獄中記

著者 :
  • 岩波書店
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感想 : 46
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  • Amazon.co.jp ・本 (508ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000228701

作品紹介・あらすじ

二〇〇二年五月一四日-。佐藤優は、背任・偽計業務妨害という微罪容疑で逮捕され、五一二日間、東京拘置所に勾留された。接見禁止のカフカ的不条理のなか、外交官としての死を受け入れ、神との対話を続けながら世捨て人にならず、人を恨まず、嫉妬せず、裏切らず、責任転嫁をせず、転向もせず、人間としての尊厳を保ちながら、国家公務員として国益の最大化をはかるにはいかにすべきか?この難題に哲学的ともいうべき問いによって取り組んだ六二冊の獄中ノートの精華。狭い煉獄での日常に精神の自由を実感しながら、敵を愛する精神とユーモアを失わずに、人間についての思索を紡いだ日記と、新しい同僚や友人に国家再生の道を綴った書簡から成る。憂国の士が綴った国家への復命書にして、現代の日本が生んだ類まれな記録文学。

感想・レビュー・書評

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  • 佐藤優の512日間に渡る拘置所でのメモや弁護団・友人等とのやりとりした手紙の内容が書かれている。
    プロテスタントであり、キリスト神学を学び、共産主義国における神学を研究テーマととした著者の知的世界が余すところなく書かれている。拘置所において、思考を極めた著者のすごみが伝わってくる。本書の半分の理解できていない。神学的、マルクス経済学的、哲学的基礎がなければ、理解できないだろう。ただ、漠然と著者の知的凄みが伝わってきた。
    主な内容を以下に記す。
    フロマートカは、「本当はキリスト教が貧困者救済をしっかりやらなければならないが、それを怠ったために、共産主義をそれを行った。しかし、共産主義も貧困救済でありながら、人権侵害を行っている。キリスト教は匍ってでも現実に影響を与える道を進むべき」と説く。佐藤もこれに同感。
    佐藤達は新たな時代の移り変わりに際し、時代が変わったことの象徴として、国策捜査の対象となった。そうして世論のガス抜きし、けじめをつけることが国策捜査の意味合い。
    時代の変化とは、弱者を救うため国家資源を平等配分することにより国力を維持していこうとする考えから、ハーバーマスの理論を用いて、強者が国を引っ張っていく方向に変わることをいう。小泉政権がこの考え方。鈴木宗男は弱者平等救済型の政治の象徴。今回の捜査は時代の変わりの象徴。こうした時代の変化は、ハーバーマスがいうところの後期資本主義の特徴。
    小泉政権は強者によって国を牽引し、国力を回復させるもの。ただ、大多数は裨益しないのでナショナリズムをあおり、抵抗勢力を作り上げる。そして外交は金が掛かるのでしばらくは国政に尽力する。一方鈴木は国力に応じた国際貢献を求める。ここでも対立図式ができている。
    知的好奇心により、関心が散漫になるならば、それよりも一点集中で学ぶ必要がある。
    悪の相関ができたらそれを否定するのではなく、その枠組みを利用してそれでもメリットがあったと主張する方がよい。
    思いつきのアイデアは一晩寝かせるといいものになることがある。
    語学は、文法と単語が大事。しかし、一番は語学を勉強しようとする動機だ。
    社会主義の恐れがない以上、国は貧困者の配分をあまりしない。今の驚異はイスラム原理主義。
    鈴木の思想は公平配分し、国家の基礎体力を養う。国家の成長限界を認識したシステム変換。
    鋼鈑に際し、?質問者の質問は最後まで聞く、?イエス、ノーで明確に答えた後、説明を加える。?長い発言になるときは、記憶を整理するとして時間をかける、?早口をしない、?わかりやすく話す、?「大変に」「非常に」を言わない。
    日本人は物事の論理や弘三や意味をつかむことができなくなっている。
    GDPを維持するため、今や外国人を日本移住者を増やし日本の国力を維持させねばならなくなるときが来る。

    こうした厳しい拘置所時代を経てもなお、検察などの当事者を恨んでいない。それぞれの役割に応じて働いただけ。あくまで、プロテスタントであり、公務員であり、知識人でありたいということだ。
    私もかくありたい。
    最後の資料は、佐藤が言いたいことがまとまっているので、デジカメで納めた。

  • 読み終わってよくできた芝居を見たような気がした。小説ではないところがみそだ。小説なら、もう少し人間的な弱みを持つ人物の方が話に深みが出る。主人公がこうも強気で挫折を知らず、敵を怨んだり憎んだりしないというのでは話が面白くならない。

    それなら芝居でも同じじゃないかと思うだろうが、ちょっと違う。芝居は役者が演じているものだ。うまく演技すればするほど役柄が真に迫ってきはするが、それと同時にうまい役者じゃないか、という感想も抱く。『獄中記』を読む限り、この人は完全に一つの役を演じている。健全なナショナリストであり、よきクリスチャンであり、リアル・ポリティクスを知りつくしたインテリジェントという役柄をである。

    そうすることで、外部にいる人間に、そんな人物がけちな背任・偽計業務妨害という微罪で起訴されること自体が何か変だ、これは「国策捜査」じゃないかと思わせることを目的として。だから、検察側が保釈をちらつかせてしてもいない罪を自白させようとしても拘置所の住み心地の良さを理由に頑として保釈を拒否し512日間の長期拘留に耐えてみせるのである。

