飼い喰い――三匹の豚とわたし

著者 :
  • 岩波書店
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本棚登録 : 598
感想 : 96
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000258364

作品紹介・あらすじ

世界各地の屠畜現場を取材してきたイラストルポライターが抱いた、どうしても「肉になる前」が知りたいという欲望。見切り発車で廃屋を借り豚小屋建設、受精から立ち会った中ヨーク、三元豚、デュロック三種の豚を育て、屠畜し、ついに食べる会を開くに至る。一年に及ぶ「軒先豚飼い」を通じて現代の大規模養豚、畜産の本質に迫る、前人未踏の体験ルポ。

感想・レビュー・書評

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  • 内容(「BOOK」データベースより)
    世界各地の屠畜現場を取材してきたイラストルポライターが抱いた、どうしても「肉になる前」が知りたいという欲望。見切り発車で廃屋を借り豚小屋建設、受精から立ち会った中ヨーク、三元豚、デュロック三種の豚を育て、屠畜し、ついに食べる会を開くに至る。一年に及ぶ「軒先豚飼い」を通じて現代の大規模養豚、畜産の本質に迫る、前人未踏の体験ルポ。

    屠畜という毎日口にする肉を得るために必須でありながら、誰もが忌避する話題に対してずっと真正面から向かい合ってきた筆者が、とうとう自分で豚を育て出荷しそれを口にするという本です。表紙に書いてある3匹の豚は筆者が手塩にかけて育てた豚達です。名前も付けて寝食を共にして愛情込めて育ててきた豚達の姿が本当に本当に生き生き書かれています。人格が有るように当然豚格もあります。のんびり屋、ずるい奴、いじめられっこ。彼らの姿はどうしても家畜ではなく愛すべき存在に見えてきてしまいます。次第に出荷に近づくにつれてページをめくる手も鈍って行きます。どんなに頭で理解していても彼らが食べられる姿を見たいわけでは無いし、出来ればそりゃあ楽しく暮らすムツゴロウ王国みたいな方が楽しいに決まっています。出荷といってもドナドナみたいに積んで終わりではなく、当然屠畜場で命を絶たれる迄見届ける訳です。自分だったらここが一番辛いと思います。何しろ自分で育てて遊んだ豚達が悄然とうなだれて列に並んでいる姿を見なければいけないんですから。畜産農家の人たちは美味しいお肉を供給する為綿々とこれを続け、屠畜業者の方々は安全で安心な肉を供給する為に努力している。これを忌避して可愛そう可愛そう、でもチャーシューメンは食うじゃあ道理に合わないわけです。その一連の流れを門外漢である筆者が体験記として書いたことは非常に意義が有ると思います。単純に文章としても面白かったし、関わった人たち、動物への敬意も感じられる本で読んでよかった。

  • 『飼い喰い』内澤旬子 | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)
    https://president.jp/articles/-/7440

    飼い喰い - 岩波書店
    https://www.iwanami.co.jp/book/b262723.html

    木村衣有子覚え書き
    http://mitake75.petit.cc/banana/20120429135945.html

  • 『世界屠畜紀行』の著者が、自分で豚を育て、食べるまでを綴った1冊。“情が移るから止めた方が良い”という忠告も受けつつ、でもそういった自分の感情もひっくるめて、食べるという行為に責任を持つということを体験したい、という、この人の「知りたいことに対して身体が動く」姿勢がとても興味深く、好きです。真面目な内容に混じるご本人の不器用さ、豚とのやりとりがまた笑えて、泣けます。日本における養豚産業の実態も、他人事としての紹介ではなく、自分が食用豚を扱う上で関わることとして描かれ、色々な意味で、「喰う」とはどういうことか、考えさせられます。つい最近荒川弘『銀の匙』4巻を読んだこともあって、そういう読書体験的なつながりも感じたり。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「豚とのやりとりがまた笑えて、泣けます。」
      blogで、ちまちま拝見していましたが、素敵過ぎます。早く「世界屠畜紀行」の続編出ないかなぁ、、...
      「豚とのやりとりがまた笑えて、泣けます。」
      blogで、ちまちま拝見していましたが、素敵過ぎます。早く「世界屠畜紀行」の続編出ないかなぁ、、、
      2012/10/01
  • いつも食べている豚肉が、どのように産まれて、どのように育てられ、どのように殺され、どのようにしてスーパーに並べられるのか・・・という素朴な疑問は以前から持っていました。気にはなっていたけれど、知るすべがなかった。というか調べるのがめんどくさかった。
    著者はこの過程をみずから体当たりで体験レポートしてくれています。
    めっちゃ興味深い内容でした。
    まず交配のシーンから驚きの連続。それから、「屠畜場」で一日1000頭以上の豚たちが次々と解体されていくシーン。
    グロさはなく、緻密な線描きのイラストからは、作者のまじめに伝えたいという姿勢を感じました。
    でも何といっても、自分で選び、豚小屋作りから餌から排泄物の処理から涙ぐましい苦労をして育てた豚を最終的に食べるという行為?これを残酷という人は、じゃ何が残酷じゃないの?自分で育ててない豚を殺してもらって食べるのは残酷じゃないの?と、生きものの命を頂くということについてどうしても考えさせられます。
    著者は、自分にわいてくる感情や、周りの人の反応を、わりと淡々と、時には「何やってんだ私」的に自分ツッコミしながらしながら、一歩引いて書いているところが好感もてました。
    でも、きっちりと調べるところは調べていて、現在の食肉業界の現状についても知ることができます。例えば、現在はほとんどの飼料が合成飼料で、輸入トウモロコシを主原料に、抗生物質や、添加物もりだくさんのものであることとか、畜産農家の経営がどれだけたいへんなものであるかとか。。。とにかく興味深い内容でした。
    作者の豚に対する愛と敬意を感じました。私もこれから、豚に限らず、すべての食物に感謝と敬意を込めていただきたいと思います。

