- Amazon.co.jp ・本 (342ページ)
- / ISBN・EAN: 9784000284981
作品紹介・あらすじ
海を渡って来た人々が、列島の文明化に果たした役割はきわめて大きい。須恵器や鉄器の製作、馬の飼育などの産業技術、文字の利用や思想・文化は、どこから列島にもたらされ、定着していったのか。その具体的な姿を考古学研究の最新成果を踏まえて明らかにし、ヤマト王権の展開と律令制国家における渡来系移住民の位置づけと歴史的意義を考える。
感想・レビュー・書評
-
岩波書店「シリーズ 古代史をひらく」好評 日韓古墳比較・地域間交流…古代史の面白さ、最新研究で|好書好日
https://book.asahi.com/article/13268122
渡来系移住民 - 岩波書店
https://www.iwanami.co.jp/smp/book/b498673.html詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
まずは言葉の問題から。自分が学校で歴史を学んだときは(だいぶ以前のことになるが)、中国や朝鮮から日本に来た人々のことを ”帰化人”と習ったように思う。
ところで、古代における「帰化」とは律令に拠るもので、元々「王化に浴する」ことが本意であり、「日本書紀」でもその語が使われているが、「古事記」では「渡来」という、それ自体は海を渡ってくるという客観的な行為を意味する語が用いられ、また政治色のない言葉ということで、”渡来人”が使われるようになってきたという。ただ、帰化といい渡来と言っても、滞在や定住、再移住などいろいろな場合があるので、編者によれば、実際に移住している人を指す言葉として「渡来系移住民」という言葉を使い、タイトルとしたとのことである。
渡来系移住民が有していた知識、技術により日本における生産技術が発展したことは一応の知識として持ってはいたが、本書を読んで、その具体的状況について多くを学ぶことができた。何といっても鍛冶生産と馬の飼育に果たした役割が大きいようだ。「渡来系移住民がもたらした産業技術」では、大和地域の南西部、葛城の南郷・忍海地域における鍛冶集団の生産方法や時代による推移が描かれ、また河内の馬生産、牧の経営、東国との関係などが説明される。
「列島各地の渡来系文化・渡来人」では、「直接」的に関係を持った西日本と、ヤマト王権を介して「間接」的に関わった東日本に分けて、列島各地域の渡来系文物が考察される。ページを繰るごとに、こんなにいろいろな遺構や遺物が発見されているのかと驚くばかり。コラムでも取り上げられているが、カマドとオンドルの話は面白かった。
また朴天秀「古代の朝鮮半島と日本列島」では、列島から出土した朝鮮半島文物を通して、当時の政治状況に着目しながら、両国(及びその地域)の時代ごとの関係を追いかけていく。金官伽耶地域、新羅、百済と、時代ごとにその出土品が変わっていくところから、いずれの国(地域)との関係が密だったかを明らかにしていくところはとても興味深い。
これらの考古学的知見に対して、文献史学からの論文も収録されている。人制から部民制への移行の問題、東漢氏、秦氏、百済王氏(桓武天皇に関する本を読んでいてこの氏族のことを知った)や高麗王氏などの渡来状況や動向、そして朝鮮半島における政情不安が多数の渡来の原因となったことなど、詳しい知見を得ることができた。
日本列島の古代を知るためには、朝鮮半島との関係をしっかりと見ていかなければならないことを改めて痛感した。
ところで、百済からの工人や仏教伝来の見返りが倭の軍事支援ということなのだが、当時の倭の軍事力というのはどの程度のものだったのだろう。それともそれなりの頭数の支援があれば助かるということだったのだろうか。
-
今から1400~1500年前、現在、日本という国があるこの地にどのような人たちが集まってきて生活が始まったのか、その経緯の考えられることについて、文献資料の面から、発掘資料の面から、これらを合わせて読み解いていく。
国際情勢の不安定度が増している情勢下、表面的な言動に惑わされることがないように、過去を知り現代を知り、考えを深めたい。 -
“渡来系移住民”を考える
ヤマト王権と半島・大陸との往来
渡来系移住民がもたらした産業技術―畿内地域の鍛冶生産と馬生産
列島各地の渡来系文化・渡来人
律令制国家の政治・文化と渡来系移住民
古代の朝鮮半島と日本列島
座談会 “渡来系移住民”と古代社会 -
千賀久「渡来系移住民がもたらした産業技術 -畿内地域の鍛冶生産と馬生産-」が布留遺跡も例にとっていて勉強になる。
それにしても、「帰化人」はダメで「渡来人」もダメとなり、代わって使うことが提言されるようになった「渡来系移住民」、文章にはいいけど口に出しては言いにくくないか。定着するのかどうか、見守っていきたい。