- Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
- / ISBN・EAN: 9784000245135
作品紹介・あらすじ
嘘、偽り、詐欺、謀略…。秩序や倫理をもって排除しようとしても、決して人間世界から排除しきれない「狡智」という知のあり方。この厄介な知性は人類の歴史の中でどのように生まれ、どのように意味づけされ、社会の中に組み込まれてきたのだろうか。古今東西の史実や物語を素材に、狡智の深層と人間の本性との関わりについて考える。
感想・レビュー・書評
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人間の社会・歴史における狡智(ずる賢さ)の在り方や意味を探る。題名にあるような騙すことそのものの理由を問う内容ではない。
「ずる賢いこと」は現代では一概に悪と見做されがちだが、本書によると古代ギリシャの英雄譚や日本の神話や中世武家社会においては寧ろ機智や実践智として尊ばれ、賞讃の対象ですらあったという。この狡智が漢才(学問・学識)の対義語としての“やまと心”・“やまと魂”(実生活上の智恵・才能)に相当するのでは、という著者の言説は興味深い。対する中国思想やプラトン以降の西洋思想における狡智の消極的・否定的な捉え方についてもおもしろかった。
とかくフィクションにおいて英雄や武士は常に清廉潔白で正々堂々とした存在として描かれがちだが、実際の神話や軍記物語などではそのような“真人間”より策謀に長けた切れ者のほうが多いということもあり、自分はその事に違和感を覚えていた。寧ろそれには当て嵌まらない者たち--例えば大河ドラマ『真田丸』の真田昌幸・信繁(幸村)親子や徳川家康、『鎌倉殿の13人』の北条義時や大江広元など--のほうが昨今の作品では魅力的だった。本書はこの個人的なモヤモヤ解消に少し役立った。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「騙す」ことについて、膨大な資料を駆使して解説している面白い本だ.最初のほうで最近見た Catch me if you canが出てきて驚いた.日本神話で登場人物が策略を駆使して生き延びる事例を紹介しているが、倫理的な反省は全くないとのこと.平家物語にも騙しあう事例が多い由.馬喰八十八の物語をペースに日本人の「騙す」についての考察が楽しめた.やまと魂についての解説、意外な感じがした.中国の古典、ギリシャ神話なども例に引いているが、引用文献が凄い量だ.p224の"騙すことの前提となっている他者への理解は、騙すことばかりでなく、他者の苦痛や悩みを理解し共感することともつながっている.それは、騙すという利己的な行動とはむしろ正反対な、他者をいたわったり助けたり、あるいは何か有益なことを教えたりという、愛他的な行動の基礎ともなっているのである." という語句は重要な考えだと感じた.
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著者:山本幸司(1946-)
【版元】
本体2,300円+税
刊行日:2012/02/15
9784000245135
四六 上製 250ページ 在庫あり
嘘,偽り,詐欺,謀略…….秩序や倫理をもって排除しようとしても,決して人間世界から排除しきれない「狡智」という知のあり方.この厄介な知性は人類の歴史の中でどのように生まれ,どのように意味づけされ,社会の中に組み込まれてきたのだろうか.古今東西の史実や物語を素材に,狡智の深層と人間の本性との関わりについて考える.
■著者からのメッセージ
古代・中世の武士たちの戦い方に,狡いとしか言いようのないやり口が,しばしば見られるのに違和感を持ったことから,この本は始まりました.アンフェアな行為そのものではなく,そうした戦い方を記述する軍記文学の作者たちが,「狡い」行動に対してまったく無批判で,場合によっては,むしろ賞賛さえしていた点が,とても奇異に感じられたのです.そこには恐らく我々と違う価値観が作用していたのだろうと考え,それ以来,「狡い」行動様式や狡智について材料を集め始めました.
そのうちにギリシャ古典における狡智について,ヴェルナンという学者が書いた本に行き会い,ほぼ同じような問題が扱われていることに気づきました.視野を広げてみると,世界中の到る処で,こうした狡智が顔を覗かせる場面が見られるのです.その面白さに惹かれて,あちこちを彷徨っているうちに収拾がつかなくなり,大汗を掻きながらようやくまとめ上げたのが,この本です.
このようなテーマは専門研究の枠組には収まりません.そういう意味では,あくまでも試論か私論に止まるのかもしれませんが,狡智のように社会の中で否定的に見られている現象を,正面から取り上げることは,社会の仕組みを知る上で,実はとても大事なことなのだと私は考えています.
