記憶をコントロールする 分子脳科学の挑戦 (岩波科学ライブラリー 208)
- 岩波書店 (2013年5月11日発売)
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感想 : 24件
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Amazon.co.jp ・本 / ISBN・EAN: 9784000296083
作品紹介・あらすじ
そもそも記憶は脳のどこにどのように蓄えられるのか。また短期記憶と長期記憶の違いは脳のどのようなメカニズムに由来するのか。素朴な疑問に丁寧に答える一冊。
みんなの感想まとめ
記憶のメカニズムを分子生物学的視点から探求する本書は、脳の記憶形成に関する新たな理解を提供します。短期記憶が海馬で保存され、大脳皮質へ移行する過程や、神経新生による記憶の消失と再構築の仕組みが詳細に描...
感想・レビュー・書評
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【要約】
・記憶をコントロールすることが可能になってきている。
【ノート】
・記憶には短期用と長期用(2年辺りが境目)があり、バッファとして短期用が海馬に、それが大脳皮質にあるストレージに移されて長期用になる、というのが基本構造らしい。ただし、小さい頃に大脳皮質に問題がある人の場合、脳の他の部分をその用途に使う例があるらしく、脳の不可思議な柔軟さはすごい。また、海馬の中にも短期用記憶と長期用記憶の領域分けがあるらしい。
・これら「記憶」というのはニューロンとシナプスの複雑なマトリクスコードによって構成されているわけだが、このマトリクスコードを削除することによって記憶が消滅し、このコードを脳に埋め込んだ光ファイバーを使うことで再現することによって記憶が再生されるというところまで、マウスによる実験で可能になっている。ちょっと怖い想像をすれば、ゲノム解析プロジェクトの次は、このマトリクスコードの文法(?)解析プロジェクトかも知れない。
・また、記憶を思い出している時に、その記憶の再固定化が行われており、この時にはPRPというタンパク質によって記憶の増強が行われるらしいのだが、この時に操作を行うことにより、思い出している=再生されている記憶の上書きも可能らしい(もちろんマウスで)。これはトラウマの治療にも有効たり得るのではないかと期待されているらしいが、SFだと、これにより記憶を改変された兵士なんかが出てくるのではないかと考えてしまう。なお、これは、上で述べた「海馬での短期・長期」記憶の場合。ということは、SF等で記憶を改ざんされたキャラクターが、ちょっとしたきっかけで遠い昔の記憶を呼び覚まし...というのは、海馬ではなく大脳皮質側の記憶ということなんだな。そして、そこから連想的に次々と、というのも、本書を読む限りではあり得る話に思えてくる。視点を変えれば怖い話だが。
・なお、記憶力を高めるには「DHA、EPAの摂取」、「運動」、「豊富環境」。豊富環境というのは知的好奇心が豊富に刺激される環境で、これは自分の心構えなんかにも左右されそう。以前読んだ本で時間的制約をあえて自らに課してタスクを実行するというのがあったが、この知見にもとづくものだったのか。記憶は短期と長期があるわけだが、これら3つには、短期から長期への移し替えを活発化させる役割がある。短期用バッファはなるべく空けておいた方がいいというのはコンピューターと似ているわけだ。
【由来】
・図書館の岩波アラート
【期待したもの】
・記憶の構造には興味がある。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
従来は「記憶」は心理学的視点よりアプローチされていた。本書は「記憶」を分子生物学的視点から理解していく分子脳科学について概要を説明している
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※内容は、記憶をあやつる、とほぼ同じ
記憶をあやつる=脳の基礎知識+本書
記憶、意味記憶やエピソード記憶といった、語ることができる陳述記憶と、手続き記憶や条件反射といった、語ることができない非陳述記憶とがある。また、数分から長くて十数分ほどで消えてしまう短期記憶と、それ以上の比較的最近の記憶や遠い過去の記憶(遠隔記憶)といった長期記憶とがある。
脳は、情報が入ってきたことで特定の神経細胞が刺激された場合、その神経細胞とシナプスでつながる複数の神経細胞がひとつのグループ、セルアセンブリ(細胞集成体)を作り、活動する。同じ刺激が何度も繰り返しやってくると、これに対応するためにシナプスのつながりが強くなるという変化が起こる。このセルアセンブリがひとつの記憶を保持する、つまり記憶が残るという状態になる。出来上がったセルアセンブリは、シナプスの可塑性という性質により、長期間保存される。その神経細胞への信号が途切れても、同じ信号がやってくると再度同じグループとして活動し、この再活動が記憶を思い出すという現象を引き起こす。
