揺れる大欧州――未来への変革の時

制作 : 脇阪 紀行 
  • 岩波書店
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本棚登録 : 40
レビュー : 4
  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000254212

作品紹介・あらすじ

ギリシャのユーロ離脱を願う経済至上主義の声、極右政党のEU懐疑論、民主的な正当性を欠くEU統治に「怒れる人々」や「五つ星運動」。分断と紛争が大陸に再来するのか。EUの機能不全を、平常時の正式な「EU1」、メルケル独首相が主導する緊急時の「EU2」、野心的だが実行を伴わない「紙のヨーロッパ」、この三つの道具立てにより分析。反緊縮の福祉モデル、移民と市民、気候変動、安全保障の再考を迫る。英国政治の「第三の道」路線を欧州規模で追求する変革のためのビジョンがここに-。2014年ヨーロッパブック賞受賞の話題作!

感想・レビュー・書評

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  • やはりEUの今後の見通しは暗いのか!現状の中途半端な状態では、難しいんだろう。もっと突っ込んだ改革が進む方向に向かって行くには何が必要なんだろう。

  • ギデンズといえば,最近1984年の著作『社会の構成』が翻訳された。この本は彼の代表的な理論,構造化理論の主著として知られているが,その理論的源泉の一つとしてスウェーデンの地理学者ヘーゲルストラントの時間地理学が用いられたというので,地理学者にはなじみ深い社会学者である。
    私も一時期読もうと思っていたことがあるが,結局『社会学の新しい方法規準』と『近代とはいかなる時代か?』の2冊しか手元にない。そんなうちに,ギデンズはすっかり偉くなってしまったようで,英国ブレア政権の政策ブレーンを経て,現在は自身が上院議員も務めているとのこと。そういう彼も今年で78歳か。
    本書を手にとったのは,明治学院大学の講義で最後にヨーロッパの話をしようと決めていた。1冊の参考図書は,梶田孝道の『新しい民族問題』だったが,新しいといいつつ出版が1993年でサブタイトルにECとある。ということで,新しいところでもっとざっくりとした話をしたいなと思って見つけたのが本書。あの理論社会学者のギデンズが今何を書いているのかという興味もあった。

    序章
    第一章 運命共同体としてのEU
    第二章 緊縮政策とその影響
    第三章 社会モデルはもうなくなったのか
    第四章 世界市民に必要なこと
    第五章 気候変動とエネルギー
    第六章 EUの安全保障政策の行方
    結論

    前半は経済政策に費やされ,非常に読みにくい。かつては難解な哲学書を次々と検討するような書き方だったが,言及する文献には「Available online」というのが目立つ。形而上学の世界から形而下学の世界へと降りてきたようだ。
    そうはいいつつ,第三章辺りになると社会学的な記述が増え,筆も進んでくるようで,読みやすくなる。やはり社会学者ですね。そしてどうやら最近力を入れているのが環境問題とエネルギー問題のようで,2011年には『the politics of climate change』なる本も書いているようです。個人的にはこれが読みたいかな。
    まあ,とにかくしっかりと頭に残ることは多くありませんが,多数出ているギデンズの翻訳書くらいはしっかり読んでおきたいと思わせる読書でした。

  • 今一つ共感できないまま読む。欧州の欧州による欧州論なのか。

  • 【Business】揺れる大欧州 /  アンソニー・ギデンズ/ 20170906 (72/668) <241/83327>
    ◆きっかけ
    ・欧州出張を機に、同地域の歴史的、文化的背景、現在の状況等々を理解しておきたかったから(職場同僚からのススメ)

    ◆感想
    ・著者は、LSEの元学長。英国民に向けて書いたエッセイ。かつて米国務長官キッシンジャーは西欧諸国のバラバラ状態を「誰がヨーロッパを代表しているのか」と表現したことは言い当てて妙。「EUとしてまとまっているから存在感を保つことができている現実を直視せよ。バラバラの小国になったら軽んじられるだけ」という警告を発しているともとれる。
    ・読み終えて感じるのは、欧州というのは現在進行中の壮大な社会実験であるということ。しかも最適解があるのかないのか。その実験の影響は日本にも直接的・間接的に及ぼされるわけであって、目が離せない。
    ・環境・エネルギー問題に一章を割いて論じている点は興味深い。持続可能性という概念を否定し、リスクとベネフィットで総合的に評価せよとしているところは、単なる感情ではなく、現実的な目線が必要ということか。

