折り返し点: 1997~2008

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (522ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000223942

作品紹介・あらすじ

『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』『ハウルの動く城』から最新作『崖の上のポニョ』まで-企画書、エッセイ、インタビュー、対談、講演、直筆の手紙など60本余を一挙収録。宮崎駿12年間にわたる思想の軌跡。

感想・レビュー・書評

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  • 「出発点 1979~1996」
    14年。前史(若書き)、ルパン、コナン、ナウシカ、ラピュタ、トトロ、魔女宅、紅の豚、On Your Mark、そしてもののけ直前。

    「折り返し点 1997~2008」
    12年。もののけ姫。千と千尋。ハウル。ポニョ直前。

    鈴木敏夫の策略だと思うが、駿を前に立てて広報することで映画業界の興行の常識をぶっ壊そうという、野蛮な意図が裏にある。
    駿は作品作りの傍らに、あるいは作品が終われば広報に駆り出され、少しの休養のあとには、次何やる、次あれやれ、と言われ。
    半ばロボットとして働かされる自分に辟易。
    だからこそ「千晶のための映画を、千晶が仮にスタジオという地獄に転げ落ちたら」という極私的なファンタジーを導入し(ルイス・キャロルに倣って)。
    それがうっかり日本一の興行収入を達成してしまったから。
    自負と疑いと。
    疑いというのは、宣伝がいいから売れたんじゃないか、という。
    だからハウルでは、宣伝しないっ! と駄々をこね。
    しかし敏夫は眉を八の字にして口元はニタァァッ。
    宣伝しない宣伝しちゃうよー、という、ブランドありきのやりかたで、またもやガッポガポ。
    無料冊子で自分のメディアを作る敏夫に、ハラワタ煮えくり返りつつも、もののけ姫狂騒以降いつのまにやら文化人の仲間入りしている自分に、驚きつつも自負心もたっぷりあって、俺が稼いだんだから美術館やっちゃうよー園内保育園作っちゃうよー。
    金と権力と創造性とイエスマン取り巻きでぐっちゃぐちゃになった数名が、スタジオという数十名を巻き込んでぐっちゃぐちゃ力を増し、その余波が結果的に日本全体へ、という。
    凄まじいパワーバランスの、分泌が、透けて見える。

  • 「出発点」と比べると文化人としての自分の立場をふまえての発言も多いと思うけど、面白い。近年の宮崎作品のストーリーの曖昧さや説明不足さというのが意図的な物だということがわかる。集団での地道な作業で作り上げなければならないアニメーションという手法や人間の年齢という制限が無ければこの人はどんな物が作り出せるんだろう。

    子供が大切ということを繰り返している。あとがきにかえての最後の文章がとても心に残る。
    「子供が成長してどうなるかといえば、ただのつまらない大人になるだけです。大人になってもたいていは、栄光もなければ、ハッピーエンドもない、悲劇すらあいまいな人生があるだけです。
    だけど、子供はいつも希望です。挫折していく、希望の塊なんです。答えは、それしかないですね。人類の長い歴史の中で、そういうことが繰り返し、繰り返し、感じられてきたんだなぁと思うんです。そういうふうにできているんですね、世界は。自分たちが作り出しているのではなくて、そのサイクルの中に自分たちもちゃんと入っているんです。だから、なんだかんだと言いながらも、なかなか滅びないんだと思います。」

  • 「もののけ姫」「千と千尋の神隠し」「ハウルの動く城」「崖の上のポニョ」の作品論、インタビュー、対談。文化人類学的な要素もたくさん入っており、とても面白い。宮崎駿の視線て、とても遠い所を見てるのかと思いきや、距離ではなくて周囲180°を見回しているだけなんだと感じた。

  • ヤックル関係 南方熊楠説で「日本ではカモシカは鳥類にカテゴライズ」されてゐたと言ふ説があったが、これに出てくるアカシシの方は、さう言ふのを調べて書きました感がない。
     てふか民俗学と言ふのは、どっかで負けてだめになった人がやるので、本著に出てくるやうな、成功したをっさんが、成功した富でもって小屋を拵へ、さらにそこでやるとか、さう言ふのはあり得ないらしい。
     他の対談のナニはいいや。

  • 『出発点』以降の『もののけ姫』から『崖の上のポニョ』公開までの
    エッセイやインタビューを収録。
    ジブリで一番好きな作品が『もののけ姫』であるから楽しく読めた。

