俳句で綴る 変哲半生記

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000247153

感想・レビュー・書評

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  • この1冊で、人生の味わい深さがわかります。俳句を読んでいくだけで昭和の息吹きを肌で感じます。大人のあなたに読んで欲しい。

    【紙の本】金城学院大学図書館の検索はこちら↓
    https://opc.kinjo-u.ac.jp/

  •  夕焼け空、会社帰り、夕餉の匂い…ラジオ「小沢昭一的こころ」のテーマソングと小沢さんの語りを聞くたび、昭和の時代へ連れて行かれる感じがした。絶妙で押しつけない、優しさ、怖さ、人間くささ。聞いて得したような気になったのは、放送時間帯が普段の仕事日に聞けなかったせいもあるだろう。休みの時や移動中の車の中といった、少し仕事から解放された時だったからかもしれない。
     芸能とはそういう人間解放の瞬間をつくるものなのだろう。この句集、そうしたことを死ぬまで追求された極めて知的な芸人さんの根源を感じる一冊。俳句ってこんなに鋭く深いのか。それにしても、「原節子の会陰部に咲け黴の華」(昭和45年)は大丈夫なのか?と思ってしまう。

  • お腹が痛い。死にそう。
    家内が電話でそう言ったのが金曜の昼過ぎ。入院する、緊急に手術が必要かも知れない、と2度目の電話が会社にあったのは夜だった。
    「死にそう」とか「緊急に手術」とか聞かされて大急ぎで駆け付けてみたら、検査結果が出ていて、今流行中のノロウィルスによる感染性腸炎だった。

    なんだ。と言ったら悪いかも知れないが、幼児やお年寄り以外の大の大人は仮に発症しても2、3日か長くとも1週間でケロりと治る病気だ。勿論、激しい腹痛や下痢、発熱はある。それより厄介なのは人に感染させる危険性だ。ノロが陽性と判明したとたんに「個室」に隔離されることになってしまった。
    そこで、「ご主人、お話が」と、急に出番になった私は「今空いている個室は1日の差額ベッド代が2万5千円です」と告げられる。伝染性が強いと言っても結核みたいな法定伝染病じゃないし、病院側に責任がある院内感染が原因でもない場合、バカ高い個室料は健康保険は効かず全額患者負担なのだ。とほほ。
    入院初日、下腹部の激痛に七転八倒していた彼女が、翌日には何事もなかったように、点滴ばかりでもう嫌だ、テレビで美味しいお料理見てると食べたくなる。病室以外は外出禁止で売店に雑誌を買いにも行けない。退院した~い、とのたまう。
    まずは水やおかゆで胃腸の調子を確かめてからでないと、となだめて、一応翌日までは病院にとどまるように説得した。

    長い前置きでしたが、本題はこれからだ。
    心配がなくなって見回してみると、かつて国立病院と呼ばれたこの大きな病院はなかなか居心地がいい。
    個室には付添人が足を伸ばして寛げるような安楽椅子がある。院内のコンビニは24時間営業で、レストランや喫茶店も本屋もある。それ以外にエクセルシオールのカフェも患者用の図書館さえある。1週間や10日なら骨休めに自分も入院したいぐらいだ、

    まだ点滴中の家内を病室に残して、昼食はレストランで鶏肉と野菜の黒酢あんかけ定食を食べることにした。コンビニで買った日経の書評欄を読みながらいただく。筍や蓮根まで入った本格的な定食で実に美味。
    『変哲半生記』の紹介が目に入る。
    「俳句で綴る」というサブタイトルのつけられたこの一冊は、昨年末に亡くなられた小沢昭一さんの俳句と俳句にまつわるエッセイとを収めた一冊なのだそうだ。
    小沢昭一さん、丸谷才一さん、大島渚監督と「えっ、あの人が」という大物の訃報が相次いだ年末年始であった。つい先日も加藤寛先生が亡くなった。知る人しか知らないかもしれないが、消費税が3%から5%に上がった時の政府税調会長と言ったら、「ああ、あの人」と思い出す方もいるだろう。私個人的には、恩師といえる程ではなかったが、不勉強な私に「A」をくれたありがたい先生だった。
    相手と自分の年齢から考えたら当たり前なのだが、亡くなった方たちは昭和の頃必然的にまだ若かった私が、尊敬したり慕ったり、いずれにしても仰ぎ見るような存在だった当時の大物たちだ。
    ただ、若気の至り真最中の私には大嫌いなものが当時3つあった。自民党、早稲田大学、ジャイアンツだ。今は違って、自民党安倍政権に大いに期待し、早稲田出の親友も信頼する上司も部下もいる。ジャイアンツには憐れみさえ感じる。けれども、当時、いろんな面でトップに立つ時期が長すぎ驕りの極致にあった3者が嫌で嫌で仕方なかった。早稲田出身のくせに「中退」を売りものにして、自己主張を押し出すばかりの文化人が多くて皆嫌いだった。唯一の例外が小沢昭一さんで、「押し出し」とは正反対で、しかも単純な自嘲とは違う人を引き込む話術になんともいえぬ魅力があった。早大だってきちんと卒業している。
    「変哲」といのは小沢さんの俳号だそうで、何の変哲もないようでいてただものではなかった小沢さんらしい号だ。

    書評には、幾つかだけ小沢さんの俳句が紹介されていた。

    ≪陰干しの 月経帯や 猫の恋≫

    判らん人にはエロと断じられそうだが、この人のてらいのない助平根性には知性が滲んでいる。

    ≪溝さらい 「子供はどいたどいた」かな≫

    ラジオ番組「小沢昭一の小沢昭一的こころだ」の名調子が耳に甦るようだ。

    ≪落第や 吹かせておけよハーモニカ≫

    勉強は出来ないのにひとつだけ得意なのがハーモニカとかいう子供であろうか、好きなものにだけは長じている、やっぱり勉強は嫌いという子だろうか。
    「ハーモニカがぁ、欲しかったんだよぉ~♪、どぉ~してもどぉ~しても欲しかった。ハーモニカが欲しかったんだよぉ~」
    小沢さんのあの名曲の歌声が聞こえてくるようだ。

    小沢さんは亡くなったんだ。しみじみ思う。

    立ち読みして鳥膚がたったら買う。読んで泣けたらレビューを書く。
    それが私のセオリーだ。
    この一冊は、まだ買ってもいない、読んでもいない。だが、もうレビューを書いている。

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著者プロフィール

1929年、東京に生まれる。俳優。新劇・映画・テレビ・ラジオで幅広く活躍。民衆芸能研究にも力を注ぎ、それぞれの分野で数々の賞を受賞。著書に『ものがたり 芸能と社会』『放浪芸雑録』(以上、白水社)『小沢昭一──百景』(全6巻、晶文社)『俳句で綴る変哲半生記』(岩波書店)など、CDに『夢は今もめぐりて──小沢昭一がうたう童謡』(ビクター)『唸る、語る、歌う、小沢昭一的こころ』(コロムビア)など、著作多数。2012年、逝去。

「2013年 『芸能入門・考 芸に生きる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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