記憶は、まず短期記憶として海馬に保存される。海馬には、神経幹細胞があり、毎日かなりの頻度で分離し、神経細胞を増やす(神経新生)。この神経新生が海馬の記憶を消していく。消える前に、海馬から大脳皮質に転送された記憶が、長期記憶として保存される。
ある記憶に関連するセルアセンブリの神経細胞は、他の記憶に関連するセルアセンブリと重複するものがある。これにより、記憶同士が関連づけられ、記憶が連合する。あることを思い出すと、別のことを思い出す連想が起きるのは、このためである。 -
同氏の記憶をあやつると内容はほぼ同じ。記憶をあやつるのほうが内容が充実しているのではないでしょうか。
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記憶について物理的にかなり解明が進んでいることを知り、驚いた。ただし、まだまだ不明な部分もあり、まさに黎明期なんだと。この本の趣旨とは違うけど、どうすれば記憶力が向上するのか、科学的な解説が欲しかった。
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著者と堀江貴文氏の対談を見て興味を持ち手にとる。対談でエッセンスは抽出されていたが詳細を知りたく。なかなかに魅力的な説、実現すれば大きく世の中を変えてくれそうな期待が持てる研究。以下、備忘録的に。/記憶は海馬で短期保存され、大脳皮質に移され、長期記憶として保存される。海馬にある記憶は他の記憶と連合しやすく、大脳皮質に移された記憶は、連合しにくい。神経新生により海馬から記憶は消され、新たに記憶できる領域ができる。神経新生のコントロールで記憶がコントロールできるのでは、と。PTSDなど恐怖の記憶だけ消せるのでは、という説。神経新生を促進すれば、記憶力の低下もおさえられるのではという説。短期記憶は非常に不安定で、アルコール、麻酔などなどで忘却されやすい。記憶を書き換えたり連合したりアップデートするために、昔の記憶を不安定にしているのでは、という説。獲得された記憶は保持されている状態で記憶を思い出すと不安定化のサイクルに入り、再固定化されるという複雑なプロセスをたどっている。記憶は思い出さない限り不安定にならない、しかし、すべての記憶が不安定になるわけではない。意識というのは、超短期記憶ではないか、という説。
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脳科学の本。自叙伝的要素があり,若干タイトルとの乖離が見受けられるので,要注意。実践的な本とは遠く,研究の知見が簡単にまとめられています。「過去の瞬間に意識したことが記憶になって,現在の記憶を構築しているのです。」(p. 117)
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ここまで記憶をコントロールできる時代が来ているのかと突きつけられる1冊。PTSDなどの治療に用いられるのはいいが、偉大な発見と共に悪用する人も出てくる。それだけは避けたいものだ。専門用語も出てくるが、わかり易く書かれている。勉強の仕方にも役に立つ1冊。(図書館)
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記憶という現象を分子レベルから解明する研究に取り組む著者の講演をまとめたもの。
脳科学の世界は、まだまだ分かっていないことが多く、これからの学問ということなのだろうが、記憶をコントロールすることでPTSDなどへの対処を行おうとしていることなど、今後の期待は大きい分野であると感じた。 -
脳科学の本はいくつか読んだが、分子生物学的なアプローチというのは初めて。遺伝子で記憶を探ろうというのが、ある程度成功しているのに感銘を受けた。作者が農学博士というのも勇気をもらった。
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哲学者を目指していた高校生がサイエンスに目覚め分子生物学者になり、塚原仲晃著「脳の可塑性と記憶」をたまたま読んで分子脳科学者になったんだそうだ。記憶の中枢は海馬だが、全ての記憶が海馬に蓄えられるのではなさそう。短期の記憶は海馬だが、昔の記憶は大脳皮質らしい。独創的なアイデアは、一定期間考えた後のリラックスしている時に閃く。記憶力低下を阻止する方法は、運動、DHA,EPA、好奇心旺盛か?勉強は連続してやるより、分散して休み休みやる方が効率的。今、この瞬間の意識は、記憶では説明できないと言う。
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海馬
陳述記憶
エピソ-ド記憶・意味記憶
手続記憶
最近記憶・遠隔記憶
記憶を思い出すのに必要な部位と記憶を貯えている貯蔵場所は必ずしも一致しない。
遠隔記憶のある場所 大脳皮質
記憶はどのように蓄えられるか?
