- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784000234948
作品紹介・あらすじ
ショック・ドクトリンは、一九七〇年代チリの軍事クーデター後の独裁政権のもとで押し付けられた「改革」をモデルとし、その後、ポーランド、ソ連崩壊後のロシア、アパルトヘイト政策廃止後の南アフリカ、さらには最近のイラク戦争や、アジアの津波災害、ハリケーン・カトリーナなど、暴力的な衝撃で世の中を変えた事件とその後の「復興」や、(IMFや世界銀行が介入する)「構造調整」という名の暴力的改変に共通している。二〇〇四年のイラク取材を契機に、四年をかけた努力が結実した本書は、発売後すぐ、絶賛する反響が世界的に広がり、ベストセラーとなった。日本は、大震災後の「復興」という名の「日本版ショック・ドクトリン」に見舞われてはいないだろうか。3・11以後の日本を考えるためにも必読の書である。
感想・レビュー・書評
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下巻はアジア通貨危機から始まり、もっとも著者が力を入れて書いたであろう911同時多発テロからイラク戦争へいたる転換、そして日本にとっても他人事ではないスマトラ沖地震などの自然災害と、それに乗じて新自由主義的な「構造改革」を強行するシカゴ学派との関わりを描いています。
最終章は、新自由主義に対する抵抗勢力の勃興について触れていて、希望を持たせた終わり方になっていますが、本書出版(2007年)後の世界金融危機と東日本大震災を経験した今になってみれば、楽観的すぎるのではないかとも思います。
奇しくも現在(2011年10月)、日本政府は震災の衝撃も冷めやらぬ状態のまま過激な新自由主義的改革であるTPPに加盟する意思を示しています。そういう意味では今もっともタイムリーな本だと言えるかもしれません。 -
フリードマンらシカゴ学派が提唱して来た新自由主義が、どれだけの罪を犯して来たかが克明に書かれている。
資本主義なんか消えてなくなってしまえ。資本家共の一切の権利を剥奪せよ!そう言いたくなる。
まあ、奴等も最期の悪あがきに入っているようだが、まだまだ油断ならない。
今後も注目しよう。 -
この本は1970~2000年代までの新自由主義的改革の歴史書である。ファシズムを忌み嫌い、新自由主義による自由改革の結果、格差がおき、貧困が生まれる。大衆はその敵を移民だと扇動されてしまう。社会の分断が現在に通じる。世の中がファシズムに逆戻りとは皮肉である。この扇動に負けないため知識が必要である。惨事便乗による自由主義改革のエリートの方便に惑わされないためにも自分たちの力で物事を考える力を持たなければならないと思いました。
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上巻に続き、惨事便乗型資本主義の正体を詳しく暴いている。ミルトン・フリードマン率いるシカゴ学派と政治支配者、超大企業、超富裕層、国際機関等が全世界に自由放任資本主義推進を押し進め、グローバル経済の名の元で世界支配を為し遂げている大罪の仕組みが良く分かる良書である。
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自らの豊富な体験に基づいてシカゴ学派の資本主義を批判しているが、考え方が偏っているように感じる。体験、聞き取りが主な根拠と思われ、疑問な点が残るため説得力にやや欠ける。批判については理解できる。
「国家は真の苦境に陥ったときにだけ自由市場という苦い薬を飲むことを受け入れる」p372
「まだ流血が続いているときこそが投資に最適の時期です」p472
「(シカゴ学派の言う自由とは)新たに民営化された国家を欧米多国籍企業が食い物にする自由」p476
「シカゴ学派のイデオロギーが勝利したところでは、どこも判で押したように貧富の差が拡大した」p649
「世界の成人人口の上位2%の富裕層が、地球上の世帯財産の半分以上を所有している」p649
「シカゴ学派の経済学者たちは、ある社会が政変や自然災害などの「危機」に見舞われ、人々が「ショック」状態に陥ってなんの抵抗もできなくなったときこそが、自分たちの信じる市場原理主義に基づく経済政策を導入するチャンスだと捉え、それを世界各地で実践してきた」p684
