ヒトはなぜ絵を描くのか――芸術認知科学への招待 (岩波科学ライブラリー)

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  • 岩波書店
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  • / ISBN・EAN: 9784000296212

感想・レビュー・書評

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  • 読んだキッカケはahddamsさんのレビュー(3月5週のBestレビュー掲載)で、目的は現在松木武彦さんの本を熟読しているので、「芸術認知科学」とは何か、概略や歴史を知りたかったため。であるが、その目的は達成されなかった。概略は、この本全体で記されている。ちょっと要約できない。

    「ヒトはなぜ絵を描くのか?」その問いと答えそのものが、とても興味深いものだった。

    ハッキリしたものでは、約4万年前、痕跡を入れるとネアンデルタール人の約5万年前から、ヒトは洞窟に表象絵を描いてきた。しかしながら、DNAの差わずか1.2%のチンパンジー(600万年前に共通の祖先から分かれた)にいろいろ絵を描かせようと試みるも難しいことがわかってきた。そこから「ヒトとは何か」が浮かび上がってくる。

    チンパンジーは描かれた表象を見分けることができる。恣意的なシンボルをある程度理解し、扱うこともできる。そして画風があるほどに描線をコントロールして描ける。けれども、顔の輪郭に「目」を入れることさえできない。2歳のヒトは出来るのに、である。

    今ここに「ない」ものをイメージして、補う。‥‥想像する力をヒトはなぜ身につけたのか?

    小説ではないのでネタバレするけれども、それは言語を手に入れたからだ。面白いのは、そのことによって「失った能力」もあるだろうと推論していることである。それは(この言葉は使われていないが)「カメラアイ能力」である。宮部みゆきが持っていると私が推測している能力、高村薫「レディ・ジョーカー」で合田雄一郎が発揮する能力、である。
    私たちは言語を持ったことによって、目に入るものを常にカテゴリー化し「何か」としてみようとする記号的な見方をしている。だから言語を獲得する前の幼児は却って「カメラアイ能力」を持っているのだという。とても興味深い。

    子供がよく描く絵の一つに「頭足人」というのがある。頭のすぐ下に足がつく。これは「胴体」という概念が子供には漠然とし過ぎているためだという。そういえば、私、頭足人たくさん描いた覚えがある。突然思い出した。

    そういうわけで、洞窟絵画の写実性は際立っている。一方、ヒトは「アート」を創造してきた。何かわからない「何か」をみようとすると、ヒトはアートとして表現する。
    「想像」と「創造」はヒトの根源から深く結びついているのである。

    • ahddamsさん
      kuma0504さん、こんばんは。
      絵を本格的に頑張ってみようと思った矢先に出会ったのが本書で、(現在進行形で)絵を描く側として読み進めてい...
      kuma0504さん、こんばんは。
      絵を本格的に頑張ってみようと思った矢先に出会ったのが本書で、(現在進行形で)絵を描く側として読み進めていました。「カメラアイ能力」は備わっていればきっと便利なものに違いありませんが、自分が見た美しいものを瞼の裏に思い描きながら描く行為も素敵だなと読んでいて思いました。(私の力ではやっぱり実物がないとちゃんと描けませんが泣)
      見えないものを想像しながら、自分の手でそれを創造するのも進化を経た人類に与えられた特権なんですね。
      今回お役に立てず申し訳ありませんでしたが汗、熟読してくださりとても嬉しいです(^ ^)♪kuma0504さんのレビューを拝読し、芸術認知科学について本書以外でも踏み込んでいきたいと思いました。ありがとうございます!
      2023/10/04
    • kuma0504さん
      ahddamsさん、とっても興味深い本を紹介してくれてありがとうございました♪

