- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784000242653
感想・レビュー・書評
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本としてはなんだか自費出版の作品集ぽいまとめられかたではあるが、ひとつひとつの読み物は美しい。繊細でよわさを抱えた心でとらえた光景とそこから感じる人生観。古来の言葉。
[more]<blockquote>P26 君はいま人生で、いわゆる”後れ”をとったのだ。たぶんそれはいつまでも君の人生につきまとうだろう。【中略】不利は不利として敢然と背負う以外に道はない。禍転じて福となるなんて、安易に期待しない方がよい。辛抱とはそういうものだ。我慢して通り抜ければ、先に報いがあると保証されての辛抱は、辛抱なんていうものではない。当てがなくても自分にはこの道以外にないと観念して、ひたすら耐えて歩み続けるのが辛抱であり、一生それで終わっても後悔しない覚悟が必要である。
P54 天気や気候に中庸の美徳を期待しすぎてはいけない
P67 日本語では単に天気といえば晴天をさす場合が多い。【中略】一方ウェザーの語源は暴風で、単にウェザーといえば暴風雨、嵐、荒天をさす場合があり動詞としては「難局を切り抜ける」という意味がある。【中略】私たちの心には「天気」に対する「甘えの構造」があるのかもしれない。
P96 「かげ」の第一の意味は「光」
P146(薩摩の童歌)
泣こかい 飛ぼかい
泣こかい 飛ぼかい
泣こよっかひっ飛べ
P162 霧が晴れて青空が広がるころ、シャラシャラと澄んだ音が聞こえた。ツバキやソヨゴなどの葉についた霧粒が、小枝を伝わり音を立てて幹を流れ下り地面に吸われている。
P164 梅根性・・しつこくて、いったん思い込んだら変わらない性質 柿根性・・融通の利く変わりやすい性質
P190 道元に「愛語」の教えがある。人に「慈愛の心」で接し、適切な「顧愛の言葉」をかけていると、怨敵さえ降伏する事があり「愛語よく回天の力あることを學するべきなり」
P238 予報者の心掛け「自分の力の範囲を確認し、その埒外に出ないこと。奇功を狙ってはいけない」自己顕示欲が先に立った判断や冒険主義を戒めたものである。一方「ただし十分な研究の結果、どうしても動かすべからざる理由があってやるのはよい」大地震、火山の爆発、高潮などの激烈な現象は個々の担当者には生涯に一度くらいの頻度でしか起こらない。遅疑逡巡して失敗し、次はうまくやろうと思っても、そのチャンスはめぐってこない。
「正しい判断の妨げになるものの第一は私心、第二は不健康、第三はうぬぼれ」
P243 人が感じている空は、半球ではなく鏡餅のような扁平な形をしている。(人が空を半球と感じているならば、中点は45度のあたりと感じるはずなのに実際は約30度を指してしまう)</blockquote>詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
数年前までNHKのニュース番組で気象予報を担当されていた倉嶋厚さん。
ダンディな風貌で解説をされていると、大学の先生が難しい気象学をやさしく説明してくれているような雰囲気。
それまでの天気予報には、「明日の天気はなに?」という以外、なんの興味もありませんでした。
そこに、「気象予報」という見方を取入れ、目からウロコを落としてくれたのが倉嶋さんでした。
倉嶋さんの解説は、気象現象の説明に和歌や俳句を引用した知的な内容で、
四季ある国に住む喜びをひしひしと感じさせてくれるものでもありました。
この本の出版に先立つこと7年前の本は『やまない雨はない—妻の死、うつ病、それから…』というタイトルでした。
自らの喉頭がん。それに続き発病した妻の末期がん。そして死。
その後訪れた喪失うつのすさまじい体験が語られていました。
人生終盤、立て続けに襲った苦しみは、すでに十分に語り尽くし、昇華することができたのでしょうか。
この本では、日本の四季をこよなく愛し、詩歌に深い造詣をもった本来の倉嶋さんに戻っていました。
前半部分では、性格形成に大きな影響を与えた父上との関係を中心に、少年期のことが語られます。
長野で、仏教関係の新聞を発行する会社を営んでいた父上は、神経質で、物事を深く考え込む性格だった倉嶋少年に、細やかな情愛を示し、生き方に大きな影響を与えます。
軍国主義に支配された旧制中学校には、陸軍から将校が配属され、厳しい軍事教練を担当していました。
身体が弱く、軍事教練を休みがちだった倉嶋少年は、配属将校からなにかと目の敵にされていました。
卒業式の日、卒業生二百人中成績一番の生徒と三番の生徒は
「学業優等・品行方正」の賞状をもらったが、成績二番の私はもらえなかった。
父は「得意なときは淡然、失意のときは泰然としているものだよ」と言っただけであった。
旧姓中学を卒業し、気象に興味を持った倉嶋さんは、中央気象台付属気象技術官養成所(現・気象大学)に入学します。
その後は、日本中の気象台を転々とした気象予報士という仕事は、まさに天職だったのでしょう。
みつめ続けた日本の空は、さまざまな文学的なインスピレーションも与えてくれました。
後半部分は、日本の四季と気象学を結びつけた楽しいエッセイ。
博覧強記の倉嶋さんにしかできない気象歳時記の話。
俳句を詠まれる方には、すぐに役立つさまざまな知識が得られます。 -
日本の四季はなんて魅力的なんだろう