未来の記憶は蘭のなかで作られる

著者 :
  • 岩波書店
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本棚登録 : 38
レビュー : 3
  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000248754

作品紹介・あらすじ

過ちは過去を忘れることから始まる-。デビューから現在に至るまで書かれてきたエッセイを精選。作家の源流をたどる始まりへの旅として、待望の初エッセイ集。

感想・レビュー・書評

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  • 914.6

  • 最近、こんなことを考えている。思考することが人間の条件である、と。逆に言えば、思考をやめてしまったら、たとえ生物学的に人間の形をしていたとしても、それを人間と呼ぶことは出来ないということだ。パスカルも「人間は考える葦である」と言っているし、この考え自体は特に目新しいものではないのだが。
    だから、こういうエッセイを読むと安心する。ここに確かに思考することをやめていない人間がいる、と。
    それにしても、思考するというのは難しいことだ。ただ考える、ということならば、人は日々の生活において何かしら考えながら生きているはずなので、難しいというのは当たらないだろう。しかしそういうことではなくて、言うなれば「正しく考える」ということについてだ。
    ある問題に関して、自分で見て、自分の頭で状況を判断して、思考し、意見を持つ。そしてそれを、自分はこういうふうに考えている、と表明する。それは大切なことだし、ぜひそうしなければいけないことだと思う。思考を放棄して、ただ漫然と流されているだけでは、人間とは呼べない。しかし、自分の意見があるということは、その反対意見もあるということだ。それを無視して、ただ自分の意見を声高に唱え、押し付けるだけでは、それは一種の言葉の暴力であるように思う。自分の意見を持ったならば、その反対意見にも耳を傾け、反対意見を述べている人の立場になって考え、もう一度思考し直すこと。どこが食い違っているのか、お互いの理解不足による認識間違いは無いか、妥協点はあるか。そして、より良い解決策を模索すること。その過程、その努力を含めた意味での思考こそが、本当に目指すべき思考であると思う。
    それはなかなかに難しいことだろう。難しいからこそ、過去には戦争を始めとする数々の争いがあったのだ。そして同時に、これが人間の限界か、とさえ思う。正しく思考する段階に至ることなく、人間は絶滅するのかもしれない。しかし、それもまた致し方の無いことなのだ。

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著者プロフィール

星野智幸(ほしの ともゆき)
1965年ロサンゼルス生まれ。東京都立戸山高等学校、早稲田大学第一文学部文芸専修をそれぞれ卒業後、産経新聞社記者に。1991年産経新聞社を退職、1991年から1992年、1994年から1995年の間、メキシコに留学。1996年から2000年まで、字幕翻訳を手がけていた。
1997年「最後の吐息」で文藝賞を受賞しデビュー。『目覚めよと人魚は歌う』で三島由紀夫賞、『ファンタジスタ』で野間文芸新人賞、『俺俺』で大江健三郎賞、『夜は終わらない』で読売文学賞、『焰』で谷崎潤一郎賞をそれぞれ受賞している。

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