一時帰還

制作 : 上岡 伸雄 
  • 岩波書店 (2015年7月24日発売)
3.80
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  • レビュー :4
  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000610544

作品紹介・あらすじ

戦闘地域の真っ只中だけではない。銃後の日常でも、帰還兵たちは自身の生の極限に直面する。彼らに慰めや癒しを与える、幸福な物語や簡単な答えなど、どこにも存在しない。蛮行と信仰、罪と恐怖、不安、無力感-生々しい戦場の現実から浮かび上がる戦争の無意味さ、愚かさ、人間の悲しみが読む者の心を打つ。自身も海兵隊員として戦場の最前線に臨んでいた著者の体験を反映した本作は、二〇一四年、アメリカでも最も権威あるナショナル・ブック・アワード(全米図書賞)を受賞した。

一時帰還の感想・レビュー・書評

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  • 収録作品
    ・一時帰還
    ・断片命令(フラゴー)
    ・戦闘報告のあとで
    ・遺体処理
    ・OIF(イラク自由作戦)
    ・兵器体系としての金
    ・ベトナムには娼婦がいた
    ・アザルヤの祈り
    ・心理作戦
    ・戦争の話
    ・それが開放性胸部創でないのなら
    ・十クリック南

    これは戦争賛美の本でも反戦の本でもない。
    ただの戦場の現実。それだけ。

    最初ノンフィクションかと思ってしまった。
    それくらい、全身のアンテナが異常に敏感になっている。

    作中の人物が書いた日記は、作者の真実なのではないかと思うほどにリアル。
    “私は戦争にも気高い部分があると少なくとも考えていた。気高さが存在することはいまでもわかっている。そういう物語はたくさんあるし、そのうちのいくつかは真実であるはずだ。しかし、私がここで目にするのは普通の男たち。善を為そうとしながら、恐怖に打ち負かされてしまう男たちだ。怒りを鎮められないこと、男らしさや厳しさを示そうとするポーズ、周囲の状況よりもタフに、ゆえに残酷になろうという欲求などに、彼らは打ちひしがれる。”

    作品に出てくる男たちはゲリラの掃討部隊にいたり、従軍牧師だったり、後方支援部隊だったり、一時帰還兵だったり、除隊して大学に戻ったり様々だ。
    様々なのに、軍隊にいたことのない人間とは決定的に何かが違ってしまっている。

    “お前は以前のような物の見方、音の聞き方をしなくなる。脳内の化学作用が変わってしまう。
    周囲のあらゆる情報を取り込む。一つとして逃さない。あとになって、それがどんな感じだったかを思い出すのさえ難しい。(中略)あまりに多くの情報を吸収するから、保存しておけず、ただ忘れてしまうのだろう。次の瞬間に起こるすべてのことを吸収するため、脳内に空きスペースを作り出す。そうやっておまえは生き残る。そうしたらその瞬間のことを忘れ、次の瞬間に集中する。それから次の瞬間。次の瞬間。そうやって七か月を過ごす。”

    「兵器体系としての金」
    戦争には金がかかる。
    だから国費だけではなく、結構な寄付が送られているのだということを初めて知った。
    そして政治家にとっては、有権者に対するアピールになるということも。
    そういう生臭い部分を、善意の、戦場の実態を知らない理想主義者からの寄付を通して笑いに転化した作品。
    これが一番安心して読めた。

    「OIF(イラク自由作戦)」
    “EOD(爆弾処理班)は爆弾を処理した。SSTP(緊急展開救命医療チーム)は傷の手当てをした。PRP(人員回収処理班)は遺体の処理をした。職能08(砲兵)たちはDPICM(二用途向上化従来型弾)を発射した。MAW(海兵航空団)はCAS(近接航空支援)を提供した。職能03(歩兵)たちはMSR(補給幹線)をパトロールした。俺とPFC(一等兵)は金銭を扱った。”
    この非人間的な文章ときたら。

    一時帰還したところで、興奮しきった神経が休まることはない。
    むしろ周囲との温度差を感じるばかりで、そんなことなら線上にいた方が落ち着くくらいになってしまう。
    それは不幸なことであると自覚はあっても、どうにもならない。

    “長いこと、俺は怒っていた。イラクについて話したくなかった。だから、そこに行っていたことは誰にも言わなかった。”

  •  作者は広報担当官としてイラク戦争にも従軍した元海兵隊員。ニューヨーク市立大学の創作科で学び、ニューヨーク大学の帰還兵ライティング・ワークショップでの交流にも大きな影響を受けたという。原著は2014年刊行、アメリカ本国ではティム・オブライエン『本当の戦争の話をしよう』としばしば比較されるという。

     私一個の感覚かもしれないし、単に私がものを知らないだけなのかもしれないが、アメリカから見たイラク戦争・アフガン戦争を描いた文学テクストには、何か独特の陰惨さがあるように思う。誰もがこの戦争の意義の不在・空疎さを知っていて、にもかかわらず戦地では動く者がみな敵であるかのような酷たらしい非正規戦が展開されており、しかしメディアでしか戦争を見ようとしないアメリカ本国では、苦闘を乗り越えて得られた「輝かしい成果」が、わかりやすい数字と共に喧伝されていく。そんな中で、帰還兵たちは、いくつもの矛盾に自分の身体を引き裂かれ、ガラス細工のように壊れていく……。
     こんな壊れた心を大量に抱え込んだ社会が健全であるはずがない。アメリカ合州国が強く日本自衛隊の戦場参加を求めるのは、こうした負担にアメリカ社会じたいが耐えられなくなっているからではあるまいか?

  • まだ5編ほどしか読んでいない。暴力、流血そのもののオドロオドロしい描写はそんなに出てこない。
    だけど、どの物語も戦場での生活を日常のこととして経験した登場人物たちの言葉を通し、人間が消耗品として扱われている様子を浮かび上がらせていて、読んでいて疲れるし救いようのない気持になる。正直、全編読み切れないと思う、というか、もう読みたくない。著者のクレイ自身は「祖国に奉仕したことに誇りを抱いている」らしいが、その誇りというのが…というか、祖国愛というのが、そもそも私にはよくわからない。とにかく、戦地にはどんな大義も存在しない、ただ虚しさしかない、ということをわからせてくれるこのような文学が、この先もう生まれ続けることがありませんように。

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