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https://www.iwanami.co.jp/smp/book/b262993.html>
【目次】
献辞 [iv]
目次 [v-viii]
はじめに 001
序章 フィクションの中の詐欺師たち 007
1 「スティング」の世界 007
2 バルザックの金融小説とポーの詐欺師論 010
3 コリンズ,メルヴィル,マン 014
4 エンターテインメントとしての詐欺話 018
5 エゴと倫理観 022
6 「ウソ教室の勧め」 025
7 柳田國男と『不幸なる芸術』 028
第一章 日本人の狡智観 033
1 日本神話における詐略 034
2 源平合戦の騙し合い 038
3 味方同士の騙し合い 043
4 詐略の名人 050
5 「やまと心」とは 053
6 やまと心の実例 058
7 藤原頼長と信西入道 062
8 藤原為盛の機知 065
第二章 馬喰八十八の智恵 069
1 「馬喰八十八」078
2 「エンマ様をぶち殺した農夫」 080
3 領主を騙した粉ひきの話 083
4 「二人のコンパードレ」と「カンプリアーノの物語」 086
5 死体を使って儲ける話 089
6 「レスターの修道士」 092
第三章 狡智と致富 097
1 八十八の類話 097
2 昔話における馬喰 102
3 騙る馬喰 108
4 狂言に登場する馬喰像 112
5 交換による金儲け 114
6 「ウサギのかしこい商売」 117
第四章 中国における狡智の哲学 125
1 諸葛孔明と曹操 126
2 老子,莊子,墨家 130
3 荀子 135
4 「兵とは詭道なり」 138
5 韓非子 142
6 謀計の評価 147
第五章 ギリシャ人と狡智 151
1 オデュッセウスの狡智 152
2 ヘルメスという神 156
3 プラトンの狡智に対する態度 161
4 狡智の領域 168
5 メーティス的知性 171
第六章 生きるための狡智 181
1 狡智とは 182
2 トリックスター,八十八 184
3 『狐物語』 190
4 ピカレスク文学の世界 192
5 狡智と喜劇 196
6 マチンガの狡智 200
終章 騙しの起源と動物行動 207
1 人間の本性と動物との関連性 207
2 動物の欺瞞行動 211
3 騙しとは 215
4 類人猿の騙し行動 219
5 他者の理解と騙し 224
参照文献 [231-238]
あとがき [239-241] -
配置場所:摂枚普通図書
請求記号:141.6||Y
資料ID:95120556 -
人を騙す。戦争や政治、商売の場面で、知恵を絞りながら相手に勝つプロセスでは、騙すつもりはないが結局騙したことになったり、騙すつもりで騙したり、さまざまな場面で人を騙すことがある。この騙すということに対する、日本、中国、ギリシャでの文化比較がテーマ。
結局のところ、道徳的な観点をどこまで考慮するかが課題なのだが、戦争の場合、道徳ばかり説いていても殺されてしまえば元も子もない。圧倒的な力の差がある敵を前に、知力で対抗するというのはよくある話。戦争ならばどこまで許されて、商売ならばどこまで許されるのか。面白い観点での本である。
個人的には、馬喰八十八の話は長すぎると思う。実際の戦争や政治での論争をネタにした話で整理できると良いのだが。 -
引用される多くの昔話や寓話、その他の作品から動物の騙し合いなど、そこのところは興味深くて面白かったのだけど、タイトルから想像した着地点からさほど外れなかった。
というかタイトルがあんまり合ってない気がする。
哲学または心理学っぽい。
けど内容は○○学だ!と決めにくい。
騙しの歴史 というには少々スケールが大きいかな。
柳田國男の話が印象的。
あとは大和魂とか。
誰かを騙してみたくなりますね。 -
タイトルにひかれたが、正直自分の想像している内容ではなかった。
自分たちや親や先生、友達などから、嘘はいけない、人をだましてはいけないという事を、実話や寓話、ニュースを見ながらと様々な場面で何度も教わってきたが、スポーツでの駆け引きやフェイクとだましの違いとはなんだ?
智謀、叡智と奸智の違いは何か?言う答えとして、先を読み、他人の行動を読み、対応策を考えるという知性において両者に差はないと言う事が著者の言いたいことなのだろう。
映画や小説では、詐欺師を主人公にした話が何本もあり、詐欺師をある種ヒーローとして描いている。
また古くは日本をはじめ中国、ギリシャでも、人をだます物語や実話がいくつもあるが、それらは非難をするわけではなく、騙した本人の行動や知性を称賛している事が多いという事を紹介している。
現代とは倫理観が違う点もあるかもしれないが、騙しととらえるのではなく、駆け引きと考えれば、現代でも騙しは公然と、そして一つのテクニックとして捉えられている事がわかるし、もっと積極的に肯定的に捉え活用していきたいと思うような内容だった。
もちろんニュースになるような詐欺はだめだけどね。 -
【新刊情報】人はなぜ騙すのか 141.6/ヤ http://tinyurl.com/bv8574o 嘘、偽り、詐欺、謀略…。秩序や倫理をもって排除しようとしても、決して人間世界から排除しきれない「狡智」。史実や物語を素材に、狡智の深層と人間の本性との関わりについて考える。 #安城
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騙す知恵も「知性」の仲間。その「狡智」について日本、中国、ギリシャなど古今東西の昔話や思想を考察し、騙しの起源を探った本。もともと「やまと魂」という言葉も、実は勇敢というような意味ではなく、「狡智」を意味していたとか。
時代や文化によっては狡賢さは賞賛されるものでもあって、昔話や歴史に語られる清清しい騙しの話が面白い。全体的には堅い文章で重複も多い。