研究者,生活を語る 「両立」の舞台裏

  • 岩波書店 (2024年10月21日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (262ページ) / ISBN・EAN: 9784000616614

作品紹介・あらすじ

「仙人」のような研究者像は過去のもの。多岐にわたる業務、そして家事・育児や介護にと、リアルの研究者はずっと多様で忙しい。家族のケアを担う研究者たちは、どんな思いとともに、日常をどう回しているのか。現役世代と先達による経験談27編を収録。働きながらケアをする――未だ暗中模索の道を進む、すべての世代へ贈るエール。

感想・レビュー・書評

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  • 家族のケア 両立の道は 【評】中野円佳(東大多様性包摂共創センター准教授)
    <書評>研究者、生活を語る:北海道新聞デジタル(2024年12月8日)
    https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1098174/

    (掲載期間終了)研究者、生活を語る on the web | web岩波
    https://tanemaki.iwanami.co.jp/categories/1019

    在野研究者として生きるということーお金についての真面目な話 | 磯野真穂ブログ
    http://blog.mahoisono.com/b099/
    ↑此の方は載っていません。

    研究者、生活を語る - 岩波書店
    https://www.iwanami.co.jp/book/b652391.html
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    (yamanedoさん)本の やまね洞から

  • ルサンチンマンを抱いてしまって素直に読めなかった…

  • 大学職員から見ると、教員の中には学生指導や大学運営に熱心な人もいれば何をやっているのかわからない人もいて彼らのモチベーションって何なのだろうと思っていたが、この本を読んでみて研究者が研究に生きがいを感じていることとかその世界にも競争があって生き抜くために大学や研究機関に所属している様子が理解できた。
    大学に所属しているなら大学への貢献を目的とすべきというのは事務職員とか法人の狭い視野で、研究者は研究することを目的として生きている、学生支援とか入試とかどうでもいいという感覚もわからなくはない、ということが実感できた。
    だから、大学として競争力を高めるためには、研究者に選ばれるような環境をつくり、研究生活の支えになるような働き方を提供することにも取り組まなければならない、そして研究者の研究業績を理解してもっと一緒にPRしなければならないなと、新しい視点を得た。特に、任期の限られる雇用のもとにある研究者の厳しい生きざまについて理解が深まった。無期雇用の教員も含めて研究者はフリーランスの人たちだと捉えた方が、彼らとやりとりするうえでは適切かもしれないと思った。
    大学所属員の関心の高さの問題もあるけど、何やっているのかわからない人がいるということ自体が、研究機関として研究者のコミュニティを構築できていないことを示してしまっていると思った。
    以上が大学職員としての感想。

    家庭人の感想としては、自分は(男性の中では)けっこう家事育児への貢献度が高い方だと思っていたが、もっとやってる人が普通にいるし、男女の区分は無意味でしょうもない意識だったと実感した。
    生きていくことは戦いではないと思うけど、戦友としてパートナーの存在に感謝する気持ちが改められた。妻は今は専業主婦の状態だけど、彼女にも、研究者にとっての研究のように、生きがいの感じられる活動をしてもらいたいしさせてあげたいなと思った。

  •  岩波書店のコーナーがある書店に寄ったときに見かけて気になって読んだ。「これはまさに読みたかった本…!」と読みながら、何度も深く頷いたのであった。育児、介護をしながら研究者として働く生活のケーススタディがふんだんに載っており、どのようにケアしながら、キャリアを構築していくのか、千差万別なスタイルが興味深かった。育児や介護に伴うケアの数々は、変数が多く定型化できない。だからこそ本著のように実例を並べてくれることで、自分に近いパターンを見出して普段の生活にフィードバックもできるし、全く違う背景を持つ育児環境の実情を知れた。結果として、良い意味で「頑張りすぎない」必要性を理解することができた。

     本著は、大学で研究、授業などをしている方々に育児、介護の状況をインタビューもしくは当人が書いたものを、岩波書店編集部がまとめた一冊である。おおまかな流れとして、自身の研究者としてのキャリアについて説明があり、自身の家族構成と日々どうやって家の生活を回しているか紹介されたのち、キャリアと生活について大局的な所感を述べるといった流れとなっている。「育児に答えはない」とよく言われるし、当事者としても自分の対応が、どの程度正しくて間違っているのか、わからないことはよくある。そんな中で、各人の家庭事情を知ると、みんなそれぞれ苦労しているのがわかり、育児に伴うある種の孤独感が解消される感覚があった。

