小津安二郎の反映画

著者 : 吉田喜重

• 岩波書店 (1998年5月20日発売)

感想・レビュー・書評

[0107springsteenさんの感想 · 2012年9月29日]

世界が誇る日本映画界の巨匠の一人、小津安二郎。
「反復とずれ」という観点から小津の映画を観る作者の指摘は、社会科学を齧った身からすると興味深い。
例えば独裁政権も民主社会も会社も家族も、リーダーを頂点にしたピラミッド型構造であり、過去から現在に至るまで、世界のあらゆる場所で見出される。この意味で「歴史の繰り返し＝反復」が人間社会には見てとれるが、その中味は当然ながら「相違＝ずれ」がある。
小津の映画はこの点を繊細にして雄弁に語る「ダイナミズム」を持ち合わせているとも考えられ、作者の指摘に大いに同感するところ。

[憩庵さんの感想 · 2006年2月1日]

小津安二郎とは180度別視点で映画を撮っているような吉田喜重がこの本を書き、その本を読み改めて「東京物語」に向き合う。我々日本人が、ヴィスコンティの映画を観ても、デカダンな末裔貴族の世界に完全には踏み込めないのと同様、小津の「あいまいさ」や会話の「ずれ」はやはり日本人にしか判らないのではないか。

[えぼしさんの感想 · 2005年5月7日]

高橋治の小津を読んだ後だと、少しお行儀がよくも思われるが、吉田といえば小津にからまれた張本人であることを思えば感慨深い。「老い」の視点で後期作品をかたるあたりが、印象的。

著者プロフィール

（よしだ・よししげ）1933年生まれ。東京大学文学部仏文科卒業。1955年、松竹大船撮影所に入社。1964年、独立。監督作に、『秋津温泉』（1962）、『エロス＋虐殺』（1969）、『戒厳令』（1973）、『鏡の女たち』（2003）など。著書に、『贖罪』（文藝春秋）、『吉田喜重 変貌の倫理』（蓮實重彦編、青土社）、『小津安二郎の反映画』（岩波現代文庫）など。

「2020年 『まだ見ぬ映画言語に向けて』 で使われていた紹介文から引用しています。」