      認知科学について、一言で語る言葉を見つけきれなかっただけで...
      ahddamsさん、とっても興味深い本を紹介してくれてありがとうございました♪

      認知科学について、一言で語る言葉を見つけきれなかっただけで、本全体で、とってもよくわかりました。

      実際、弥生時代から日本各地に作られてゆく墳墓は、それまでなかったものから想像、創造して作られたものです。そのひとつひとつに物語があったはず。なんか、わたしにもつくることができる。だってヒトなんだから。そういう気がしてきました。
      2023/10/05
    • ahddamsさん
      kuma0504さん、おはようございます。
      そのように仰っていただいてとても嬉しいです(*'▽'*)
      弥生時代の墳墓…確かにそうですね!
      ず...
      kuma0504さん、おはようございます。
      そのように仰っていただいてとても嬉しいです(*'▽'*)
      弥生時代の墳墓…確かにそうですね!
      ずっと「クリエイティブ」という特別感のあるワードに気後れしていましたが、人間誰しも何もないところから何かを創造できる。それを心底感じさせる良書でした…!
      2023/10/05
  • 先日観劇したお芝居の演者さんがあまりにも素晴らしくて、帰宅早々その方のイラストを描いた。
    人物なんかは簡略化したフォルムでしか描けないが絵に向き合っている間は本当に楽しく、描き終わる頃には「あの感動をせめて等身大で、あわよくばそれ以上に表現できるようになりたい」と、妄想がえらく飛躍していた。
    漫画を読まないようにしているのもそのためである。人一倍どハマりするばかりか、自分もファンアートを描いてみたいと冗談抜きで寝食を忘れてペンを走らせかねない…。(正気に戻った時が一番恐いけど笑)

    その気持ちの興りはどこから来るのか。今もついて離れない妄想を分散させるつもりで本書を取り寄せた。
    「絵を描く」という行為を芸術と科学の観点から考察するというもの。「描きたいから描くんだ!」と言ってしまえばそれまでだが、奥部まで突き詰めていけばもっと面白い答えが見つかるかもしれない。
    いつも以上に明快な動機を胸にページをめくった。

    タイトルの「芸術認知科学」とは著者(現 京都藝大教授)が命名した、一見相反する芸術(「感性」)と科学(「知性」)の関係性を追求していく分野のこと。
    ラスコーやアルタミラといった洞窟絵画を起点に、チンパンジーとヒトの子供の描画を比較した実験の様子を展開している。
    目的は不明瞭なものの岩の凹凸を動物に見立てたり画材のバリエーションも豊富、我々の祖先は早々に描画の楽しさに目覚めていた。実験でも空白のスペースに何かを描き入れるのは人間にしかできないことで、想像力、すなわち「ない」ものをイメージする力に長けているという結果が出ている。

    前半は期待していたような「答え」は得られなかったが、ヒトが絵を描く行為に関心を寄せていくプロセスが肌で感じ取れた。
    後半の第4章「なぜ描くのか」と第5章「想像する芸術」では、絵を描きたい(あるいはその他アート作品を制作したい)という衝動がフォーカスされており、何度か冒頭の自分と重ねていた。

    ヒトの子供の例ではあるが、絵筆の動かし方によって変わる描線を「探索」したり絵具の香りを感じたりと、五感をフル稼働させる。そうして世界を知っていくことが絵を描く「おもしろさ」に繋がるんだと著者は述べている。
    完成後を眺めるのも好きだけど、描いている時が一番楽しいというのは激しく同意だ。

    極めつけは、美術家 内藤礼さんの言葉。
    「自分が感じたことをアートの中に表現したい。別にだれがしなくてもいいのだけれど、やらずにはいられない」
    美しいもの、すなわち新しい世界を知った時に身体に流れ込んでくるあの衝動。衝動が筆を動かす原動力となり、それは心ゆくまで止まらない。

    結局「描きたいから描くんだ!」に終着しそうな雲行きだが、描いている時の「おもしろさ」も彼女は渇望しているはず。そう(描きたいという志だけは同じ)自分は睨んでいる。

  • 私は絵が下手である。
    それも結構なレベルの下手さである。
    普段はほとんど小説しか読まない私がこの本を手に取ったのは、絵を描くというのは人間に先天的に備わった機能ではない、と言われたかったからだったりする。
    ある人もいればない人もいる。
    私にはその機能がまるっとないタイプなのだ、だからしょうがない。
    そう思いたかったのだけれど、この本にはそんな私の浅はかな言い訳などをはるかに越えた話が書かれていて、大変面白かった。
    チンパンジーとの比較で、人間にとっての描くということ、更には認識の核にあるものなどを探っていく。
    文章もわかりやすく、科学的な話の苦手な私にも容易についていけた。
    幾つか、面白かった部分を抜き書きしたい。

