歴史 (21世紀へのキーワード インターネット哲学アゴラ)

  • 岩波書店 (2000年4月26日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (240ページ) / ISBN・EAN: 9784000262880

感想・レビュー・書評

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  • 哲学者の中村雄二郎と野家啓一が、往復書簡形式で「歴史」をテーマに語りあっている本です。

    野家は、科学哲学と現象学に造詣が深く、また『物語の歴史』(岩波現代文庫)で「物語り」(narrative)という概念を軸にした歴史哲学を構築していることで知られています。本書では、野家が歴史をテーマに中村に問いを投げかけ、中村が野家の問いかけに対するヒントになるような、いくつかの興味深い論点を示すというかたちで、議論が進められています。

    野家の歴史哲学に対しては、本書中でも触れられているように、「語りうるもの」のみに依拠して歴史を叙述することは、記憶の抹消という「完全犯罪」に加担することになるのではないかという高橋哲哉からの批判があります。高橋の批判の背景には、アウシュヴィッツという記憶することのできない悲劇を抱え込んだパウル・ツェランやアドルノ、そしてみずからの権利を語ることのできない人びとの存在を教えたガヤトリ・スピヴァクといった、20世紀後半以降の哲学に向けられることになった大きな問いが控えています。また、本書中では触れられていませんが、大橋良介が『聞くこととしての歴史』(名古屋大学出版会)で、存在の歴史からの呼び声に耳を傾けるというハイデガーの後期思想からの示唆を受けつつ、おそらく高橋とは異なる政治的スタンスに立ちながら、同じような問題を野家に対して投げかけています。

    野家は、これらの批判を念頭に、みずからの向けられた疑問を中村へと向け変えるかたちで問いかけをおこなっています。これに対する中村の答えは、「ことばには、言うことによってかえって隠す働きもあれば、言わないことによってかえって表す働きもある」というものです。この答えは、これ以上くわしく敷衍されてはいないようですが、野家が「これは私にとってはまさに虚を突かれたような御指摘で、見事に三遊間を抜かれた思いがいたしました」と語っているように、非常に深い知恵が含まれているように思います。

    一回分の書簡が短いこともあり、一つひとつのテーマについて十分に掘り下げられていないという不満はありますが、そこから哲学的な思索を広げていくことのできるようなさまざまな論点が示されていて、興味深く読みました。

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著者プロフィール

1925年、東京都出身。哲学者。明治大学名誉教授。東京大学文学部卒業後、文化放送に入社。その後、明治大学法学部教授を長く務めた。西洋哲学をはじめ日本文化・言語・科学・芸術などに目を向けた現代思想に関する著書が多数あり、主要著作は『中村雄二郎著作集』(岩波書店、第1期全10巻・第2期全10巻)に収められている。山口昌男と共に1970年代初めから雑誌『現代思想』などで活躍、1984年から1994年まで「へるめす」で磯崎新、大江健三郎、大岡信、武満徹、山口昌男とともに編集同人として活躍した。

「2017年 『新 新装版 トポスの知 箱庭療法の世界』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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