「フリードマンが提唱した過激なまでの自由市場経済は市場原理主義、新自由主義などとも呼ばれ、徹底した民営化と規制緩和、自由貿易、福祉や医療などの社会支出の削減を柱とする。こうした経済政策は大企業や多国籍企業、投資家の利害と密接に結びつくものであり、貧富の格差拡大や、テロ攻撃を含む社会的緊張の増大につながる悪しきイデオロギーである」p684 -
現代史の経済史的な側面が見えておもしろかった。
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アメリカのショックドクトリンも、イラク戦争後は、衰えているのではないか。新たな惨事を引き起こすのか。世界のパワーバランスが中国を中心に大きく変化する中で、どんな事が起こるのかに、本書を読んでから一層関心が深まった。
グリーンゾーンについて、深堀すべきと思料。 -
フリードマンを頭とするシカゴ学派の新自由主義者達の自然災害や戦争から如何に民主主義を踏みにじりグローバル企業や新たな災害復興便乗ビジネスが利益追求の為に何をしてきたか。
時には自ら惨事を作り出してイラク戦争や南米や東欧で一部の人間の為に活動してきたか、全く住民や地域社会を無視しての利益追求型復興、IMFや世界銀行がその片棒を担ぎ弱者を苦しめる為に何をしてきたか。
3.11以降この国でも震災を機に漁業や農業の集団化や原発事故を起した東電の完全民営化などがTPPとセットにして復興の名目で行われ様としていますが、それに因って何が起こるかを知らせてくれます。 -
ソ連が消えて資本主義は社会主義に勝った。しかしこのところの経済危機が示している実態は行き過ぎた資本主義のためではないか。そこにはバランスを欠くイデオロギーへの疑念が湧いてくる。イラク戦争を経てショック・ドクトリンは衝撃の最大値・行き着くところまで来た感がある。ネオコン・新自由主義が本当の自由主義・民主主義を導かないことは広く人々の知るところとなった。この流れに逆らうような衝撃を生み出さないように資本主義を律しなければいけない。
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「惨事便乗型資本主義について」の警鐘に注目
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フリードマンが提唱した過激な市場原理主義(新自由主義)は徹底した民営化と規制撤廃、自由貿易、医療などの社会支出の削減を柱とする。
こうした経済政策は大企業や多国籍企業、投資家の利害と密接に結びつくもので、貧富の格差拡大やテロ攻撃を含む社会的緊張の増大につながる。
チリのクーデターをはじめとする70年代のラテンアメリカ、イギリスのサッチャー政権、ポーランドの連帯、中国の天安門事件、アパルトヘルト後の南アフリカ、ソ連崩壊、アジア経済危機、イラク戦争、スマトラ沖津波、ハリケーンカトリーナ、イスラエル 等での
ケースで検証されている。
まさに惨事につけこんだ、ショック療法。
久しぶりに衝撃を受けました。 -
援助問題を含めて、現代史を改めて知った気がする。まじめに復興に取り組んでいた人々がどれだけの挫折を味わったかという事にも思いが及び、いろいろと考えさせられる本だ。
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上下2冊本の大作。上下でまとめてレビューを書く。
まず、著者であるが、カナダ人でまだ30代の女性で、今や世界的な有名人だ。彼女は、現在アメリカを中心に広がっている格差反対(1%の富裕層が99%の貧困層を抑圧している)運動にも関わり、YOUTUBEではウォール街の公園で演説している姿が流れている。
大作だが、読み始めてみると、豊富な史実に裏打ちされていて、なるほどと頷けることが多く、読み通すことは苦痛ではない。
ミルトン・フリードマンを頂点とするシカゴ学派がいかに人民に災厄をもたらしたかを、これでもか、これでもかと告発する。
自然災害、人的な災害(戦争その他)で時の権力が行き詰まっているときに、シカゴボーイズたちは、新自由主義路線の経済政策、政治政策を押しつけ、それによって、大変な利益を得るものが生まれる一方、人民は大変な災厄に遭遇する。
今回の東日本震災でも、そういう動きは皆無ではない。しかし、住民の闘いでかなり食い止めているようで、それが救いでもある。
20世紀後半からの世界の動きを理解するためには必読の書だろう。 -
資本主義の暴走は、共産主義の崩壊により、ケインズ主義のような折衷政策を一掃することが容易になったため。