     男性による育児状況の事例がたくさん載っている点も本著の大きな特徴である。それは研究、特に理系のフィールドが男社会だからという背景があるのだが、市井の男性が育児にどのようにコミットしているかを知る機会は思った以上にない。当然、保育園で話したり、友人同士で話したりすることはあるにせよ、ここまで体系立った情報が俯瞰できるのは、本というフォーマットだからこそ。また、いわゆる「イクメンです!」みたいな強い語りがなく、淡々と現状と課題、その対処について話してくれているから安心して読めた。

     研究者独自の悩みとしては、大きくわけて二つあり、居住地と任期である。夫婦とも研究者である場合、研究内容やポストの少なさから、それぞれ別の大学で研究するケースが多い。そうなると、どちらかが単身赴任の状況になってしまう。また、任期ありの職だと、任期が切れたあと、仕事を探したとて、それが現在の居住エリア付近にあるとも限らず、条件を含め、不安定な状況が続く。正社員で働く身としては、勤務期間のリミットが決まってる不安は想像もつかない。企業であれば、都心部に集積していることが多く、また、今の時代、会社の制度として家庭とキャリアをなんとか維持できる仕組みも整い始めている。一方で、大学は全国各地に存在する上にポストの数も少ない。さらに、制度も企業に比べると硬直しており、難しい現状を初めて知った。

     女性のケアの比重が重くなってしまうのは、研究者も世間全体と同じ傾向にある。さらに、研究は投下時間が如実に「論文」という実績に結びつきやすいがゆえ、女性が男性と同じようにキャリアを築くことが難しい。そんな中で、研究と家庭の両立を試みている方々の話は、研究者ではなくとも共感する点は多いはずだ。また、「論文」という目に見えやすい成果主義の世界ゆえに、研究、育児を両立している先人がいると、自身の能力のなさに悩むかもしれないが、本著で繰り返し主張されている家庭環境は千差万別である。両立できた人が、誰に何をどこまでアウトソーシングしていたかが可視化されていない以上、特別視する必要はない。育児は比較的平等に思われがちだが、各自のシチュエーションは想像以上に異なるからだ。本著はまさしくその証左となっている。

     終盤の介護にまつわる話は、来たるべき未来を予習することになり、勉強になった。幸い、今のところ介護が必要な状況には至っていないが、自分自身を含め、いつ、誰が要介護になるのかはわからない。育児に対する社会的理解の進み具合に対して、介護への理解が進んでいないのは間違いない。高齢化社会が進む中で、支える側の人間が絶対数として少ないのは明らかであり、今後は皆に降りかかってくる問題だからこそ、本著にあるような先駆者の経験談は重要と言えるだろう。

     ワンオペしている人の悲痛な叫びが、SNSで瞬間的にバズり「保育園落ちた日本死ね!!!」と同じように、自分の思いが代弁されてる気がして、スカっとするかもしれない。ただ、個人的には、そういった刹那的なものより、本著のように実例を積み重ねて、その上で見えてくる課題について腰を据えて考えたい。

  • 27人の研究者が自身の生活について語る本。
    各研究者の話が10ページ前後ずつ書かれている形式です。
    内容としては、約7割の研究者が育児、残りの約3割が介護について語っています。
    全員が大学所属の研究者であることは共通しているものの、その生活様式は千差万別。
    研究者は研究室に引きこもって実験三昧という偏見をぶっ壊し、彼らも他の職の人々と同じように仕事と生活の両立に悩んでいる人間であることを教えてくれます。

  • 【348冊目】研究者たちによる27のエッセイ集。テーマは「キャリアと生活の両立」!

