壁の向こうの住人たち アメリカの右派を覆う怒りと嘆き

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  • 岩波書店 (2018年10月29日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (464ページ) / ISBN・EAN: 9784000613002

感想・レビュー・書評

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  • 米国最貧州のひとつルイジアナ州のメキシコ湾に面し、古木の森と湿地地帯の広がる豊かな自然にめぐまれたレイクチャールズ市。沿岸部はエネルギーベルトと称される産油地帯でもあり、世界に名だたる大手石油関連企業がこぞって進出している化学工業地帯。当然、環境汚染は深刻で、がんの多発地帯としても知られる。事故による原油流出、有害物質の漏出など、問題は後を絶たないが、被害に対する補償は十分になされていないようだ。それでも白人が多数を占める住民たちは、環境規制に反対し、企業の自由な経済活動を擁護する共和党を支持している。税金が企業誘致に使われても文句を言わず、雇用創出と税収増のためと受け入れる。現実には雇用は外国人労働者に奪われ、企業は州政府から法人税を免除されたうえ、利益は海外や州外の本社に回収されているというのに。

  • 一見すると米墨国境の向こう、つまりメキシコ人のことかと思うようなタイトルだが、「壁」とは心理的な壁のことで、民主党支持のリベラル思想を持つ著者が、共和党右派の考え方を知りたいと思って行ったフィールドワークの本。規制が緩く環境汚染がひどい南部の町で、なぜ、環境保護規制に反対する人が多いのかといったパラドキシカルな事実を現地でのインタビューから分析している。中々重たい中身だし、アメリカ気質、特に、南部人の基本的な考え方を知らない故に、内容がよく理解できたとは言えないが、白人男性というだけで、黒人とか性的少数者などの「マイノリティー」の問題について差別主義者のように扱われかねないという懸念やフラストレーションは分かるような気がする。政治的に正しいことでも、それを押し付けられるのはごめんだという考え方は、国を問わず、人々の間に溜まってきていて、ポピュリズムのような形であちこちで噴出してきているのではないだろうか。その意味で、本書が書かれたことは、著者の先見の明を感じる。

  • トランプ再選に伴って、アメリカ右派の考えを知る一冊として読んだ。これはトランプ1期目の前、ティーパーティー運動が全米を席巻していた頃の本なのだが、ホックシールドが描いていた問題は何ら解消しておらず、むしろ重篤化している。

    右派であれ左派であれ、人々は「その人のなかで真実だと感じられる物語」を生きている。本書ではそれを「ディープストーリー」と呼んでいる。アメリカ右派のディープストーリーというのは以下のようなものだ。

    自分たちは何の援助もなく、アメリカンドリームを掴むために耐えてきたのに、「リベラル」は自分たちを差し置いて、自分たちの金を使って他の人を優遇する。「誰を優遇すべきか」はリベラルのお眼鏡にかなうかどうかで、自分たちはそのフレームの外側にいる。

    実際、1950年生まれ以降のアメリカ人のほとんどは経済成長の恩恵を充分に受けられていない。アメリカでは貧富の差が広がることで良い暮らしを手に入れる難易度が上がっているが、DEIのおかげで白人はもっと厳しい思いをしているという自認がある。この感覚を端的に言い表したのが以下の表現だ。

    右派の人々のディープストーリーの中では、税金を「払う者」と「奪う者」という文脈で「不当」が語られる(pp.213)

    最近の国民民主党の躍進を見ていると、日本もこの領域の手前にいるのだと強く感じる。

    では、ディープストーリーを信じている右派は「嘆かわしい人たち」なのだろうかというと、そういうわけではない。

    様々なマイノリティが同情をひくなかで、エネルギー産業という「地球を救うのに役立たない領域(pp.300)」で働いてきた白人男性は置き去りにされた。そして1970年代以降、アイデンティティ・ポリティクスと「被害者性の時代」が理念としての公正さ(フェアネス)を消し去ってしまった。その結果として、多くの白人男性が「政治的正しさを取り締まる警官」に見張られているように感じていたのだ。(pp.323)

    > 米国で生まれた異性愛者の白人男性は、ほかのアイデンティティが脚光を浴びた1960年代と1970年代に、時流に取り残されて、長年、ジレンマに直面してきた。これに対し、トランプは、解決策を示した。白人男性にとってトランプは、アイデンティティ・ポリティクスを提唱する候補者だったのだ。(pp.326)

