歌うカタツムリ――進化とらせんの物語 (岩波科学ライブラリー 262)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000296625

作品紹介・あらすじ

なんだか地味でパッとしないカタツムリ。しかし、生物進化の研究においては欠くべからざる華だった。偶然と必然、連続と不連続…。木村資生やグールドらによる論争の歴史をたどりつつ、行きつ戻りつしながらもじりじりと前進していく研究の営みと、カタツムリの進化を重ねて描き、らせん状の壮大な歴史絵巻を織り上げる。

感想・レビュー・書評

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  • 日本貝類学会 | 貝類の本の紹介 | 歌うカタツムリ―進化とらせんの物語(2020年2月10日)
    http://www.malaco-soc-japan.org/page.php?id=188

    「歌うカタツムリ―進化とらせんの物語」書評 科学の渦巻き構造、歴史も思想も|好書好日(2017年08月27日)
    https://book.asahi.com/article/11575722

    歌うカタツムリ - 岩波書店
    https://www.iwanami.co.jp/book/b287504.html

  • カタツムリを題材とした進化生物論という、凡人にはほとんど縁も馴染みもない話を、ここまで読ませる内容に仕上げた著者のサイエンスライターとしての力量に脱帽。
    一読するとその意味が味わえる「進化とらせんの物語」という副題も秀逸だし、ものの見方が凝り固まってしまうことを「3.14とはなんですか、と聞かれて『円周率!』とマッハのスピードで答えるも、ホワイトデーに思いが及ばない勉強熱心な甲斐性なしがその例である」と書いたり、とにかくライターとしてのセンスが秀逸。
    本題であるダーウィン以降の生物進化に関する学説の激突も、いい意味でプロレス的で、とっつきにくい内容であるはずなのに、読む手が止まらない。しかも、著者は若手研究者と思いきや、1960年生まれの教授で、かつ、一般向けの著書はこれが初めてという二重のビックリマークが付く。いろいろな意味ですごい本。

    それにしても、本書に数回出てくる、日本人研究者の研究成果に関するくだり…「これは世界的にも極めてレベルの高い斬新な研究だった。だが残念なことに、論文はどれも、海外の研究者の目に届きにくい国内の雑誌に発表されたため、海外にはほとんど知られることがなかった」 
    著者の無念さがひときわ印象に残る。

  • 登場人物がやけに多いので(構成上、仕方ないとは思うが)難解だなぁ、とぐるぐる考えながら読んでいたが、導き出された、簡潔かつ、美しい答えに痺れ、読み進めてよかった!と心から思った。
    カタツムリの研究の歴史を辿ることで、こんなにたくさんの進化に関する見方を授けて貰えるとは思わなかった。

  • プロローグでハワイの歌うカタツムリの伝説について持ってくるところでまずしびれた。この音を物語の最重要人物の一人であるギュリックが聞いていたというのも素敵な登場のさせ方であるし、このハワイマイマイの伝説が、最後に小笠原の歌うカタツムリにつながり、人間の作為によって絶滅してしまったハワイマイマイの運命に結び付けられるところなどは、物語の組み立てとして最高に美しいと思った。日本にもついに上質なポピュラーサイエンスの書き手が現れたのかもしれない。

    「雲海に包まれたハワイの高峰のように、孤立した高い峯の頂にひとりで上りつめてしまったギュリックの意義、その理論がもつ本当の価値は、当時の主流の生物学者たちに理解されることはなかった。その真の重要性が理解されるのはずっと後のこと。1930年代以降、メンデルの遺伝学とダーウィンの進化理論が結びつき、総合説 - 現代の進化学の枠組み - が誕生するまで待たねばならなかった」
    と第一章を締めくくり、そして続く第二章を「眼下に見える海は、白く縁どられたエメラルド色の結晶体のようで、沖に向かって、さまざまに彩りを変えつつ彼方で紺碧の空と一線を画していた」-と始めて、南太平洋のポリネシアマイマイの研究にいそしむクランプトンの話題に振っていく辺りの表現力はため息が漏れるほど素晴らしい。クリンプトンの研究は、ギュリックの中立的な偶然の変化による非適応な種分化を膨大なデータによってサポートすることになるのだ。

    ダーウィンに始まり、ウォレス、ギュリック、フィッシャー、ケイン、クラーク、ライト、ドブジャンスキー、ハクスレー、グールド、マイアなど進化生物学の対立と発展の物語がカタツムリの研究をひとつの軸にしてうまく語られる。そして中立進化説に多大な貢献をした木村資生や速水格といった日本の研究者の関係も詳細にわたって語られる。実をいうと著者の千葉氏は速水格の研究室の出身であり、小笠原諸島のカタマイマイのフィールドでの研究も本当に生き生きと語られる。

    場所によって変わるカタツムリの殻の特徴は、適応進化と中立的進化の対立に関して、具体的な分化の様子をフィールドで確認することができるため、非常に有用でわかりやすい対象であったのだ。また時代の途中から遺伝子解析を使うことができるようになったことで研究が進んでいった様子もよくわかる。

    ポピュラーサイエンスが好きな人にはぜひ手に取ってもらいたい。進化論にそれほど興味がなくても楽しめるはずだ。お勧め。

    ---
    kindle版では、位置で26%のところから参考・引用文献が始まっている。これは紙の本ではどうなってるんですかね。まだまだ残っているつもりで読み進んでいたら急に終わってしまった感があり、めちゃくちゃ長いんじゃないのと思っていたので、ほっとしたのと残念になったのと両方の気持ちがわいてきた。いずれにしても、多くの地道な研究の積み重ねによって出来上がった作品であることはよくわかった。