     子育て未就学児編、子育て就学時編、介護編とあるけどそれぞれが私の心にぶっ刺さりまくりました!ミッション・インポッシブルよりハラハラドキドキしたし、タイタニックよりも胸が締め付けられました!笑

     とにかく皆さんの毎日のスケジュールが綱渡りすぎる!特に共働きともなると、朝に保育園まで送り、仕事も終わらなきゃいけない時間が決まっていて、職場を出たら、お迎え着替えさせて夕食準備夕食あげる皿洗い一緒に風呂保湿服着せて風呂掃除して子の歯磨きして寝かしつけしたら、ふぅっと休む間もなく寝かしつけで一緒に寝落ち…かと思いきや、研究者のパパママは夜中に起きたり、早朝4時に起きたりして自分の研究の時間をとる…!恐ろしい!
     研究者だから会社員よりも時間の融通が利くのが良いと書いてる方もいましたが、特に若いうちは任期付きポストに就かざるを得ず、そのために経済基盤が安定しなかったり、ポストを求めて遠方への引越しや単身赴任を余儀なくされるなど、会社員とはまた少し違う事情も伝わってきました。

     とにかく勉強もできないし、論文も書けないし、研究室の仕事も他の人に申し訳ないと思いつつ助けてもらわないと回らない。毎日てんやわんやで必死なのに、業績やキャリアは他の人に追いつけない………この切なさ、悲壮感。研究者ならずとも、家事育児に一生懸命なワーママ、ワーパパはよく分かると思います。

     なぜこのエッセイを読みながら、私の目は潤んでしまったのでしょう。それはたぶん「安心したから」だと思います。毎日毎日綱渡りのような生活をこなす中で、「あぁ、こんなに必死なのは自分だけじゃなかったのか…」と、ホッとしたんだと思います。
     それと、キャリアとの両立の悩みも、組織人である私とまったく一緒でした。この生活を回していくことは人間として大切だし、育児ほど人類にとって本質的な労働はないと信じている。信じているけれど、このまま忙殺されて、いつか必ず終わる子育てが本当に終わるとき、自分に残されるものは何なのだろうか……そんなことを考えたりしていました。いえ、今もしています。

     このあたりの葛藤は、連載時に田中智彦さんの「男性育休・育児のロング・アンド・ワインディング・ロード」を読み、感じていたところです。奥様がフルタイムで働き、ご自身は専業主夫になられた方です。行間にしみじみとした大人の哀愁を感じる、以下の一節が大好きです。
    「子育てがこんなに大変だとは思っていませんでした。子どもを育てるってこういうことなのか、と実感します。最初に思い描いていたような未来予想図からは、ずいぶん変わってしまいました。でも今は、人生ってそういうものだなと考えています。
    そして、本当に女性は大変なんだなと、身に染みてわかりました。これは経験しないとわからなかったでしょう。女性が繰り返し訴えていることが、よく聞くような、定型的な話ととられるのは間違っています。場合によっては実存がかかってしまうようなすごい話です。キャリアを諦めざるを得なかった人は、本当につらかっただろうと思います。人生は人それぞれにしても、もっと違う選び方ができるようになってほしい。男女にかかわらず、優秀であるとかないとかでもなく、やりたいことをやれるような社会になってほしいと思います。」

     この他も読み応え満載です。今は息子さんがお二人とも巣立たれた田島節子さんのエッセイは金言の連続。とにかくペースを落としてでも働き続けることが大事なんだなと思わされます。

     まあ、藤本哲史さんの「ワーク・ファミリー・バランス」の話はとても興味深かったです。厚労省が使い始めたために日本で根づいてしまった「ワーク・ライフ・バランス」ですが、この語は藤本さんがアメリカ滞在時にはあまり使われていない語だったそうです。なぜなら、「ライフ」は働く人本人に注目したもので、余暇時間などとのトレードオフというニュアンスも含みます。
     ところが、ワーク・ファミリー・バランスというのは、働く人本人の働き方が、密接に関係する他者にどうしてもしわ寄せをもたらさざるを得ない!という深刻なニュアンスがあるのです。
     独身でも子なしでも大変な人は大変だと思うのですが、私自身のことだけを振り返ると、今とは深刻さが違ったなぁと、これまたしみじみ感じ入るところです。

     この他、終わりのある育児よりも精神的にはつらそうな介護のお話もありましたが…こちらもこちらで重かった…(実体験がないので消化できず…)

     研究者ならずとも働くパパママは共感必至のこの一冊、強くオススメします!!