    トランプは白人男性にとってのアイデンティティ・ポリティクスであるという指摘が重い。知識人がリベラルなアイデンティティ・ポリティクスを擁護してきてしまった以上、この流れは止めづらい。

    もちろん、アメリカの崩壊は様々な要因によって起こっているのだが、社会統合が主因の一つだということは言えるだろうし、その理解のためにも一読を勧めたい。

  • 今年一番の本。バークレーの女性社会学者が、ティーパーティの本場ルイジアナに入り込み、インタビューを重ねて、壁の向こう側の人々の「想い」を共感的に感じ、言葉化した本。

    南部の人々が心の奥底に持っている「ディープストーリー」は、共感できるストーリーだった。自分たちは、アメリカンドリームを目指して、真面目に列に並んで、頑張っているのに、政府は、アファーマティブアクションやら、性の多様性、シリア難民、はては、石油まみれのペリカン(地球環境)まで、自分たちの前に、別の人たち、別のグループを割り込ませる。そして、自分たち白人労働者は忘れられている。そんな、政府は頼りにならない。企業の違法な環境汚染に一番悩まされていて、一番、政府の援助が必要なのにも関わらず、このディープストーリーを持つ人々は、声を上げずにいる。

    アメリカは内戦の危機にあるのではないか、という声もあるが、心の奥底のディープストーリーの差はなかなか埋められないのだろう。

    また、この構図は、アメリカにとどまらず、今、どの社会でもあるようにも思うので、われわれも他人事ではないかもしれない。

  • 大島隆『芝園団地に住んでいます』(明石書店)p.199-p.203

  • 感情労働で有名なホックシールドによる、南部アメリカの右派白人がどのようなナラティブ(この本の中では”ディープストーリー”)を持っているのか分析した大作。一見ルポタージュのように読めるため、非常に読みやすいのだが、その中身は重い。アメリカという国の中での貧富の差の大きさに驚き、また人々の中にこれほどの思想の断裂があることが分かるからだ。

    アメリカンドリームは、努力したものが報われる、という物語。ということは、努力していないものが報われてはおかしい。属性だけでアファーマティブアクションしてもらえるのも変だし、税金が生活保護に使われているのも腹立たしい。そのため、小さな政府を希望する、という風に説明されている。なるほどそのように考えればトランプ氏は、努力して富豪になった一流の人、ということになるわけだ。
    本書にはマックス・ヴェーバーは引用されていないが、キリスト教と資本主義が相性がいいということも納得できる内容だった。

    最終的に本書はリベラルと右派の間を繋ぐことができないか(例えば環境問題等では共闘できるのではないか)という視点から描かれているため、読後感も良好。アメリカに旅行する前に読むと見えるものが変わりそうな良著。

  • アメリカの右派支持者は、なぜそのような政治的信条を持つに至ったか。カリフォルニア大学で勤務するリベラル派の社会学者が、ルイジアナ州在住のティーパーティー運動支持者へのインタビューと参与観察をもとに考察した本。
    ルイジアナは、アメリカで2番目に貧しい州。石油資源を持つが、製油所と石油化学工場のずさんな管理により河の汚染がひどく、採掘による大規模な災害も経験した。そこに住む人たちが、生活が楽ではないにも関わらず政府の介入を嫌い「小さな政府」を望むこと、環境破壊によって苦しめられている地域の人の方が企業への規制緩和を唱える政治家を支持すること。損得勘定で考えれば逆になるはずの、これらのパラドックスの解明が、著者の問題意識である。
    読み解くキーワードは「ディープストーリー」。事実ではなく本人にとってそのように感じられている感情のストーリーを理解すること。登場する人々は真面目で辛抱強く、家族や地域を愛する生活者である。筆者はその人たちの話に耳を傾けていく。
    そこから描かれるディープストーリー。資本主義を信じ、多くの犠牲や努力を払いながらも、自分に運が巡ってくることを待っている順番待ちの列。そこにマイノリティが割り込んでくる。自分たちもまた弱者であると感じつつ、そう主張したくない心理。マイノリティへの同情を強要されている、自国に暮らしながら異邦人のような感覚。ドナルド・トランプの登場が、そのような不満を一気に昇華させたのも当然と思われる(第15章)。
    一方、そうしたディープストーリーの論拠となるいくつかの説、たとえば「環境への配慮と雇用の増加は両立できない」等が、数字に基づくと事実でないことも著者は述べている。(付記C「右派の共通認識を検証する」)ごく堅実で勤勉な生活者たらんとする感覚が、結局は大企業に都合の良い論理に絡めとられている。
    政府の介入に強い抵抗が示される一方で、福音派の教会(第8章)が公共を担うひとつのプレイヤーとして根付いている様子も興味深い。典型的なのが、税金を取られることには不満を持つ一方で、教会への献金には素直にお金を出すこと。アメリカ社会について考える時、教会を無視することはできないのだと思わされる。
    昨今の社会情勢を危惧して「感じるな、考えろ」と言っていた人があった。さらに大事なのは、分かり合えない他人が何を「感じて」いるか「考える」こと。著者のいう共感の壁を乗り越える手段。
    あとがきで気づいたのだが、この著者は[ https://booklog.jp/item/1/4790708039 ]で感情労働という概念を提起した人。言われてみれば目の付け所が共通ではある。

