    刊行日:2016/06/23
    ISBN:9784000222327
    四六 160ページ

    「米中韓が連携し,「慰安婦」問題で日本を攻撃している」.そんな危機感を抱く歴史修正主義者たちは「歴史戦」と称して,アメリカなど海外への情報発信を強めている.ネットによる情報拡散のみならず,現地での集会や訴訟も展開.政府も加わった「歴史戦」の実態を詳細に報告し,歴史認識と政治のあり方を問う.
    https://www.iwanami.co.jp/smp/book/b243720.html


    【目次】
    はじめに――海外展開を始めた日本の歴史修正主義者たち[山口智美] [v-viii]
    目次 [ix-xii]

    第1章 「歴史戦」の誕生と展開[能川元一] 001
    「歴史戦」前史――転機としての「一九九七年」 002
    情報戦――第一次安倍内閣時代の右派論壇 010
    第二次安倍内閣と「歴史戦」 018
    虚構の「歴史戦」 024
      【圧倒的な物量作戦】 
      【被害者意識】
      【字義通りの「戦争」】
      【本質主義的民族観】
      【勝利の確信が生み出すいらだち】
    注 032

    第2章 アメリカ「慰安婦」碑設置への攻撃[小山エミ] 041
    日系アメリカ人が「慰安婦」碑に反対しているという誤報 042
    実態のない「日本人いじめ」 046
    「慰安婦」碑の撤去を求めた訴訟の内実と結果 049
    「慰安婦」否定派に対する反発・抵抗の広がり 051
    サンフランシスコ市での碑の設置をめぐる日本政府の圧力 056
    「慰安婦」否定で暗躍する日本政府に対して強まる危機感 061
    「慰安婦」問題の日韓合意で割れる保守派の反応 064
    「慰安婦」否定の対外発信のゆくえ 066

    第3章 謝罪は誰に向かって,何のために行うのか?――「慰安婦」問題と対外発信[ テッサ・モーリス‐スズキ] 069
    マウマウ記念碑 070
    「連累(implication)」という概念 073
    「河野談話」と安倍「七〇年談話」 075
    ジャン・ラフ=オハーンの物語 078
    送られてきた二冊の本 085
    対外発信と歴史修正主義本の海外配布 088
    政府間合意があっても歴史は変わらない 091
    現世代・未来世代のための「謝罪」 094
    文献 095

    第4章 官民一体の「歴史戦」のゆくえ[ 山口智美] 097
    男女共同参画批判と「慰安婦」否定論 098
    一九九〇年代の歴史修正主義と「慰安婦」否定論 101
    歴史修正主義の海外への展開とネットの活用 103
    主戦場=アメリカ論の始まりと第二次安倍政権 109
    自民党・日本政府と「歴史戦」 114
    朝日バッシング 116
    外国の研究者やジャーナリストへのバッシング 120
    右派による英語発信の増加 122
    「歴史戦」と国連,外務省 129
    注 133

    おわりに――浸透・拡散する歴史修正主義にどう向き合うか[能川元一] 137

    年表/歴史認識問題をめぐる動き(1982-2016) [6-8]
    資料2「戦後70年談話」 [2-5]
    資料1「河野談話」 [1]



    【抜き書き】
    ・公開された部分。

      はじめに――海外展開を始めた日本の歴史修正主義者たち

     「歴史戦」と称して、日本の右派が「慰安婦」問題を中心とした歴史修正主義のメッセージを、海外に向けて発信する動きが活発になっている。 歴史修正主義の動きは今に始まったわけではないが、第二次安倍政権発足後、政府による河野談話作成過程の検証や、2014年の『朝日新聞』の「慰安婦」報道の再検証後のバッシングを経て、右派、および政府の海外に向けた発信や、海外での右派在外日本人、大使館や領事館の動きが加速した。本書は、こうした海外展開の実態を明らかにし、日本の政治・社会の歴史修正主義を問うことを目的とするものである。
     「歴史戦」という言葉を広めたのは、現在も続く、『産経新聞』の連載「歴史戦」だろう。この連載をまとめた書籍において、取材班キャップで政治部部長の有元隆志は、連載を「歴史戦」と名付けたのは、「慰安婦問題を取り上げる勢力の中には日米同盟関係に亀裂を生じさせようとの明確な狙いがみえるからだ。もはや慰安婦問題は単なる歴史認識をめぐる見解の違いではなく、「戦い」なのだ」と述べている。(産経新聞社『歴史戦――朝日新聞が世界にまいた「慰安婦」の嘘を討つ』産経新聞出版、2014年)また、同書の帯には「朝日新聞、中国・韓国と日本はどう戦うか」と記されていることから、「歴史戦」の敵は朝日新聞と中国、韓国であるという想定が見える。
     また、同書の日英対訳版の帯に掲載された推薦文、「これはまさに「戦争」なのだ。主敵は中国、戦場はアメリカである」(櫻井よしこ)、「慰安婦問題は日韓米の運動体と中国・北朝鮮の共闘に対し、日本は主戦場の米本土で防戦しながら反撃の機を待っているのが現状だ」(秦郁彦)を見ると、「歴史戦」の「主戦場」がアメリカと考えられていることもわかる。(産経新聞社『History Wars: Japan — False Indictment of the Century』産経新聞出版、2015年)

