旅立つ理由

著者 :
  • 岩波書店
4.02
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  • Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000258845

作品紹介・あらすじ

政変でケニアに逃げてきたエチオピア人、ベリーズに流れ着いた上海娘、メキシコ湾岸に住む黒人奴隷の子孫たち…。アフリカや南米の、そのさらなる辺境に暮らすふつうの人びとの真摯に生きる表情と飾らぬ姿を簡潔に写し取りながら、現代の地球において、人はどういう理由で旅に出るのか、どうして故郷を離れることを強いられるのかを問う、21の短篇。主人公以外は日本人がほとんど登場しない、異色の日本文学。

感想・レビュー・書評

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  • この本の素晴らしさを伝えるのはどうしたらいいのだろう。
    文章から匂い立つ景色とそこでの人々の暮らし。
    タンザニア、ブラジル、モロッコ、メキシコ、ウガンダ・・・。
    端正な文章と魅力的なエピソードの数々、そして美しい挿絵。
    読むだけですっかり異国の地に降り立ったような錯覚に陥った。

    それぞれの短編で舞台となる都市や村は一見して何の繋がりもない。ANAの機内紙に連載されたものでもあるし、舞台設定ありきの短編だと思っていた。
    ところが読み進めるうちに一人の日本人が旅したり実際に住んでいた場所だと言う事に気づく。

    読売文学賞を受賞した作者のインタビューを読むと、経験したありのままを書いたとある。なるほど。この圧倒的なまでのリアリティの理由はそう言うことだったのか。

    それにしてもここまで異国の地で現地の人々にすっと溶け込んでしまうとは驚くほかない。
    日本人旅行者などほとんどいないような場所である。そんな所で、あっと言う間に親密になってしまうのはやはり旦ださん自身が持つ魅力がなせる技なのか。

    私が今まで旅してきた場所は、いわゆる観光地ばかり。そこで暮らす人達と話す機会もなく上っ面だけを眺めるだけだった。
    正直に羨ましいと思った。
    言葉がしゃべれたとしてもこうはいかないと思う。
    仕方がないからこの本を読んで擬似体験できただけでも良しとしよう。

    どのエピソードも甲乙つけがたいほどすばらしいけれど、心に残ったのは「キューバからの二通の手紙」と「マリオのインジェラ屋」。
    いっとき心を通わせても、あっけないほどに縁が切れてしまう切なさ。それも旅の醍醐味だろうけど。

    残念な事が一点。
    本書を読む時と場所を完全に間違えた。
    出来れば白浜の椰子の木の下で海を眺めながら読みたかった。
    そんな気分にさせてくれた本だった。

  • いゃ〜、面白い短編小説集だった。200ページ程度の本に、21編の短編小説が収められている。更に、門内ユキエさんの素敵な挿絵もふんだんに収載されており、平均すると、1編が8ページ程度の、本当に短い小説の集まり。
    どれも味のある小説ばかりだけれども、私の好みをあげれば、「キューバからの二通の手紙」「一番よく守られている秘密」などの少し洒落た小説と共に、「アフリカの流儀」「アミーナの買い出し」「父祖の地への旅」といった、主人公のパートナー(たぶん、作者の実際の妻がモデル)であるアミーナの祖国であるウガンダでの姿を描いたものだ。
    特に、主人公が初めて、アミーナのウガンダへの里帰りについて行く「アフリカの流儀」が好きだ。私の妻はタイ人、私がタイで勤務していた時に知り合い結婚した。妻はタイでもバンコクではなく、地方、それも相当に田舎の出身だ。この小説を読んで、私が初めて妻の里帰りに付き合った時のことを思い出した。アフリカに流儀があるように、タイの田舎にはタイの田舎の流儀があり、その中で生き生きとしている妻の姿を見るのは、悪くないなと感じたことをよく覚えている。

    この小説集は、ANAの機内誌「翼の王国」に連載されていたものを単行本にしたもの。そういう本に連載されていた小説なので、読むと旅行に出かけたくなる。

  • ラテンアメリカ文学者であり、翻訳家でもある作者による短編集。
    キューバ、メキシコ、ブラジル、ケニアなど21篇の話はどれも短いけれど印象深いものばかりです。
    文章が美しい。流麗と言いたくなります。
    異国に生きる人の存在感、その土地の空気感が色濃く描かれている。
    とても新鮮です。何だろうこのカッコ良さ!
    あんまり気に入ったので手元に置きたくなって早速本屋さんに取り寄せを頼みました。熱に浮かされたようです(笑)

