トランペット

著者 : ジャッキー・ケイ 中村和恵

• 岩波書店 (2016年10月29日発売)

感想・レビュー・書評

[lonesinkerさんの感想 · 2023年10月8日]

著名なジャズ・トランペッターのジョス・ムーディが死んだ。しかし50年添い遂げた妻ミリーが寡婦となった悲しみに静かに浸ることを、世間は許そうとしない。まるで、死んだ男の体がもっていた特徴の方が、彼の音楽や愛や人生そのものよりも重要な事実であるかのようにーー。
身体上の性別を絶対視する社会の中で、それと違う生き方をする人たちのことを、周囲の人びとを騙し欺く犯罪者であるかのように語るストーリーがいかに滑稽で的外れか、1998年に書かれたこの物語は、静かにゆっくりと明らかにしていく。
多くの語り手たちの中には、ショックのあまりに死者への敬意を忘れてしまう人びともいてミリーを苦しませるが、なかでも養子である息子のコールマンがハゲタカジャーナリストに協力してしまうさまを読むのは辛い。養子であること、黒人であること、著名な父の下で何もなせないという屈託を抱えていた彼が、着衣と秘密を情け容赦なくはぎ取られた父の体をいきなり葬儀屋に見せられ、裏切られたような気持ちを覚えてしまうのも理解できなくはない。
それでもこれは辛いだけの物語ではない。ジョスの死後に初めて出会ったり記憶を思い起こす人びとの語りは、単一の側面で人間を切り取り語るようなシングルストーリーをくつがえす豊かさを示す。コールマンもまた、ジョスの母親に出会うことを通して、自分の屈託を大きな流れの中に置き直すことを学んでいく。
小説の最後、ジョスが息子に残した遺言には、場所を変え名前を変えながら旅を続けてきた人々の記憶が響いている。彼らがどんなストーリーを語ろうとも、たとえそれが信じられず未来に残されないとしても、人びとは物語を託して去っていくのだ。
ジョスのモデルとなったトランぺッターは実際に存在していて1989年に亡くなったという。

[643096さんの感想 · 2019年4月4日]

最初タイトルに違和感
読後は納得
なんとも面白いお話でした

[castagnaさんの感想 · 2019年2月19日]

原題TRUMPET by Jackie Kay


人気者のトランペット奏者ジョス・ムーディが死んだ。
妻キャンベルは彼の死によって明らかにされた事実が息子コールマンを困惑させ、自暴自棄になっていることに心を病む。いや、人生のパートナーを失って混乱している。そのくらい二人は一つだったから。ある事実を共有して。
コールマンに取り入るフリージャーナリストソフィー。
キャンベルはジョスの故郷スコットランドのトールへ。ここなら、ジョスに関する追っかけも来ない。

家と家族 ーミリー（妻ミリセント・マクファーレン）
人々医師ークリシュナムルティ医師
ニュース ーコールマン（養子ウイリアム・ダンスモア）
人々戸籍係ームハンマド・ナサール・シャリフ
家と家族ーミリー
人々葬儀屋ーアルバート・ホールディン
インタヴューーコールマン
金ーソフィー・ストーンズ
音楽ージョス？（ジョス・ムーディ）（ジョゼフィン・ムーア）
セックスー
人々ドラマーービッグ・レッド・マコール
家と家族ーミリー
投稿
インタヴューーコールマン
人々ー掃除人マギー
旅行ロンドンーコールマン
家と家族ーミリー
訃報
ホテルーコールマン
今日のテレビーイーディス・ムーア
室内ーコールマン
スタイルーソフィー
家と家族ーミリー
顔ーコールマン
人々同級生ーメイ・ハート
解説
ホテルーコールマン
今週の星ーイーディス・ムーア
ホテルーコールマン
解説
室内ーソフィー
家と家族ーミリー
旅行海岸通りーコールマン
遺言ー父の手紙
共有ー？

二人のラブストーリーは切ない
結局、なぜなのか、ではない。


ビリー・ティプトン
https://www.google.co.jp/amp/s/lifes-bright.com/billy-tipton%3famp=1

映画「深夜の告白」https://ja.m.wikipedia.org/wiki/深夜の告白

[猫丸(nyancomaru)さんの感想 · 2018年1月9日]

BOOKMARK 第10号 特集『わたしはわたし、ぼくはぼく』掲載
http://www.kanehara.jp/bookmark/

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「家族にはそれぞれ他人にはいえない秘密があるもんさ」──人気のジャズ・トランペット奏者，ジョス・ムーディが死んだ．その遺体が露わにした驚愕の事実にマスコミは大騒ぎ．混乱する息子，追いこまれる妻を，ゴシップライターが追う．それぞれに辿り着いた〈本当〉の〈彼〉とは？　恋と愛とセックスと音楽，そして家族の物語．
https://www.iwanami.co.jp/book/b266362.html

[アヴォカドさんの感想 · 2017年3月16日]

私にとっては、せつないせつないラヴストーリーだった。
魅力的で音楽的な天才で、周囲には理解されないだろう人生を生き抜いたジョス。彼をとことん愛したミリセント。その2人の甘い生活として閉じておいてほしいとも願わずにはいられなかった。
どんなマイノリティだろうと、愛し合ってしまえば互いにとって特別な人であることに違いはない。

愛について、家族について…あれこれ思うと胸がしめつけられる。

[乱読ぴょんさんの感想 · 2016年11月12日]

（11/3一読、11/12二読）