  • トランプ大領領の支持者は関税化、法人減税等の自分たちの経済的利益を損なう政策を実施しているにも関わらず、依然として支持続けるのは何故かということがこの本を読めば理解できる。筆者はフェミニスト社会学の第一人者であり、2011年から5年間にわたり、ルイジアナ州に長期滞在し、コアなトランプ支持者に密着取材して、彼らの心情を詳らかにした。メディアは彼らを白人至上主義と単純化しているが、多くは善良な市民であるだけに、余計、問題の根の深さを感じた。

  • 壁、というのは、共感の壁。米国の左派と右派の間の壁。
    トランプ大統領が最初に選ばれた時の「理由」を分析したというか、「右派」をフィールドワークした本。

    インテリ層が、「右派」をフィールドワークの対象にするというところ自体がもう、分断の深さであろう。全く理解ができない研究対象なのだな。

    右派もわけわからん。
    仕事が欲しければ環境はどうなってもいい的なところに完全に目を瞑る。
    政府は悪だが、州は味方。

    みんな都合のいいところばかり信じている。というか、明らかに利用されてる感じはある。

    昔は良かった。あのままならアメリカンドリームもあった。
    「なにか」がそれを壊した。俺たちの列に、本来入るべきでないものたちを割り込ませている。なぜ、俺たちは何も変わってないのに、こんな目に遭わせる。

    名誉と、信仰と、税金、だっけ。大事なもの。わかる気もするが。

    国の起こりがそもそも、欧州の伝統から逃げて来た人たちだし、大した歴史もないし。

    綺麗事の下には、今だけ俺だけ金だけという、どこぞの奴らとあんま変わらんマインドがあったりもするし。

    ディープストーリーという考え方とか、偏見なく、またあってもそれを修正しつつ書かれている、本としてはいいと思うのだが、まとまりがないと言えばまとまりもない。

  • 伊藤 裕顕先生のおすすめ本
    マネジメント学科
    マスコミュニケーション論参考書
    ーーーーーーーーーーー
    宮代キャンパス
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  • なぜ分断は、なぜ起きるのか?ーお互いの現実を理解していないから。
    なぜ、環境被害を受けているのに環境規制に反対するのか?ー「産業活動による大気汚染は環境にとって危険」だと思うが、「人類の進歩が環境を損なうことについて、人々は心配しすぎている」と思っているから。
    なぜ、共和党トランプ支持をするのか?ー自分たちと同じ考えで推進してくれると信じているから。
    これらの疑問の回答が、少しわかった気がする。

    右派の共通認識の検証結果、ほぼ間違っている事実を伝えられても、残念ながら、簡単には受け入れられないのだろう。全体の数ではなく、目の前に(本当はないがあるように)見える事実の方が、真実なのだ。

    その汚染された土地を愛し、その土地からは寝られない人たちにとっては、自分たちのリスクを政府や左派が見下して勝手に外から押し付けてきているように思うのだ。
    そして、「列に並ぶ」自分たちの前に「割り込む」物に対してズルいと思う。
    一方、「右派の人々は裕福な人々に共感し、左派は、貧しい労働者に心を寄せる傾向がある。」

    2018年に発行された本が今、まだ同じ構図で分断が続いている。

  • ふむ

  • なぜトランプが米国でメジャーになれたのか、ここに書かれたような、日本では言及されることがほとんどない人たちの存在を知らずにして、理解できる訳がないと思った。米国のことを、全然理解してなかった。もしかして、米国人の多くもそうなのかも。

