ウェルギリウス『アエネ-イス』: 神話が語るヨ-ロッパ世界の原点 (書物誕生-あたらしい古典入門)
- 岩波書店 (2009年2月18日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (191ページ)
- / ISBN・EAN: 9784000282895
作品紹介・あらすじ
みずからの激動の時代体験をとおして人間と社会の問題を深く掘り下げ、知的苦闘の中から作品を生み出したウェルギリウス。このラテン文学最大の詩人が後世にあたえた影響ははかりしれない。彼の遺した大叙事詩『アエネーイス』により「ヨーロッパ」という概念は初めて創られ、またダンテ『神曲』においては主人公を冥界に導く人々としても描かれた。『アエネーイス』は、民族や人種を超え、個人が相互の理解と尊重により結びつけられる社会を創るという理想と、その実現のための大きな苦難を、ローマ建国の英雄アエネーアスに体現させて謳いあげた作品である。ここに込められた詩人の未来へのまなざしは、今なお英雄と同じ苦悩を背負って生きる人類への励ましでもある。
感想・レビュー・書評
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古代ローマ屈指の詩人ウェルギリウスと彼の代表作となる大叙事詩「アエネーイス」をひもといてくれる本です。
『アエネーイス』は、そのラテン語タイトルを訳すると、「アエネーアスの物語」。中世の巨匠ダンテは、詩人ウェルギリウスを深く尊敬していたようです。『神曲』の中でも、主人公ダンテの遍歴を教え導く重要な登場人物となっていますし、ダンテが幽玄界に降りていく設定や様々な描写をみてみても、間違いなく『アエネーイス』にインスパイアされたものと感じます。
プブリウス・ウェルギリウス・マロ(BC70年~19年:英語名ヴァージル)は、古代ローマ共和制末期、初代皇帝アウグストゥス時代の巨匠です。争いや殺戮が繰り返され、ひどく混乱していた激動の時代背景からでしょう……『アエネーイス』では、人々の平和や共生への希求が滲み出ています。はてしない人間の戦争そのものではなく、破壊や争いのその先にある平和の理想や民族・人種を超えた共生のための秩序を創造したい、というウェルギリウスの切なる想いが物語を通してひしひしと伝わってきます。
終わりのない覇権争奪、金や人や労働力や資源の飽くなき搾取のために、いつまでも戦争や内戦をやめようとしない現代社会に生きる私たちにも鋭く問われているものではないかな……と思えてなりません。
2002年、ノルウェーの愛読家団体がおこなった、世界54か国の著名作家100人を選ぶ「史上トップ100のフィクション物語」(イギリス・ガーディアン紙)では、『アエネーイス』は、トップ100選入りの作品となったそうです。
そこでは、ホメロスの『イリアス』、『オデュッセイア』、ギリシャ三大悲劇詩人ソポクレスの『オイディプス』、そして、エウリピデス『メディア』と並んだとのこと。ちなみに日本の作品では、『源氏物語』がエントリーしたようです。カッコいい!
『アエネーイス』は、西洋文学界では非常に著名な古典文学で、つくづく思うのは、世界に名だたる文学作品というのは、時代の病を背負いながら、はるかな時を軽々とこえて読み継がれ、人々の心にいつまでも残り続けますね。とりわけ古典的作品は、何度も読み返したくなる奥深さがあるように思います。 -
ウェルギリウス「アエネーイス」について,後世への影響の歴史を見た後に,本編の内容を解説する構成。ヨーロッパという概念そのものが「アエネーイス」に始まること,ダンテ「神曲」における位置づけ,大戦の時代である20世紀における評価や位置づけなど。本編を読むための見通しとしては十分だろう。
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古典はその時代時代の人々に訴えかけるものがあるからこそ継承される。ウェルギリウスはもちろんだが、同程度に古典について考えさせられる一冊。
ウェルギリウスはローマ帝国の永遠の繁栄を意図したが、アウグスティヌスはそれを神の国、ダンテは中世の狭いキリスト教観を打破するよすがとして扱った。時代が下れば、ベトナム戦争で戦う兵士をアエネーアスに重ねることもできる。
T.S.エリオットはウェルギリウスをヨーロッパ精神の淵源であると言う。古典は時代を超えて脈々と受け継がれる人間の精神を伝達するものだと理解できた。
『アエネーイス』と『牧歌』は近々読もっと。
メモ↓
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ウェルギリウス文学の最良の批評は、中世のダンテを含めて、むしろ同時代の問題と正面から向き合い、それと格闘した知性の中から生まれている。その理由はほかでもなく、この詩人自身が自己の時代の直接体験をとおして人間と社会の問題を深く掘り下げ、その知的苦闘の中から作品を生み出したからである。
→歴史が目指すのは客観的事実を追求することではない。ヴァレリーはヨーロッパを歴史家が定義する地理や言語、人種などの外的要因ではなく「ローマ」「キリスト教」「ギリシア」の内的な精神から定義 → 「ローマ」を形作った1人がウェルギリウス
→引き裂かれたヨーロッパを再統一する流れに起用
→日本人が日本の古典に親しむ重要性もこの点から見出せそう
T.Sエリオット
ウェルギリウスは古い循環史観から直前的な進歩史観へという歴史観の転換から生まれた。
彼の想像した「ローマ帝国」は軍人や政治家や商人のローマ帝国と同じものではなく、それよりも「何かもっと偉大なもの」
→これはヨーロッパ人という今なお理想であり続けているもの
多神教ローマがなぜキリスト教ローマになったのかは解明されていないが、ウェルギリウスの役割が重要
ダンテはアエネーアスが神に選ばれたのはキリスト教が世界に広まるためであったと修正(世俗社会の永遠の繁栄の為ではない。アウグスティヌス は永遠の国はローマではなく神の国
神曲は中世の宗教的理想を情熱的に描くと同時に、他方、来世の幸福に傾きすぎたその理想を、ウェルギリウスに代表される現世中心なら古典的人間観を軸にして相対化し、時代の狭い宗教的枠組みを突き破ろうとしているのである。()それゆえにこそ、現代の私たちにとっても、なお大きな精神的価値を含む遺産なのである。
祖国を滅ぼした凄惨な戦いも、芸術作品として描かれることで、つらい苦しみは償われ、人に慰めと生きる勇気をもたらされる。
→ 小川洋子『物語の役割』
戦争を超克した永遠のローマのその平和の理想は、人間が民族や人種を超えた共生のための秩序を創造できる存在だという確信によって支えられていたが、ウェルギリウス はそのような人類の夢と人間への信頼を、ローマ建国の神話に託して歌ったのである。 -
間違えた!
