日々の子どもたち あるいは366篇の世界史

  • 岩波書店 (2019年12月14日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (298ページ) / ISBN・EAN: 9784000245401

作品紹介・あらすじ

円柱の上で眠る聖シメオン,彗星とともに旅するマーク・トウェイン,水に映る月に抱きつこうとして溺死した李白,ボルネオの空から舞い降りる猫,原発事故と黒澤映画,そして時を逍遥する無名の人びと――勝者の歴史だけでなく,埋もれつつある人間的で小さな〈歴史〉にも向けられた,著者の厳しくあたたかな眼差しを追体験する三六六日,一日一話.

感想・レビュー・書評

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  •   10月12日 発見
     
     1492年、現地人は自分たちがインディオで
    あることを発見した、
     アメリカ大陸に住んでいることを発見した、
     裸であることを発見した、
     罪が存在することを発見した、
     別の世界の王と女王、別の天国の神に従わ
    なければいけないこと、そしてその神が罪と
    服を発明し、太陽と月と大地、大地を濡らす
    雨を崇める人は生きたまま焼かれるように命
    じたことを発見した。   (P221より引用)

    これは、コロンブスに見つめられた側からの視点で新大陸発見を描きなおしたものだ。

    すごい本を読んだ。
    何度も本を閉じては深呼吸する。
    サブタイトル「あるいは366篇の世界史」が表すように、366日、その日にあった出来事などが1日1篇、短い文章で描かれているものなのだけれど、1ヶ月分、いやたった数日分さえ、一気にまとめて読むことができなかった。
    10行にも満たない文章で綴られた歴史に衝撃を受け、そこから一歩も動けずにいた日もあった。

    著者エドゥアルド・ガレアーノ(1940-2015)はウルグアイ出身の作家である。
    本書で語られることは、神話、伝承、証言、覚書、引用、作者の体験などなど、さまざまな変化に富んでいて、それらをガレアーノが366日の物語に再創造したものが、この『日々の子どもたち』である。
    『日々の子どもたち』というタイトルはマヤの書から取られたようだ。ここにある「子ども」とは、所謂、年端もいかない、幼い者という意味の「人間の子ども」のことではない。
    訳者はあとがきで、『人間はどれだけ大人になっても、過去から見れば「子ども」であるということだ。人間は過去の親にはなれない、過去を自分のものとして好きなようにはできないのだ』と説明する。

     3月12日
       夢は覚醒よりも多くを知っている

     日本のシンボル、富士山が赤くなる。
     空を覆うのはプルトニウムの赤い雲、スト
    ロンチウムの黄色い雲、セシウムの紫色の雲。
    すべてが癌とその他の怪物を運んでいる。
     六基の原子炉が爆発したのだ。
     絶望に駆られた人々はどことはなしに逃げ
    惑う。
     「騙された!嘘だった!」
     運命を先取りするかのように、海に、崖に
    飛び込む人もいる。
     黒澤明はこんな夢を見て、映画を撮った。
    2011年の初頭、日本で大災害を引き起こした
    核惨事が起きる20年前のことだった。
                 (P55より引用)

    ガレアーノの言葉は難しいわけでも、想像しにくい内容でもない。それどころか淡々とした文章で描かれる世界の物語は心にまっすぐ届いてくる。だからこそ、語られる言葉の持つ力があまりにも強く響き、わたしは圧倒されっぱなしだった。まるで彼の言葉の重みがすでに世界の重み、歴史の重みであるかのようで。
    それでもわたしは最初の物語を読み始めた瞬間から、ガレアーノの言葉に囚われ、どうしても読まずにはいられなかった。それはまるで吟遊詩人が歌う見知らぬ世界の物語を夢中で聴いている、そんな気持ちのようでもあった。

