タルムードの中のイエス

  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000240291

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  • ペーター・シェーファー著"Jesus in the Talmud"(2007)の翻訳。ユダヤ教(特にラビ・ユダヤ教)の聖典タルムードにおけるイエス・キリストについての記述を集成・分析し、それらがどのような意義を有しているのか考察した書。資料の丹念な校正・翻訳を通して、著者はタルムード中の歪曲・転倒されたイエスの姿がキリスト教に対するユダヤ教の「対抗神話」であることを解き明かす。
    タルムードにおけるイエスの姿は、(断片的かつ挿話的な記述を纏めると)情婦(娼婦)とその異邦人の愛人との間に生まれた非嫡出児で、異端を開き、偶像崇拝と魔術の罪で石打ち刑に処され、地獄で永遠に苦しんでいるという、新約聖書でのイエスと全く異なるものである。著者はこうした記述を歴史性の観点(史的イエスに関連するかどうか)からではなく、受容史の観点(タルムードが新約聖書やキリスト教にどう応答したか)から分析を行い、タルムード中のイエス記述がキリスト教(新約聖書)の救世主イエスのアンチテーゼであるとしている。即ち、イエスはダビデの血族たるメシアなどではなく、処刑されて然るべき異端者であり、その信者共々復活など望めないという対抗神話がそこには記されているのである。
    宗教間闘争とそこにおける異宗教の記述という興味深いテーマを扱っている本書は、タルムードの断片的な記事の背後にある「キリスト教徒論駁」の主題を明確に解き明かしており、またその背景についても考察している。古代末期の宗教間闘争の様相を知ることが出来る一冊と言えるだろう。

  • ユダヤ教のタルムードの記述をもとに、ユダヤ教セクトの創始者としてのイエスが、どのような知識のもとに、ラビたちにどのように受け止められ、ユダヤ教伝承として再構成・記述されたのかを探っている本。史的事実の解明を主眼にするのではなく、あくまでその記述の意図と背景に迫るというのが面白い。タルムードでイエスについて言及されているのも知らなかったので、勉強になった。
    意外にもラビたちの新約聖書の知識自体は正確であり、タルムードの記述が一見荒唐無稽な作り話や偏見・中傷に見えても、キリスト教の信仰の核心やモチーフをきっちり反駁し反転させている、という著者の解き明かしはお見事。イエスが地獄で煮えたぎる糞尿の中で座っている責め苦にある、という一読して謎のエピソードが聖体拝領と永遠の命という教義に対するユダヤ教の反駁であり、イエスの(ユダヤ教的)罪に対する正確な罰であるというのはなるほど納得だった。淫売の息子、魔術師にして偶像崇拝をそそのかす大罪人イエスを殺してやったのは当然のことだ、というユダヤ人ラビの認識がキリスト教徒の聖書記述・歴史認識に乗っかりつつ綺麗に反転しているのも(考えてみれば当然のようだが)面白いと思った。

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