    誤解してもらっては困るのだが、役を演じるといっても自己を偽っているという意味ではない。むしろ、誠実に自分という人間を生ききるという姿勢を評価してそう呼んでみせたまでである。普通一般の人間は、そんなに自分という人間を意識もしないし首尾一貫して自分であることを意志して生きてなどいない。

    ヘーゲルの「合理的なものは存在する。存在するものは合理的である。」という言葉が何度も出てくるが、身に覚えのない罪で検察に起訴されながら、立場が違えば自分も同じことをするだろうという冷静な分析をしてみせる。拘置所にいる自分を哀れんだり、憤ったりすることなく、運が悪かったと見ることのできる強靱な理性は尋常なものではない。

    拘置所内で手に入れることのできる大学ノートにボールペンで書かれた62冊のノートから選び抜かれた文章である。拘留中に差し入れてもらったヘーゲルはじめ多くの哲学書、神学書、語学の文献・資料の読書メモは大幅に割愛され、弁護団や友人、後輩への手紙、メッセージ、手記が中心になる。

    フーコーの『監獄の誕生』を監獄の中で読むというあたりにユーモアをにじませながら、日曜や長期休暇以外は午前と午後に飲めるインスタントコーヒーがいかに気分転換にいいか、ロシアやイギリスのホテルに比べたら、東京拘置所のコーヒーや料理がいかにうまいか、拘置所内の意外に豊かな食事メニューを逐一書きとめるなど、読者の興味関心を惹きつけることにも抜かりはない。拘置所内では所有が認められる哲学書や神学書を貪るように読み、何の不満もない佐藤氏だが、裁判のために出向く裁判所内の仮監では、ヤクザ・コミックスしかあてがわれないことに不満をもらしているのが面白い。

    猫好きらしく、昔飼っていた猫の夢を見たり、拘置所の庭にやってくる猫を見ては心をなごませたりしている。SARSの流行でハクビシンが原因というニュースをラジオで聞くと猫に害が及ぶのではないかと心配したりもする。あまりに自制心が強くて非人間的に見えることを恐れてわざと入れたのではあるまいかと疑いたくなるようなエピソードである。

    ハイエク流の傾斜配分を選択した日本の政治のパラダイム転換とロシア外交がいかに関連して今回の事件に至ったか、杉原千畝を顕彰した鈴木宗男という政治家のマスコミの知らない姿など、日本という国の外交を裏で支えてきた人物ならではの識見も光る。「フニャフニャ」になってしまった今の日本ではめったに見られない硬質の知性が見物である。

  • 2008年72冊目

  • 佐藤優氏の作品は獄中記を含め3冊読みましたが、単に最初に読んだ一冊からかもしれないが、この作品が一番読み応えがあった。佐藤氏の強みは、学術村で認められる「正しい解釈」ではなく、ある考え方を、自分のおかれた状況理解・分析のために使えるところにある。彼の陰謀説・大きな物語による説明には無理があることも事実だが、学問のための学問をやっている人が著者から学ぶこともあるはずである。
    学術のための学術から抜け出したとき、知識人が生まれるわけだがそういう人は、日本にはしばらく出てきていない(これは日本だけの傾向ではないが、より顕著であるのは事実)。

    挙げ句の果ては、結構ネット社会で影響力のある人が同志社神学部の偏差値レベルだとかなんだとか、とんでもなく恥ずかしいことを言ってしまう。
    頼むからいい大人が大学の偏差値だとか何だとか幼稚なことを言わないでほしい(そんなこと著者は気にしていないだろうが)。

    http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/b0484c361bb6195f6feee22abfc3e064

  • 小菅 死刑囚 

  • あくまでも冷静、知的。
    圧倒的な勉強量と知識量。自らを客観視する能力、計画を実行する行動力。
    インテリとはかく有りきや、と惚れ惚れした。

    現在は様々なメディアで色々な話題に大して批判やコメントを出しているが、やはり専門外となると途端にクオリティが落ちるね。
    時事問題へのコメントなどしなくていいから、じっくりと知的活動に打ち込んでもらいたいと思う。

  • 2020年10月31日読了

  • 貸し出し中

  • テルアビブ国際学会に関する背任容疑および国後島ディーゼル発電事業に絡む偽計業務妨害罪で逮捕・起訴された「起訴休職外交官」が東京拘置所内での勾留生活を記した手記。読書日記。

  • "佐藤優さんが、東京拘置所に勾留された時のノート、メモや弁護士へ宛てた手紙をまとめたもの。不条理な取り扱いを受けているにもかかわらず、自分を見失わずに世の中を俯瞰して見つめ直し、語学の学習にも取り組む。512日間勾留された中で読んだ本もすごい量になっている。今では佐藤優さんの本を書店で見かけないことは無いほどの作家になっている。これからも、佐藤さんの書物からいろんな刺激を吸収したいと思った。
    外交官や政府の官僚になるような方々は、これまで、世界がどんな風に動いてきたのかという歴史観と、国家を歴史的にみた立ち位置やこれからどんな国となるのかというビジョンは共有した上で、様々な業務を行っているのだと、改めて知ることができた。"

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著者プロフィール

1960年1月18日、東京都生まれ。1985年同志社大学大学院神学研究科修了 (神学修士)。1985年に外務省入省。英国、ロシアなどに勤務。2002年5月に鈴木宗男事件に連座し、2009年6月に執行猶予付き有罪確定。2013年6月に執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失った。『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて―』(新潮社)、『自壊する帝国』(新潮社)、『交渉術』(文藝春秋)などの作品がある。

「2023年 『三人の女 二〇世紀の春 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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