  • <2025年度DE&I推進センター推薦図書>
    ◎信州大学附属図書館OPACのリンクはこちら:
    https://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BD09148232

  • サラリーマンよりも身近にロールモデルが少ない、という趣旨(?)で研究者の体験談を集めているのかな?と思うが、期限付きの仕事が多いのと、別居婚が多いだけで、普通の子育てとだいたい同じ。むしろ、(高学歴だからか?)合理的な考えの男性が多く、ワンオペの女性が少ない印象。かと言って、育児や介護を誰かにまかせきっている人たちと比べると、研究職でもキャリア面での犠牲というか負担は男女関係なくある。
    全部を完璧にできる人はいないので、優先順位をつけて何かをあきらめたりするのだけど、だんだんあきらめなきゃいけないことが減っているかも、という意味では、いい世の中にはなってきている気がする。もっともっといい世の中になっていくための問題提起はいつでも必要だと思う。

  • 【おすすめポイント】研究者の家族のケアについての27人の経験が紹介されています。乳幼児期の子育てから、その後も続く育児、さらに語られることの少ない親や家族の介護、自分自身の健康のことまで、多岐にわたるリアルな体験が語られています。
    今、ちょうどキャリアを選んでいる最中の皆さんにとっては、まだ想像しにくい内容かもしれません。でも、本書に登場する研究者は、「生活を大切にすることは、仕事と同じくらい重要だ」と語っています。
    一度就職や進路を決めても、その後に働き方を大きく変えるのは、自分ひとりの力では難しいこともあります。そんな現実をふまえつつ、これからのキャリアをより柔軟に考えるヒントを与えてくれる1冊です。
    【請求記号】002:Iw
    【配置場所】習志野:1階書庫
    【URL】https://libopac.toho-u.ac.jp/opac/opac_link/bibid/BB28230866

  • 研究者たちの、「ケア」(子育て、介護)の寄稿集。
    研究者という、我々の知らない世界の人々が、どんな生活をして両立しているのか。

    意外と、普通の人と変わらないんだな、という印象。
    ミルクをはちゃめちゃにこぼされたり、産後寝ない子供に悩まされたり、保育園で熱が出たらお迎え行かなきゃいけなかったり、お弁当が必要なことを前日に言われたり、等々、育児あるあるが書かれていて、ああ、この人たちも変わらないんだな、と思った。

    と同時に、ケアの大変さが恐ろしくなった。特に子育て。
    ただ、外注する人観点が非常に印象に残った。
    「適度に夫婦で役割分担をしながら、苦手なものは外注している」「子どもを塾に通わせたり、習い事をさせたり、家庭教師が自宅に来たりすることについては、特に違和感はありません。そうだとすれば、なぜ子どもと遊び、夕食を作ることについては、外注することを躊躇していたのでしょうか。」「これほどの重労働を必要とするサービスが無償で提供されてきたことの方が、実は驚くべきことだったのです。そう考えた時、家事と育児を外注することへの心理的ハードルは大きく下がりました。」


    そして、研究者ならでは、というのが、成果主義であること、そして雇用が不安定であること。こうした環境下にあるからこそ、ケアに直面しても、仕事との両立をなんとかやりくりしなくてはならないことがあるのだろう。みんな書いているのは、育児は確かに大変。その分を研究に費やせたら、ということ。でも、こうした悩みはみんな抱いているのだと思う。もう少し世の中がケアに寛容になれたらと思う。子育てしているのだから、もう少しスローダウンしても、いいんじゃない?研究者ならでは、家事・育児編期間中は成果を出せない。論文を出せない。評価する側のダイバーシティを上げるなどして、価値観を変えるしかない。

    そして、ケアに直面した人々の感想は、十人十色であること。
    だからこそ、ケアを巡る社会的合意は難しいんだと思う。
    「生活と研究の切り替えが気分をリセットしてくれる」
    「子どもの創造的瞬間を邪魔して泣かれながら100mlのミルクを拭くのも、飲みかけのビールをゆっくり飲み干してから200mlのミルクを拭くのもたいして手間は変わらない」
     「結局、どちらが家庭に入るにせよ、夫婦のうち片方がフルに働くモデルが当たり前なのでしょうか。もう一方が身を削らないと回らない仕組みになっている」「いったい自分のキャリアは、研究はどうなるんだろう」「外で仕事を引き受けている側が自分から身を軽くしてくれないと、家の中に入っている人間はいつまでたっても自分の時間を取れないのです。」男性育休に理解がなく、「ただひたすら、サンドバッグみたいな状態です」「子育てがこんなに大変だとは思っていませんでした。子どもを育てるってこういうことなのか、と実感します。最初に思い描いていたような未来予想図からは、ずいぶん変わってしまいました。でもいまは、人生ってそう言うものだなと考えています。」
    愚痴は気にするな、子供の事情ですぐに帰らないといけないなら申し訳なさですみっコぐらしになるしかない、子育て期間は記憶がない。そもそもこの環境で競争すること自体狂気じみている。
    逆に、唯一専業主婦の妻を持った人の書き口は余裕たっぷりだった。掃除洗濯は分担しているくらいで。自身も、過渡期と自覚しているようだが。

