普遍の再生

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (307ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000246200

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  • <序 状況から―「普遍の死」に抗して>
    【本書を貫く命題(テーゼ)】p. xvi
    自己の恣意の絶えざる批判的再吟味を迫る理念として普遍を探求する知性のみが、権力の恣意を批判的に克服する地平を開くことができる。

    《第Ⅱ部 覇権を超える普遍》
    第2章 アジア的価値論とリベラル・デモクラシー―欧米中心主義をいかに超えるのか
    (1) 国家主権の神聖化 p78
    (2) 自由に対する生存の優位 p82

    アーレント・レイプハート「多極共存型民主制(consociational democracies)」と呼んだスイスやベルギーなどの政治体制。

    リベラル・デモクラシーは、根強い宗教的反目や社会的偏見に抗しつつ寛容の包摂領域を拡大し続け、不寛容に対する不寛容の維持と寛容とのせめぎあいに苦悩し均衡点を模索し続ける未完の企てであろう。p105

    【アーミッシュ問題=アメリカのリベラル・デモクラシーの基本価値の再考を迫る問題】p210
    個の自律と文化的多様性の相克の問題。

    《第7章 普遍の再生―歴史的文脈主義から内発的普遍主義へ》p231
    <1. あるシュムポシオン>
    ロールズとの会食 p231

    普遍から文脈へ、哲学から歴史への退却は偽装工作にすぎない。歴史的文脈なるもの自体が多義的だからである。それは「前哲学的与件」などではなく、哲学的再解釈によって構成されたものである。p241

    【内発的文脈主義の視点】p263
    ①人権と民主主義という普遍的原理は覇権的に捏造された差異を解体し、それが隠蔽抑圧してきた差異を解放するとともに、この差異の葛藤の公正な包容を図る。
    ②普遍主義的正義理念が含意する公共的正当化要請は、普遍的人権原理と相俟って、文化的差異の公正な相互承認の枠組を構成する。
    ③法・言語・歴史など人間の実践の解釈は過去の事実によって一義的に確定されないからこそ、創造的解釈の比較査定のために普遍的評価原理が必要である。かかる解釈は歴史的文脈に依存しつつその規範的意義の最適化を図る。
    ④普遍志向は基礎付け主義を排した対話法的正当化理論と結合する。両者の統合は正当化を論議の文脈の差異に相関させる一方、正当化実践の論議開放性を保障する。
    ⇒約言すれば、普遍の追求は文脈を歪曲する覇権を解体し、多様な文脈の相互承認を保障し、文脈をよりよく意義付け、そして文脈を開放するために不可欠なのである。p263

    【あとがき】
    現代世界の諸力・諸傾向に対して、リベラリズムの基底にある「普遍への企て」を擁護し、他者支配の合理化装置ではなく批判的自己変革原理として普遍を再生させること、これが本書の狙いである。p302

著者プロフィール

東京大学名誉教授

「2023年 『法と哲学 第9号』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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