反転する福祉国家――オランダモデルの光と影

著者 :
  • 岩波書店
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本棚登録 : 92
レビュー : 7
  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000244664

作品紹介・あらすじ

一九八〇年代、ワークシェアリングを通じて経済危機を脱したとされるオランダは、近年は女性や高齢者、障害者、福祉給付受給者らの就労を促す雇用・福祉改革を進め、国際的な注目を浴びている。ワーク・ライフ・バランスやフレキシキュリティを促進するなどの先駆的な改革は、福祉国家再編や社会的「包摂」の成功例とされている。しかしオランダは同時に、反イスラム感情の高まりとともに「移民排除」と「移民統合(同化)」へと大きく舵を切り、移民・難民政策を転換した。その背後には、大衆的な支持を集める新右翼政党の躍進があった。社会的「包摂」を積極的に推進しているオランダが、移民・外国人の「排除」を進めているのはなぜなのか。一見すれば対極にみえる現象に通底する論理は何なのか。「モデル」(光)と「アンチ・モデル」(影)の交差するオランダ政治を考察し、現代社会の構造的変容を浮き彫りにする。

感想・レビュー・書評

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  • そんな誤解をするのは私一人かもしれないが、念のため。
    本書が言う「オランダモデル」とは、かの有名な「働きかたは自由自在、福祉は正社員並みのワークシェアリング」や「大麻・売春から安楽死まで何でもありの寛大さ」ではなく、「オランダという国そのもの」を指している。したがって、それだけ聞けば「おいしすぎる話」にも思えるワークシェアリングや寛容政策の実態を描き出すものではない。
    では何か、というと——それら「寛容さ」を光とするならば、その表裏一体とも言える影、「狭量さ」が本書のテーマである。

    オランダ、そしてもちろん我が日本をも含む先進諸国は、いまや脱工業化段階に入った。「物ならぬモノ」を生産するその社会において、労働とは従来のように黙々と機械を動かす単純作業にとどまらず、サービス業に代表される高度なコミュニケーション能力を要求されるものとなった。
    ここにおいて、かつて重宝された移民青年は忌避され、彼らに体力や勤続可能時間で劣ろうとも、コミュニケーション能力で優る(ネイティヴの)女性や高齢者に対するニーズが生まれた。かれらが就業しやすいワークシェアリング環境や、ひとたびリタイアした者もふたたび労働市場へと戻れる道が整備された。
    コミュニケーションが何より重視される、「全員参加」型の現代社会。それはやがて、参加しようとしない者・できない者を排除する傾向を孕むに至る。
    その中で、長年オランダに住んでいても固く独自の文化を守り、オランダ語もおぼつかない移民たちに向けられるまなざしは、次第に険しくなっていく。ついには、移民申請者にオランダ語やオランダ文化、そして「オランダ的価値観」(たとえば、新人女性が男性上司に初めて出くわしたら? 「みずから手を出し握手を求める」が正解。東洋流の「声をかけられるまで自分からは話しかけない」は×)を問うテストが出され、クリアできないと帰化は認められない、というところにまで至る…。

    読んでいて非常に納得がいくというか、「そう来たらそりゃ、次はそうなるわなあ」と腑に落ちる論理展開だった。
    これを「影」と呼び、切り捨ててしまうのもどうなんだろう。
    昨今、オランダに限らずヨーロッパ諸国の「右傾化」というようなことが言われるが、そう単純に片づけてしまえる問題ではないように思えた。

    2012/12/21〜12/26読了

  •  1990年代世界を席巻した福祉改革ブーム。その中でオランダは、オランダ病と呼ばれた経済・財政危機から脱することができたとして、「オランダモデル」と称揚された。本書はそれを「光」として描き、「影」としてその時代以降噴出する排外主義を描く。そして、その「光」と「闇」の共通項として、シティズン教育でおなじみ「参加の論理」を抽出する。
     本書で期待したのは、その共通項がいかに実証的に現れるか、という部分であったが、残念ながらそれはできていない。(できたら苦労しない)あくまで「参加の論理」抽出は思弁的なものに留まり、それ自体は既存の学者がすでに数多くやっていることである。
     とはいえ、本書はオランダモデルをむやみやたらに賞賛する空気に、全く異なる切り口から実証的に水を差したあたりは評価できるし面白い。また、参加の論理の部分も、予め光と闇を描写することにより一定の説得力は有する訳で、そこだけ抽出したものよりは参考になることは言を俟たない。

  • オランダモデルと呼ばれる高福祉政策が、のちに移民の排除を招いた理由について書かれている。
    脱工業化により、多くの移民を引きつけたものの、高福祉政策を受ける者の範囲が問題になり、また、脱工業化により、言語ができなければ話にならず、この能力のない移民が排除されてしまったとの分析は、納得。
    移民を受け入れるか否かという議論をする際に大いに参考になると思った。

  • 寛容と言われたオランダが近年移民排斥へと舵を取った状況を考察した本。
    主に(イスラム系)移民に対する話が中心、福祉も関連するのだが話の内容としては副次的なもの。

    世界的に移民に対する風当たりはきつくなっているが、オランダの動きは他国のいわゆる極右的な話、移民がわれわれの仕事を奪っているといった主張とはと一線を画していて、寛容な制度を守る為に不寛容な(イスラム系)移民を排斥するという論理がつらぬかれているのはとても興味深い。
    単なる他者の批判ということじゃなく、譲れない論理を元に起きている動きだということだということは、この流れは単なるブームではないことが伺えると思う。

    日本にも移民をといった御馬鹿な話がたまに聞こえたりするが、それに賛成するにも反対するにも一笑に付すにも読んでおいて損は無い本だと思います。

  • 水島治郎『反転する福祉社会 オランダモデルの光と影』岩波書店、読了。働き方と社会福祉に関するオランダの取り組みは、社会的「包摂」の理想とされるが、同時に「移民排除」と「移民統合(同化)」を強固に推進している。本書は対極に見える現象の背景に目を向け、社会変容を浮き彫りにする。


    本書は冒頭で建国以来の伝統(「身軽な国家」と中間団体による扶助)とオランダ型福祉国家の形成を概観する。その上で、「光」(大陸型福祉国家の限界からワセナール協定、そして現在)と「影」(不寛容なリベラルというパラドクス)の経緯を追跡する。

    労働や市民生活への積極的参加を要求する「参加型社会」は同時に、参加「見込みの薄い」移民を排除へと動いた。「権利」の前提としての「義務」「責任」の高調がその背景に存在する。勿論、移民・難民排除はオランダだけではない。光と影から何を学ぶのか。

    注目したいのは「あとがき」。ポスト近代社会とは「人々の積極的な参加を前提とし、コミュニケーションを重視する」。しかしその有無が個々人の社会的価値に容赦なく連動する。KY、コミュ力等々…。オランダ社会の変容は決して対岸の現象ではない。了。

  • 硬派?というほどではないが、真面目な本です。そして、これからの日本のように、停滞基調の成熟国ではどこでも問題になりそうな課題をオランダ社会に即して分析してあります。最終章の理論化にはあまり同意できませんが、多くの示唆と視点へのヒントが得られます。移民と社会統合と課題をどのような枠組みで考察し、解決しようとするのか、そろそろ日本人も真剣に考えてほしいですね。

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