    まあでも、この本も、育児に成功してなんとかやってきている人だから、生存者バイアスもあるかもしれん。

  • 高橋由紀子氏:二児の母のワンオペ育児と研究の両立
    高橋氏は、森林病理学の研究者であり、二児の母としてワンオペに近い状況で育児と研究の両立に奮闘する様子を語っています。アメリカ留学中の国際結婚、早期帰国後のキャリアへの葛藤、そして想像を絶する乳幼児期の育児の困難さを率直に述べています。夫婦の協力体制として、ご自身の裁量労働制を活用しつつ、家事代行サービスを利用することで、時間的制約がある中でも研究時間を確保する工夫を紹介しています。育児経験が新たな研究テーマの萌芽に繋がったことや、子供中心の生活への意識の変化についても触れています。

    小澤知己氏:研究者夫婦の綱渡りの日々
    植物の進化を研究する小澤氏は、夫も他県で大学教員という研究者夫婦として、保育園年長の子供との子連れ単身赴任生活について語っています。家事の簡略化や効率化を図り、子供が保育園や学校に行っている間に研究に集中するスタイルを取っています。研究者に仙人のようなストイックなイメージがあることへの懸念を表明しつつ、慌ただしい毎日の中で仕事の効率を意識するようになった自身の変化について述べています。研究室の仲間や学内外のサポートへの感謝、同じ境遇の男性研究者との経験共有の重要性も強調しています。

    神谷真子氏:出産と研究を繰り返すキャリアパス
    東京工業大学の研究者である神谷氏は、3人の子供を育てながらの研究生活を、「研究、出産、研究、出産」を繰り返してきたと表現しています。任期付きのポスドクとしてのキャリアの始まり、出産・育児休業取得における困難、そして子供の成長に伴う新たな課題(教育関係)について触れています。毎日をゲームのように、物事を同時並行で進める工夫が実験デザインに活きていると感じています。

    中野(小西)繭氏:試練を乗り越えてきたポスドク世代
    中野(小西)氏は、「ポスドク一万人計画」世代として、厳しい研究環境と育児・介護との両立における困難を語っています。男女共同参画室がない所属先での苦労、乳がん治療という試練、精神的に追い詰められた経験などを明かしています。研究の効率化を図りつつも、子供の体調不良など予期せぬ事態への対応に苦慮しながら職を繋いできた経験、コロナ禍での働き方の変化による助け、カナダでの育児経験などを紹介しています。ケア労働におけるジェンダー不均衡や、制度化の難しさ、大学管理職世代の意識改革の遅れといった構造的な問題点も指摘しています。介護経験を通して新たな研究テーマを見つけた経験や、父親が子供の科学への興味を育む重要性についても触れています。

    村山斉氏:「あのころ」を振り返る育児観
    物理学者である村山斉氏は、育児が一段落した立場から自身の育児経験を振り返り、特にアメリカでの子育てについて詳細に語っています。公立・私立学校の経験、スクールバスの利用、引越しの苦労など、アメリカならではの困難に触れつつ、日本とアメリカの行政の違いにも言及しています。育児中も積極的に関わっていたつもりだがそれは自己満足だったと振り返り、あまり思い詰めずに大らかに育児をするのが良いという考えを示しています。キャリアにおいては、チャンスを掴むための準備の重要性、そして人脈とコミュニケーションの重要性を強調しています。結婚相手の選び方や子供に家事を手伝わせる教育の難しさ、育児休業が研究活動に与える影響など、率直な思いを語っています。

    小町守氏:育児と介護の「ダブルケア」生活
    生物学の研究者である小町守氏は、実母の介護と医療的ケア児であるお子さんの育児が重なった「ダブルケア」の経験について詳細に語っています。遠隔地介護、在宅介護、そして現在のグループホーム利用に至るまでの経緯、仕事との両立の困難さ、特に時間的制約の大きさを述べています。医療的ケア児の育児における朝のルーティン、気管切開の決断、そして医療的ケア児の兄弟姉妹が抱えるストレスなど、具体的な困難を描写しています。困難な状況の中での妻への感謝、お子さんから得た学び、そして介護から離れる時間が増えたことによる心境の変化についても触れています。

