- Amazon.co.jp ・本 (402ページ)
- / ISBN・EAN: 9784000614306
作品紹介・あらすじ
朝鮮戦争が勃発して四カ月、中国は「抗米援朝」を掲げて参戦した。国外で米国と戦う事態に中国の市民たちは何を思い、兵士たちはどう向き合ったのか。一九五〇年秋に焦点をあわせ、中国の様々な地域・職業・年齢の市民たちの感情や意見、行動を多くの資料から掘り起こす。中国社会における朝鮮戦争の経験を位置づけた画期的労作。
感想・レビュー・書評
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中国と朝鮮戦争の関わりに関する先行研究自体は多いが、前書き・後書きで著者が述べるとおり、市民を対象としたものは少ない。世論調査があったわけでなし、多くの人々の発言を集めてはいるものの、それら発言が中国市民全体をどれだけ代表しているかにも若干留保が必要だ。それでも、共産党の公式見解だろう「抗美援朝精神」が市民に一貫して支持されていたとは言い難い。何しろ米はつい最近まで抗日戦争の盟友であり、かつ超大国なのだ。
戦争序盤、商工業者と労働者、農民の間では戦争がもたらす負担や不利益、世界大戦への拡大などへの懸念が目立つ。国民党や米への政権交代を予測又は期待する声すらある。南京の労働者の間で、旧総統府前の狛犬(獅子?)が歩き出したり涙を流したりといったデマが流れていたのが面白い。
学生など知識分子、そして軍の将兵には積極的意識がやや多いようだ。軍内の部分的な調査では、積極的な割合が50%とか思想工作前で20%とかいう結果がある。それでも、親米・恐米感情は広く見られる。キリスト教系の学校や帰順将兵では特に多い。
また、抗美援朝意識にかかわらず、正式に志願軍派兵が決まった直後の彭徳懐が生還できないと考えてその前に甥と姪に会いたがったり、中国との関連を隠すよう命じられていた将兵たちが鴨緑江渡河前に自分の名や出身地、民謡や家族への言葉を河に向かって叫んだり、というエピソードがぐっと来る。
平壌奪還、ソウル占領という戦局の転換以降は安心や自信からだろう、確かに市民の間に抗美援朝運動の積極的支持が増える。けっこう現金なものだ。共産党は、米の対中派兵の可能性はないと認識しつつも市民向けには宣伝していた。また著者は、党の指導による若者の抗議集会や軍事学校応募と後の紅衛兵運動の連続性を示唆している。詳細をみるコメント0件をすべて表示