  • 屠畜という漢字も読めなかったけれど、
    読み終わって自分が食べている豚が
    どのような過程を経てスーパーに並ぶのか
    垣間見ることができた。

    三匹の豚と筆者の毎日は想像を絶するような日々。
    たくさんの人たちの協力があってお食事会を迎えることに
    なるのだが、彼女はたくさんの人に手を差し伸べてもらえる
    素敵な人なのだろうなと読んでいて思った。
    人に甘えることってとても難しいけれど、関係を築く時に
    とても大切なことであると思う。

    三匹に名前を付け、筆者に懐き、三匹三様に性格があり、
    読んでいるだけで情が移り、殺していしまうところは
    何とも言えない感情で胸がいっぱいになった。
    けれど、筆者が食べた瞬間に三匹の永遠を感じた部分で
    苦しい感情が解放された気分だった。

    不思議な本だと思う。生きるって不思議です。

  • 歌手のCoccoに『My Dear Pig』という曲がある。自分の豚を食べるという朗らかでシュールな歌。この本が出たとき、まず思い出したのはこの曲だ。

    世界の動物をシメる現場の渾身ルポルタージュ『世界屠畜紀行』が文庫化されて好評の著者、次なる一冊はついに自分で動物を飼って育てて最終的には食べるために屠場まで送り出す!

    さて実際に飼うことを決めても場所が決められず、飼う豚の受精から見ていたくても複数の精子が混在していて誰が親やら判別不可能、自前の豚小屋の建設まで悪戦苦闘の連続なのだが、千葉の養豚業に携わる人達の協力を得て、のほほんほんとした穏やかなイラストと語り口が和やかに物語を展開させる。

    ようやく迎え入れた3匹の豚たちはそれぞれに性格も異なり、予想通りに著者に懐いていく。おんぼろ賃貸に敷設した豚小屋の雨漏りをせっせと修理したりしながら、目的の食べるために太らせようとするジレンマ、暖かく見守ってくれる養豚業の人たち、それでも一番手を焼かせた一匹が最後のトラックに乗らなかったりするのだが、著者の誘いで豚が自ら赴く、それがバナナで釣るというのがまた泣ける。

    実は著者は子宮がんを患っていることも本の中でさらりと打ち明け、治療でのトラブルか、病院と喧嘩する状況と並行して描かれるこの飼育は、もしかすると子供を持たない代替であるかもしれないし、餌を求めて甘える動物を前にして、自らの女性性と向き合わないはずもなかろうと読者に思わせながらも、あえてここでは多くを語らない。だからこそ自分が育てた動物をあえて食べることを決意するという凄みがある。

    なぜか唐突に、巻末に著者の写真が挿入されている。豚を飼育するイメージとは程遠い、インテリ美女風で写真として洗練されているのだが、これは本人としては記念碑的な素材として残しておきたかったのかもしれない。それまでの本の流れの雰囲気と合わず残念ながらちょっと浮いている。

    (貸出中)

