- Amazon.co.jp ・本 (87ページ)
- / ISBN・EAN: 9784001108545
感想・レビュー・書評
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第二次世界大戦終結から四年後に出版されたケストナーの大型絵本です。戦争を始めとする災禍から人間の子どもたちを救うためにはどうしたらよいか、もはや人間には任せておけんと、世界中から動物の代表が集結して大会議を開く物語です。
ウクライナで今日も流れているおびただしい血を思うと、絵本のなかで「かんにんぶくろの緒」が切れた動物たちの気持ちは、(政治家たちや軍人以外の)庶民の多くが共有している想いなのかとも思います。現在良く売れているそうです。
「きょうからきっかり4週間後、動物ビルで会議があるぞ!」
その発端は、ライオンのアーロイスが、象のオスカルとキリンのレーオポルトと一杯やるために、北アフリカのチャド湖のほとりでおちあう、ある金曜の夜でした。驚くべき連絡網と知恵により、まるでかつてのノアの方舟以来の、総ての動物たち(鳥や爬虫類も含む)の代表の大集合が図られたのでした。
同日はケープタウンで世界の首脳たちが87回目の会議のしている真っ最中でした。
会議の大スクリーンにシロクマくんの演説が流れます(←まるで現代のようですね)。あまつさえ、その大迫力にシロクマがクシャミをしたら、会議のメモ用紙が全部飛んでしまう(←まるで未来のようですね)。
「いまあるもっともゆゆしきさまたげをとびこえてください。すなわち、国ぐにの境をとびこえてください」
でも、首脳たちは相手にしません。「お断りします」と直ぐに返事が来る。
動物会議は知恵を絞ります。
「あのおびただしい書類が彼らの分別の妨げになっているのだ」
「あの制服が悪いのだ」
動物会議は、それらをケープタウンの会議から一掃させますが、なんと人類はそんなことでは怯みません。(←ホントか?かなり有効だったと思うんだけどなあ)動物会議は最後の手段に出ます。もちろん武力以外で。それは‥‥。
最後に「おえらいさん」たちが調印した五か条の条約は、とっても素敵で、ホントは紹介したいのだけど、みんなに読んで欲しいので秘密にします。
ケストナー50歳の時に書かれた絵本(絵はヴァルター・トリア、訳は池田香代子)。それから50年後、池田香代子さんは後書きで呟きます。
「50年経った今でも、事態は全く変わっていないことに、本当に嫌になります。戦争、難民、飢饉、それらに無力な国際政治。まるっきり今も同じです。いえ、世界大戦から何も学ばなかったのがこの50年だったのか、と思い知らされて、今の方がより悪い、と思えてきます」それから23年後、さらに私たちは池田さんと同じだ、と呟いてしまいます。
「動物たちは、今日も業を煮やしていることでしょう。でも、いやにならずに踏みとどまる心の力が、私たちにはあることを、この絵本に出てくる動物たちといっしょに確かめたいと思います」。大型絵本版の訳者あとがきでそう書く池田さんに倣うなら、動物たちにまた先を越される前に、人間社会の各々の小さな現場で、倦まず諦めず、アーロイスやオスカルやレーオポルトとなっておちあう時間が大事になってきそうです。
‥‥と、この本を紹介してくれた岩波書店「図書6月号」に倣うなら、わたしたちは「力には力で」と主張する「おえらいさん」たちに、あっと言わせる方法の知恵を、諦めずに出し合いたいと思うのです。
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ブクログレビューを拝見して初めて知った本。
ケストナー作品に絵本があることも知らなかった。
自分が今までに読んだ絵本の中で、最も文字の多い絵本だと思う。
だから、絵本だというのに一気読みできず、数日にわたって読了した。
(常に数冊を並行して読んでいるからだけれども)
1949年にケストナーが書いた本。
1999年に訳者の池田香代子さんが、あとがきで「50年たった今も事態はまったく変わっていない」と書かれている。
そこから更に23年経った現在も、やはり国際政治の事態はまったく変わっていない。
