コモンズの地球史――グローバル化時代の共有論に向けて

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000229067

作品紹介・あらすじ

いまグローバル化した世界の各地で環境問題を軸にさまざまな紛争が起っており、それに対応できる新たなコモンズ論が求められている。本書は、地球史的視野と生態人類学の視点から、最新の知見を踏まえながら、現地でのフィールドワークの成果をもとに、世界のコモンズの事例を徹底検証する。

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  • コモンズの問題は古くて新しく、ローカルからグローバルまで広がっている。ローカルなことから問題を発見し、グローバルな変化を見る視点が無ければ真のコモンズ論は生まれない。

    筆者のそんな訴えに基づいてこの本は書かれている。

    第一部では、「コモンズ論の射程」と題して、コモンズ論の背景について書かれており様々な事例の類型を示している。

    第二部では、「海洋世界のコモンズ」と題して、クジラやマグロ
    、サンゴ礁について具体例をもとにまとめられている。
    ローカル、パブリック、グローバルなコモンズ、そしてそれらに体するアクセス権としてオープン、リミテッド、サンクチュアル。
    これらの事項が具体例をもとに類型化されている。

    第三部では、「森と川のコモンズ」と題して、アジアの事例を主に
    地域文化に絡めた例を紹介している。


    著者のフィールドワークと、多くの参考文献にもとづいてわかりやすくまとめられており、コモンズ論の入門として良いと思う。

  •  本書は、著者、秋道智彌が36年間、コモンズ論に関する現地調査を東南アジア、オセアニア、中国、日本各地で実施し、その調査研究の結果を学会やシンポジウムなどで発表、さらに論文や論考として世に出してきた成果が結実したものである。

     本書は、序章、3部14章、終章からなり、その概略は、つぎのようにまとめられている。「本書では人間が自然界の資源を利用し、所有するうえでどのような社会的なしきたりや実践をはぐくんできたのかについてくわしく取り上げる。第1部では資源を共有することの意味について、資源、海、水、森、食に着目して議論してみたい。第2部では、海洋世界に展開する共有慣行や漁場紛争などを吟味し、人類にとっての海のもつ意味を明らかにしたい。第3部では、内陸世界における共有地や共有慣行に光を当てる。ここでは、農地や森林、河川や池においてみられる共有の慣行について考察する。そして、最後に資源の利用、海と陸の世界に展開する資源利用の実態から、自然はだれのものであるのかという問いにたいする見方を提起してみたい」。

     この古くて新しい問題であるコモンズの議論を理解する「キーワードは時間変化である」。著者は、終章の最後の節「グローバル化時代の共有論」で、つぎのようにまとめている。「いま一度、本書のなかで提起したコモンズ論が、現在という時点からは一年から二年、ないし数十年前に観察された事象にもとづいていることに注意を喚起したい。資源の定義について述べた部分で、資源が歴史的に不変ではなく、つねに変化する契機をはらんでいることに注意を喚起したい。だが、急激な変化の反面、依然としてかわらない側面があり、保守的な面も時代のなかでその意味を問われてきたことを理解しておくべきなのだ。問題は、前述した「つながり」への認識をあらたにすることであろうかとおもう。生態系サービスの機能についての議論で、コモンズ論が抜けていることは指摘したとおりであるが、いいかたをかえれば、自然と人間、人間と人間をつなぐ関係性に着目することがもっとも重要であろう。つながりは、本書であつかったなわばりとおなじ土俵で議論すべきテーマでもある」。

     そして、つぎのように訴えて、本書を終えている。「コモンズ論の今後は、それぞれの地域に生きる人びとの生きざまに直結していることはまちがいない。グローバルな現象にまどわされることなく、地域における共有問題に徹底的なメスを入れ、人びとの生きざまに眼をそそぐことからグローバルな変化をみる視点なしに、真のコモンズ論は生まれてこない。新しさもない」。

     本書巻末には、2段組で17頁にわたって日本語、中国語、英語文献が並べられている。しかし、著者がおもに参考にし、信頼したのは、これらの文献ではない。本書を読むと、著者が生態系を注視し、風や匂いにも神経を研ぎ澄まして、からだ全体で理解しようとしていることがわかる。そして、そのなかで暮らしている人びとの話に耳を傾け、「自然と人間、人間と人間をつなぐ関係性」をつかもうとしている。

     「自然はいったいだれのものなのか?」という問いにたいして、著者は「海と陸の世界に展開する資源利用の実態」から、その見方を提起している。だが、その答えは、簡単ではない。まずは、ひとりひとりが、限りある資源を利用していることを自覚することからはじめねばならないだろう。

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著者プロフィール

1946年生まれ。山梨県立富士山世界遺産センター所長。総合地球環境学研究所名誉教授、国立民族学博物館名誉教授。生態人類学。理学博士。
京都大学理学部動物学科、東京大学大学院理学系研究科人類学博士課程単位修得。国立民族学博物館民族文化研究部長、総合地球環境学研究所研究部教授、同研究推進戦略センター長・副所長を経て現職。
著書に『明治~昭和前期 漁業権の研究と資料』、『魚と人の文明論』、『サンゴ礁に生きる海人』『越境するコモンズ』『漁撈の民族誌』『海に生きる』『コモンズの地球史』『クジラは誰のものか』『クジラとヒトの民族誌』等多数。

「2024年 『海とヒトの関係学6 海のジェンダー平等へ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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