  • おもしろかったので、2回続けて読んだ。リチャード・ドーキンスの本を読んで、種分化を進める主要な力は自然選択で決まりと思っていたが、話はそう簡単ではないようだ。環境への適応とは関係のない遺伝的浮動も、種分化に大きな影響があるらしい。それにしても、カタツムリの研究だけを題材にして、自然選択説と中立説の論争の歴史を語ることができるとは意外だった。それほど多くの研究があるなんて、生物学者にとってカタツムリはよほど魅力的と見える。スティーブン・ジェイ・グールドや木村資生の名前が出てきたので、ドーキンスの登場を期待して読み進めたのだが、これはかなわなかった。著者が「あとがき」で「事情通の読者の中には、登場すべき重要人物がいない、と思われた方がいるかもしれません。」と書いたとき、誰を念頭に置いていたかは知らないが、ドーキンスがカタツムリの研究をしていたという話は聞いたことがないなと勝手に納得した。歴史がものの見方や考え方を拘束する例として、「3・14は何ですか、と聞かれて、「円周率!」とマッハのスピードで答えるも、ホワイトデーに思いが及ばない勉強熱心な甲斐性無し」(102ページ)が挙げられているのは、著者の実体験だろうか。余計なお世話だが。イギリスから著者の研究室にやってきたポスドクが「雨上がりの青葉山キャンパスで、たまたま大きなヒダリマキマイマイが道の上にたくさん這い出しているのに遭遇し、どれもそろって殻が左に巻いていることに感動して以来、殻の巻き方向を決めている遺伝子が何なのか、その探求のほうに夢中になってしまった。」(180ページ)という下りを読んで調べてみたら、左巻きの巻き貝は珍しいらしい。知らなかった。いつかカタツムリを見つけたら、どちらに巻いているか見てみよう。最終章のカタツムリの絶滅の話は、読んで悲しくなった。2017年8月6日付け読売新聞書評欄、日経サイエンス2017年9月号「森山和道の読書日記」。

  • 題名に惹かれて読み始めたが,副題にあるように進化と歴史の物語そのもの.カタツムリ研究に絞られてはいるが,全ての生き物に当てはまる命題.ダーウィンに始まり,宣教師ギュリックの気の遠くなるようなカタツムリ研究から綿々と続く進化の謎に迫る攻防.いろいろな学説,繰り返される理論,難しくはあるが,興味深いものだった.
    出来れば,系統樹やマイマイの写真も添付して欲しかった.

  • 「歴史とカタツムリはよく似ている。どちらも繰り返す、そして螺旋を描く。」カタツムリ研究者がカタツムリをとおして語る進化論の歴史。

    進化論争がこんなにもカタツムリのフィールドワークに支えられていたとは。カタツムリ(マイマイ)の殻の多様性に魅せられた研究者たちの執念が、自然選択派の論拠になったり、中立派の論拠になったり。
    カタツムリの模様には機能があるのかないのか、集団の隔離と進化速度に関係があるのか、鳥の捕食が進化に影響する割合は大きいのか小さいのか、進化は連続的か不連続か。有力な説が出てはゆれうごき、まだ最終決着がついていない進化論の歴史は、物語として非常におもしろい。カタツムリを見かけたら、殻の高さに注目してみようと思う。

  • 生き物は本当に美しいと思う。単純であればある程美しいと思う。全てに意味があって、無駄がなく、残酷で。恋矢の話は印象に残った。

  • カタツムリの研究史を時系列に、世代ごとの人物に焦点を当てながら紹介。登場人物はグールドしか存じ上げなかった。時代によって浸透していた考え方に違いがあるのは印象的。 個人的には海棲の貝類がどのようにして上陸を果たし、ナメクジやカタツムリに進化していったのか、の方が気になった。 環境、同種や捕食者による圧、遺伝のランダム性など、影響要素が多すぎるため、生態系への理解を深めることへの難しさがよく分かる

  • 生物学の本格的な啓蒙書を読み解くには、専門用語や立論手法に関する独特の難しさがある。本書も例外ではない。まぁ生物学に限った話ではないのだが。

    さて、本書は、ダーウィンに代表される適応説と、ギュリックに代表される非適応説が対立しながら発展していく、弁証法的な生物進化論の歴史が綴られる。

    7章 貝と麻雀での、古生物学者の速見格の弟子たちのカタツムリの生態の解き明かしがおもしろい。進化の過程が体感できる。

    最後には、役に立つことの単面性とも言うべきカタストロフィが静かに伝えられる。

    この本を読むと、同じ千葉さんが文を起こされた絵本『カタツムリ小笠原へ』の学術的な意識の高さと子供たちに伝えたいメッセージが明確に分かった。

    ※26ページに及ぶ参考文献が岩波書店のWEBにある
    https://www.iwanami.co.jp/files/hensyu/science/029662-references_1810.pdf

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著者プロフィール

1968年、神奈川県生まれ。高校教諭。
1998年、第41回短歌研究新人賞受賞。歌集に『飛び跳ねる教室』『今日の放課後、短歌部へ!』『短歌は最強アイテム』『グラウンドを駆けるモーツァルト』、小説に『90秒の別世界』、共編著に『短歌タイムカプセル』、編著に『短歌研究ジュニア はじめて出会う短歌100』などがある。歌人集団「かばん」会員。國學院大學、日本女子大学の兼任講師。

「2021年 『微熱体』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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