セルアセンブリ仮説
光遺伝学
アロケ-ション
記憶が保持される仕組み
遠隔記憶のナゾ
カハ-ルのドグマ
神経新生の役割
海馬での記憶の消去に関与する。記憶は消えるのではなく、海馬から大脳皮質に移る。
記憶と遺伝子の関係
短期記憶と長期記憶
記憶するときに、脳内のニュ-ロンで遺伝子発現やたんぱく質合成を必要とする記憶を長期記憶
そうでないものを短期記憶
シナプスの新生
シグナルの伝達
記憶はどのようにして正確に保持されるか
シナプス特異性のなぞ
シナプスタグ仮説
記憶の連合
局所タンパク質合成
新しい体験をするとその情報が脳内の海馬にある特定のシナプスに入力され、細胞体やシナプス近傍でタンパク質が合成される。脳細胞で合成されたタンパク質はシナプスタグのメカニズムによりスパインという突起の根元にあるゲートを通ることにより長期記憶が形成されてゆく。
思い出した記憶は不安定になる。
記憶は書き換えられる。
獲得された記憶は保持された状態で思い出すと不安定のサイクルに入り、再固定化される。
記憶の強化。
分散型のほうが連続型よりも効果的。
記憶のアップデ-ト -
初歩から簡単に書かれているし、最先端の内容が盛り込まれているものの、どちらもすごいなというところにはいかんかったかなあ。頭がついてかなかったか
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ハウツー物みたいなタイトルだが、脳における記憶のシステムを分子生物学から解説した本。
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若い時は記憶力が良いことだけが取り柄だったのに、今はもう見る影もありません。そこで悪あがきとは知りながら、記憶はどのように行われ保持されるかを知れば、少しは覚えたことを忘れるのが防げるのではと願いながら、今回読んだ種類の本は読むように心がけています。
この本の著者によれば、脳の研究は意外と新しいようで、私の社会人生活(もうすぐ25年)と同じ程度のようですね。ということは今も進んでいる領域のようです。
インターネットや携帯の発達で、覚えるべきもの、覚えていると有利なモノは昔とは変化したとは思いますが、記憶力をできる限りキープするのは、ボケ防止のためにも大事なことのように思います。この本のタイトルにあるように、私も、記憶を自由にコントロールができるようになりたいものです。
特に、記憶は書き換えられるほど不安定である、記憶を書き換えたり、連合したり、アップデートしたりするために昔の記憶を何等かの方法で不安定にしているのだろう(p99)という考え方は、自分を振り返って納得できるものでした。
以下は気になったポイントです。
・記憶には、陳述記憶(言葉によって他の人に伝えられるもの)と非陳述記憶がある、陳述記憶には、エピソード記憶(個人的体験に由来した出来事)と意味記憶(知識や一般的事実)がある。非陳述記憶には、手続き記憶(体が覚えている)や条件反射がある。(p22)
・他の分け方として、最近の記憶(2年以内)と、遠隔記憶がある。両者の違いは、思い出すのに海馬を必要とする(最近の記憶)か否かである(p23)
・利根川博士は分子生物学、免疫学でノーベル賞を受賞した後に、脳科学の分野に研究対象を移して、独創的な研究成果を挙げている(p36)
・リラックスしている時に閃くのは、意識に上がってこないだけで、脳内では他の情報と連合したり、照らし合わせたりして、ずっと考えているから。格言にある通り、「チャンスの女神は毎日、目の前を通っている、準備ができた人間だけが捕まえられる」(p63)
・神経新生を促進するには、1)運動、2)DHAとEPAを含む、さんま等の魚を食すること(p69)
・どうでもいい記憶は普段は忘れるが、その後におきたビックイベントによって本来なら短期記憶として忘れ去られるものが長期記憶になる(p90)
・記憶は書き換えられるほど不安定である、記憶を書き換えたり、連合したり、アップデートしたりするために昔の記憶を何等かの方法で不安定にしているのだろう(p99)
・この瞬間の意識とは、実はこの瞬間ではなく、数秒前の意識である。実際の判断と現れた意識の間に数秒間のズレがある(p117)
・記憶を獲得、そしてそれを思い出す、記憶を長いこと保持する、記憶同士を連合させる、そして知識を作る、これらすべてのことが実は意識そのものではないか(p118)
2013年7月21日作成 -
「読売新聞」(2013年7月14日付朝刊)で池谷裕二先生が紹介しています。
(2013年7月14日)
Amazonに注文しました。
(2014年1月24日)
届きました。
(2014年1月27日)
読み始めました。
(2014年2月17日)
読み終えました。
「エピローグ」の【意識と記憶の関係】【意識は記憶そのものか?】
ぞくぞくしますね。
(2014年2月21日) -
最新の記憶研究の見取り図。
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分子脳科学、特にヒトの記憶を司る「セルアセンブリ仮説」について解説した本ですが、高校生や一般向けに行なった講演をまとめなおしているので、総じて表現が易しくわかりやすい。脳科学や心理学、生態学などは複雑に絡み合っていますが、これから大きな発展が望める研究分野だと思います。私の脳はトロけてしまう前にその謎が解明され、人類の歴史の1頁が刻まれるところを見てみたいですね。
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