記憶をコントロールする――分子脳科学の挑戦 (岩波科学ライブラリー)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (128ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000296083

作品紹介・あらすじ

そもそも記憶は脳のどこにどのように蓄えられるのか。また短期記憶と長期記憶の違いは脳のどのようなメカニズムに由来するのか。素朴な疑問に丁寧に答える一冊。

感想・レビュー・書評

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  • 【要約】
    ・記憶をコントロールすることが可能になってきている。

    【ノート】
    ・記憶には短期用と長期用(2年辺りが境目)があり、バッファとして短期用が海馬に、それが大脳皮質にあるストレージに移されて長期用になる、というのが基本構造らしい。ただし、小さい頃に大脳皮質に問題がある人の場合、脳の他の部分をその用途に使う例があるらしく、脳の不可思議な柔軟さはすごい。また、海馬の中にも短期用記憶と長期用記憶の領域分けがあるらしい。

    ・これら「記憶」というのはニューロンとシナプスの複雑なマトリクスコードによって構成されているわけだが、このマトリクスコードを削除することによって記憶が消滅し、このコードを脳に埋め込んだ光ファイバーを使うことで再現することによって記憶が再生されるというところまで、マウスによる実験で可能になっている。ちょっと怖い想像をすれば、ゲノム解析プロジェクトの次は、このマトリクスコードの文法(?)解析プロジェクトかも知れない。

    ・また、記憶を思い出している時に、その記憶の再固定化が行われており、この時にはPRPというタンパク質によって記憶の増強が行われるらしいのだが、この時に操作を行うことにより、思い出している=再生されている記憶の上書きも可能らしい(もちろんマウスで)。これはトラウマの治療にも有効たり得るのではないかと期待されているらしいが、SFだと、これにより記憶を改変された兵士なんかが出てくるのではないかと考えてしまう。なお、これは、上で述べた「海馬での短期・長期」記憶の場合。ということは、SF等で記憶を改ざんされたキャラクターが、ちょっとしたきっかけで遠い昔の記憶を呼び覚まし...というのは、海馬ではなく大脳皮質側の記憶ということなんだな。そして、そこから連想的に次々と、というのも、本書を読む限りではあり得る話に思えてくる。視点を変えれば怖い話だが。

    ・なお、記憶力を高めるには「DHA、EPAの摂取」、「運動」、「豊富環境」。豊富環境というのは知的好奇心が豊富に刺激される環境で、これは自分の心構えなんかにも左右されそう。以前読んだ本で時間的制約をあえて自らに課してタスクを実行するというのがあったが、この知見にもとづくものだったのか。記憶は短期と長期があるわけだが、これら3つには、短期から長期への移し替えを活発化させる役割がある。短期用バッファはなるべく空けておいた方がいいというのはコンピューターと似ているわけだ。

    【由来】
    ・図書館の岩波アラート

    【期待したもの】
    ・記憶の構造には興味がある。

  • p.103 勉強時間について、連続型より分散型の方が効果的。
    おそらく、分散型では、覚えたことをもう一度思い出して再固定化のフェーズに入ることによって、記憶が強化されているためではないかと考えられています。

  • 福岡伸一博士の評

    https://book.asahi.com/article/11628930

  • 従来は「記憶」は心理学的視点よりアプローチされていた。本書は「記憶」を分子生物学的視点から理解していく分子脳科学について概要を説明している

  • ※内容は、記憶をあやつる、とほぼ同じ
    記憶をあやつる=脳の基礎知識+本書
    記憶、意味記憶やエピソード記憶といった、語ることができる陳述記憶と、手続き記憶や条件反射といった、語ることができない非陳述記憶とがある。また、数分から長くて十数分ほどで消えてしまう短期記憶と、それ以上の比較的最近の記憶や遠い過去の記憶(遠隔記憶)といった長期記憶とがある。
    脳は、情報が入ってきたことで特定の神経細胞が刺激された場合、その神経細胞とシナプスでつながる複数の神経細胞がひとつのグループ、セルアセンブリ(細胞集成体)を作り、活動する。同じ刺激が何度も繰り返しやってくると、これに対応するためにシナプスのつながりが強くなるという変化が起こる。このセルアセンブリがひとつの記憶を保持する、つまり記憶が残るという状態になる。出来上がったセルアセンブリは、シナプスの可塑性という性質により、長期間保存される。その神経細胞への信号が途切れても、同じ信号がやってくると再度同じグループとして活動し、この再活動が記憶を思い出すという現象を引き起こす。
    記憶は、まず短期記憶として海馬に保存される。海馬には、神経幹細胞があり、毎日かなりの頻度で分離し、神経細胞を増やす(神経新生)。この神経新生が海馬の記憶を消していく。消える前に、海馬から大脳皮質に転送された記憶が、長期記憶として保存される。
    ある記憶に関連するセルアセンブリの神経細胞は、他の記憶に関連するセルアセンブリと重複するものがある。これにより、記憶同士が関連づけられ、記憶が連合する。あることを思い出すと、別のことを思い出す連想が起きるのは、このためである。

  • 同氏の記憶をあやつると内容はほぼ同じ。記憶をあやつるのほうが内容が充実しているのではないでしょうか。

  • 記憶について物理的にかなり解明が進んでいることを知り、驚いた。ただし、まだまだ不明な部分もあり、まさに黎明期なんだと。この本の趣旨とは違うけど、どうすれば記憶力が向上するのか、科学的な解説が欲しかった。

  • 著者と堀江貴文氏の対談を見て興味を持ち手にとる。対談でエッセンスは抽出されていたが詳細を知りたく。なかなかに魅力的な説、実現すれば大きく世の中を変えてくれそうな期待が持てる研究。以下、備忘録的に。/記憶は海馬で短期保存され、大脳皮質に移され、長期記憶として保存される。海馬にある記憶は他の記憶と連合しやすく、大脳皮質に移された記憶は、連合しにくい。神経新生により海馬から記憶は消され、新たに記憶できる領域ができる。神経新生のコントロールで記憶がコントロールできるのでは、と。PTSDなど恐怖の記憶だけ消せるのでは、という説。神経新生を促進すれば、記憶力の低下もおさえられるのではという説。短期記憶は非常に不安定で、アルコール、麻酔などなどで忘却されやすい。記憶を書き換えたり連合したりアップデートするために、昔の記憶を不安定にしているのでは、という説。獲得された記憶は保持されている状態で記憶を思い出すと不安定化のサイクルに入り、再固定化されるという複雑なプロセスをたどっている。記憶は思い出さない限り不安定にならない、しかし、すべての記憶が不安定になるわけではない。意識というのは、超短期記憶ではないか、という説。

  • 脳科学の本。自叙伝的要素があり,若干タイトルとの乖離が見受けられるので,要注意。実践的な本とは遠く,研究の知見が簡単にまとめられています。「過去の瞬間に意識したことが記憶になって,現在の記憶を構築しているのです。」(p. 117)

  • ここまで記憶をコントロールできる時代が来ているのかと突きつけられる1冊。PTSDなどの治療に用いられるのはいいが、偉大な発見と共に悪用する人も出てくる。それだけは避けたいものだ。専門用語も出てくるが、わかり易く書かれている。勉強の仕方にも役に立つ1冊。(図書館)

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