以下引用『(特定の企業)にとっての利益と、アメリカ(実際には世界)にとっての利益を同一視したとき、これらの企業にとって、戦争、疫病、自然災害、資源不足といった大異変は確実に利益増をもたらす、、、ブッシュ政権の高官たちが、戦争と惨事対応の民営化という新時代を導く一方で、、、自分たちの権益を維持し続けた、、、自ら惨事を引き起こすことに加担しつつ、同時にそこから利益を得ていた、、、』
2003年のイラク戦争後の復興においては、急激な民営化、貿易自由化、しかも現地企業ではなくアメリカ企業ばかりが利益を得る仕組みにより、復興自体は成果を上げるどころか、イラクを以前よりも経済的に壊滅的な状況に追い込み、文化も破壊し、民主化の約束も反故にし、多くのイラク国民に対し不当な拘束・拷問を行い、結果、過激組織を生むことになり、治安も悪化。2007年には、イラク政府収入の95%を占める石油からの利益を外国企業が思うがままにできるようになる新石油法案が可決。アメリカ政府のやり口には怒りを覚える。
2002年から4年にかけ、ショック療法プログラムである「スリランカ再生計画」に国民がはっきりとノーを突き付けたスリランカにおいても、2004年に大津波に見舞われて後は、復興援助を受けるために民営化の条件を飲むしかなかった。
ダボス・ジレンマ=不安定な政治・社会情勢に反し、経済状況の好調が続いている21世紀に入ってからの状況。『戦争の継続と惨事の泥沼化を前提にして成り立つ経済がいかに危険か』との言葉、その通りだと思う。
本書最終章で語られているラテンアメリカにおけるショック療法からの覚醒、世銀・IMFの影響力の低下、レバノンの抵抗例、タイなどでの地元民の自力復興例等、希望も見られる。
本書は2007年に出版されたものだが、今はどうだろうか。今なお、世界、アメリカの情勢は、新自由主義真っ盛りの時期の選択による影響を逃れられていないようにも感じる。コロナ然り、ウクライナ然り、ハマス然りり。。。曇りなき目で現実を知ろうとすることが自分に出来る大切なことだと思う。 -
100分de名著ではじめてその存在を知ったが、番組はなかなかよく纏めてあったと分かった。なので本書は、番組では取り上げていなかったところをおもに読んでみた。ショックドクトリンは、大混乱が"収まったとき"すでに開始されている。ショックにみまわれ、でも安堵する間も許されない、非情なるものである。
例えば、ショックドクトリンによって、経済的に追い込まれたある人々がテロリストになって国が荒廃し、そこにつけこむ人々によってさらにショックドクトリンが断行される。そのフレーズのひとつが「テロとの戦い」。
しかし、「ショック療法」はその性質上、いづれ効かなくなる。終章はそこから立ち直る人々が描かれる。訳者もいっているが、東日本大震災を経験した我々は、「ショック」から本当に立ち直っているんだろうか?原発事故があるけれど、もうかつての自分たちの"土地"へは還りたくない人も多いという。その"跡地"はどうなるのか?これは一部の地域の問題ではなく、国民全員の問題だと、本書が教えてくれる。 -
フリードマンとシカゴ学派…イスラエルのことも知れてよかった
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原理主義って怖い、と思った。いわば「べき思考」。この本で紹介されてるシカゴ学派は、弱肉強食の自由経済主義こそが民主主義よりも優先すべき原理だと主張する。彼らは自らの生命を信奉者に守らせ、安全な第三国から世界を「浄化」する。あくまで漁夫の利なのだ。
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2023/10/22
上下まとめて。
チリ、アルゼンチン、ボリビア、ポーランド、中国、南アフリカ、ロシア…政治体制は異なっていても経済体制の激変とそれに伴う混乱、被害は同様に甚大であるにもかかわらず、政治家と異なり経済を指揮指導した者たちは処罰されることもなく、批判をかわしながら同じことを未だに繰り返している。
経済は見方によっては発展したかのように見えるが、それは迫害され、切り捨てられた者たちの犠牲の上に成り立っており、平均値は上がっても中央値は下がっているという、一部に富が集中し貧富の差が拡大・分断された形が進行したに過ぎない。
混乱に乗じてという形から、意図的に混乱を起こしてからという形まで、惨事便乗型資本主義の醜悪さが読んでいてしんどくなるのを感じた。
いくつか印象的な要旨を書き留めておく。