    本書でとりあげている出来事のほとんどが、『人間が人間に対して行なう非人間的な振る舞い』の歴史である。
    とくに著者が何度も書いていたもののなかに、植民地主義、アメリカ帝国主義、ハリウッド映画産業などについてのものがあるのだが、それらの光のあたらない側の姿には衝撃を受けた。
    無知であるということがどれほど罪深いことなのか、ズキズキ痛む心で猛省する。
    国家、権力、大多数側の声。そういうものが振りかざす主張・主義、そして正義というものの正体は一体なんであろうか。
    ガレアーノは、常にその反対側にいる人たちの視点で歴史を見つめ、かれらの日々の物語を書いた。

      8月29日 有色の人

     愛しい白人の兄弟よ。
      わたしは生まれた時、黒かった。
      育った時、黒かった。
      日を浴びる時、黒い。
      病気の時、黒い。
      死ぬ時、黒いだろう。
     一方、君の方は
      生まれた時、ピンク色だった。
      育った時、白かった。
      日を浴びる時、赤い。
      寒い時、青い。
      怖い時、緑色。
      病気の時、黄色。
      死ぬ時、灰色になるだろう。
     ということは、わたしたち二人のうち、
     どちらが有色人なのだろう?(P185より引用)
        (セネガルの詩人
          レオポール・サンゴールによる)
     
    それでも、そんな日々の歴史のなかにも、ポッと灯る蝋燭の火のような人の優しさが生まれる瞬間がある。
    揺らめく灯りの神秘さにうっとりとするような、神話や伝承に出会う瞬間もある。
    オレンジ色、黄色、赤色、青色……、炎の色がひとつではないことにハッとするように、詩や小説の1文に新しい世界を見た瞬間も確かにそこにはあった。
    そのようにガレアーノによって掬い上げられた物語や歴史に、励まされたり、勇気を与えてもらうこともあった。
    ガレアーノは言う。
    「世界は恐ろしい出来事と素晴らしい出来事の両方をわたしたちに見せてくれる」

     5月15日
       明日が今日の別名ではありませんように

     2011年、家と職を奪われた無数の若者がスペインの都市の広場や街路を占拠した。
     怒りは広まった。健全な怒りは悪疫よりも感染力が高く、「怒れる者たち」の声は地図に描かれた国境線を越えた。そして世界に轟いた。

     俺たちは「出て行け」と言われた。
     だからここにいる。
     テレビを消して街路に火を灯せ。
     連中は危機と呼んでいるが、それは詐欺だ。
     金は足りている。泥棒が多過ぎるだけだ。 
     マーケットが支配している。俺はマーケット
     には投票していない。
     連中が俺たちのことを、俺たちがいないあい
     だに決めている。
     経済奴隷が貸し出されている。
     俺は俺の権利を求めている。それを見たこと
     がある奴はいるか?
     俺たちに夢を見させてくれないのなら、連中
     も眠らせちゃいけない。  (P107より引用)

  • 日々の子どもたち あるいは366篇の世界史 エドゥアルド・ガレアーノ著 岩波書店 2800円 : 読売新聞オンライン(2020/3/1)
    https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/review/20200229-OYT8T50144/

    大学生協の目利きが選ぶ コロナ時代の学生に効く9冊|NIKKEI STYLE(2020/12/28)
    https://style.nikkei.com/article/DGXMZO67564030S0A221C2000000

    日々の子どもたち - 岩波書店
    https://www.iwanami.co.jp/book/b487909.html

  •  「不愛想な手紙」というブラジル映画を見て、ウルグアイという国があることに気付きました。ぼくにとって遠い遠い国だったのですが、その国に生まれたガレアーノという作家がいることを、図書館の新刊の棚で発見したのが、ほぼ、同時だったことが、偶然のことながら不思議な縁を感じさせてくれた本です。
     1年、366日、1月1日から12月31日まで、いわば、「引用の織物」なのですが、「人類」を射程にした記述は「ユーモア」と「怒り」、冷静な「悲嘆」と静かな「歓喜」にあふれています。
     この「世界」で人類がやって来たことを遥かに振り返りながら、未来を感じさせる「絶望」の、いや「希望」の書といえる一冊でした。
     「不愛想な手紙」と「本書」の感想をブログに書きました。覗いてみていただければ嬉しく思います。
     「不愛想な手紙」
     https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/202008190000/
     「日々の子どもたち」
     https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/202009300000/