    以下、お気に入りとその引用

    「逃れの町」
     ポルトガル人はなぜ、坂の多い不便な場所を首都に選んだのか。中世の町の残像が、リスボンを丘の斜面に建てさせ、やがて、ブラジルの町をも、丘の斜面の町にしたのではないのか…。

    「昼食のゆくえ」
     スペインではお昼が一日で一番大事な聖なる食事だから、手を抜くわけにはいかない。パエーリャはここでは、お昼の料理だった。しかもそれは副菜であって、その他に鶏の胸肉のローストとじゃが芋の料理を彼女は作った。反対に、夕食は冷たいチョリソ・ソーセージとパンとチーズぐらいですませるのがスペインの流儀だった。
     1981年のスペインを思い出すと、望遠鏡を反対側から覗いているみたいに遠くに小さく見える。その翌年からわずか十年の間にスペインは、サッカーのワールドカップとバルセローナ・オリンピックと、ゼビージャ万博を、立て続けに開催して、左派政権のもとで一気に加速して変わっていったからだ。

    「カチュンバーリの長い道のり」
     ある日突然、あの日のアミーナの献立が実は、東アフリカの歴史と、植民地主義の歴史と、かつて「アフリカの真珠」と呼ばれたウガンダに生まれ育った彼女個人の歴史とが交錯する長大な時間を、まるで一篇の映画のように凝縮して鮮烈に映し出すものだったことを電光のように思い知らされることになるのである。

    ↑インド西部グジャラート地方の料理がどのようにしてウガンダに伝わりそれを作ったアミーナの出自と結びついた後年の驚きが描かれ、深く息をつき、感銘を受けたこの一篇。見事です。

    他に
     世界で一番うまい肉を食べた日 ー フィレンツェ
     初めて見る異国の情景 ー ザンジバル
     熱帯の恋愛詩 ー ベリーズ
     どうしてジェラバを着ないのか ー モロッコ
     カポエイリスタの日常 ー バイーア
     マンディンガの潜水少年たち ー ベラクルス
     アフリカの流儀 ー マラバ
     初めてのフェイジョアーダ ー バイーア
     ハンモックを吊る場所 ー メリダ
     本当のキューバを捜して ー キューバ
     マリオのインジェラ屋 ー エチオピア
     ラ・プラタ遁走曲 ー ウルグアイ国境
     眺めのいい窓 ー バイーア
     アミーナの買い出し ー ナイロビ
     キューバからの二通の手紙 ー シエゴ・デ・アビラ
     一番よく守られている秘密 ー メキシコシティ
     父祖の地への旅 ー ウガンダ
     歩く生活の始まり ー バイーア

    • nejidonさん
      こんにちは♪
      素敵なレビューを読んですぐにでも読んでみたくなりました。
      ところが、残念なことにこちらの図書館にはありません。
      これから出向い...
      こんにちは♪
      素敵なレビューを読んですぐにでも読んでみたくなりました。
      ところが、残念なことにこちらの図書館にはありません。
      これから出向いて、リクエストしてこようと思います。

      【文章が美しい。流麗と言いたくなります】
      いいですねぇ、最低必要条件ですよね、それは。
      シーナさんもお好きだし、もしやtsuzraさんは旅がお好きなのかしら?
      2013/08/30
    • tsuzraさん
      nejidonさん、こんばんは。
      ブクログのレビューがリクエストのきっかけになってくれてうれしいです(*^_^*)
      旅は…なかなか行けないの...
      nejidonさん、こんばんは。
      ブクログのレビューがリクエストのきっかけになってくれてうれしいです(*^_^*)
      旅は…なかなか行けないので、あこがれです。

      感想には書かなかったのですが、ところどころ印象的なイラストが入っています。
      nejidonさんに気に入っていただけるでしょうか?レビューを楽しみにしています。

      2013/08/30
    • vilureefさん
      こんにちは。

      とあるブログで本書を知りやっと読みました。
      そしたらtsuzraさんも読んでいらっしゃった!
      私がブクログをお休みし...
      こんにちは。

      とあるブログで本書を知りやっと読みました。
      そしたらtsuzraさんも読んでいらっしゃった!
      私がブクログをお休みしていた間だったので気付きませんでした。

      本書、素晴らしかったですね。
      アフリカと中南米へに旅してみたくなりました。
      Wikiによると、本にも登場するハーフの息子さん、日本でお笑い芸人やっているんですね。
      びっくりしました(^_^;)
      2014/03/27
  • パステルカラーにぬり分けられた家並みや、陽盛りの路地にできたわずかばかりの日陰の椅子で飲む生温かいミント茶、親しげにすり寄ってきては、何かとものを売りつけようとする少年たち。ピレネーをこえた異郷の旅がなつかしくよみがえってくる。

