海をわたる手紙――ノンフィクションの「身の内」

  • 岩波書店 (2017年2月16日発売)
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000222341

作品紹介

満州に生まれ、『妻たちの二・二六事件』『密約』などの著書があり、「九条の会」呼びかけ人のひとりでもある澤地久枝。二十代で渡米、その後『東京ローズ』から『イサム・ノグチ』まで、一貫して日米にまたがる歴史を描いてきたドウス昌代。「事実」を書くことにこだわり、語られなかった歴史と愚直に向き合い続けるふたりのノンフィクション作家は、長年にわたり友人として、海をへだてた互いを支え合ってきた。ともに「外地の子」でもあったふたりが、戦後七十年の節目に、書き手として踏み出すまでのこと、取材と執筆を続けてきたなかでのなやみ、苦しみ、そして幾つもの出会いについて、しみじみ語り合った往復書簡集。

海をわたる手紙――ノンフィクションの「身の内」の感想・レビュー・書評

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  • (北海道新聞「ほん」欄 2017年4月9日掲載の書評です~)
     「妻たちの二・二六事件」「密約」はじめ、多くの著書を持つ澤地久枝。そして、「東京ローズ」「イサム・ノグチ」等の著者で、米国在住のドウス昌代。この両ノンフィクション作家による、14通の往復書簡集である。

     戦後70年前後の、2014年末から16年初夏に書かれた書簡で、両者はまず互いの40年余の仕事の意味を確認する。澤地より8歳下のドウスだが、ともに原風景には戦争と被占領期の記憶がある。2人は、戦時の秘められた日米史を、公文書を地道に読むことで明るみへ導く作業を成した先駆者なのだ。

     とくにドウスは、米国での日系移民への厳しい政策を、数十年も資料室に眠っていた文書から掘り起こし、「国にとって、私という個体は何なのか」という問いに挑み続けた。その「私」とはドウスであり、過去の死者たちであり、かつ現在の私たちでもあることを意識したい。

     また澤地は、15年、安保関連法案が国会前の市民の怒声を傍目に成立した事実を、「九条の会」呼びかけ人の1人として目撃していた。「主権無視」で、日米同盟強化のみ重視した現政権の動向を、みずからの目と五感で注視し、臨場感あふれる筆致でドウスに伝えたくだりは、熱い。両者はまさに、「現在形」の日米関係史を、書簡を通して浮かび上がらせ、読者にも手渡そうとしているのである。

     行間に折々あらわれる、女性たちへのメッセージも読み過ごしてはならないだろう。澤地も記しているが、ミッドウェー海戦で、日米ともに多く犠牲となったのは、21、22歳の若者だった。かれらの母親の胸中を思いつつ、ドウスの言葉を引いておきたい―「すべての国に深くからむ軍事問題にこそ、女性にも関心をもってもらいたい」。

     最後になるが、岩見沢市生まれのドウスが、50年以上米国で暮らしてもなお、「北海道生まれの戦中、戦後」を自身に問いかけているという一文を、私たちも共有していきたい。近代北海道と日本、そして米国とは、つねに現在形の関係なのだ。

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