     すなわち「歴史戦」とは、 中国、韓国、および『朝日新聞』が日本を貶めるために、歴史問題で日本を叩こうと「戦い」を仕掛けている、そして今、その主戦場がアメリカとなっており、日本は対抗せねばならないということなのだろう。右派は、「慰安婦」問題に関しては国内では勝利したと考える一方で、海外では負け続けていると認識している。「仕掛けられた歴史戦」に負け続ける被害者としての日本が強調され、こうした状況をつくっているとして、国内の左派や『朝日新聞』に加え、外務省も右派の槍玉にあがり、叩かれてきた。
     こうした右派による「歴史戦」の動きと、安倍政権の関係は深い。そもそも安倍晋三は政治家としての活動初期から歴史修正主義に基づき発言、行動してきた人物であり、海外メディアにおいては歴史認識問題に関する安倍首相の姿勢を「歴史修正主義的」であるとする評価が定着している。安倍首相のもとで、現在は、右派市民のみならず、日本政府も「慰安婦」問題をはじめとして、日本の植民地主義や戦争責任を否定する内容の海外発信を積極的に展開している。
     第二次安倍政権以降に本格化した 「歴史戦」だが、そのきっかけとなったのが、2010年にアメリカのニュージャージー州パリセイズパークに「慰安婦」碑が建てられたことだ。そして、13年、カリフォルニア州グレンデール市の「慰安婦」像の建設に関し、日本の右派や、在米日本人右派が反対運動を起こし、グレンデール市を相手取る訴訟にまで発展した。それ以降も、アメリカのみならず、オーストラリア、カナダ、フランスなど各地で「慰安婦」像や碑の建設、博物館や漫画祭の展示や「慰安婦」決議などに関して、日本の右派や、在外の右派日本人から抗議運動が起こされてきた。
     右派メディアに大きく取り上げられた右派市民の動きの陰には、「慰安婦」碑や像の建設反対の立場で介入してきた外務省、大使館や領事館の姿があった。また、外務省はアメリカの歴史教科書の「慰安婦」記述の訂正を要求し、学問の自由への介入だと海外の学者らから大きな批判を浴びた。与党自民党も、「国際情報検討委員会」や「歴史を学び未来を考える本部」などを設立し、歴史修正主義本を海外の政治家や学者にばらまくなど、「歴史戦」戦略を積極的に展開してきた。
     日本の右派は国連を舞台とした「歴史戦」にも積極的な取り組みを見せるようになっている。特に2014年からは毎年、右派代表団をジュネーブやニューヨークで開催される、「女性差別撤廃委員会」や「女性の地位委員会」などの会議に送り、現地で集会を開いている。
     2015年末の「日韓合意」を経た現在、「合意」の評価については右派内部でも意見が対立しているが、右派の「歴史戦」展開が落ち着く様子は見えない。日本政府に関しても、16年2月、ジュネーブで開かれた国連の女性差別撤廃委員会で杉山晋輔・外務審議官が、「朝日新聞の報道が大きな影響を与えた」、「『性奴隷』という表現は事実に反する」など、歴史修正主義者と同様の主張を行っている。 国連の舞台で、まるで政府自ら「歴史戦」への参戦宣言をしたような状況だった。
     本書は、このような「慰安婦」問題を中心とした右派や日本政府による海外展開の実態や、その背景に迫るものである。 能川元一は1990年代から現在に至る、論壇での「歴史戦」の経緯を詳細に追い(第1章)、 小山エミは、アメリカのグレンデール市とサンフランシスコ市での「慰安婦」碑建設をめぐる係争と、日系アメリカ人コミュニティへの影響や日本政府の役割を論じる(第2章)。 テッサ・モーリスースズキは、日本の右派や政府による植民地主義の歴史の否定、およびそうした歴史観の対外発信について批判的検証を行い (第3章)、山口智美は、 右派の「慰安婦」問題に関する運動の流れを概観するとともに、そうした動きと政府や自民党の関わりを指摘する(第4章)。
     こうした日本の右派や政府による海外での「歴史戦」の展開について、まとまった論考が書籍という形で出版されるのは初めてだろう。海外在住の小山、スズキ、山口は右派の「歴史戦」の働きかけを身をもって体験する当事者である。本書が、現在も広げられている歴史修正主義の動きの批判的分析を通して、現状への理解を深め、対抗策を編み出していくための一助となることを期待したい。戦時性暴力のサバイバーである元「慰安婦」たちの声が、歴史修正主義者らによってこれ以上、中傷され、否定され、消されていくのではなく、逆に歴史に刻まれ、記憶に残され、そして「慰安婦」問題の被害者の側に立った本当の意味での解決につなげられるためにも。

  • 米中韓が連帯し「慰安婦」問題で日本を攻撃している。という刺激的なコピーがインターネット上で拡散している。米と中が連帯するということなど冷静に考えればあり得ないことなのに、あたかも真実らしく情報拡散している。
    この本の中で「連累(implication)」という概念を学んだ。
    ようは、戦後生まれの人にも、先行世代がおこなった戦争や不正義に対する責任や謝罪の義務は存在するのかという問いに、著者は「罪」はないかもしれないが「連累」があるという。つまり、過去におこなわれた悪行に直接自分が関与しなかったからといって、「まるで関係ない」とは主張できないというのだ。納得。

  • 210.7||Um

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