    町の書店でこの本を探すとすると、どのあたりの棚に並んでいるのだろう。旅行関係の本が並ぶ棚だろうか。それとも、日本の小説が並ぶ棚だろうか。海外が舞台のエッセイとも小説ともつかぬ手触りからは堀江敏幸の初期の作品に似た風合いがある。身綺麗な主人公と同じ匂いを共有する友人たちが出会い、意気投合し、自分たちの手で料理した旨いものを食う、その味わいは、たとえば片岡義男の手になる短篇小説の持つそれである。ちがいは、その舞台が日本のどこにでもありそうな小さな町か、中南米やアフリカのひなびた町かどうかくらいだ。

    生きていることを実感するには、適切な食材を正しい方法で調理して食べることにつきる。僕はそれを長田弘の『食卓一期一会』で学んだ。そのためには、少々の時間と金はつかわねばならない。グルメというのではないから、三ツ星のついた有名料理店で高級料理を食するといった話ではない。その土地の人間が大事にしてきた、その土地の人でなければ分からない料理。そこには、大きくいえばひとつの民族の歴史が息づいている。

    巻頭を飾る「世界で一番うまい肉を食べた日」で紹介されるビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ(骨のついた肉の塊が大きいことで知られる)はともかく、それに続く話に登場するのは、ほとんどの日本人が食べたこともない料理だ。気候、風土がちがえば、食べる物も人々も異なる。料理といっしょに異郷の地に生きる多民族の息づかいが伝わってくる。切りつめた語り口は、座談の名手のようで、吹きすぎる風のように耳に心地よい。

    メキシコ湾岸、ベラクルス郊外のマンディンガという集落の食堂では牡蠣を注文すると、男の子が海に飛び込んで牡蠣をとってくる。世界一の牡蠣を食べるならマンディンガ、ということになる。アパートの「封切り」パーティーのために二日前から支度して作る、ブラジルはバイーア風フェイジョアーダ。リオ・デ・ジャネイロの黒インゲン豆とちがって茶色い豆を使う。40人もの客がやってくるいかにもブラジル風の一夜。キューバならアヒアコで決まりのはずだったが、「典型的なキューバ料理」のはずのアヒアコがどこへ行っても食べられない、この不条理さ。エチオピア人のマリオが焼くインジェラ(テフというきわめて粒の細かい雑穀をすりつぶして水で溶き、三、四日醗酵させてから円形の鉄板か陶板に薄く流しこんで蒸し焼きにしたもの)。スペインのサラマンカでは、大学生のマノーロがトルティーヤ・エスパニョーラ(早い話がスペイン式オムレツ)を作ってくれる。オリジナルのレシピつきで。バイーアの料理をもうひとつ。貧民街だったペロリーニョの飲み屋「パンゾ」の女主人が別れに作ってくれたムケカ。レモンとココナッツ・ミルクと椰子油で魚を調理したアフロ・ブラジル料理。極めつきはアミーナというウガンダからの国連認定難民が大量の買出しの果てに作るカチュンバーリだろう。「細かく刻んで激しく塩もみしてから洗ったり絞ったりした玉ねぎやキャベツに、やはり細かく切ったトマトと香菜と緑トウガラシを混ぜてレモン汁でじっくり和えたもの」だが、このカチュンバーリの来歴が凄い。

    「彼がアミーナから見よう見まねで学んだカチュンバーリが、こんなふうに、アミーナの人生の全容と切っても切れないものであって、それがヴァスコ・ダ・ガマの時代から続く全地球的規模の暴虐な歴史の展開にダイレクトに結びついていて、流行語として『ポスト・コロニアル』と呼ばれている世界の構成と分かちがたいものであることを思うと、いったい自分はどんな顔色をして何を作ればいいのか、彼にはなおさらわからなくなっていた」

    主人公の日本人はウガンダの女性と結婚し、子どもも生まれるが、今は離婚して男の子と暮らしているようだ。仕事は何をしているのかよく分からないが、海外暮らしが長い。それも、中南米やアフリカといったあまり観光では行かないところばかりだ。最後の方の一篇で主人公の日本人の名が「ダン」であることが示される。

    作者の名は、バルガス=リョサや、ガルシア=マルケスの訳者としてかねてからなじんでいたが、こうして本人の著作を読むと、また別の顔が見えてくることに驚いた。軽々と国境を越え、世界の果てまで出かけてゆき、そこで伴侶を得、子どもを授かる。その出向いた土地で、新たな友を得て、また別の国へと彷徨い出る。

