ショック・ドクトリン〈下〉――惨事便乗型資本主義の正体を暴く

  • 岩波書店
4.23
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000234948

作品紹介・あらすじ

ショック・ドクトリンは、一九七〇年代チリの軍事クーデター後の独裁政権のもとで押し付けられた「改革」をモデルとし、その後、ポーランド、ソ連崩壊後のロシア、アパルトヘイト政策廃止後の南アフリカ、さらには最近のイラク戦争や、アジアの津波災害、ハリケーン・カトリーナなど、暴力的な衝撃で世の中を変えた事件とその後の「復興」や、(IMFや世界銀行が介入する)「構造調整」という名の暴力的改変に共通している。二〇〇四年のイラク取材を契機に、四年をかけた努力が結実した本書は、発売後すぐ、絶賛する反響が世界的に広がり、ベストセラーとなった。日本は、大震災後の「復興」という名の「日本版ショック・ドクトリン」に見舞われてはいないだろうか。3・11以後の日本を考えるためにも必読の書である。

感想・レビュー・書評

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  • 911後のイラク戦争への流れと占領復興の過程が惨事便乗型資本主義のあらわれとして克明に書かれている。
    その民営化された戦争及び復興の過程でイラクの文明発祥の地としての2000年にわたる文化、歴史が破壊され、一方的な富の強奪が起こったこと。
    その反発としてテロが激化したこと。特にテロの激化はテロの発生が宗教的なことに要因があるというものではなく経済的要因がはるかに大きいということこの本はを示している。

    他にも、スマトラ沖地震後の津波を利用したスリランカやモルディブの事例やカトリーナが直撃した後のニューオリンズなど
    上巻に続いて下巻も豊富な事例と資料に基づく詳細な内容となっている。
    イスラエルとイスラエル企業の成長のところが惨事便乗型資本主義と関連して、パレスチナ問題への理解が深まる内容で地味に良かった。

  • 下巻はアジア通貨危機から始まり、もっとも著者が力を入れて書いたであろう911同時多発テロからイラク戦争へいたる転換、そして日本にとっても他人事ではないスマトラ沖地震などの自然災害と、それに乗じて新自由主義的な「構造改革」を強行するシカゴ学派との関わりを描いています。

    最終章は、新自由主義に対する抵抗勢力の勃興について触れていて、希望を持たせた終わり方になっていますが、本書出版(2007年)後の世界金融危機と東日本大震災を経験した今になってみれば、楽観的すぎるのではないかとも思います。

    奇しくも現在(2011年10月)、日本政府は震災の衝撃も冷めやらぬ状態のまま過激な新自由主義的改革であるTPPに加盟する意思を示しています。そういう意味では今もっともタイムリーな本だと言えるかもしれません。

  • フリードマンらシカゴ学派が提唱して来た新自由主義が、どれだけの罪を犯して来たかが克明に書かれている。

    資本主義なんか消えてなくなってしまえ。資本家共の一切の権利を剥奪せよ!そう言いたくなる。
    まあ、奴等も最期の悪あがきに入っているようだが、まだまだ油断ならない。
    今後も注目しよう。

  • と、いうことで下巻。

    わたしは1976年生まれなのだが、物心ついて自分が経験してきた世界の歴史を、実際に自分が見てきたモノとは違う視座、角度から見せてくれるような内容。現代史に疎いということもあり、その辺りはめちゃくちゃ読み応えがあった。

    上巻のチリをはじめとするラテンアメリカや南アフリカなんかの話は生まれる前だったり幼すぎてよく分からなかったりで正直あまりピンと来なかったけど、9.11後からのイラク戦争の話やソビエト崩壊から、今にまで至るイスラエル、パレスチナの問題は特に、一方向からしか認識していない事象というものがそこかしこに存在しているんだなという事に改めて気付かされる。

    下巻を読み終えて、改めて序章を読んでみたのだが、はじめて読んだ時よりすんなりと内容が入ってきたのも面白い。

    それにしても、イデオロギーというのは厄介なものだ。
    一部の大企業や為政者が私腹を肥やすためだけのドクトリンなら30年も繰り返し続かない気がするんだが、もし著者の言うフリードマンのこの新自由主義的思想が一貫しているというなら、社会主義やケインズ経済へのカウンターとしてその思いが純粋すぎる故にめちゃくちゃ複雑で強固な思想に練り上げられ、それを実現させるための手法も強固で時に暴力的にさえなってしまったということなのだろうか。

    作中登場した人物の中には普通に私腹肥やしまくったろーとだけ思ってる人もいるかもしれないが、それだけじゃない全体善への思いもあるはずだと思う。…と、いうかそう信じたい。

