最終兵器の夢――「平和のための戦争」とアメリカSFの想像力

制作 : 上岡 伸雄 
  • 岩波書店
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レビュー : 2
  • Amazon.co.jp ・本 (289ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000230414

作品紹介・あらすじ

アメリカが他の追随を許さない優れた技術力で「究極の兵器」を開発し、凶悪な敵を次々と撃退して人類に恒久平和と民主的な世界をもたらす。-十九世紀末以来、同国のSF小説(未来戦争小説)や映画で繰り返し描かれてきたテーマだ。そうした文化の伝統は、現実政治にどんな影響を与えてきたのか。独立期からイラク戦争まで、アメリカの大衆的想像力と兵器開発や戦争遂行との秘めやかな共犯関係を詳細にあぶり出した労作。

感想・レビュー・書評

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  • 大衆文化に国家戦略。
    低俗と見なされる傾向のある前者に比べ、後者はより高等な物と思われ勝ちで、両者の間にはなんら関係がない様に見えます。
    しかし、本書の原書である「War Stars」によればその様な事はありません。

    5部構成の原書はアメリカの大衆文化と軍事戦略、特に兵器開発の相互関係を論じており、その日本語版である本書は原著の2部と4部を全訳せず、代わりに要約を載せた抄訳となります。

    内容は独立戦争にさかのぼり、アメリカ独立軍が圧倒的な軍事大国であったイギリスの軍事力に対して潜水艦という当時では奇想天外な兵器で戦いを臨んだ事や、その後、アメリカの大衆文学、特にSFでは、敵の攻勢の前に降伏寸前のアメリカが天才的技術者や科学者が密かに開発していた超兵器によって形勢を逆転、
    最終的にアメリカ主導のユートピアを築くというプロットを持つ物が多数登場するようになった事を紹介しています。

    このプロットはやがては「最後の一手の過ち」、つまり敵の超兵器によってアメリカが格下相手に敗北の憂き目にあう事を恐れる傾向を生み出しました。
    これが上記の「超兵器によって全ての問題を解決する」と言う考え方と重なり、アメリカの兵器開発の背景にあります。

    しかし、今度はそうやって開発された兵器が敵の手に渡った場合への恐れが、更なる兵器開発を引き起こしており、兵器開発は加速されこそすれ、(予算獲得に失敗したり、開発しようとした兵器の有効性に疑問が発生する等、特段の事情が無い限り)その逆は起きそうにはありません。

    また、冷戦後、圧倒的な核戦力を持つ唯一の国家となった立場を利用した核優位戦略、即ち核兵器による先制攻撃によって敵の核戦力を撃滅し、残存核兵器による報復攻撃に対してはミサイル防衛網によってこれを防ごうと言う戦略がブッシュ・ジュニア政権下で推進されましたが、これがロシア、中国を刺激し、両国の核戦力整備を引き起こしているとの事です。

    この様に、「超兵器によりアメリカが世界を統べる」と言うかつての大衆文学のプロットが続々と現実化しています。

    しかし、この状況に対して著者は、冷戦下のアメリカにおいて核戦争後の世界を描く大衆文化が花開いた事、そしてこれらがアメリカ国民に広く影響を与え、国民を通して政府の選択にも影響を与えた可能性を指摘しており、この様な大衆文化によってやがて「超兵器によって全ての問題が解決出来る」と言う発想が廃れるのではないかと希望を表し、本書を締めています。

    この他、電球の発明で知られているエジソンが当時の大衆からアメリカの為に超兵器を開発する天才と見なされた事や、彼の指揮下の海軍諮問委員会が現在の軍産複合体の基となった事なども紹介されており、中々充実した内容でした。


    正直、抄訳ではなく全訳された物が読みたかったのですが、訳者による後書きによれば、出版社としては全訳した結果、余りに学術的な内容となれば読者に敬遠されるかも知れないとの懸念を抱いたようです。
    出版社も商売ですから仕方がない点もあるのでしょうが、いや残念ですね。

    しかし、抄訳である本書でも上記の通り読み応え十分の内容となっています。
    ご興味をお感じになられた方は一読されてみては如何でしょうか。

  • 濫作されたアメリカ空想小説の世界観や兵器コンセプトが現実世界にも影響を与えたのだという趣旨で展開されるお話はなかなか興味深かったが、抄訳なのはいろいろ事情があろうともやはりもったいない。とくに第2部(第4~7章)に相当する部分は要約がおもしろすぎてちゃんと全文訳で読みたかったところ。

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