    中野亮平氏:海外での研究と4人の子育て
    原子核理論の研究者である中野亮平氏は、ドイツでの4人の子育てをしながらの研究経験について語っています。10年間の海外生活を振り返り、帰国後の環境への適応や新たな挑戦について述べています。子供たちの順応力や妻への感謝を述べつつ、4人の子育ての慌ただしさをユーモアを交えて語っています。子供の成長の早さや学習意欲の高さに驚きを感じると共に、運動会や音読を楽しむ姿への喜びを述べています。

    柿原直子氏:小澤氏の経験と共通する子育て研究者の日々
    柿原直子氏のセクションでは、小澤知己氏と同様に、研究者夫婦としての単身赴任生活、家事の簡略化、時短家電の活用など、共通する経験が語られています。「やれるところまでやってみる」「綱渡りを続ける」という言葉で日々の生活を表し、子供の成長と共に生活が変化していること、「ワンオペ育児」からジェンダー平等への意識の変化についても触れています。

    山形大学、平田氏:兼業主夫との対比によるワンオペ育児
    山形大学の原子核物理学の研究者である平田氏は、兼業主夫である夫との対比を通して、ご自身のワンオペ育児と研究の両立について語っています。アメリカ留学中の国際結婚、早期帰国後のキャリアへの不安、育児と研究の両立における困難さを述べています。子供との出会いが新たな研究テーマに繋がったこと、裁量労働制を活用した夫婦の役割分担(夫が育児・家事、自身が夜に研究)、外部サービスの利用などを紹介しています。海外での育児経験からの学び、日本の育児・介護サービス利用のハードルの高さ、ジェンダーとケアに関する問題提起、そしてワーク・ライフ・バランスの概念についても触れています。

  • 東京大学農学生命科学図書館の所蔵情報 https://opac.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/opac/opac_link/bibid/2003711670

  • 002

  • 『仕事と子育て(介護)との両立』に悩んだ時に読んで欲しい1冊です。「子育ての大変さが上司に理解してもらえないもどかしさ」「子供がいても業績がたくさんあるスーパーウーマンには私はなれない」「もの珍しく見られる主夫だからこその大変さ」…。働きながら育児や介護をこなすのは簡単ではありません。時間と労力をどうやりくりして、どう気持ちの折り合いをつけて日々を過ごしているのか…27名の研究者の様々な「日常」や「葛藤」などが綴られた本です。研究者だけでなく、あらゆる職業の方に共感をもたらす1冊だと思います。(矢)

  • 研究者が、どうやって生活と研究のバランスをとっているのか、その実態と苦悩を様々な研究者が暴露した本。
    詳しくは、以下の紹介記事。
    https://htyanaka.hatenablog.com/entry/2025/01/20/222211

    ——以下、Twitter(リンクは、2025/03/29)

    読了本。岩波書店編集部(編)「研究者、生活を語る」 https://amzn.to/4iwCtTg 特殊な働き方の研究業界。その当事者たちが、生活、子育て、介護などと仕事との間で苦しむ実態を赤裸々に紹介したエッセイ集。これはなかなか経験者でないとわからないな、と、改めて感じた本。 #hrp #book #2025b

  • 物性研の所内者、柏地区共通事務センター職員の方のみ借りることができます。
    東大OPACには登録されていません。

    貸出:物性研図書室にある借用証へ記入してください
    返却:物性研図書室へ返却してください

  • 002/イ

  • ケアの事情は様々で、会社員より研究者は成果と競争の遅れに憂慮する様が見てとれました。育児より介護のほうが周囲から見えづらく、本人の心身の強さで表面化されず気づかれずに生活が続くこともありました。ケアを一身に背負うことでスキルがひとりに集積し過ぎ、周囲は手を貸せない状況を作り出すことも難しい課題です。ケアの外注にも、ケア従事者との雇用、権利関係を考えるアカデミアの課題が残され、個人の頑張りとたまたま得た支えやきっかけでどうにかなってしまった事例なのだと思います。

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