数学 想像力の科学 (岩波科学ライブラリー)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (128ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000296229

作品紹介・あらすじ

1、2、3、…という数が実在するわけではありません。私たちはある具象物に対して、1、2、3、…というラベルを付けることで、全体の量や相互の関係を類推することができるのです。さらに具象物を構成する点や線を数値化することで未知なるものの形や性質を議論できます。そこに数学のリアリティが出現してくる、そんな数学の魅力を語ります。

感想・レビュー・書評

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  • うすい本だが内容はつまっている。
    「数学とは何か」についての本だが、数学者がこうした言わば哲学的な題材について正面から書いた本はそれほど多くない。
    数学を学んでいく中で、たとえば「多次元上の図形」なんてものを数学者は現実に目に見える形で想像できているんだろうか、などと思ったことはないだろうか。本書を読んで、数学者でも考えていることはそれほど変わらないんだとわかってちょっと安心した。
    古今のいろんな定理が例証のために証明もなしに出てくるが、これをそれぞれ証明を探して理解しながら読むとさらに面白いだろうなと思う。

  • 1320

    〈著者略歴〉 せやましろう 瀬山士郎 1946年群馬県生まれ。
    1970年東京教育大学大学院終了専門はトポロジー・193年群馬大学教員,20年定年 職群馬大学名誉教授。数学教育協議会会員、退職後は一数学愛好家に戻り数学を楽しんでいる。少年時代か、 ・探偵小説,怪談を愛読し,友人たちと月一回の児童文学の読書会を開いて4年近くになる。趣味はパズル玩 と動物の頭骨の収集。夢は次元空問を見ることと,205年の北関東皆既日食を見ること。著書に『バナッハ・ ルスキの密室』(日本評論社)。『読む数学』(角川文庫)

    科学とはどんな学問なのでしょうか。高度に発達し た科学といえども、最初は手触りのある自然や身のま わりのものを相手に、さまざまな現象の起きる理由や 仕組みを調べてきました。おそらく、観察することが 人の最初の科学的行為だったに違いありません。対象 を手に取りじっくり眺めることが科学的精神の芽生え でした。貝殻で無心に遊ぶ子どものような気持ちで、 というのは大科学者ニュートンの言葉でした。

    数学の出発点もほかの科学と同じです。子どもたち が最初に出会う数学は、「数を数えること」です。数 を数え較べることは立派な数学です。目の前にある具 体的な手触りのあるものの個数を数え、多さを比較す る。そして、三人の友達、三台の自動車、三個のお菓 子、これらに共通な概念として数3を学びます。数3 は抽象的な概念です。目の前にあるのはあくまで三個 のお菓子や三台の自動車だということに十分に注意し ましょう。こうした経験を通して、数の概念が子ども たちの中に形成されていきます。数の概念の獲得はそ れほどやさしくはありませんが、いったん獲得してし まえば、まったく自然に数を扱えるようになります。 けれども、少し分析的に考えれば、数とは想像力の産 物だということが分かります。数3そのものを提示す ることはできません。数は概念です。数とは私たちの 想像の中にあるのです。ここには数学の特徴が示され ています。

    このように、数がこの世にあるのは人の想像力に支 えられてのことなのです。1、2、3、⋯という数で さえも、ものとしては存在していない。あるのは「数 で表すことができるもの」です。数が抽象概念として 人の想像力を基盤として「存在している」ということ に注意してください。円周率だけではありません。い わば、私たちは「想像力で数を見ている」のです。

    多くの人が数学者は記号を使って研究をしていると 思っています。数学はなぜ数学記号を使うのか。それ は、記号を使ったほうが物事が明確に、簡単に、分か りやすく表せるからです。数学の想像力を自由に取り 扱うための言語、それが数学記号です。

    三角形とは概念です。人が頭の中に描く三角形は つに特定できません。しかし、これをABCと書く ことによって、「三角形という概念」を表すことがで きます。さらには数1、2、3、⋯の全体を記号Nで 表すことで、「⋯」で表される無限までも記号の中に 閉じこめることができるのです。

    外国語を含め、本が読めるようになると、読書を通 して私たちの世界はたいへんに広がります。それは想 像力という乗り物を使った、非日常的な旅、たとえば 4次元の世界への旅を経験できるということです。読 書の日的の一つに、自分が知らなかった知識を得るこ ともありますが、それだけが読書の目的ではありませ ん。抽象的な経験を通して、想像力を羽ばたかせるこ と、そしてその不思議の国の旅を楽しむこと、読書の 最大の面白さの一つがここにあります。手触りのある 具体的なことだけが経験なのではありません。直接手 で触れることができなくても、読書という経験は私た ちを見知らぬ世界へと連れていってくれる。