    「わたしたちは言語をもったことによって、目に入るものをつねにカテゴリー化し「何か」として見ようとする記号的な見方をしている。つまり目に入るものをそのまま認識しているつもりでも、無意識に言語のフィルターを通して世界を見ているのだ。」

    「必要のあるものだけに目を向け、それを記号化してしまう。いわば本のあらすじだけを読んでいるようなわたしたちに、子どものときのように世界を新鮮に見せてくれる。それがアートを鑑賞するときの心の作用であり、おもしろさではないかという気がしてくる。」

    言語の功罪、美術のあり方。
    そんなものまで考えさせられる、良書だった。

    しかし書かれていたことを元に自分を省みると、一般的な人間が描く「記号的な絵」のために必要な、対象を記号として捉える機能が私にはまず欠けている気がする。
    どの部分を描けばその対象だとわかってもらえる、というその「部分」がわからないのだ。
    かといって、チンパンジーが描く「写実的な絵」が描けるわけでもなく。
    うううーん、私の絵は一体何の絵なんだ。
    早く人間か何かになりたーい!

  • チンパンジーとヒトを比較した研究から、絵を描くことについてコンパクトにまとめている良書。内容は読みやすく、予備知識不要でわかりやすいが、なぜかフォントが私には見づらかったのが残念。

  • 子供の頃には同じキャラクターをいくつも描いたり、様々な色のペンで模様を描いたり、今思い返してみると何が面白かったんだろうと思うような事がたくさんありました。あれらも脳や認知の発達に必要な過程だったということでしょうか。ヒトとチンパンジーの比較(絵を補間する能力など)の話題も面白かったです。

  • クロマニョン人が絵を描いていたが、そこに筆者が注目していることは今ここに「ない」ものを描いていることだが、私が思うに、ヒトの「ない」ものを想像することは、後にヒトの「形而上学」を成立する萌芽が隠されているのではないかと、深読みしてしまいますが、いかがなものなのでしょうか。今ここに「ない」ものを想起するヒトの宿命みたいなものを感じないではいられません。今後もよく考えなければならない課題です。

    5章「想像する芸術」では、概念を拒否するアートを主題に展開されているが、子どもは、概念から逸脱した絵を大人とは違って自由に描くことを主張している。概念や言葉の手前のイメージを想像する奔放さの可能性を指摘。わたしは、言葉によらないアートの特徴を今回改めて考えされられた。

    以上のことから、絵画は、「形而上学」からとらえた絵として、また概念を拒否するアートとして成立していることに改めて考えさせられた。

  • チンパンジーの絵の分析から出発し、人はなぜ絵を描くかについて考察する。
    専門的な用語は殆どなく、全体的なボリュームも100ページちょっとであるため、かなり読みやすい。
    個人的には、記号性が人の絵や認識にどのように影響を与えるのか、という話が特に印象に残った。対象の言語化はできればできるほど良いことだと思っていたが、本書を読むと必ずしもそうとは言い切れないのかもしれないと感じた。
    刺激記号があった方が自由な発想が生まれやすい、というのは絵を描くことに限らず、仕事や趣味全般について言えることだと思う。読んだ後に実際に街へ出て色々なものを見てみたくなる本。

  • この番組をじっくり見たのは、おそらく初めて
    NHK Eテレ「又吉直樹のヘウレーカ!」
    チンパンジーと人間の子どもの描き方の違い
    洞窟絵を描いた人間、想像力、言葉を持っているか

    絵を描くのはなぜ?考えを整理するため?印象を自分のものにするため?