    混沌とした時代とか色々言うが、それでも結局
    子供に対しては、生まれてきたこの時代、この世界を
    肯定してやりたいと映画を作り続ける姿勢が良い。

    次は『到着点』になるのかな。

  • 本書は映画監督宮崎駿が『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』『ハウルの動く城』から『崖の上のポニョ』まで―企画書、エッセイ、インタビュー、対談、講演、直筆の手紙など60本余を一挙収録したものです。

    本書は映画監督、宮崎駿が 1997年から2008年にいたる12年にわたっていたるところに掲載されたエッセイ、インタビュー、対談さらには講演の原稿。スタッフに向けての企画書や手紙にいたる60本以上の「断片」を収録し彼の超ド級の思想をギュウギュウにつめた一冊で、読み終えた後はある種の疲労感と達成感に襲われておりました。

    『もののけ姫』 『千と千尋の神隠し』 『ハウルの動く城』『崖の上のポニョ』…。出す作品出す作品がもちろんヒットし、その一つ一つが「時代」というものを的確に捉えており、宮崎駿監督の名声はゆるぎないものかと思っておりましたが、ここで浮かび上がってくるのは生々しいまでの『人間・宮崎駿』であり自分自身が『この本を出すのは本位的ではなかった』とあとがきでもらしていた理由がなんとなくわかったような気がいたしました。

    作品の一つ一つや、対談で語られている『濃い~い』話。講演で話される『思い』。ジブリ美術館に寄せる情熱。その一つ一つは読んだのがもしこれが10代だったら天地がひっくり返るような衝撃を受けたであろうことは想像にかたくはありませんでした。いわば『完成品』である『宮崎アニメ』の中にこのような七転八倒の軌跡があるのかと。これを読んでから改めて一つ一つの『宮崎アニメ』を見返すとまたさらに深い『世界』の中に入っていけるかと思われます。ただ、かなり『毒気』も強いので、もし読んでいただけるのでしたら、その点は留意していただければと、そんなことを思っております。

  • この内容量でこの値段は安い。
    と読んでいる途中で思った。

    宮崎駿が色々なことに不満を抱いて、ムカついていて、イライラしていて、暴言吐いたり、そういうことは今まで製作映像やインタビューなど読んで知っていましたがこの本を読んでもっとその面を知り、自分の勉強不足やミーハーな姿勢など恥じました。

    そして、宮崎駿監督が色々なものにネガティブな印象を抱きながらもそこで腐ることなくポジティブに子どもたちに捧げたいという矛盾の中で必死に足掻きながら素晴らしい作品を世の中に送り続けてくれたんだということがわかりました。
    また、宮崎駿監督はスタッフに厳しいと製作中の暴言集を読んで思っていましたがそれはよりよい作品を作るために妥協しないだけであって、彼はとてもスタッフ、共に作品を作ってくれる仲間を大切にしているのだということもわかりました。

    『もののけ姫』や『千と千尋の神隠し』に関しては、作品に関する発言がとても多くて、特にこの二作品がお気に入りの私は嬉しかったです。
    ただ、宮崎駿監督は嫌うかもしれませんがハウルの内容について色々わからないことあったのでハウルの内容に関する発言がなかったのが残念ですが、それは私自身の姿勢が誤っていたと今では思えるので大した不満点ではありません。

    宮崎駿監督ご本人はこうしたまとめみたいな本を出すのが翻意ではないと仰ってますがその時々言葉を追えなかった(お気に入り作品公開当時は小学生だったので)身としては後から振り返ることが出来たので嬉しいです。

  • 色々な着眼点があると思うけど、宮崎駿の死生観を見る上では非常に良い資料だなと思う。文字だけだけど、なんとなくどういう人なのかが伝わってくる良い本。

  • とにかく全編通して宮崎さんの想いとしては

    『戦後~今までがたまたま平和であれただけで、
    これからは色んなことが、スッチャカメッチャカになる。
    でも長い歴史で今までもそうだったし、本来そういうものだ。
    ここ何十年の間、平和ではあったが、
    退屈で無駄で馬鹿でもあった。
    どんどん変化し、今までのものを手放したりする時代の中で
    生きること、次を捜すことは、とても辛くて苦しいけれど、
    それでこそ命は輝くし、世の中は複雑で豊かであるし、
    なにより、変化の時代には楽しさや発見が多くある
    (それを糧に新しいクリエイターにはモノを作ってほしい)
    (その中で子供たちを祝福し、生きて輝いてほしい)』

    ってかんじだろうか。

    『紅の豚』と同じく『ハウル』は自分のために作った映画という
    宮崎さんの言葉もあり、なるほど、この本で全くハウルについて
    全く語られていないのも、そういうことかなと思った。

