誰がネロとパトラッシュを殺すのか――日本人が知らないフランダースの犬

著者 :
制作 : ディディエ・ヴォルカールト  アン・ヴァン・ディーンデレン 
  • 岩波書店
3.23
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本棚登録 : 124
感想 : 14
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000610858

感想・レビュー・書評

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  • 原作の意図とは異なる解釈で、ラストシーンが描かれていたとは知らなかった。キリスト教的な、天に召されて救われるという事ではなかったとは・・・。文学は、異なる文化的背景により、解釈されていく。それはそれで、正しいあり方なのではないかと思う。

  • フランダース地方、雪、ほとんど、降らない。

    思わず片言になるくらいの衝撃。
    えええーそれじゃあネロとパトラッシュは何であんな目に?!
    その答えはここに。
    その先、作者の生涯もなかなかに劇的。
    しかしこの本、書いたのはフランダースの方なのだけど、小説と実際の環境だけでなく、アメリカの映画版、そして日本のアニメ版との比較もされている。
    連続アニメについては、1話ごとに内容を書く熱の入れよう(日本のアニメ大好きな方らしく)。
    実は私はあのラストシーンとオープニングくらいしか見たことがないのだけど、よくわかりましたありがとう。
    フランダースでこの作品を観光に活かすかどうかという章は、なかなか考えさせられる。
    観光したがる日本人は毎年大勢行くそうなのだけど、フランダースの人からすれば、過ぎた昔の貧しい暮らしを掘り起こされるなど迷惑だし、あちこちオランダと混同しているし、ていうかまずその作品知らないし!だそうで。
    確かに、日本も今更サムライハラキリで何でか中国風の飾り付け、なんて映画を見たら叩きまくるだろう。
    むしろ、アニメの幻想だけでそれを求めて観光に行くのがちょっと幼稚なのかも…いや、私も知らなかったら見たいと思うけど。

    ところで、かなり強いこのタイトル、あまり内容に合っていない気が…。
    最後の日本の方の解説には沿ってたけど。
    この解説が私には一番面白かった。
    ハッピーエンドに改変した翻訳もあったとは!

  • kindle化されていなかったのでかなり久々に紙の本で読んだ。紙の本を読むのは3年ぶりぐらいな気がする。

    フランダースの犬について。
    ・ベルギーのフランダース地方(北側)で殆ど無名だが、日本では悲劇としてアニメ化され、アメリカではハッピーエンドで映画化された、イギリスの作家の作品。

    ・1872年、イギリスの作家であるウィーダは真実を織り交ぜる系のデフォルメが好き。なので本作も様々なフランダース地方っぽくない情景が描かれる。
     ー積雪なんてあんまりしないのに150センチも積もる雪。(12月の平均降雪日数は4日。過去最高積雪17cm)
     ーそもそも衣装や家の作りがフランス。(
     ーそもそもネロの出身がアルデンヌ地方(ベルギーのオランダ側)でマース川沿いのディジョン生まれとなってるが、ディジョンはフランスの街だしマース川沿いでもない。
     そもそも論として、ウィーダの作風がこういった各地のいいとこ取りから妄想される舞台である。
    ・半世紀に及ぶベストセラー作家だから金持ちなのだが、金遣いが荒すぎて金が無いタイプの女性でフランス人とのハーフ。
    ・時代背景も、1872年の前年まで普仏戦争があった。
    ・無類の犬好きで、かつしつけはしないタイプで大量の犬と母親とメイドで行動していた。フランダース地方は戦争の影響もあり犬を労働力として使っていたのでその揶揄も含まれていた様子。(また、自分の半分を流れるフランスの血がベルギーを罵りたかったのかも)

    ・元ネタは短編小説で、画家を目指す貧しい少年が虐められてた犬を引き取って牛乳配達しながら、貧しさに負けて犬と一緒に雪道で野垂れ死ぬ話。

    ・アメリカ版フランダースの犬は、画家を目指す少年が無事画家になるというハッピーエンド。所謂アメリカンドリームを実現する話。
    ・日本版は最後は教会で息を引き取り天使に連れられて天国に行く。

    ・日本版、実はスポンサーのカルピス社長が敬虔なクリスチャンで、キリスト教的考えを広めようとして作った。また、日曜夕方の家族で見る時間帯なので、家族愛に溢れた仕様に変わっている。

    ・フランダース地方では、ホーボーケン(ネロの家)とアントワープ(牛乳売りに行った都会)が観光名所となるべきだが、ホーボーケンはアントワープに行政統合されており、ホーボーケンに銅像があるがアントワープ側には小さいモニュメントがあるだけ。アントワープ側をこれ以上名所にしたらホーボーケン側が文句を言う。ちなみにどちらももはやかなりの先進都市化しているらしい。(元々、あの長閑な風景はそもそも存在せず、オランダ的な雰囲気だが)
    ちなみに、オランダとベルギーは中国と日本みたいなものなので、よくある上海とかの雰囲気が日本として描かれているのがフランダースの犬を現地人が見た時に思うもの。天使が連れていく描写は失笑ものらしい。

  • 自分の文化が海外からどの様に見られているかを目の当たりにすることは,心地よいことも心地悪いこともあって,外国の人からしたら「賞賛」の対象でも,自国民としては「それはちょっと…」って事は当然あって,「フランダースの犬」が,まさにフランダースの人々にとっては触れてほしくない,あるいは見て欲しくない姿なのだろうとは容易に想像がつく.日本人だっていつまでも「スシ,ゲイシャ,ハラキリ,サムライ」では,「そりゃちょっと…」となるだろう.
    とはいえ,フランダース地方を訪れた経験からすると,アントワープは,大変友好的だったと言う印象しかなくて,日本で11年働いていたと言うウェイターに,日本語で見所を教えてもらい,ノートルダム大聖堂では,後ろから「日本の方ですか?」ときれいな日本語で話しかけられ,振り向けば青い目の金髪の青年が,日本語のパンフレットを手渡しながら「今日はオフィシャルな日本語ツアーがない日なんですが,私で良かったら案内します」と,ガイドを引き受けてくれたり,Dekonink目当てに入ったビアバーでは,周囲の皆さんから「日本から来たのかぁ!」と歓迎してもらい…フランダースの犬なんか無くても1000%楽しめたわけで,筆者が言うほど,日本人はアントワープに失望してないですよ,とは伝えておきたい.

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