    ・描くことの面白さを楽しむ、結果(作品)ではなくプロセスを楽しむ 作り出されるイメージを楽しむ

    ・何かわからないものをみつめていくと頭の中にイメージの探索がおこる
    星の王子さまのウワバミ、こどものココロ

    ・作品を見るときアーティストのフィルターを通した見え方に出会うことができる

    ●記号的な見方ーー言葉を習得
    ●直感的な見方――写実的な絵 ex.洞窟壁画
    デッサンは直感的なモノの見方を身につける認知的な作業

    テレビを見てから、本も読んでみました!
    大変興味深い内容でシロートの私にも分かりやすかったです!
    著者の経歴もすごいですね
    理系から芸術系につながるとは!大変回り道をして苦労されたことと思いますが、こんなふうにいろんな切り口で考えられる人が、これから必要になっていくと思います

  • 著者:齋藤亜矢

    【書誌情報】
    刊行日:2014/02/04 
    9784000296212
    B6 120ページ 在庫あり

    円と円を組み合わせて顔を描くヒトの子どもvsそれができないチンパンジー.DNAの違いわずか1.2%の両者の比較から面白いことがわかってきた.ヒトとは何か? 旧石器時代の洞窟壁画を訪ね,想像と創造をキーワードに脳の機能や言語の獲得から考察する.芸術と科学の行き来を楽しみながら考えよう.【資料図満載,カラー口絵1丁】

    ■編集部からのメッセージ
     新進気鋭の研究者による「ヒトとは何か?」に迫る本の登場です!

     著者は,京都大学の理学部,医学研究科を経て,博士課程から東京藝術大学に飛び込んだ「変わり種」.専門を問われれば,自らの造語により本書の副題にもある「芸術認知科学」と答えるのだそうです.現在,京都大学野生動物研究センター特定助教として,熊本サンクチュアリーでチンパンジーたちと共同研究の毎日を過ごしています.

     本書のキーワードは想像と創造.ヒトの子どもとチンパンジーの行動観察を通して,芸術と科学の行き来を楽しみます.たとえばヒトの子どもは円と円を組み合わせてアンパンマンなどの顔を描きますが,チンパンジーにはそれができません.DNAの違いはわずか1.2%なのに…….
     本書は,ヒトが絵を描いた最古の痕跡――旧石器時代の洞窟壁画――にインスピレーションを受ける話から始まります.ヒトにとっては普遍的ともいえる「描く」という行為は,生存や繁殖と結びつきません.なのになぜ,ヒトは描くこと,描かれたものに魅了されるのでしょうか.この問いに,子どもの描画の発達という個体発生的な軸と,それをチンパンジーの描画行動と比較する系統発生的な軸からアプローチし,脳の機能や言語の獲得という観点から説明しようと試みます.
     そのためのヒトの子どもとチンパンジーの比較・観察ですが……,はてさて,そこから何が見えてきたでしょう.それは読んでのお楽しみ.資料図満載,カラー口絵付き.著者の個人的なエピソードを交えながら,やさしい筆づかいで,一気に読まされること間違いなしです.


    【目次】
    口絵
    目次 [iii-v]

    プロローグ 洞窟壁画を訪れる 001

    1 描く心の起源を探る旅の出発点 005
    クロマニョン人たちの絵筆/ヒトが絵を描き始めたころ/個体発生と系統発生の二つの視点

    2 ヒトの子どもとチンパンジー 015
    なぐり描きから表象へ/チンパンジーに絵筆/表象は描かない/シンボルを学習し,描かれた表象を理解するチンパンジー/チンパンジーはなぜ表象を描かないのか/チンパンジーの筆さばき/画竜点睛をかく/あいまいな形に具体的なモノのイメージを見立てて描く/洞窟壁画につながる

    3 「ない」ものをイメージする力 039
    石器製作や狩猟技術で磨かれた「イメージする力」/言語の獲得とイメージ/チンパンジーの子どもは,ヒトより記憶力がいい?/チンパンジーたちのモノの見方/木を見て森を見るヒト/動作を介した想像力/今を生きるチンパンジー/記号的な絵と写実的な絵/さかさまに描く子/さかさネコ耳図形に描く/見たモノでなく,知っているモノを描く

    4 なぜ描くのか 071
    ヒトはなぜ描くのか/描くことが「おもしろい」?/身体的な探索と内的なルール/イメージを外化するおもしろさ/イメージを共有する喜び/イメージと神話

    5 想像する芸術 087
    世界の見え方が変わる/概念を拡張するアート/概念をくつがえすアート/概念を拒絶するアート/想像から創造へ

    エピローグ 芸術と科学の間で 105

    謝辞(2013年11月 齋藤亜矢)[109-110]
    参考文献 [1-2]

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