  • 好意的に捉えれば、思想の違う人々への理解を深めようとしているように見える。
    悪意的に捉えれば、彼らの矛盾を積極的に際立たせに行っているように見える。

  • 私は保守派の人をざっくり言うと「田舎者」のイメージで捉えていました。
    人はいいんだけど、考え方が古いし、コミュニティ第一だし、って。筆者からも(この本の書き方からも)、保守派を見下している部分があるように所々で感じました。

    でも、この本を読んで、保守派の人が何に憤りを感じていているのかを知り、「田舎者」というイメージで捉えてはいけないのだと教えてもらいました。

    でも、ここが本当に難しい所ですよね。
    リベラル派も保守派も、個人個人・個々の点ではお互い理解し合えるんですよね。でも、政治の舵取りとなると、途端に票を相手方に入れることはできなくなる。
    この辺りが、資本主義にがっちり首根っこを押さえられてしまった民主主義の、限界とは言いませんが、難しさなんでしょうね。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/784451

  • 左右両派の対立・分断が深まるアメリカ。保守派はリベラル派のことを、怠け者を助け道徳を損なうとみなし、リベラル派は保守派のことを、頑迷な愚か者だと考える。まったく違う価値観ゆえに、両者はまるで違う国に暮らしているかのようだ。
    代表的な「青い州」カリフォルニア・バークレーに暮らすリベラルな研究者である著者は、「赤い州」ルイジアナのティーパーティ支持者たちを、2011年からトランプ大統領が誕生した2016年までの5年間にわたって訪ね、インタビュー調査を行った。リベラル派と保守派の間にそびえたつ「共感の壁」を克服しようと、事実に関する分析の多くは補遺に置くなど、研究書というよりも旅のエッセイのように、極右派を支持する人々の心情に分け入っていく。

    本書でなによりも衝撃的だったのは、豊かな自然で知られるミシシッピ流域に広がる汚染の、尋常でない深刻さだ。石油産業の排出する化学物質によって、木々は立ち枯れ、カメの目は白く濁り、川の水を死んだ家畜は死ぬ。地域の人びとの間には癌が多発している。川に落ちた馬は、全身がゴムのようなものに覆われて死んだという。
    2012年には湖の底に大穴が開いて、湖水や周囲の膨大な土地を飲み込むという、まるでSF映画みたいなことが起きた。さらにその穴から毒素が地上に噴出してくる。なんといくつもの企業が、この土地の地下にある岩塩を採掘するだけでなく、地中にできた穴に汚染物質を捨てていたのだ。
    住民たちは、自分たちの生活と健康を損ねた企業に対する賠償や規制強化を求めたか? 彼らは、連邦政府は何もしない泥棒であり、環境保護主義者たちは気にしすぎだという。そして自分たちのチームの一員だと考える石油会社に対するいかなる規制にも反対した。その結果、権限も予算もやる気もない州政府に残された仕事とは、水銀に汚染された魚を釣って食べる人向けに、皮や脂身をできるだけとりのぞくようアドバイスするだけだ。人々は環境汚染からなるべく目を背け、今までどおりに漁や狩を楽しみ、政府に依存せず、自助と信仰にもとづく生活を前向きに続けようと努力しながら、ティーパーティを熱心に支持しているのである。

    この、理性によっては理解できない人々の反応を理解するために、著者は、象徴的な感情の枠組み、「ディープ・ストーリー」に着目している。ルイジアナ州の保守派の人々が共有するその心象風景とは、丘の向こうにあるアメリカン・ドリームを手にするために、自分は何年も長い列に並んで辛抱強く待ってきた。しかしいつまでも叶えられそうにない間に、列の前方には、女性や黒人や難民たち、動物たちまでもがどんどん割り込んでくる。その不正を手助けしているのが連邦政府だというものだ。
    この解釈によって、痛めつけられながらその巨大な足を支持する人々についての理解が容易になるかというと、正直なところ、なおよくわからない。ただ少なくとも、我慢に我慢を重ねた人々はいつか臨界点に達したとき目が覚めて爆発する、という革命の夢もまた、右派のストーリーと同じくらい現実味がないことは確かだ。気候変動や環境汚染などあきらかな危機が迫っているように見えたとしても、多くの人びとは、自分のもっている解釈枠組みを通してしか世界を見ない。圧倒的な力の前に逃げ場をもたないと感じる人たちにとっては、権力が提示するレンズを受け入れ、それを通して世界を見ることの方が、より心地よく感じられるのかもしれない。
    とはいえ、アメリカは独裁国家ではなく選挙が行われる民主主義国家だ。どれだけ環境の危機が目前に迫っていようが、圧倒的な産業の持つ構造的権力をなかなか否定しがたいというのも、福島原発事故を見れば一定程度は理解できるものの、それでもここまで現実から目を背けて、自らの被害者性を認めようとせず、むしろ政府による規制や再分配を否定しようとするロジックが、なぜアメリカにおいては政治的にこれほど機能してしまうのか、やはり謎は深まる。
    いずれにしても、もうひとつ強く印象に残ったのは次のことだ。ある地域が企業の投資先に選ばれるためには規制を強くしてはならないと言う人々がいる。しかしそれは企業の側からすれば、どんなに有害な影響をおよぼそうが、最も抵抗する可能性の低い人口になるということなのだ。なぜわたしたちは自らそのような犠牲者の位置にすすんでつこうとするのか。謎はまだ探求されねばならない。