    かつて外国を旅して、紀行や小説を書いた作家には、日本と西洋を比較して、その優劣を競ったり、彼我のちがいに慨嘆したりと、しかたのないこととはいえ肩肘張った物言いがつきまとった。著者の文章には、その大上段に振りかぶったところがない。軽やかな身ごなしと、身の丈にあった感慨が新鮮な感興を与えてくれる。久方ぶりに「旅への誘い」を感じた。夏の旅のお伴に絶好の一冊。

  •  全日空の機内誌の連載だったということで、短編小説集である。海外、特にアフリカやブラジルの街角や生活での小粋な景色を描いたものである。
     その細かい描写は現地ならではと思わせ、読んだ誰もが遠い異郷を脳裏に思い浮かべるであろう。旅好きな人の旅情をそそるのは間違いない。
     読み進むうちに、短編それぞれが連携し始め、彼という名の日本人主人公の物語になっていく。彼は、どうも筆者自身あるいは自身をモデルにしたようである。実体験をベースにしているのならばリアリティがあるはずだ、と納得した。
     それでも、本書の価値はうすれない。ここに書かれているような異国での出会いや経験を、そのほんの一部でも旅の中で味わいたいけれども、実際にはなかなかそうはいかないからだ。

  • ラテンアメリカ文学研究者、作家、翻訳家である旦敬介(だんけいすけ)さんの21の短編。

    「アフリカや南米の、そのさらなる辺境に暮らすふつうの人びとの真摯に生きる表情と飾らぬ姿を簡潔に写し取りながら、現代の地球において、人はどういう理由で旅にでるのか、どうして故郷を離れることを強いられるのかを問う、21の短編。主人公以外は日本人がほとんど登場しない、異色の日本文学」

    カラーイラストもあいまって、異国の雰囲気が感じられる。

    特に好きだったのは「初めて見る異国の風景」
    その地の流儀にしたがっている彼女の心を察するバーテンダー

    そしてエチオピア料理とその作法(手洗い)にすっごく興味をもった。
    インジェラ、食べてみたいなぁ。
    http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%A9

    「バンゾ」~黒人奴隷が故郷に対して抱いた強烈な郷愁のことを指すコト

    日本人のキューバ移民はブラジルより古く1898年に始まった。

    ちょっとブラジル映画の代筆屋の話を思い出した。

    ポソレ~http://www.iusyworldfestival.org/mexico-cook/posore/

    どの話も、その国の一番の特徴だけど、さりげないことが書かれている。
    文化というと大げさだけど、生活の中にしみこんだものをうまくすくいとって描いている

    南米、アフリカは未知の国なので、いつか自分で足を踏み入れてみたい

  • リラックスできる素材選び、締め付けないゆるめのサイズ感のスタイリングで開放感を追求し、甘く素敵な移動時間に、体に負担をかけず、心を跳ねまわらせるラブリーな旅の短篇集。
    昔から変わらず好きなもの、時を経て好きになったものの掛け合わせが、自分であるいは親子で過ごす時間の居心地のよさに自然となっていくように感じ、とても愛おしく思えてきた。作中人物たちの想像力は飛び立ち、一緒にいる相手がコックピット感覚で、感じたかった時の中に腰を据えてぜんぶが手の届く範囲にあるように思わせてあげようとする心遣いがビシビシと眩しい。

  • ふむ

  • メインイベントではないけれど心に残る、旅の醍醐味を切り取ったような旅行記 及び アフロ・ブラジルについての短編集。最初のインパクトのせいかと思ったけど、思い返してみても1本目のイタリア旅行が別格に素敵だなぁ。全世界を満遍なく行くのかと思ったら、驚異のアフロ・ブラジル率(およびその辺り)。ANAの一押し旅行先なのかしらん。

  • 行ったことがあるのは、冒頭のシスティーナ礼拝堂だけ。でも、その描写の確からしさから、他のアフリカや中南米諸国の描写も定めしこの様なものなのだろうと推測できる。
    息子がケニアとのハーフ芸人とのこと。アミーナとの話に限らず、作者の実体験が反映されているのだろう。
    旅がしたくなるし、絵もいいなと思ったら、ANAの翼の王国に連載があったらしい。

  • 旅立つ理由なんて、そもそもない。
    あっても旅に出ちゃえばどうでもいいこと。

    理由なんてすべて削ぎ落とされて
    ”今” を ”感じる” ことがすべてになる。

    その場にいた気分になれる旅行記。

  • 後半はインフルBとともに。
    挿絵がなんともいい味。
    あんな風に国境も言葉の壁もないように軽やかに世界を移動したい。
    小心なわたしにはできないけれど、いつかあんな風に生きたい。
    気負うことなく、てらうことなく、自分らしく。

