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Amazon.co.jp ・本 (264ページ) / ISBN・EAN: 9784000234085
感想・レビュー・書評
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「質の時代」に経済全体の富の蓄積を進めるためには、たくさんの消費者が将来の経済のあり方について深い洞察力を持ち、そうした消費者が一般投資家として参加する高質な資本市場を必要とする、というのが本書の主張である。資本市場が高質であるためには、ベンチャー・キャピタル市場や株式市場、社債市場が充実し、たくさんの資金が資本市場を通じて、いろいろなビジネスに投入されるシステムが整っていなくてはならない。
多様性の内部化のためには、たくさんのビジネス・ブランに軽重をつけながら豊富な投資資金を配分する必要がある。どのようなビジネスが市場で受け入れられるかを最終的に決定するのは、私たち、消費者全員である。したがって、どのようなビジネスに資金を投入し、育てていくかも、消費者に決定してもらわなくてはならない。そのためには、将来を上手に見通す消費者が存在し、資本市場に一般投資家として広く参加しているのが望ましい。
先進経済というお手本を持つ発展途上経済とは違って、最先端を行く経済では、将来の経済のあり方に関して、多数の消費者の平均的判断より、政府や機関投資家の方が正しく判断できるということはありえない。一般消費者が自らの判断でいろいろなビジネス・プランに資金を配分できて、はじめて、「質の時代」を実現するために必要な資本形成が可能になる。
交渉取引の市場でも単価取引の市場でも、競争を通じて、交換の利益の分配が正常化するというのが本書の結論の一つである。
■一山取引:スーパー・マーケットなどで行われる、野菜などをパックに入れて、一括して値段をつけて取引に供する手法。単価取引が可能な製品の市場で一山取引が行われることは競争の質の低さの証明であり、望ましくない。
わが国の労働市場は終身雇用制度によって高質化を阻まれてきた。序章でも述べたように、多様性内部化し、「質の時代」を築くためには、高質な労働市場が不可欠である。そのためには、終身雇用制度を本格的に見直す必要がある。
終身雇用制度の最大の問題は労働の取引を一山取引にし、競争を排除したことにある。その結果、高質な労働市場が形成されず、労働の適材適所を困難にした。転職のための労働市場が形成されず、産業構造の転換が遅れた。それが「バブルの崩壊」以降の長期停滞の大きな原因になった。
同時に、終身雇用制度によって、わが国の労働者は正常な賃金の分配を阻まれてきたように見える。昔から存在する労働の一山取引の事例では、一部の雇用者が非常に強い交渉力を持ち、一山買いによって、被雇用者が悪条件のもとで労働を強いられたことが多い。そうした事例とわが国の終身雇用制比べると、いろいろな類似性を見出せる。そうした類似性は、わが国の終身雇用制度が雇用者側による労働の一山買いであり、不当に低い賃金での労働を強いてきたことを示唆している。
終身雇用制度の下では、初めて就職する時点から定年まで一つの企業で過ごすという長期雇用が一つの理想とされてきた。このような終身雇用制度は労働者の一生涯分の労働力の大半を、一山にして、社会人になるまでの教育期間の終了時に取引する制度である。
…交渉取引の市場では、取引数量は交換の利益を最大にするように決定される。また、十分な数の競争者が参加すれば、正常な価格と交換の利益の分配が達成される。十分な数の競争者が参加していない場合でも、競争的な参加者が増加するとともに、競争が激化して、価格は正常な値に近づく。
そこで、批評とは、売り手も買い手も取引対象の質を判定できない際に質の判定を行う業務であると考えることにしよう。この定義のもとでの批評には買い手も売り手も経済的価値を見出さない、というのが先の結論の意味である。つまり、作品の質の良し悪しに関して、作者も読者も同様に半信半疑ならば、作者も読者も、批評に対しては支払用意がゼロになる。
批評家と鑑定士は物の質を見分けることで情報を創出するという点では同じサービスを行っている。しかし、先の分析が示すように、同じ情報創出サービスと言っても、すべての取引参加者が情報を共共有しているところで追加的情報を創出するサービス(批評)と情報が偏在しているところで追加的情報を創出するサービス(勘定)とは本質的に異なる。
■市場を守る基本原則
第1原則(ルールの無差別性):どの市場参加者にも同じルールが適用されること。
第2原則(私有財産権の保障):どんな財やサービスも、もともとの所有者が確定していて、それを自発的に移転することができること。
第3原則(自発的意思決定の保証):どの市場参加者にも自発的意思決定に基づいて市場に参加する機会が保証されていること。
第4原則(情報の透明性) :どの市場参加者にも同じ情報が入手可能であること。