  • 〇外国の人の世界観で、知っている出来事も視点を変えて見ることが出来た
    〇辛い出来事も独特なユーモアと皮肉で読ませる
    〇時々出会う、勇気や優しさや尊厳がお茶を一服いただいたような
    〇翻訳されていること、文化背景が違うこと、そもそも知識の不足でわかりにくいものもある
    〇八月五日と八月六日のミスはちょっと残念
    〇知らない歴史がたくさんあった

    引用・抜粋
    ◎365日の出来事
    「人間が人間に対して行う非人間的な行い」またそれらに抗った人々のこと
    ◎わたしたちは時間でできている。
     わたしたちは日々の子どもである


    一月
    ・ローマの軍隊が図書館を燃やした日
    ・植物は植物に耳を傾けることの出来る者に教えてくれる
    ・「もし善が存在しないなら、作らなくてはならないんだよ」
    ・「勝てないときには、引き分けろ。引き分けにできないときは、丸め込め」
    ・アハワルパ・ユパンキは、ギターと馬と彼、そして風で出来ている

    二月
    ・「音楽のない人生なんて理解できない」シキーニャは夫を捨て家を出た
    ・二週間ごとに、言語が一つ死んでいる。世界は人の言葉を失うたびに、草木や動物の多様性が失われるのと同じように、小さくなっている。
     アンヘラ・ロイ、オナ族の最後の話者は言語といっしょに無くなった。
     至高神はペマウルク、「言葉」という意味。

    三月
    ・悪魔とバイオリニスト
    ・黒澤明の夢
    ・マヤ語の挨拶
     「わたしは別の君です」「君は別のわたしです」
    ・わたしたちは水でできている。

    四月
    ・三番目の息子は蠟燭に火を灯した。そして、部屋は満たされた。
    ・グアテマラの山奥の村では気晴らし人形が作られている。人の眠りを煩わせる哀しみや苦しみを、夜が敵ではない遠くの場所に運び去る。
    ・アイスランド「その負債はわたしたちの負債ではない。なぜわたしたちが払うのか?」
    ・イエス・キリストもアメリカ大陸の先住民とヨーロッパの異端者らは同じ罪状で有罪とされた。
    ・「わたしの唯一異常なのは、好奇心だけだ」アインシュタイン
    ・「政府が否定したらそれは本当だ」

    五月
    ・オサマ・ビン・ラディンとジェロニモ
    ・ウジェーヌ・フランソワ・ヴィドッグ
     …ホームズたち私立探偵の母
    ・世界のなかのいろいろな世界を見るために・君の目を変えて。
     鳥に君の歌を聴かせるために、君の歌声を変えて。
    ・パレスチナ、かつて美しい風景の墓
    ・ガリレオとブルーノは赦された。二人を異端審問にかけた枢機卿ロベルトは列聖された。

    六月
    ・黄金は食べれば食べるほど飢えが大きくなる
     村人たちは、荒野を耕して育てたアボガドやマンゴーやライムで生きていくことを選んだ
    ・チリの発見は1536年となっている 
     マプーチェ族にとっては一万三千年前
    ・自殺する兵士と、彼らに殺せと命じる戦争と、一体どちらが狂人なのか
    ・「わたしが生きているだなんて、誰があなたに言ったの?」
    ・トレヴィーゾの10人は顔を黒く塗って試合をした
     チームメイトのアケームに投げかけられるヤジに我慢ならなかったのだ

    七月
    ・アメリカ合衆国は2008年、ネルソン・マンデラをテロリストのリストから削除した
    ・スコットランドの平原で牧童たちが暇つぶしにウサギの穴に石を入れていたことがゴルフ誕生秘話
    ・ヴェルナー・フォン・ブラウン
     宇宙船アポロを設計した
     ヒトラーお気に入りの士官科学者だった
    ・ネコの受難