  • 旅行に行きたくなる。ANAの機内誌に連載されていたのもうなづける。
    それぞれの物語の続きを想像するのも一興。

  • 表紙を見たときに、何となくどこかで見たことの有る絵だな、と感じた。それもそのはず、本作は「翼の王国」に連載されていた作品をまとめた短編集だったのだ。表紙のイラストも、連載時と同じイラストレーターの作品だそうだ。僕は最近あまり青い方には乗ってないし、乗ったからと言っていつも翼の王国を読むわけではないけれど、それでもいくつかの作品は読んだことがあった。
    元々作者がトラベルライターをしてた頃からよく読んでいたし(それでキューバに行こうとしたことも有る)、連載していたときから、心の奥底を旅立ちへ駆り立てるような文章には好感を持っていたのだけれど、改めてこうして一冊通して読んで、連載では判らない、この物語に隠されていたテーマをはじめて理解した。これは、ラテンアメリカ文学研究者で、翻訳者でもある作者、旦敬介の、ある種の私小説なのだと思う。人種も国籍も生まれ育った環境もすべて違う男と女と、その子供。本作において3人の関係は、時系列と場所をバラバラにしてちりばめられ、感情を抑えたような時間の経過を突然読み手の前にポンと出してくる。冒頭の一作である「世界で一番うまい肉を食べた日」は、その時にはじめて別の色に輝きはじめる。そして最後まで読み切って、漸くすべてが一つの物語として編み上がるのだ。
    出てくる街もまたそれぞれが郷愁をそそる。いつか、この中のどこかへ向けて旅立てるだろうか。旅立ちたい、と言う想いを強くさせる一作。都会の夜に読んでも、旅の夜汽車の薄明かりで読んでも、良い時間が過ごせる一作。出来ればラムでも片手に。あ、でも腹が減ってるときは止めた方が良い、出てくる食べ物、うまそうなんだもの。
    最後に本作の舞台となった国や街に敬意を表してリストアップ。
    ローマ、フィレンツェ(以上イタリア)、ザンジバル(タンザニア)、ベリーズシティ(ベリーズ)、タンジェ(モロッコ)、バイーア(ブラジル)、ベラクルス(メキシコ)、マラバ(ケニア=ウガンダ国境)、マサイマラ(ケニア)、メリダ(メキシコ)、ハバナ(キューバ)、オポルト(ポルトガル)、ナイロビ(ケニア)、オレンセ、サマランカ(以上スペイン)、チュイ(ウルグアイ=ブラジル国境)、シエゴ・デ・アビラ(キューバ)、メキシコ・シティ(メキシコ)、ムコンゴーロ(ウガンダ)(順不同)

  • 本から熱気や埃っぽさ、街のざわつきが伝わってきた。
    自分が行ったことある場所でも、こんなに深く感じることはなかった。
    実際に行くより体感出来た気がした。

  • 後半のラテンアメリカやアフリカの物語がいい。
    個人的には、「アフリカの流儀」と、「一番よく守られている秘密」がおもしろかった。
    「ポソレ」を食べてみたい。

  • ANAの機内誌に掲載されていた連続エッセイがまとめられたもの。主人公(登場人物の中で唯一の日本人)が、アフリカ、南アメリカ、西ヨーロッパを放浪し、現地に溶け込んで生活している様子が綴られている。その土地の食べ物やお祭り、人との関り方等がとても生々しく描かれているし、全編を通じてとても明るい調子で書かれており、読みやすく、実際に現地に行ってみたくなる。イラストもとても綺麗。タイトルは「旅立つ理由」だが、これを読むと理由なんて無くても旅に出たくなる。と思うのは、現実逃避したいから。

  • ユニークな挿絵と文章。
    こんな旅をした著者が、羨ましい。

  • 旅してる気持ちになれます。

  • 挿入されている絵がいい。知らない世界のエピソードが心を掠めていく。ごめん。イマはそんな気分じゃなかった。

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著者プロフィール

旦敬介
1959年生まれ、東京都出身。作家・翻訳家、明治大学国際日本学部教授。ラテンアメリカ文学、アフロブラジル文化。著書に『旅立つ理由』(読売文学賞)、『ライティング・マシーン』など。訳書は、バルガス=リョサ『ラ・カテドラルでの対話』、ガルシア=マルケス『十二の遍歴の物語』『生きて、語り伝える』、J・ゴイティソーロ『戦いの後の光景』、B・チャトウィン『ウイダーの副王』、P・コエーリョ『11分間』、M・ジェイムズ『七つの殺人に関する簡潔な記録』など多数。

「2022年 『パラディーソ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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