洪水の年(下)

  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000229418

感想・レビュー・書評

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  • 上下巻読了。
    シスターフッドは、アトウッドがしばしば描くテーマだが、これも希望の見出せない状況の中、助け合う女性たちの姿を描く。
    クレイクが起こした人類を滅亡させるほどの疫病(=「洪水」)の前後の物語。

    『オリクスとクレイク』にもちょっと出てきた「神の庭師たち」という宗教団体にいたトビー(20~30代)とレン(10~20代)という二人の女性を中心に物語が展開する。レンの親友アマンダも。
    ヘルスワイザーがらみの陰謀で両親を失ったトビーは、汚水沼と呼ばれるヘーミン地で、初めは髪を、次には卵子を売ったが、細菌感染し卵子が売れなくなった。そこでシークレットバーガー(得体の知れない肉を挽いてハンバーガーにして売る店)の売り子となる。その店のマネジャーのブランコという男に奴隷のように扱われて逃げ出したところ、匿ってくれたのが「神の庭師」だった。
    レンの母はヘルスワイザーの研究者の妻だったが夫に不満で、教団とつながりがあったゼブと駆け落ちする。娘のレンを連れて。
    ろくでもない男たちに虐げられる女たちの描写は辛いものの、作者が「神の庭師たち」や動物たちを楽しんで描いている感じが伝わる。
    「神の庭師たち」が聖人としている人物(ダイアン・フォッシー、カレン」・シルクウッド、レイチェル・カーソン、ジャック・クストー、デイヴィッド・スズキなど)の人選も面白い。「神の庭師たち」の宗教哲学が、これらの人物で伝わるのが妙。
    オリクスはあまり出てこないが、「グレン」だったころのクレイク、ジミーとのからみも、ゼブの存在も次作『マッドアダム』での展開を期待させる。

  • なんか、テイストとしては好きなんだけど、あと一つ物足りない。ラストに何かインパクトのあることが起こればなぁ〜

  • 作者はこれを「思弁小説」と呼んでいると解説にある。なぜなら、ここに登場する科学技術は、どれもすでにこの世に登場しているからだそうだ。『誓願』の解説にも同様のコメントがあり、この世で既に起きていること以外は書かない、というのがディストピア小説を書くときのルールなのだそうだ。
    コロナ禍でステイホームが叫ばれる状況下でこれを読んだのは大正解だった。ヘルスワイザー=ファイザーを心からは信用できないのに頼らざるを得ない世界を、トビーもレンも私も生きている。
    <水なし洪水>は、今まさに、目の前で起きている。

  • 実はこの本を読んでいたときは内容があんまりピンときていなかったんだが。
    最近、世界情勢や環境問題について知る機会が増え、この本の意味するところが分かってきた気がする。

    洪水は人間が引き起こしたが、その人間は数多ある生物の一種に過ぎない…
    私たちは無意識に生態系のピラミッドの頂点に人間を置いてはいないか?または人間を中心に地球を捉えてはいないか?
    地球の意に沿わない資本主義や過剰生産が廃退した時、それらは人間共々一掃され、新たな生命が生まれる。
    そこに何を見るだろう?

  • 上下巻の下にしてはスッキリしない終わり方。自分が時間を開けて読んだので、人物達1人1人の把握ができなかった。洪水という名のバイオテロもいつの間にか起きてた。荒廃は前からだし、未来の未知の動物や食品に想像力がわかなかった。しかし動いている人間は紛れもなく現代人と同じ生活様式、能力を持っていて、後書き読んでわかったが、現代のテクノロジーに依存している生き方を今一度考えて欲しいという意図が、このように静かで凶暴な世界を物語として読者に届けている形のよう。最後に繁殖期の存在する人間が出てくる。

  • 寓話的というのでもなく色々無理があるけど、下巻は予想外に望みを感じさせる。

    トビーもレンも神の庭師の教えには少し懐疑的でもあったのに、絶滅の危機を生きのびる中でその教えがかなり身についているのがわかる。トビーが蜜蜂たちに話しかける場面はコミカルでとても優しい。

    この宗教的コミューンには皮肉が込められているのかと思ったけど、作者は意外と肯定的に描いているようだ。

    信仰だけでなく、仲間がいるというのもやはり心強いのだろう。でもそれらがこの後どうなっていくのか、ジミーや青い人たちのことも考えると胸騒ぎがする。

  • 駄目だー馴染めない

  • 2019/04/16読了

  • 上下巻纏めて。
    『マッドアダム』三部作の第2部。
    第1部である『オリクスとクレイク』は早川書房から出て、第2部である本書は岩波書店から出た……ということで、第3部はどうなるのか非常〜に不安ではあるのだが(岩波がそのまま出してくれればいいのだが、どうも怪しい)、そういう『大人の事情』は兎も角として、内容は面白かった。
    著者本人はこの三部作をSFとして需要されることも、単純なディストピア小説として需要されることも、余り望んでいないようなことが、訳者あとがきには書いてあるのだが、上質のSFであることは間違いない。
    (しかし訳者あとがきにあるアトウッドの発言が本当なら、彼女の〝SF観〟というのは随分と古臭いと言わざるを得ない。タイムマシンや異星人だけがSFだ、なんてことを大真面目に言ったら、現代では失笑を買うのがオチである)

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著者プロフィール

マーガレット・アトウッド(Margaret Atwood):1939年カナダ生まれ、トロント大学卒業。66年にデビュー作『サークル・ゲーム』(詩集)でカナダ総督文学賞受賞ののち、69年に『食べられる女』(小説)を発表。87年に『侍女の物語』でアーサー・C・クラーク賞及び再度カナダ総督文学賞、96年に『またの名をグレイス』でギラー賞、2000年に『昏き目の暗殺者』でブッカー賞及びハメット賞、19年に『誓願』で再度ブッカー賞を受賞。ほか著作・受賞歴多数。

「2022年 『青ひげの卵』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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