本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
Amazon.co.jp ・本 (240ページ) / ISBN・EAN: 9784000280594
みんなの感想まとめ
多様な視点から永井荷風の生活哲学を探求したこの書籍は、彼の個人主義や女性の自立、シングルライフ、ガーデニング、老いの重要性を鮮やかに描き出しています。著者は、荷風が持っていた独特の美意識と生活様式を通...
感想・レビュー・書評
-
1月にshokuzaisettoさんのレビューを読んで取り寄せた。おっしゃる通り、「爽やかな読後感」だった。
1959年没の永井荷風を、同年に生まれた気鋭の文学研究者が、没後50年を記念して出した教養セミナーの記録である。刊行13年後の現在、ここで取り出された荷風の姿は、益々現代的なテーマを内包していた。
荷風は、その文士業の最初から女性の精神的自立をテーマにしていた(第一章「女性の自立の物語」)。
荷風は、敢えて子どもは持たない主義をとっていた。偏奇館という独身用の家を建て、シングル・シンプルライフを実践する(第二章「個と孤の生活誌」)
荷風は、庭を愛した。それは観潮楼の鴎外邸との意外な関係もあった(第三章「荷風の庭」)
荷風は、大逆事件の世相の中で『暴君』を執筆した。また東京の民俗誌とも言える『日和下駄』、滅びゆく敗者の芸術として『江戸芸術論』を執筆した。これは交流のあった鴎外の『沈黙の塔』『かのように』と時期を一にし、「平地民をして戦慄せしめよ」と唱えた柳田の『遠野物語』またはその前の『後狩詞記』とも相照する。鴎外日記を見ると、この3人が相見えていた可能性は非常に高い。それは青年が成長する近代主義に対して、老年の豊かさを見ていた荷風の意識とも通じるだろう(第四章「老いと死の意識」)。
それぞれが、とっても刺激に富んだ論考だった。『江戸芸術論』(18.09レビュー)『つゆのあとさき』(16.02レビュー)の読み直しが必要だろうし、初期小説『矢はずぐさ』、『日和下駄』も近く読みたいと思う。
独居していた老荷風は、晩年市川に住んでいて大黒屋という食堂がお気に入りだった。著者はそこのおかみさんから、亡くなる前日に荷風がカツ丼を食べにきたという証言を得ている。その健啖恐るべし。また、絶命したとき、傍に森鴎外『渋江抽斎』の本が開かれたままあったということは初めて聞いた。敬愛する鴎外を偲び、最後のメモリアル・リーディングに選んだのだろう、と著者。こういう最期をおくりたいと想う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
岩波書店主催の連続講座を書籍化したもの。荷風の個人主義を女性の自立、シングルライフ、ガーデニング、老いという観点から読み直した1冊。爽やかな読後感だった。
本書が描く荷風は、イエに縛られない恋愛結婚を主張し、家事やガーデニングに勤しみ、進歩主義への叛旗として老いの大切さを語る人物である。そして、荷風が影響を受けた人物として、意外な人たちも推定されている。
戦時下での『断腸亭日乗』の有名な一節、「心の自由空想の自由のみはいかに暴悪なる政府の権力とてもこれを束縛すること能はず。人の命のあるかぎり自由は滅びざるなり」(1941年1月1日)も、食料買い出しの苦労にも楽しみを見出そうとする心持ちから引き出されたことに、筆者は注目する。荷風の個人主義の強さは、それが生活に根差していたがゆえなのである。 -
実際に市民講座でお話された内容がご本になっているので大変読みやすいです。でも、1冊でもいいから、軽く荷風の作品に触れてから読まれると良いかと。
鋭い感性と美意識で生活を彩った生活者、永井荷風。いかめしいイメージの男性が闊歩していた明治から昭和にあって、その知的な洗練された物腰は、柔弱とも映ったかもしれません。でも、そうではなくて、立身出世の向こう側に残るものは過ぎ去った年月だけになってしまう。そんなものより、幸福で瀟洒な日々の積み重ねの方がよっぽど自分に残る財産になるんだよ。
と今から見れば、大変進歩的なことを考えていたのが解ります。意外なことにホーム スィート ホームの理想を持っていたことも、きちんと根拠を持って論じられていきます。そんな一面があるなんて意外でした。新発見した感じです。この方の荷風論に出会わなかったら、こんなに荷風をもっと読んでみたいと思ったか。これからのご活躍が待たれます。いつか直にお講義受けてみたい、気鋭の方ですね。
川本三郎さん、中村光夫さんなど、優れた荷風論をお書きの方はいらっしゃいます。興味を持たれた方は、このご本だけでなくて荷風の作品や、他の方の荷風論も読んで頂きたい。そのうえで、持田先生の論の斬新さと清新さをたっぷりと味わって頂きたいです。
なんでもっと早く読んでおかなかったのかしらって悔やんじゃうほど、荷風は紳士で素敵。白洲次郎さんとかとは、またちょっと違う感じ。もちろん男の人なので、黒く、身勝手な部分や倨傲も、持っていると思います。だけど女の汚さも可憐さも、見通した荷風は、自分への視線が、一番鋭かった気がします。自分に甘いのも、また彼自身だった気がするけれど、概ね他人に迷惑をかけていないのは見事の一言。
自分の中の薄闇への自覚は、他人に言われなくても自分がしっかりと知っていて自分を見つめていた人だとも、そんなことはどこにも論じていなかったのに、何故か感じました。ともあれ、こんなにも優雅な精神世界を持っていた作家がいることを、持田先生のおかげで知ることができて本当によかった!
江戸から昭和は日本の文化の爛熟期の一つです。その良き案内人として、荷風と親しく付き合う幸せを
教えてくれた一書でした。 -
まったく新鮮な視点から永井荷風の一面をとらえた良書である。巻末の随筆集についての紹介も、いくつかぜひ読んでみたいと思う作品のことを知ることができた。
-
万華鏡のように多面体な永井荷風の文学を4つの切り口から見事にまとめ上げた持田叙子さんの「永井荷風の生活革命」、2009.12発行。大正6年9月からの長大な日記(日乗)。二度の結婚と離婚の後、大正9年5月から偏奇館(麻布)でのシングル・シンプルライフ、狭い庭、2Fの書斎。荷風は庭好き、日乗のはじめの頃は、まるでガーデニング日記のよう。個人的生活のシンボルとしての庭。37歳で、老人文学を始めると宣言、隠退した老人の生活を描きたいと。永井荷風が亡くなった1959年に生まれた持田叙子さんの秀作だと思います。
著者プロフィール
持田叙子の作品
本棚登録 :
感想 :