    ◆引用
    ・EUは多くの成功にもかかわらず、市民層のどこにも感情的土台を築いていなかった。
    ・EUの運命は重要であり、EUの出来事が大事なのは、それが世界史をつくるからだ。そこで得られるものは実に大きい。
    ・「EU1」は欧州委員会が中心となり各国議会や市民とはかけ離れた少人数で行われ一歩ずつ歩を進める手法を指す。一方で、「EU2」は正式機関が対応できない状況の時に大国が対応に乗り出しなすべきことを絞り込み実行することをいう。そして、「紙のヨーロッパ」とは、欧州委員会やEU組織が作った将来計画や工程表のことを指すが、多くは効果的な実行手段がないまま実現できず夢のままに終わっていることを例えている。
    ・EU加盟国は相互連携を通じて、一国では望めない大きな影響力を世界で手にしている。
    ・フランスなしのドイツは皆を怖がらせる。ドイツなしのフランスは誰も怖がらせない。
    ・贅肉のない連邦主義
    ・ユーロはEUないでの政治統合を創出するために導入された。しかし、それはヨーロッパプロジェクト全体から市民を遠ざけてしまう危機をつくってしまった。
    ・ヨーロッパで多文化主義が失敗したのではない。正確に言うならば、それは取り組まれてなかった。より正しくは、いくつかの国の限られた範囲で取り組まれただけである。
    ・この時代は、徹底的にローカルであると同時に、原理的にグローバルである。
    ・人間と自然を分ける伝統的な環境保護の考え方ではなく、自然世界を人類が支配している現実にたって、改善策にとりかかねばならない。環境保護は、もはや純粋は自然だけではなく、むしろ人間の存在や保護だけでなく、再創造も目標におくべきである。持続可能性という概念も再考すべき。予防原則を放棄して、新技術が与える機会とリスクを総合評価することに切り替え、微妙な差異を明らかにしながら、取り扱うべき。

    ===qte===
    この一冊揺れる大欧州 アンソニー・ギデンズ著 EUの改革を目指し政策提言
    2015/12/13付日本経済新聞 朝刊

     本書は1990年代にブレア首相率いる英国の労働党政権のブレーンを務めた『第三の道』の著者が、欧州連合(EU)の改革を提言する意欲作だ。
     著者は現在のEUの問題を、効果的なリーダーシップと民主主義の欠如にあると論じる。平時では、欧州委員会などのEU機関が意思決定するが、この「EU1」の意思決定に時間がかかり、各国議会や市民の関与を欠くという。
    ギリシャ危機などの緊急時は、独仏首脳や欧州中央銀行総裁など少数の権力者が意思決定するが、この「EU2」では、ドイツがリーダーシップを発揮する。民主主義の欠如の問題は「EU1」以上に深刻で小国の不満も強く、過渡的なものにとどめるべきだとする。さらにEU機関がまとめる野心的だが、実現の見込みがない統合深化の工程表などを「紙のヨーロッパ」と呼び、信頼を損なっていると厳しく批判する。
     それでも、EUはグローバル化の加速とインターネットの台頭で「高機会・高リスク社会」に変わりつつある世界で、相互連携を通じて一国では望めない積極的な役割と大きな影響力を生み出し得るとみる。EUを良い運命共同体とする処方箋としてEUレベルでの大きな政党制とリーダーシップに支えられた連邦化、幅広い政策の領域での統合の強化を提言する。
     ユーロ圏の構造的ひずみの是正には財政同盟への前進が不可欠とし、成長戦略ではデジタル技術導入の重要性を強調する。気候変動・エネルギー分野では明確なシナリオ作りと加盟国のエネルギー政策の調和を呼びかける。福祉制度では格差の是正と経済成長につながる「社会的投資国家」への転換を求める。
     目下、EUの最優先課題である移民・難民政策は、将来を左右する中心的課題と位置づける。従来の「多文化主義」という狭い概念を捨て、超多様性の時代にふさわしい「文化間主義」を掲げ、より良い公共空間作りを目指すべきだという。安全保障の面でも全欧州の安全保障政策の策定の必要性を訴える。
     「EU1」「EU2」「紙のヨーロッパ」という概念は、複雑なEUの力学、政策決定過程の理解に役立つ。また、各政策領域での提言は、グローバル化と技術進歩による世界の急速な変貌に適合するために、従来とは次元の異なる政策を呼びかけるものであり、日本にとっての示唆にも富む。欧州に関心を持つ層だけでなく、世界の潮流変化に関心を持つ幅広い層にお薦めしたい一冊だ。

    原題=TURBULENT AND MIGHTY CONTINENT

    (脇阪紀行訳、岩波書店・2500円)


    ▼著者は38年英国生まれ。97~03年ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス学長。現在は英国上院議員。


    《評》ニッセイ基礎研究所上席研究員 伊藤 さゆり

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著者プロフィール

アンソニー・ギデンズ(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス元学長)

「2015年 『社会の構成』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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