・イラクの惨状はブッシュ政権でもイラク内部に起因するものでもなく、資本主義が引き起こした惨事である。
・政府の保護なしに自由市場経済に適応すべきとしながらも、復興事業に関わる企業のすべてが米国政府から手厚い保護(軍事力と参入相手の制限)を受けているという皮肉(嘘っぱち)な事実。
・イラク統治に米国の意に合致しない選挙結果を想定すると、選挙を中止し占領当局が自治体の指導者を指名した。
・惨事便乗型の企業にとっては慈善活動やNGO活動も利益確保の権利を侵害するものとなる。
宗教や人種による差別や弾圧、独裁の有無…それらに関わらず、自由市場を謳いながら、保護された特権的立場にある企業達、自己中心的な資本主義が全ての元凶である事をいやというほど思い知らせてくれる本である。
政治経済というけれど、政治を隠れ蓑にした経済の方が遥かに危険であるということもよく判った。(「政治」を宗教、環境、…と置き換えても本性は同じ)
終盤では一連の悲惨な状況から抜け出しつつある明るい展望も記されているが、出版から十年余り、今ではその反動からの揺り戻しを感じる。
壁に囲われた安全な場所で万全の警護を受けながらの優雅な贅沢な生活は楽しいのだろうか。
そんな心配をしないで暮らせる世界の方がずっと良いと思うのだが、怯えなければならないような世界を作った張本人たちが自らを壁で囲った状態で、怯えなくても良い世界を拒否し、それを邪魔しているのは愚かというより滑稽でさえある。
でもその価値観というか世界の見方の違いが人々を分け隔てている根っこなのかも知れないとも思う。 -
何となく海外の出来事と思っていたことが、イデオロギーの衝突ではなく、経済システムの問題が潜んでいたことは初めて知った。
阪神大震災、東日本大震災後の復興と呼ばれるものにも問題がなかったのか検証されてもいいのだろう。
また、現在でも環境問題を押し立て、新たな金儲けの仕組みの導入を謀られているのも一種のショックドクトリンではないかとも思えた。 -
米国のことはもちろんであるが、アジアのことも書かれている。さらにイラクについても詳細に書かれているので、日本の米国からのニュース以外の知識として重要である。タイの沿岸での人々のことについてはもう少し詳細でもいいであろう。
日本のことが書かれていないが、規制緩和がどのような状態になってしまっているかが現在のJRの廃線の問題である。さらに、財政再建の言い訳のもとに人が削減されておきが現象が教員の鳴りてのなさである。教員の人件費を国家から地方行政に移して、最低限の教員を配置することによって、生活指導や部活動や保護者対応がなりたたなくなっていった。財政をどのように戻すかを行わない限り、教員のなりては増えないであろう。 -
急進的な民営化や規制撤廃、社会支出の削減など自由市場改革推進をShockDoctrineと呼び、社会的緊張の増大につながると鋭く批判したナオミ・クラインの名著。
政変、戦争、災害など過去広範囲に及ぶケースを検証する。 -
―ー2023.01.29読了
ナオミ・クライン―話題の著作
惨事便乗型資本主義の正体を暴く―『ショック・ドクトリン』
上下巻で本文686頁に及ぶ本書を読み通すのは、
些か骨が折れるハードなものであったが、
まさに、現代史探訪の書 -
ここにはまことに恐ろしいシナリオが描かれている。
9.11以降「テロとの戦い」を立案した惨事便乗型資本家、政治家たちにとっては、それまでの軍事介入が収益性の高い環境を確保するという目的のための手段であったのが、惨事が目的そのものになった、とナオミ・クラインはいう。
ある種の多国籍企業にとって、戦争、疫病、自然災害、資源不足といった大異変は確実に利益増をもたらすからだ、と。
2007年に刊行された本書には、その後のパンデミック、ウクライナ戦争、天然資源不足、食料危機などが、どのようなカラクリで起こっているのかを読み解くカギがすでに含まれている。 -
上巻に続き、各国の惨事に便乗するシカゴ学派の自由市場の強引なインストールを告発する。アジア通貨危機(単なる市場の噂から端を発した)、9.11のアメリカ(軍産複合体、セキュリティ企業に軍隊をアウトソース/国家とは何かという問題をはらむ)、イラク戦争(大量破壊兵器という嘘で侵攻)、スマトラ島沖地震(災害地区の漁村をリゾート地として改修/自由市場の結果としての貧富二極化)など。とどまることを知らないのかと思いきや、最終章ではかつてショックを受けた国々が、ショック記憶を元に再生していく記録があり希望を感じる。