    そうは言ってもやはり出来事だけ見れば20世紀後半でも尚西側の大国がやってることは帝国主義の延長ではないか、と憤慨する箇所も多々あった。

    最終章で、ショックドクトリンにのまれない為には、政府にしてもらうことを待つのではなく、自身で動き、それによって自身を癒すという事例があげられていたが、これについても実際の現場では賛否あるのではないかな、とも思う。
    やはり全員が納得する形での合意の形成は難しいからなぁ。

    より良く世界を動かしたい。
    こうすれば良くなるはずだという、強いイデオロギーを持った為政者の気持ちもわからなくもないんだよな、と読み終わった直後のぐるぐるしている頭でちょっと思ってしまった。

  • 資本主義の暴走は、共産主義の崩壊により、ケインズ主義のような折衷政策を一掃することが容易になったため。

    以下引用『(特定の企業)にとっての利益と、アメリカ(実際には世界)にとっての利益を同一視したとき、これらの企業にとって、戦争、疫病、自然災害、資源不足といった大異変は確実に利益増をもたらす、、、ブッシュ政権の高官たちが、戦争と惨事対応の民営化という新時代を導く一方で、、、自分たちの権益を維持し続けた、、、自ら惨事を引き起こすことに加担しつつ、同時にそこから利益を得ていた、、、』

    2003年のイラク戦争後の復興においては、急激な民営化、貿易自由化、しかも現地企業ではなくアメリカ企業ばかりが利益を得る仕組みにより、復興自体は成果を上げるどころか、イラクを以前よりも経済的に壊滅的な状況に追い込み、文化も破壊し、民主化の約束も反故にし、多くのイラク国民に対し不当な拘束・拷問を行い、結果、過激組織を生むことになり、治安も悪化。2007年には、イラク政府収入の95%を占める石油からの利益を外国企業が思うがままにできるようになる新石油法案が可決。アメリカ政府のやり口には怒りを覚える。

    2002年から4年にかけ、ショック療法プログラムである「スリランカ再生計画」に国民がはっきりとノーを突き付けたスリランカにおいても、2004年に大津波に見舞われて後は、復興援助を受けるために民営化の条件を飲むしかなかった。

    ダボス・ジレンマ=不安定な政治・社会情勢に反し、経済状況の好調が続いている21世紀に入ってからの状況。『戦争の継続と惨事の泥沼化を前提にして成り立つ経済がいかに危険か』との言葉、その通りだと思う。

    本書最終章で語られているラテンアメリカにおけるショック療法からの覚醒、世銀・IMFの影響力の低下、レバノンの抵抗例、タイなどでの地元民の自力復興例等、希望も見られる。

    本書は2007年に出版されたものだが、今はどうだろうか。今なお、世界、アメリカの情勢は、新自由主義真っ盛りの時期の選択による影響を逃れられていないようにも感じる。コロナ然り、ウクライナ然り、ハマス然りり。。。曇りなき目で現実を知ろうとすることが自分に出来る大切なことだと思う。

  • 2023/10/22
    上下まとめて。
    チリ、アルゼンチン、ボリビア、ポーランド、中国、南アフリカ、ロシア…政治体制は異なっていても経済体制の激変とそれに伴う混乱、被害は同様に甚大であるにもかかわらず、政治家と異なり経済を指揮指導した者たちは処罰されることもなく、批判をかわしながら同じことを未だに繰り返している。
    経済は見方によっては発展したかのように見えるが、それは迫害され、切り捨てられた者たちの犠牲の上に成り立っており、平均値は上がっても中央値は下がっているという、一部に富が集中し貧富の差が拡大・分断された形が進行したに過ぎない。
    混乱に乗じてという形から、意図的に混乱を起こしてからという形まで、惨事便乗型資本主義の醜悪さが読んでいてしんどくなるのを感じた。
    いくつか印象的な要旨を書き留めておく。
    ・イラクの惨状はブッシュ政権でもイラク内部に起因するものでもなく、資本主義が引き起こした惨事である。
    ・政府の保護なしに自由市場経済に適応すべきとしながらも、復興事業に関わる企業のすべてが米国政府から手厚い保護(軍事力と参入相手の制限)を受けているという皮肉(嘘っぱち)な事実。
    ・イラク統治に米国の意に合致しない選挙結果を想定すると、選挙を中止し占領当局が自治体の指導者を指名した。
    ・惨事便乗型の企業にとっては慈善活動やNGO活動も利益確保の権利を侵害するものとなる。