…と愁うだけの自分はなんと無力なことか。
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こぼればなし(『図書』2022年6月号) - 岩波書店
https://www.iwanami.co.jp/news/n47576.htmlこぼればなし(『図書』2022年6月号) - 岩波書店
https://www.iwanami.co.jp/news/n47576.html2022/06/02 -
平和と子どもたちの未来を願い、物語を手渡し続ける当店の原点『どうぶつ会議』:わが店のイチオシ本(vol.51 こども冨貴堂) | ほんのひき...平和と子どもたちの未来を願い、物語を手渡し続ける当店の原点『どうぶつ会議』:わが店のイチオシ本(vol.51 こども冨貴堂) | ほんのひきだし
https://hon-hikidashi.jp/bookstore/154538/2022/09/17
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子どもの頃、ケストナー作品は大好きだったのだけど、今作は読みそびれていた。
ケストナーらしいユーモアに溢れている。
自分の利益だけを考え、平和を乱し、子どもたちを傷つける大人への怒りにも。
会議に出席する動物が雄ばかりで奥さんは出発の準備を一生懸命して見送るだけ、というところにはがっかりしたが(時代的に仕方ないところもあるとはいえ)、それ以外は子どもには楽しく、大人には厳しい良い作品だった。
教師に最高の給与を、というのがいいなぁ…ほんとそうあって欲しい。
教育こそ大事だよ…。 -
戦争が終わり、各国の首脳たちは世界平和のための国際会議を重ねていますが、成果があがりません。 大国で戦勝国の人間たちが主導権を握る会議では、何にも決められません。 それを見ていた世界中の動物たち 「だったら、僕たちも会議を開こう!」 と立ち上がった動物たちのスローガンは、ただ一つ〝子どもたちのために〟でした ・・・ 文学をとおしてナチス・ドイツに抵抗したエーリッヒ・ケストナ-(1899-1974)の創作にヴァルタ-・トリア-の絵が奏でた、痛烈に世評を風刺した物語絵本です。
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shifu0523さん、おはようございます。
私は「極端な理想論」ではないと思います。丸山眞男セレクションの感想でも書いた「現実主義の陥穽」...shifu0523さん、おはようございます。
私は「極端な理想論」ではないと思います。丸山眞男セレクションの感想でも書いた「現実主義の陥穽」に、これから改憲論争が起きる時にみんな陥ると思います。理想論は哲学です。それは豊かな読書からしか持てない。自公維の政治家たちはおそらくみんな持っていないものです。2022/07/11 -
kuma0504さん、こんにちは。
「理想論は哲学」とのお言葉、確かにそうですね。
哲学が軽んじられているのも怖ろしいことです。
遅れ...kuma0504さん、こんにちは。
「理想論は哲学」とのお言葉、確かにそうですね。
哲学が軽んじられているのも怖ろしいことです。
遅ればせながら、丸山眞男セレクションの感想を拝読いたしました。
残念ながら、これからますます「現実的」という言葉を恣意的に使用する声が大きくなりそうですが、「否」といえる勇気(そこに勇気がいることがすでに…)を持ちたいです。2022/07/11
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嫌になっても諦めてほしくないというケストナーの思いが動物たちからひしひしと伝わる。
第二次世界大戦直後に書かれた本ではあるが、今だに驚くほど状況は変わっていない。 -
子どもたちのために立ち上がる動物たち。
ウクライナの戦争が起きてから、話題に上がっていたケストナーの作品、やっと読めました。
最後は泣いてしまった。
わたしたちは、子どもたちの未来のために戦うことが出来るだろうか?