    いま、数学はある種の流行になっているようです。 人々が日常生活に満足しはじめ、物質的な豊かさがあ る程度満たされたとき、人は心の豊かさを求め、お金 よりも知的な関心を満たしてくれる抽象的な価値観に 憧れ、抽象的なコト、あるいは美的な価値観への関心 が高まるのではないでしょうか。生活が豊かになると はモノが溢れかえることではなく、そのような心の欲 求が満たされることだと思います。その中でも、数学 が抽象的な概念そのものを扱う学問だということが、 数学への関心を呼び起こしているのではないかと思い ます。

    もちろん、数学が多くの科学技術をその基礎で支え ている重要な学問であることは明らかです。はやぶさ やボイジャーの技術もGPSもスマートフォンも、そ の技術は数学の基盤の上に成り立っています。あらゆ る科学技術は数学の基礎工事の上に成り立っていま す。しかし、数学はその基礎科学としての性格上、表 立って役立つ姿を見せることはあまり多くはありませ ん。

    数だけではなく、形も数学の守備範囲です。形を学 ぶことは三角形や四角形、円といった私たちの日常生 活のなかにあるいろいろな形に名前をつけ、それらの 形の性質を調べることから始まって、中学校になる と、平行や合同、平面や空間などという、形といって ももう少し抽象的な、手触りのある形ではない概念と しての形を扱うようになります。少し高い立場から見 れば、幾何学とは「形をどのような視点から見るか」 についての学問だともいえます。また、数学として不 確定な現象を扱う確率の考え方も中学校で導入されま す。確率は少し想像力を膨らませて考えると、いろい ろなことが見えてくる面白い場を提供してくれる題材 でもあります。

    現在の日本では、多くの子どもたちが高等学校に進 学し、またその中の多くの生徒は微分積分学を学びま す。しかし、ほとんどの日本人がこれだけ高度な数学 を学びながら、それが知識として定着しているとはい えないようです。その結果、数学という科学は、与え られた問題を解く計算技術の学問だ、という皮相な見 方が蔓延してしまいました。しかし、そんな状況が逆 に、いったい自分たちが10年以上も学んできた数学っ てなんなのだろうかという疑問を生み出しました。こ こに「数学とはなにか」という問いかけの持つ、さら に深く知りたいと並ぶ、数学の本質を問うもう一つ 意味があります。

    数学の定理はこうして一度きちんと証明されれ ば、それが覆ることはない。数学の定理は永遠の真理 として、時間を超えて受け継がれていくのです。事実 で確認できる実証ではなく、論理で確認する論証、 れが数学とほかの自然科学とを分ける大きな違いで す。

    その意味で数学は哲 学や芸術に似ています。多くの人が数学を学びなが ら、数学とはなにかという疑問にとらわれる原因はこ こにもあるのではないでしょうか。ある数学者は「数 学とはなにか」と問われて、いま自分が関心を持ち研 究をしていることが数学だと答えたそうです。世界に は数学者の数だけの数学があることになりそうです ね

    こうして数学は、人の頭の中に想像力で存在する、 手触りのない「コト」までも研究対象としたのです。 それは考えることそのものも客観的な研究の対象とす るという数学独自の発展の姿でした。その意味でも数 学は想像力の学問なのです。

    数学とは想像力の学問である、想像力 の解放、想像力の羽ばたきとして数学という学問があ ると考えるからです。

    数学の想像力が数学記号と論 理の力を借りて、どのような世界を探求してきたのか を、もう少し具体的な例をあげて説明しましょう。そ うすることで、数学はなにを研究対象にしてもいいの だという、数学の想像力の基本的な性格も見えてきま す。

    中学生は無理数に出会い、最初はとまどいながら、 次第次第にこの数に慣れていきます。の形式的な計 算に習熟すると、無理数への違和感は消え、高校生に なれば、という数の存在を疑う生徒はいなくなるでしょう。

    「著名な」無理数に名前をつけて記号化し、その記号 をあたかも数そのもののように扱う。考えてみれば、 これは記号の一番基本的な役割にほかなりません。円 周率は無理数の中でもたいへん有名な特別な無理数で すが、これにェという名前をつけたのは18世紀の大数 学者レオンハルト・オイラーです。

    実数でさえ、 無理数ともなるとその存在は想像力に依存していま す。円周率の無限の尻尾を想像すると、本当に存在す るのかどうかも揺らいできます。実数も含めて、数は すべてイマジナリーナンバー、想像上の数です。数は 想像力の中に存在し、数が表現しているものは虚数ま で含めて、この世界の中にある、これが数を認識して いる私たちの想像力のあり方です。


    数は実数を含めて私たちの想像力の中に存在するこ とをお話ししました。実数が実在する数で、虚数は存 在しない想像上の数なのではありません。数は実数、 虚数を問わず、想像力の中に存在するのです。

