虚罪: ドキュメント志布志事件

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  • Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000225724

作品紹介・あらすじ

前代未聞の捜査権力による「でっち上げ事件」はなぜ起こったのか。捜査内部の「情報提供者」の協力を得て、朝日新聞鹿児島総局の報道が捜査当局を追いつめる過程を詳細に報告し、元被告たちの苦悩の日々を追う。裁判員制度が始まろうとする今、まさに必読の書。

感想・レビュー・書評

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  • 朝日新聞「志布志事件」取材班『虚罪―ドキュメント志布志事件』(岩波書店、2009年)は選挙違反の冤罪事件である志布志事件を扱った書籍である。日本の警察の体質が戦前と変わらないものであることを示した事件である。
    志布志事件は人質司法の日本で普通に発生する問題である。自分に都合がいい部分だけを見て独善的な現場の判断で容疑者を犯人と決めつける。刑事とヤクザは紙一重とよく指摘される。弁護士の立ち会いや録画のない密室では何があっても分からない。日本では21世紀になっても司法制度の改善が進んでいない。平成が終わろうとしていても司法制度の改善が進んでいない。発展途上国と呼ばれた諸外国が近代化していく中で、日本は人権後進国のままである。
    志布志事件では「過酷な取り調べによる自白の強要で体に異常を来し、救急車で運ばれた人や自殺しようとした住民もいる。「犯罪者」のレッテルを貼られて勤め先を解雇され、子どもや親類、友人に絶縁された」(「【平成の事件】志布志・選挙買収冤罪 虚偽の自白なぜ? 無罪確定も「まだ犯罪呼ばわり」」西日本新聞2019年2月6日)
    人質司法は自己決定権を侵害する。野平康博弁護士は人質司法の問題を「被疑者が捜査機関のコントロール下に置かれ、最も重要な人権、自己決定権が奪われてしまうことです」と指摘する(木野龍逸「日本の「人質司法」をどうするか――長期勾留や自白偏重に国際社会の批判」Yahoo!ニュース2018年1月31日)。

  • 著:朝日新聞「志布志事件」取材班。面白い。

    言わずと知れた志布志事件のドキュメント。事件の経緯、関係者インタビュー、事件を
    有名にした「踏み字裁判」について書かれている。

    志布志事件(wiki)

    http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BF%97%E5%B8%83%E5%BF%97%E4%BA%8B%E4%BB%B6


    先日の「足利事件」の関係で志布志事件も冤罪事件として取り上げられているが、朝日新聞は本件をただの冤罪事件ではないと主張している。「冤罪」とは犯した覚えのない罪である。しかし、志布志事件の場合は問われた選挙違反という事件自体が存在しないのに事件化された。警察がでっち上げた犯罪と言える。従って「虚罪」という造語をタイトルにしたそうな。

    インタビューを読んでいると平凡に一生を終えるはずだったド田舎の一般市民が異常な状況に追い込まれていく様が良く分かり恐ろしい。被害者の一人永山トメ子さんはこの事件で最初に捕まった6人の中で唯一否認を通した。その結果が勾留185日、接見禁止5カ月だ。たかが選挙違反で、これだけ勾留できるのだ。日本の警察・司法にどれだけ異常か良く分かる。代用監獄の恐ろしさよ。

    代用監獄については以前日記で書いたので↓参考までに。

    http://mixi.jp/view_diary.pl?id=755601690&owner_id=4829316

    この事件の不気味なのは、警察によるでっちあげなら「誰の」意図するものだったか明らかになってないのだ。本書では「そうかも知れない」点について軽く触れている。

    >
    ある県議会関係者は言う。「無投票だったらP県議は引退し、息子に地盤を譲るつもりだった。中山の立候補で計算が狂った」。P県議周辺で、中山さんの出馬に対する不満がくすぶり始めたのではとみる。(中略)ほかの関係者も「「何とか事件をあげたい」というQ署長とX警部、そしてP県議の思惑が一致したのでは」と語るが真相はいまをもって明らかでない。
    >

    P県議が黒幕じゃんと誰でも思う。しかし、P県議はもういない。

    >
    2007年6月22日午前3時45分ごろ、P県議は自宅近くを散歩中に、車にはねられて死亡した。P県議は散歩を日課としていたというが、こんな未明の時間に交通事故で亡くなったP県議の死はさまざまな憶測を呼んでいる。
    >
    (本書より引用)

    この薄気味悪さはどうだ。昭和の下山事件じゃあるまいし。この様な明らかに出来ない事件は調べると腐るほどあって下手なホラーより恐ろしい。最近、マスコミ、メディアに対しての不信が強くなっているが、これは朝日新聞鹿児島総局の良い仕事。

    昨年読んだ本『メディアは私たちを守れるか?』は松本サリン事件と志布志事件を中心にマスコミの功罪と取材のあり方と問う本だった。マスコミとしても本件をマスコミの存在意義を問う意味で重要な事件と認識しているのだろう。この手の話題が好きな人は必読。

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