ウェルギリウスの書いた『アエネーイス』を読みたかったのに、ウェルギリウスの書いた『アエネーイス』についてを書いた本を読んでしまった。
ウェルギリウスとは、『神曲』でダンテを天国の手前まで案内した詩人である。
天国へは行けない。
なぜならキリスト教ができる前に死んでしまったので。
天国へ行けるのはキリスト教に帰依した人だけなのである。
で、天国に行けないウェルギリウスは、一体どんな作品を歴史に残したのか。
それを読みたかったのだけど…。
第一部は、西洋の歴史におけるウェルギリウスの立ち位置と言いますか、ローマ人というのは、ヨーロッパの人たちの精神的支柱なのですな。
だから、ダンテはクリスチャンではないウェルギリウスに最大の敬意を払う。
そして、これほどに偉大な詩人が、悪行など行うこともなかった詩人が、死んだ後にできた宗教によって断罪される。
この厳しさが、一神教なのだと思う。
第二部は作品の解説。
全然知らなかったのだけど、『アエネーイス』って、トロイア戦争で敗れたトロイ側の英雄の運命を詠った叙事詩だったのだ。
ギリシャがトロイを攻めたことを詠ったのが『オデュッセイア』、そしてそこで敗れて逃げ落ちるトロイの人々を詠ったのが『アエネーイス』
ギリシャ人が書いた『オデュッセイア』、ローマ人が書いた『アエネーイス』。
なぜ、ローマ人がそれを?
それはトロイから逃れた人たちがイタリアに流れ着いて、ローマ人の先祖になったから、だそうです。
土着のイタリア人と戦ったトロイ人。
ローマを征服した目的は、平和。
今後長く平和な国をつくるために。
というのは、多分後付けの解釈。
ウェルギリウスは、ローマがまだ平和な時代を謳歌する前に死んだ。
『アエネーイス』が未完のまま。
それでもヨーロッパの人たちはこの作品を愛し、精神の真ん中にローマ人を抱え続けている、ということがよく分かった。 -
第1部 書物の旅路―歴史の中の『アエネーイス』
第2部 作品世界を読む―叙事詩が語るローマの起源
の大きく二つに分かれる構成。
第1部においては、この書物の位置づけ、意義が述べられており、ヨーロッパの思想に大きな影響を与えたことが述べられている。キリスト教がヨーロッパの考え方のベースとなっていることは分かるが、キリスト経以前の詩がヨーロッパの思想に影響があることが感覚としては飲み込みにくい。
第2部の作品解説は、解説がよいせいか、物語自体面白く感じさせてくれる。 -
[ 内容 ]
みずからの激動の時代体験をとおして人間と社会の問題を深く掘り下げ、知的苦闘の中から作品を生み出したウェルギリウス。
このラテン文学最大の詩人が後世にあたえた影響ははかりしれない。
彼の遺した大叙事詩『アエネーイス』により「ヨーロッパ」という概念は初めて創られ、またダンテ『神曲』においては主人公を冥界に導く人々としても描かれた。
『アエネーイス』は、民族や人種を超え、個人が相互の理解と尊重により結びつけられる社会を創るという理想と、その実現のための大きな苦難を、ローマ建国の英雄アエネーアスに体現させて謳いあげた作品である。
ここに込められた詩人の未来へのまなざしは、今なお英雄と同じ苦悩を背負って生きる人類への励ましでもある。
[ 目次 ]
プロローグ ウェルギリウスとは誰?
第1部 書物の旅路―歴史の中の『アエネーイス』(「西洋の父」ウェルギリウスとヨーロッパ世界の誕生;詩人ダンテを冥界に導く;現代世界のもう一つのウェルギリウス ほか)
第2部 作品世界を読む―叙事詩が語るローマの起源(ギリシア詩人ホメロスとの対話;廃墟からの出発―嵐とトロイア陥落;遍歴と出会い―地中海放浪とカルタゴ ほか)
エピローグ 平和と共生をめざして
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