    数学の想像力と無限について、最後にもう一つだけ 話を付け加えます。それはバナッハとタルスキが発見 したバナッハ=タルスキのパラドックスと呼ばれる不思 議な定理です。 中身の詰まった3次元の球体をいくつかに分割し、 それを並べ替えてもう一度組み立てると、大きさの違 う球体を作ることができる!ビー玉を分割し並べ替 えて組み立てると地球を作ることができる!どう考 えても正しいとは思えません。しかし、現代数学はこ れを数学の定理として証明してしまったのです。

    数学とは与えられた問題を公式に当てはめて、問題 の答を出す学問だと思いこんでいる人が大勢います。 また、数学とは計算技術のことだと思っている子ども たちもたくさんいるようです。数学が形式的な記号と その変形規則(広い意味での計算)で成り立っているとい うのは一定の事実です。したがって、数学を学ぶ上 で、計算に習熟することは必要です。たし算、かけ算 の規則から始まって、文字式の計算、方程式の解法、 微分積分学の方法など、数学を学ぶ上で身につけなけ ればならない技法はいくつもあり、それらを学ぶ途中 でつまずいてしまう子どもたちがいることも問違いあ りません。 ただし、これらの技法をやみくもに暗記させるとい う学習は、数学嫌いを増やすだけでしょう。大切なの は「なぜそうなるのか、どうしてだろう」という問い かけを常に頭の中に養っておくことです。一方で、計 算なんてどうでもいい、それは電卓がしてくれるのだ から、といって計算技術の習得をおろそかにしたので は計算の構造が理解できません。

    読書にもさまざまなレベルがあります。単語や文法を学ぶために本を読むという学びの読書もあるでしょう。読書 の経験を積み重ね、語彙が豊富になり、文法も分かってくると、今度は読書がこの世界を理解するための手段とし て、そして本の背後にある想像の世界を楽しむため、と広がって行きます。小説を読む楽しみはそこにあります。 数学も同じことです。数式という記号で書かれた文章を読みとることは、小学生についていえば、たし算やかけ算 の意味を学び具体的に計算できること、そしてたし算やかけ算を使用する場面を想像できることを目指しています。

    数学は形式を駆使する学問です。数学にとって形式という仕組みはなくてはならないものです。そして、数学の形 式の一番大きな特徴は、論理という歯車によって動かされることです

    こう考えると、数学者の行為は古典的探偵小説の探偵の役割に似ています。探偵は演繹論理で犯人を捜し出すわけではありません。彼の直感的推理が疑わしいと告げる人物がほんとうに真犯人であることを合理的判断に結びつけて 証明しているのです。数学者はこうして名探偵になるのです。あるいは名探偵は数学者になるのでしょう。 ほとんど数学的な正確さをもって、犯人の性質なり性格なりを説明することはできる。(ヴァン・ダイン『ベンス ン殺人事件』創元文庫)

    しかし、数学者が想像力を通して直感的に知っていることは、そのままでは数学者の個人的な知識です。もし自分 一人が納得するだけでいいのなら、ああ、これは正しいな、と思うだけでいいのかも知れません。しかし、その「事 実」を大勢の人に納得してもらおうと思ったらどうでしょうか。数学者の活動とは、想像力に支えられた個人的な知 識をすべての人と共有できる形式的な知識に変換していくことだといえるかも知れません。

  • 読書案内

  • 数学

  • 4次元の形=クライン菅。

    ゼータ関数=ζ(-1)=1+2+3+4+5+・・・・=-1/12

    オイラーの公式
    e iπ=cos x + i sin x

    1=0.9999999・・・・
    表現が違うだけ。

  • 数学とは想像力で見る科学である。

  • 参考になる内容なし。読み飛ばす。

  • 1=0.999........は成り立つ?
    無限の概念について考える。また、幾何的にメビウスの輪がなぜ成り立つのかを考えてみましょう

    http://www.lib.miyakyo-u.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=326093

  • 7月新着

  • 数式などかなり難しいところはあったが、最後の説明で納得できるところがあった。私にとって数学は芸術である。想像力を駆使し、図形のイメージや数の広がりのイメージを持てるようになれば入りやすく楽しい世界なのではないだろうか。(図書館)

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著者プロフィール

1946年、群馬県生まれ。東京教育大学大学院理学研究科修了。群馬大学教育学部教授を経て、群馬大学名誉教授。数学教育協議会会員。専攻は位相幾何学(トポロジー)。著書は『読む数学』『読む数学 数列の不思議』『読む数学記号』『読むトポロジー』(いずれも角川ソフィア文庫)、『はじめての現代数学』ハヤカワ文庫NF)、『幾何物語』(ちくま学芸文庫)、『数学 想像力の科学』(岩波科学ライブラリー)、『頭にしみこむ微分積分』(技術評論社)など多数。

「2023年 『読む幾何学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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