  • 私が中学生の頃までは、実家の近くに豚を飼っている家が2軒あった。たぶん、1軒あたり2、3頭くらい飼っていたんではないか。
    そういえば、幼稚園のとき、小屋を脱走した豚に追いかけられたことがあるな。思わぬところで記憶がよみがえってきた(汗)
    今ではそんな飼い方をされている豚は皆無に等しく、清潔に管理された屋内で大規模な畜産がおこなわれているそうな。
    豚を育てて、屠って、食べるという著者の行為はもちろん非常に興味深く、また、日本の畜産の現状について知らないことが多すぎた私にはたいへんためになる本でした。

  • 著者が三匹の豚を子豚の時期から育て屠畜場まで送り込み最終的に食肉にして食べるまでの過程が書かれています。/今まで家畜が/家畜を大事にたべるところ

    ひと腹から何頭も生まれる動物の場合、どうしてもそうなるのだろうけれど、生まれた瞬間から、ああこの豚は死ぬなというのがいる。私でもわかるのだ。生きて生まれたけれども、弱い。
    出てきたところで力尽きてうずくまっている。見ているうちに、どんどん弱っていく。手を出すできかどうか迷っているうちに、動かなくなり、さらにしばらくすると青黒くなっていく。

    しかし生まれるそばから死んでいく豚に対面することで、何かが変わった。もし私があの時濡れた赤ちゃんを掴んで母豚の乳房につけてやったら、生きただろうか。それで助けてやっていればショックを受けなかっただろうか。違う。そうではない。今自分が圧倒されているのは、生まれることの、死と隣り合わせの、文字通り紙一重の、どうしようもないはかなさだ。

    でも違うのだ。畜産はそんな単純なものではない。自分がやってみて思ったのは、生き物を育てていれば、愛情は自然に湧く、ということだ。

    柵の向こう側が、キイと開けられ、三頭は戸惑ったように進む。ここから追い込みをかけて、ベルトコンベアみたいなトンネル状の通路に乗せる。

    薄暗いトンネルを進んでくる秀の顔があった。前脚をぶらつかせて、はわわっと焦りながら、私に気がついたような、顔をした。そうではないのかもしれないけれど、そう思えてしまった。

    噛みしめた瞬間、肉汁と脂が口腔に広がる。驚くほど軽くて甘い脂の味が、口から身体全体に伝わったそのとき、私の中に、胸に鼻をこすりつけて甘えてきた三頭が現れた。彼らと戯れた時の、甘やかな気持がそのまま身体の中に沁み広がる。
    帰ってきてくれた。
    夢も秀も伸も、殺して肉にして、それでこの世からいなくなったのではない。私のところに来てくれた。今、三頭は私の中にちゃんといる。これからずっと一緒だ。たとえ肉が消化されて排便しようが、私が死ぬまで私の中にずっと一緒にいてくれる。

    頭がい骨をじっと見ていると、額やあごの形が、たしかに伸だとわかる。前歯の並びがすごく悪い。だから甘噛みしかできなかったんだなあ。半割状態の夢と秀の頭がい骨とともに私の部屋の特等席に鎮座している姿は、奇妙な祭壇のようにも見える。骨がなくとも、三頭とともにいるのは変わらないのであるが、置いてしまえばそれだけ。
    頭がい骨に、つい水と塩を添えて、手を合わせてしまう自分に苦笑いしつつ、今もやめられないでいる。

  • めちゃめちゃ面白くって、一気に読んでしまった。
    なんと豚を食べるために飼うという話。
    子豚じゃなくって、100kgもの豚をだ!廃屋をかりて、ゴミをどかし、
    豚小屋にする。一方で、養豚場の人のところの行って、豚をもらう。
    世話に明け暮れる毎日だけど、豚とともに暮らすのって楽しそう。結構喜怒哀楽もあり、かわいいような気がした。
    最後、とってもおいしいお肉だったとのこと。
    読み終わったら、豚が食べたくなりました
    これ、お勧めの本です

  • 内澤さんの本は、どれも 体当たりな体験談で 興味津々で 読み通せる。
    今回も、一気に読み終え 胸も心も 満腹感でいっぱいだった。
    普段 食べている肉 ひとかけらでさえ 無駄にせず 食さなければ と つくづく思った。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「ひとかけらでさえ 無駄にせず」
      一緒に過ごした動物を、有り難く戴くコトが出来るって素晴しい←私だと情が移って無理かも。。。
      「ひとかけらでさえ 無駄にせず」
      一緒に過ごした動物を、有り難く戴くコトが出来るって素晴しい←私だと情が移って無理かも。。。
      2013/06/07
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著者プロフィール

ルポライター・イラストレーター

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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