プルースト/写真

  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (242ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000246088

作品紹介・あらすじ

まだ誕生したばかりの新しいメディアであった写真。カメラという機器の可能性を追究し、その機能を方法化して文学創造の核心に据えるプルースト。ブラッサイは、写真文化の草創期を生きたプルーストの生涯を溯り、当時の興味深い写真文化の場面を紹介し、ついで『失われた時を求めて』のテクストの具体相に深くその身を浸し論じる。その視野は相対性論や二〇世紀の認識論にまで広げられてゆく。本書は、卓越した写真家ならではの有無を言わせぬ説得力を持つプルースト論にして秀抜な芸術論である。

感想・レビュー・書評

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  • ブラッサイ、プルーストという偉大過ぎる二つの巨星が見事に結ばれる本作に拍手を。
    ブラッサイは文章が簡潔でとても読みやすい上に、研究対象であるプルーストとの距離感もちょうど良い。
    無意思的記憶がパッと過去を浮かび上がらせるものなら、ネガを液体に浸し、潜像から現像へと至らせる写真の過程こそ、プルーストにとって大きな興味の対象であったはず。

  • ・失われた時をもとめての作者プルーストが、写真に執着していたことを書いたブラッサイ著の本。
    ・ブラッサイは、写真家と同時に文筆家であった。

  • 2-3-2 写真論

  • フランス文学の大学教授を父に持つジュラ・ハラースが、トランシルヴァニア地方で生まれたのは1899年、まさに世紀末である。
    出身地のブラッショーの名をとって33歳からブラッサイと名乗るようになる。

    傑出した写真家であったブラッサイが、プルーストの思考そのものに、写真がどのような影響を与えたのかという興味を持ちはじめたのは、1968年『失時』(ブラッサイは『失われた時を求めて』を『時を求めて』と呼ぶ)を再読してからという。

    プルーストにふたたび没頭し、写真がプルーストにおいて、いかなる位置を占めているか突然理解できたと述べる。

    プルーストが幼少時、弟と並んで写っている写真は、プルースト関連の書物他に多用されているが、思春期から、プルーストは写真交換癖がはじまり、交換した写真をコレクションしていたという。
    まず、それらのプルーストの実生涯における写真における関わりを深く掘り下げ、芸術形成における写真の役割をブラッサイは考察する。

    そののち、小説の既成に不可欠であったプルーストの写真の影響に関して分析がはじまる。

    『失われた時を求めて』には、多くの人物が登場するが、それらの人々には、特定されている実在するモデルが多い。
    モデルたちのポートレートは、小説の登場人物の分身であり、人物創作に多大な影響を与えていることをブラッサイは指摘している。
    ブラッサイが、『失われた時を求めて』を熟知し、写真家という立場から、プルーストと写真の類縁を情熱的に、また冷静に描いた本書は、とても読み応えのある一冊だ。

    ロジェ・グルニエによれば、ブラッサイはいつも本書の手稿を持ち歩き、晩年、逝去する少し前に脱稿をしたという。

    巻頭に、ブラッサイの16枚の写真、
    ロジェ・グルニエの文章、
    ブラッサイの序、
    訳者による『失われた時を求めて』の簡単なあらすじ、
    『失時』の登場人物解説、
    実在人物の解説等、
    『失時』を読んでいない読者に対しても気配りのある構成になっている。

    訳者は俳人でもいらっしゃる上田睦子さん。

  • ”「作品というものは、作者が読者にさし出す一種の光学用具のようなもので、読者はこれなしには見ることができなかった自己の内部を見きわめることができるようになる。」(見出された時)
    写真技術はプルーストの創作の核心である。プルーストは登場人物を描写し物語を構成するにあたって、ヒントを写真技術から得ており、創作の過程すらも無限に多様な写真的メタファーによって明らかにされていく。
    《時を求めて》の主人公たちや風景に対するプルーストの観点の多様性は、そのまま写真のレンズの多様性に対応する。──p.168”


    写真家ブラッサイによる写真とプルーストの関係に焦点を絞ったユニークなプルースト論。『失われた時を求めて』の解題はもちろん、作者マルセル・プルーストの特異な生活ぶりが紹介され、とても楽しく読めた。

    なにより印象的だったのが、写真コレクターとしてのプルースト。とくに自分の写真と気に入った人物(その多くが美青年!)との写真交換に情熱を燃やす姿がとても──他人事とは思えず──微笑ましかった(苦笑した)。現代に生きていたら絶対にブログを持って、毎日だらだらと長文の記事・日記を書き、画像収集、交換に勤しんでいただろうな、と思う。そういえば何年か前のニューズ・ウィーク誌の特集で、プルーストの小説はインターネットみたいだという記事を読んだことがある。

    また、軍服に憧れて、それだけのために軍隊に志願したり、「浴場」(今でいうゲイ・サウナやバス・ハウス)に資金援助をし、そこに通いつめたりするプルーストにも親近感がわいてくる。

    そして『失われた時を求めて』は「ソドムとゴモラ」以外にも全編に渡って同性愛のモチーフが散りばめられているようだ。写真との絡みで言えば、サン=ルーとエレヴェーター・ボーイが二人してホテルの「暗室」に閉じこもるシーンは、なかなかそそられる。『失われた時を求めて』が無性に読みたくなった。

    ブラッサイは本名ジュラ・ハラース、1899年現ルーマニア領トランシルヴェニアに生まれ、1984年に亡くなった著名な写真家で、この本の巻頭にも『失われた時を求めて』からインスピレーションを得た16枚の写真が掲載されている。その微かにセピアがかった黒の深みが非常に美しい。


    [関連]
    ●写真の交換/レンズの転換 あるいは写真のレンズの多様性 http://d.hatena.ne.jp/HODGE/20070114/p1

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