「質の時代」とされる二一世紀の経済で、健全で活気のある経済を形成していくためには、高質な市場が育つ政治・経済・社会システムが不可欠である、というのが本書の基本的な主張である。本書の問題意識の出発点は、わが国には高質な市場が育っていないという認識にある。第3章や第4章でも強調したように、特に、資本市場と労働市場の質の低さは深刻である。
一九九〇年代から続く長期停滞の真の原因は、経済全体として、欧米に匹敵するだけの高質な市場が存在しなかったことだというのが本書の見方である。今後も、高質な市場の形成を怠れば、表面的には長期停滞から脱却できたとしても、真に豊かな経済を形成できるとは考えられない。たとえ、ものやお金が溢れる経済が形成されても、それだけでは真の豊かさにはつながらない。この事実は「バブル期」のにがい経験からも明らかだろう。あの時代まで、あれだけ働いて頑張ったのにも関わらず、豊かさの質という観点からみると、今でも、われわれ日本人の生活は欧米人には遠く及ばない。その原因は高質な市場の形成を怠ってきたことにあると考えられる。
■対等な相手との交渉における動学的戦略設定の手法
(1)取引相手の熟知
対等な交渉で最も重要なのは、取引相手を熟知することである。相手を知らずに、交渉に臨んではよい結果は得られない。
(2)複眼的自己分析力
対等な交渉で次に重要なのは、取引相手の立場にたって、自分を分析できる能力である。自分が相手をどう見るかだけでなく、相手が自分をどう見ているかを正確に判断した上で自分の戦略設定を行う必要がある。自分の目と相手の目による複眼的な自己分析力が必要だと言い換えてもよいだろう。わが国の国際化は、常に、自分の立場から相手を見て、自分をできるだけ相手に同化させようとすることに終始してきたように見える。他方で、自分のあり方を海外の事情とは無関係に自分勝手に主張しつづけたのが第二次大戦前の国粋主義だった。このような一方的なものの見方をするだけでは、海外との良い関係が形成できるはずがない。真の国際化とは、海外の立場にたったとき自国がどのように見えるかを敏感に感じ取れることだろう。同じようなことは、対等な関係にある市場参加者の間の交渉の際にも言える。複眼的自己分析力を磨くことが重要だということで ある。
(3)交渉打切りの用意
交渉における最終的な戦略は交渉の打切りである。交渉のどの段階においても、過去の経緯の積み重ねはサンクコスト(埋没費用)でしかない。過去にかけた費用は決して取り戻すことはできない。したがって、交渉のどの段階においても、現状においてプロジェクトを継続する費用と便益の比較を行っていなくてはならない。わが国の企業の場合、プロジェクトの実行は、稟議を通じて、最初に組織の上から下まで全員の賛成を取る形式がとられることが多い。そのため、いったんプロジェクトが開始されると、打切りを決定することが非常に難しいということは、海外の識者などによっても指摘される。交渉の推移を最もよく知るのは、常に交渉に参加している現場の担当者である。その担当者に交渉打切りの裁量権が与えられていないことは、組織の意思決定を硬直化させる傾向が強い。日本企業が稟議による意思決定プロセスの結果、交渉のテーブルから離脱する可能性が低いことを熟知し、それを巧みに利用する海外企業も少なくないようである。
以上、高質な判断や意思決定を行うために、経済主体が備えるべき素養を簡単に紹介した。説明は最後になってしまったが、突き詰めて考えると、
1 高質な判断力・意思決定能力を備えた経済主体の存在
が「高質な市場が育つ」経済・社会システムを形成するための最も基本的な要素だということになる。本書で見てきたように、「高質な市場が育つ」経済・社会システムを形成するためには、
2 市場の機能を正しく理解し、高質な市場の維持を最終的な目標とする政府
を必要とする。市場の機能を理解せず、自らの利益や一部の競争者の利益を図るような政策を行う政府がある限り、高質な市場は生まれない。さらに、
3 市場を守るために、適切な法制度
が形成されることも、「高質な市場が育つ」経済・社会システムを形成するためには不可欠である。民主主義社会では、政府の政策や法制度の是非についての最終的な判断は国民に任されている。それを考えると、「高質な市場が育つ」経済・社会システムでは、我々一人一人が常に判断力・意思決定能力を磨いていく責務を負っていると言ってよいだろう。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
編集者時代
市場と経済の理解を深めたかったのだろう。 -
去年まで我が大学にいらした矢野先生の本。
世界で初めて(本人いわく)市場を質の観点から考察したというこの本だがなんかたとえ話に文量を割きすぎてる気がしたのは俺だけか・・・。もう少し本題の方を詳しく書いていただきたかった。
まあ当然かもしれないけど、本よりも直接話聞いた方が全然この人は面白い。授業でも市場の質と原発問題を絡めて話してくれたけど凄い楽しかった。
あれ?途中から本のレビューじゃなくなってるぞwww
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