    宗教や人種による差別や弾圧、独裁の有無…それらに関わらず、自由市場を謳いながら、保護された特権的立場にある企業達、自己中心的な資本主義が全ての元凶である事をいやというほど思い知らせてくれる本である。
    政治経済というけれど、政治を隠れ蓑にした経済の方が遥かに危険であるということもよく判った。(「政治」を宗教、環境、…と置き換えても本性は同じ)
    終盤では一連の悲惨な状況から抜け出しつつある明るい展望も記されているが、出版から十年余り、今ではその反動からの揺り戻しを感じる。

    壁に囲われた安全な場所で万全の警護を受けながらの優雅な贅沢な生活は楽しいのだろうか。
    そんな心配をしないで暮らせる世界の方がずっと良いと思うのだが、怯えなければならないような世界を作った張本人たちが自らを壁で囲った状態で、怯えなくても良い世界を拒否し、それを邪魔しているのは愚かというより滑稽でさえある。
    でもその価値観というか世界の見方の違いが人々を分け隔てている根っこなのかも知れないとも思う。

  • 何となく海外の出来事と思っていたことが、イデオロギーの衝突ではなく、経済システムの問題が潜んでいたことは初めて知った。
    阪神大震災、東日本大震災後の復興と呼ばれるものにも問題がなかったのか検証されてもいいのだろう。
    また、現在でも環境問題を押し立て、新たな金儲けの仕組みの導入を謀られているのも一種のショックドクトリンではないかとも思えた。

  • この本は1970~2000年代までの新自由主義的改革の歴史書である。ファシズムを忌み嫌い、新自由主義による自由改革の結果、格差がおき、貧困が生まれる。大衆はその敵を移民だと扇動されてしまう。社会の分断が現在に通じる。世の中がファシズムに逆戻りとは皮肉である。この扇動に負けないため知識が必要である。惨事便乗による自由主義改革のエリートの方便に惑わされないためにも自分たちの力で物事を考える力を持たなければならないと思いました。

  • 上巻に続き、惨事便乗型資本主義の正体を詳しく暴いている。ミルトン・フリードマン率いるシカゴ学派と政治支配者、超大企業、超富裕層、国際機関等が全世界に自由放任資本主義推進を押し進め、グローバル経済の名の元で世界支配を為し遂げている大罪の仕組みが良く分かる良書である。

  • 自らの豊富な体験に基づいてシカゴ学派の資本主義を批判しているが、考え方が偏っているように感じる。体験、聞き取りが主な根拠と思われ、疑問な点が残るため説得力にやや欠ける。批判については理解できる。
    「国家は真の苦境に陥ったときにだけ自由市場という苦い薬を飲むことを受け入れる」p372
    「まだ流血が続いているときこそが投資に最適の時期です」p472
    「(シカゴ学派の言う自由とは)新たに民営化された国家を欧米多国籍企業が食い物にする自由」p476
    「シカゴ学派のイデオロギーが勝利したところでは、どこも判で押したように貧富の差が拡大した」p649
    「世界の成人人口の上位2%の富裕層が、地球上の世帯財産の半分以上を所有している」p649
    「シカゴ学派の経済学者たちは、ある社会が政変や自然災害などの「危機」に見舞われ、人々が「ショック」状態に陥ってなんの抵抗もできなくなったときこそが、自分たちの信じる市場原理主義に基づく経済政策を導入するチャンスだと捉え、それを世界各地で実践してきた」p684
    「フリードマンが提唱した過激なまでの自由市場経済は市場原理主義、新自由主義などとも呼ばれ、徹底した民営化と規制緩和、自由貿易、福祉や医療などの社会支出の削減を柱とする。こうした経済政策は大企業や多国籍企業、投資家の利害と密接に結びつくものであり、貧富の格差拡大や、テロ攻撃を含む社会的緊張の増大につながる悪しきイデオロギーである」p684

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著者プロフィール

1970年、カナダ生まれのジャーナリスト、作家、活動家。デビュー作『ブランドなんか、いらない』は、企業中心のグローバリゼーションへの抵抗運動のマニフェストとして世界的ベストセラーになった。アメリカのイラク戦争後の「復興」に群がる企業の行動に注目したことがきっかけとなった大著『ショック・ドクトリン――惨事便乗型資本主義の正体を暴く』は、日本でも多くの読者に受け入れられた。『これがすべてを変える――資本主義 vs。気候変動』は、「『沈黙の春』以来、地球環境に関してこれほど重要で議論を呼ぶ本は存在しなかった」と絶賛された。2016年、シドニー平和賞受賞。2017年に調査報道を手がける米ネット・メディア「インターセプト」に上級特派員として参加、他に『ガーディアン』『ネーション』などさまざまな媒体で記事を執筆している。

「2019年 『楽園をめぐる闘い』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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