ルポ 終わらない戦争――イラク戦争後の中東

著者 :
  • 岩波書店
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本棚登録 : 14
レビュー : 4
  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000259521

作品紹介・あらすじ

2003年3月に開戦し、5月には「終結」を迎えたイラク戦争。しかし、本当に戦争は終わったのか。イラク、シリア、バーレーン、アルジェリア、レバノン…今も続く「戦争」で、多くのいのちが失われている。大統領へのインタビューから武装組織への潜入取材まで、10年以上のあいだ戦場を駆け抜けてきたNHK記者が、その実態を生々しく伝える。

感想・レビュー・書評

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  • 【由来】
    ・図書館の岩波アラートかな?

    【期待したもの】
    ・一番の興味の対象はシリア。

    【ノート】
     もう10年ばかり、アレッポの石鹸を愛用しているというだけの理由でシリア情勢に興味があり、それで本書を手にとったのだが、内容としては中近東各国における現地ルポ。どれだけ非道な行為が行われているかということを伝えるのが主眼ではなく、イスラム圏内の宗派争いが、どのように影響し合って泥沼化しているかについて、歴史的な経緯の概説を交えながら現地取材の様子と共に教えてくれる。
     イスラム教におけるシーア派とかスンニ派って、よく聞く言葉なんだけど、きちんと区別も整理もできていなかったので、本書はよいガイド役になってくれた。こういうのって、きれいに整理して系統立てて語られてもあまりピンと来ないもので、それよりも、本書のような本を読んで、各国における勢力の変遷や隆盛をメモしながら追っていった方が、アタマに残ってくれるようだ。

     それで知ったのだけど、シーア派とスンニ派の勢力バランスというのは、植民地時代の英仏によって種がまかれていたとのことで、アイルランドでカトリックとプロテスタントとの対立を煽ったイギリスの分断統治の手法と一緒。アメリカの身勝手な援助や取りやめが状況の混乱を加速していることは事実なんだろうだけど、両派の対立の根本的な構図が他国の思惑によって画策、構造化されていたというのは悲しいことだ。当事者達はそのことを受け入れないかも知れないが。

     バアス党というのがかつてのフセインの支持母体であり、今のアサドの支持母体でもあるということなのだが、これはイスラムの中ではかなり世俗的な立ち位置であり、だからこそ、イラクは中東の中でも珍しい、開明的なイスラム国家と成り得たらしい。それがフセイン政権が倒され、民主的な政府のとやらが樹立して以降、国は割れてしまった。
     「昔は、フセイン大統領に忠誠を誓わされ、自由にものを言えなかったが、それでもまだ、曲がりなりにもイラクはひとつだった。今の分裂状態はもっと悪いのではないか(P57)」

     今や年間で10兆円規模のビジネスとなったPMC(民間軍事会社)についても1章が割かれている。PS3のゲーム、MGS(メタルギアソリッド)4の冒頭で語られるモノローグがどんどんリアリティを帯びてきている、曰く、

    戦争は変わった。

    時代は抑止から制御へと移行し、大量破壊兵器によるカタストロフは回避された。
    そして戦場の制御は、歴史のコントロールをも可能にした。

    戦争は変わった。

    戦場が制御管理されたとき、戦争は普遍のものとなった。


     MGSというゲームは、日本の何かを、アメリカの姿を借りたメタファーとしてやっているのかと思っていたのだけど、とんでもない、世界の未来予想像を直球のどストライクで描いていたのだ。戦争ビジネス、少年兵、IT技術による管理制御。MGS4のオープニングは中東のどこかで起こっている紛争地域から始まるのだが、それは本書で描かれている光景にとても似ているのだろう。

  •  先進国の視点(石油資源等の利権獲得による国益追求)と、当事国の視点。また、テロリズムに対する民間人の支持/不支持、武装集団側の視点も含まれている。
     ニュースや新聞では、少なくとも日本国内においては、アメリカ視点からの報道が多いと感じていたので、主に当事者達の考えを知ることができたことが非常に良い。
     テロリズムが理解できないことには変わりないが、少なくともそういった手段に訴えている人間が絶対悪であるとは思えなくなったことが、本書を読んで得た一番の収穫。

  • 別府正一郎『ルポ 終わらない戦争 イラク戦争後の中東』岩波書店。戦争から十年。中東・北アフリカに寄り添い取材を続けた著者(NHK記者)が、その経過を振り返る戦慄すべきルポルタージュ。「一体、誰が何のために殺しているのか」。対立構造は錯綜し、その悲劇の出口はまったく見えないままだ。

    イラク戦争が開けてしまった対立と分断の「パンドラの箱」は閉じられることなく、中東全域に拡散し続けている。多宗派混在のバグダッドは棲み分けが進み、大国の利害がぶつかり合うフロントラインへと様変わりしたシリア。広まるのは失望ばかりだ。

    住民の反目を利用し植民地時代の統治形式は独立後も引き継がれている。「イラクやシリアでの宗派間の確執は、植民地時代に埋め込まれた『時限爆弾』のような気すらしてくる。強権支配のもと、破裂せずに抑え込まれていたものの、今になって牙をむき出しているかのようだ」。

    イラク戦争開戦の秋、ある会合で著者は政府関係者と出会い、君の報告は大げさすぎる、ワシントンから状況は改善していると聞かされたという。現地報道官が事態の深刻さを吐露する状態においてである。この人物には、酷暑の中見えない敵に疲弊する米軍兵士の姿が見えないのか。日本の近い未来のデジャブのようだ。

    1990年日本人社員がすべて撤退した日本航空バグダッド事務所は、一緒に働いてきたイラク人スタッフの手で現在もそのまま残されている。曰く、「治安が良くなって、再び、日本の航空会社が戻ってきてくれることを待ち望んでいる」。

    イラク戦争を真っ先に支持したのは日本。「日本には大きな役割を果たせるはずだし、その責任もあるはずではないか」。それは「中東の人々が、安全に、普通の暮らしができるように協力するという責任」だが、自衛隊を送り戦闘を繰り広げることではない。

  • 新着図書コーナー展示は、2週間です。通常の配架場所は、3階開架 請求記号:319.27//B37

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