蒋介石の外交戦略と日中戦争

著者 : 家近亮子
  • 岩波書店 (2012年10月25日発売)
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000258654

作品紹介

抗日戦争を指導し勝利したのは国民党だったのか、中国共産党だったのか?蒋介石の外交戦略の意図を明らかにし、日中戦争における中国の外交と戦術が「五大国」の一つに数えられるという国際的地位の向上に果たした実態を通して、歴史の真実に迫る。蒋介石は、なぜ満洲事変で日本との武力衝突を避けたのか?なぜ盧溝橋事件で「最後の関頭」を決意したのか?なぜ首都南京の攻防戦で正規軍を撤退させたのか?毛沢東共産党と汪精衛親日政権をどう見ていたのか?蒋介石は孫文の「外交は新時代の武器」という言葉を発展させ、「外交は無形の戦争」と主張した。蒋介石関連資料とりわけ「蒋介石日記」と台湾の档案史料を日本で初めて本格的に使って活動記録を再現。中国共産党が作り上げたストーリーとは異なった抗日戦争史を描くことに挑戦し、「持久戦」「安内攘外」「反共抗ソ」「以徳報怨」などを唱えた蒋介石の外交戦略の内在的論理を明らかにする。

蒋介石の外交戦略と日中戦争の感想・レビュー・書評

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  •  「外交は無形の戦争である」という信念のもと、抗日戦争期を一貫して、特にアメリカ合州国を意識した執念深い外交交渉・情宣政策を展開した蒋介石の、政治思想・戦略思想を検討した1冊。
     一次資料『蒋介石日記』(筆者はこれを「手書き」で書写したという)を用いた議論は、孤独な密室で思い惑う蒋介石の姿を浮き彫りにしている。蒋が抗日戦争を世界戦争の一部に組み込むことで勝利できると考え、日本の対英米蘭開戦を自らの「勝利」と捉えていたこと、蒋がアメリカの世論を強く意識し、訴求を試みたため、却って「民主化」「独裁批判」をアピールする共産党との競合関係を作り出してしまったことは、確かに妥当な指摘だと思う。公開されている『蒋介石日記』からは、汪兆銘との連絡・連携が確認できない、という点も重要。

     ただし、資料の扱いにやや疑問がある。著者はしばしば、自説の根拠に当時の日本の新聞報道を使うのだが、その裏付けは取れているのか? 石川達三『生きている兵隊』の存在が、蒋の対日演説に影響したという一節も、証拠となる資料なしにはにわかに信じがたいところ。
     とはいえ、対米工作にあたって、胡適や宋子文・宋美齢らが外交戦・情報戦を展開、アメリカにおける対日戦争の認識枠組みが作られていったことは、何度も確認しておくに足る。その認識枠組みは、合州国の対日戦時プロパガンダ映画の内容に、確実に影を落としている。

     

  • これまで日中戦争というと、蒋介石は戦わず、共産党の一人勝ちという見方が強かったような気がする。しかし、1931年の満州事変のあとも、留日留学生の数が史上最大になる年もあったし、中国語教科書もたくさんつくられている。中国がすべて抗日だとしたら、どうしてこんなことが起こるのか、これまで疑問だった。それは、日中戦争を多面的にとらえていなかったからである。国民党や国民党の軍隊の果たして役割を評価していなかったからである。日本は占領した都市に親日政権を打ち立てていったが、それは中国の領土の半分近くにもなっていたほどである。それは、中国が日本の侵略にもかかわらず和平への道を模索していたからである。さらに、大きな原因の一つは、本書のように、日中戦争時、蒋介石がなにを考え行動したかが、戦後ほとんど問題にされなかったからである。戦後蒋介石が「以德報怨」ということばで、日本から賠償を要求しなかったことはよく知られていて、それに恩義を感じる日本人も古い世代には多いが、ぼくたちの世代はそれをまともには見ていなかった。しかし、蒋介石は終始、日本の人民には同情的で、日本と中国で東亜の新秩序を打ち立てようとしていたのである。それは、わざわざ爆撃機に宣伝ビラを積ませ、九州にまかせに行ったりしていることからもわかる。蒋介石は、外交は無形の戦争と考え、国際とりわけ英米の同情を取り付けようと努力した。それは、日本とまともに戦っては勝てないという自覚があったからで、日ソ戦、日米戦の開始を期待していた。つまり、第二次世界大戦の中に日中戦争を位置づけようとしていたのである。そして、戦力を温存するために、南京を死守せず、日本軍の行く手を阻むために黄河を人為的に決壊したりもしている。そのことで逆に各国の注意を引き、日本の侵略をうったえようとしたのである。さらには、戦後において中国が国連での常任理事国の地位を得たのも蒋介石ぬきでは語れないのである。本書は新たに公開された蒋介石の日記や擋案資料を丹念に読み解いていった成果である。一つ注文をつければ、国民党は軍事的にどのように日中戦争を展開したのかももっと知りたかった。

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