これは子どもというより、大人に読んでもらいたい本でした。大人の耳に痛い。。。
戦争なんてくだらない。国境なんてくだらない。 -
この本が書かれた頃とちっとも変わってない。
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読みたかった本をブックオフで発見✨
会議は踊る されど進まず
身勝手な人間たちの進まぬ会議に
業を煮やした動物たちが立ち上がる。
全ては子供たちの為に。
あれから半世紀以上の時を経て
人間は少しは進歩しているか⁈ -
エーリッヒ・ケストナー 著 ヴォルター・トリアー 絵 池田香代子 訳『動物会議』(岩波書店)
1999.11.25初版発行
2022.4.15読了
本作品は1949年にドイツで発表された。1949年と言えば、ソ連によるベルリン封鎖が「空の掛橋作戦」で失敗し、西ドイツと東ドイツという分裂国家が誕生した年である。「ベルリンの壁」はまだ築かれておらず、ケネディ大統領もまだベルリンを訪問していなかった。
こうした時代背景を前提に考えてみると、人間たちの進まない会議に業を煮やした動物たちによるやむにやまれぬ決起行動は、ケストナー自身の思想と不可分の関係にあったことが分かる。
時代を的確に捉え、ユーモアと風刺をたっぷりに、子どもの感性に応えられる絵本を生み出せたのは、ケストナーだからこそ為せた業だと言っていい。
動物たちの代表が動物ビルに集まって会議を行うという独創性、人間たちと動物たちによる交渉合戦、魅力的なキャラクターたち、豊かな色彩で生き生きと描かれる動物たちの絵。子ども向けの絵本にしては文章量が多いように感じるが、それでも今もって読むに耐え得る名作の一つだろう。
それにしても、地球という球体に国境をひいて縄張り争いをする人間の愚かしさといったら、動物たちの眼には理解不能の愚行にしか映らないだろう。この絵本には、政治家への不信感が一貫して流れており、むしろ政治家がいるからこそ戦争が止まないのだと言いたげなくらいである。
本書を読んて私が抱いた感想はこうだ。
国境は大人たちのためにあり、子どもたちは国境を必要としていない。国境をあたかも子どもたちを守るためにあるかのように語ることは、大人たちの欺瞞でしかない。 -
子どもたちのために。ね。子どもがいなくなってしまったら確かに大人は言うことを聞くしかない。失わないと気づかない。動物みたいにこれくらいシンプルだといいんだけど。何で人間の世界はこんなに複雑に絡み合ってしまったんだろう。
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可愛い挿絵に思わずくすっと笑ってしまうケストナーらしい表現、でもテーマは軽いものではない。この本が書かれたのが第二次大戦直後ということがそれを物語っている。
冒頭なぜ動物たちが人間のこどもの心配をしてくれているのだろう、と唐突な印象はあったが、読み進めるうちにそんなことは大きな問題ではないと思うようになり、一体動物たちが人間に何を要求してくるのかと期待しながらページをめくると、動物たちの真剣さに惹き込まれ、自分も普段将来あるこどもたちのために、と言いながらただ言ってるだけにすぎないことに反省させられる。
動物たちが人間に突きつけた条約の5つ目、教師がもっとも高い給料を受けるものとする、ということには大きく同意。将来の国を作る人間を作るということは将来の国作りを担うのが教師で、政治家はほんの近い将来しか見ず国作りをしているに過ぎないからだ。
フリガナが少し難しい漢字にしか振られていないのと、翻訳の口調が少し古いので小さいお子さんには読みにくいし、話そのものの理解も難しいだろうが、小さい子にもほんの少しでよいので伝わってほしいと思う話しである。 -
SDGs16 平和と公正をすべての人に
絵本ではない -
この作品が1949年に生まれてるってことに震える。
2021年になった今もなーーんにも変わってない。
変わってないどころか、どんどん酷くなっていってる気がする。
ずっと子供たちにとって可哀想な世界が続いてる。
このままいったら、今小さい子が大きくなった時、どーなってしまうんやろ…って思う事が多すぎる。
ケストナーさんみたいな考えの人が、いつの時代にも一定数いるはずなのに…
どーにもならないのは、政治家になる人はこんな考えを持たないってことなんやろか。
少しでも、世界がかわりますよぉに。。 -
古い絵本なのに、今でも深く考えさせられる一冊。三年生の娘は面白かった!と一気読みしてしまった。