    八月
    ・ミャオ族は文字をもたない
     絹糸で、自分たちの起源と大移動の物語を、誕生と葬いの物語を、神々と人間の戦争の物語を、今は無い巨大な都市の物語を織り上げている
    ・神の爆弾
    ・マタ・ハリ
    ・デルタ&パイン社 自殺種子
    ・有色の人

    九月
    ・ドイツの脱走兵の記念日
     脱走兵は裏切り者である
     戦争に背いた者たちだ
    ・ヒトラー 予防戦争の開陳
     わたしは殺される前に殺す
    ・メキシコを解放した女性たち
    ・スーザン・ラ・フレスカ
     アメリカ合衆国で初めて医学の学位を取得した先住民
    ・女提督アルテミシア
    ・「わたしの本は呼吸するのです」
     「本を開く。開いて温ねる。読むとは尋ねることです」
    ・『ニューヨーク・タイムズ』1945.9.12の記事
     破壊された二つの都市に放射能はまったく存在しない。放射能とやらは「日本によってひろめられているプロパガンダ」に過ぎない。
              ーウイリアム・L・ローレン

    十月
    ・「製造された武器、航海に出る戦艦、これらはどれも食べ物のない飢えた者と着る物のない裸の者から奪ったものである」アイゼンハワー
    ・チェ・ゲバラ
    ・ドローン:非の打ち所がない兵士
    ・わたしたちが知らないのは、貧しい人がなぜ貧しいかである
    ・1929年、カナダで女性は法律によって初めて人であることが認められた
    ・その翅は飛び方を知らない。しかし歌い方を知っている
    ・自由なのは考える人であって、従う人ではない
     真に教えることとは、疑うことを教えることである

    十一月
    ・世界のどこでもそうだが、ハイチでも死者の数は生者よりずっと多い
    ・通行禁止の壁
    ・エラズマス・ダーウィン『ズーノミア』

    十二月
    ・コスタリカのドン・ぺぺ・フィゲレスは1948年軍を解体した
     コスタリカは戦争とクーデターから救われた
    ・松尾芭蕉
    ・風の命じるままに方舟を行かせ、大洪水から救われたのだ
    ・わたしたちは音楽で出来ている

  • そうだろうけど。

  • 苦い日あり、ほのぼのした日あり、唸る日あり。

  • ふむ

  • 余白と余韻。ありそうでなかった新鮮な形式。1編が短いのに、すぐ次に行きたくはなく、かみしめなから1日1編ずつ読むのが心地いい。
    争い、愛、愚行、叡知。うつろう世も人生もすべて、詩。

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著者プロフィール

エドゥアルド・ガレアーノ Eduardo Galeano(1940-2015)
ウルグアイ東方共和国モンテビデオ生まれ。作家、ジャーナリスト。週刊『エル・ソル』紙にまずイラスト、次第にルポをも寄稿し、10代半ばからジャーナリズムの道に進む。1959 - 1963年『マルチャ』誌主筆、1964 - 1966年日刊紙『エポカ』編集長。1973年の軍事クーデタを逃れ居を移したアルゼンチンでは『クリシス』誌創刊・編集に携わる。その後スペイン - カタルニャへ亡命。1985年初頭モンテビデオへ帰還。その筆は文学のジャンルと称する境界線を侵犯し、魂の深みから発せられる声、市井の声なき声をすくい上げ、現実と現実の奥に潜む記憶とをひとつのテクストに編み上げる。 ウルグアイ文化大臣賞、米国のアメリカン・ブック・アワード、デンマークのフロア賞、ランナン財団の「文化の自由」賞などを受賞。邦訳既刊書に『収奪された大地——ラテンアメリカ500年』(新評論/藤原書店)、『火の記憶』(全三巻、みすず書房)、『日々の子どもたち あるいは366篇の世界史』(岩波書店)など。

「2023年 『スタジアムの神と悪魔——サッカー外伝・改訂増補版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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