  • 当初は「アメリカン・プリズン」(シェーン・バウアー)と同じく、北部のインテリベラルによる南部の負け組へのどうしようもないウエメセ、断絶を感じた。
    だが、中盤も過ぎて著者が「赤い州」の感情への理解(共感ではない)を深め、それを詳しく読み解いていくにつれ、読んでるこっちは逆に覚めていった…だって、南部人たちが嘆く「失われたもの」って、それこそがあんたたちが女性や黒人たちから奪ってきたものだよね?
    要するにインセルと同じ。その昔、他人を踏みつけることで一部の人間にのみ与えられていた「一人前以上の人権」を、「当たり前の一人分」だと思ってる。んで、それのない自分は「不当に迫害されているんダー!」。寝言は寝て言えとしか。
    「あいつらが列にどんどん割り込んでくる」って、「昔は俺たちしか並べなかったんだ。あのままの競争率だったら、俺の番だってとっくに来ていたはずなのに」てことでしょ?
    底辺の仕事を「真面目にコツコツ」やってきたことだけが誇りで、生活保護受給者に「なぜ働かないのか」「努力しない者は、幸せになれなくてもしかたない」と言い放つ。一方で「大学って、高校でオールAを取らないと入れないんでしょ?」とかのたまい、公務員をディスっていたりするんだが、「なら高校でオールA取っていい大学行って公務員試験受けて、『ラクして税金から高給もらえる勝ち組』になりゃよかったじゃん。なぜ努力しなかったの?」と言ってやりたい、そしたらどんな顔するんだろ、としか思えなかった。
    日本も格差社会だの言われているが、明日は我が身なのかねえ。均質度が高い日本の場合、宗教・人種・教育より、性別が分水嶺になりそう。「(オレご主人、オマエ奴隷で)昔みたいに仲良くやろうよ〜〜〜」「クソフェミが男女の分断を煽っている。男女は仲良くするのが自然な姿(キリッ」とかほざいてる男どもには反吐しか出ない。

    2022/2/20〜2/22読了

  • 馴染みのある言葉になってしまったアメリカの分断について、リアルな事柄として思いを馳せることになった。アメリカ社会を切り取った他の本も読みたいと思わせてくれた本になった。

  • 多くの人が直接情報を発信し意見のやりとりできるようになってきたはずなのに、社会が細かく分断され、合意の形成が難しくなってきているように感じられます。その一方で、民主主義の先進国でポピュリズム政党・政治家が台頭しています。同じ社会に生活しているポピュラーで多数派の人たちの考えや価値観が、よくわからなくなってきたので、読んでみた本です。まず読み物として面白いです。事実の方が小説より興味深く面白い好例です。

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著者プロフィール

(ふせ・ゆきこ)
翻訳家。大阪外国語大学英語学科卒業。訳書に、ジョン・ウィリアムズ『ブッチャーズ・クロッシング』『アウグストゥス』(以上、作品社)、マイケル・ドブズ『核時計零時1 分前』(NHK出版)、エリック・シュローサー『核は暴走する』(河出書房新社)、A・R・ホックシールド『壁の向こうの住人たち』(岩波書店)、ベンジャミン・ウチヤマ『日本のカーニバル戦争』(みすず書房)、ティモシー・スナイダー『ブラッドランド』(ちくま学芸文庫)など。

「2024年 『スリーパー・エージェント 潜伏工作員』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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