    ポニョは、観たときに、個人的な感想として
    『ああ、母親の描き方がすごくいいな、
    現代の母親の理想のひとつかな』
    とも思ったけれど、この映画は、現代の男性・女性の代表として
    主人公も含めた登場人物にしっかりとした設定がしてあって、
    なるほど、すごく的を得ていると思ってゾクッとしたのが、
    一番の収穫。

  • 1996年に出版された『出発点』の続編となる一冊。
    「もののけ姫」、「千と千尋の神隠し」、「ハウルの動く城」、「崖の上のポニョ」に至るまでの12年間をインタビュー、エッセイ、対談等によって振り返っている。

    まず、本そのものの印象としては、前作よりもはるかに読みやすい。
    『出発点』では文章は項目ごとにまとめられ、雑多な印象を受けたが、『折り返し点』では全て時系列に並べられている。そのため、宮崎駿の心の移ろいが比較的分かりやすく綴られている。


    作品論として語るならば、『出発点』と『折り返し点』を読んで、「もののけ姫」に対する理解が一層深まった。宮崎駿は「環境」について、特に熱心な監督ではあるが、「もののけ姫」でこの問題に対する一つの結論を出していると思う。「風の谷のナウシカ」や「となりのトトロ」では、宮崎はまだ“文明社会vs自然”という構図でしか両者の関係をとらえていない。しかし、「もののけ姫」ではそうした構図は適用せず、敢えて曖昧にすることを選んだ。

    本書にもあるように、現代の環境問題とは「罪ある人間」が「素晴らしい自然」を壊すから問題なのではなく、「善良なる人間が良かれと思ってやったこと」が結果的に「環境問題」につながるのであり、人間と自然との間にはもっと「宿業」とも言えるような関係がある。
    本書を背景に「もののけ姫」を見ると、確かに善と悪は極めて曖昧になっていることに気づく。タタラ場を仕切るエボシは善悪の二面性を秘め、対する神々もその二面性を持っている。どちらかが善い悪いと言う訳でない。しかし、それでもなお「対立する両者が共に生きる道はある」と説くアシタカは、正に「この映画は環境問題に対する姿勢に関する映画」という宮崎駿のある種の代弁者と言えるだろう。

    「もののけ姫」で長年考えてきた問題に一つの終止符を打った宮崎駿は、これ以降もっと根源的で、観念的なテーマで映画を制作していく。キーワードは「こども」だ。本書にも繰り返し「こどもが喜ぶ映画を」といった文章が散見されるようになる。この社会はどうしようもない。こどもたちもやがてつまらない大人になっていく。諦観とも受け取れる発言を繰り返しつつ、それでも「こどもこそ希望」と説く宮崎駿。(本人にもその自覚はあるようだが)その様子にはつい「老い」を感じてしまう。



    それ以外にも本書には宮崎駿の魅力が詰まっている。
    前作以上に驚かされるのはその観察眼の鋭さである。例えば、342ページから始まる「富士見高原はおもしろい」という講演を収録した文章。一冊の本とわずかな散歩を手掛かりに、宮崎駿はそこがかつて大変栄えた村であったと推論するのだが、そのプロセスはとても説得力がある。そのバックボーンとなる普段からの情報インプットもそうだが、一つの事柄に関する鋭い洞察と深い考察はそこらの下手な学者をも軽く凌駕する。その洞察力の土台の上に宮崎駿のファンタジーの世界が広がっていることが良く分かるエピソードであり、大変興味深く読むことができた。

    ジブリファン、宮崎駿ファン以外にもオススメの一冊である。

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著者プロフィール

アニメーション映画監督。1941年東京都生まれ。学習院大学政治経済学部卒業後、東映動画(現・東映アニメーション)入社。「ルパン三世 カリオストロの城」(1979)で劇場作品を初監督。1984年には「風の谷のナウシカ」を発表。1985年にスタジオジブリの設立に参加。「天空の城ラピュタ」(1986)、「となりのトトロ」(1988)、「魔女の宅急便」(1989)、「紅の豚」(1992)、「もののけ姫」(1997)、「千と千尋の神隠し」(2001)、「ハウルの動く城」(2004)、「崖の上のポニョ」(2008)、「風立ちぬ」(2013)を監督。現在は新作長編「君たちはどう生きるか」を制作中。著書に『シュナの旅』『出発点』『虫眼とアニ眼』(養老孟司氏との対談集)(以上、徳間書店)、『折り返し点』『トトロの住む家増補改訂版』『本へのとびら』(以上、岩波書店)『半藤一利と宮崎駿の腰ぬけ愛国談義』(文春ジブリ文庫)などがある。

「2021年 『小説 となりのトトロ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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