長い長いお医者さんの話 (岩波少年文庫)

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  • / ISBN・EAN: 9784001140026

感想・レビュー・書評

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  • 猫丸さんの助言に従い、図書館で借りた本書について、以前、私が感想を書いた、1952年版の少年文庫には収録されなかった、「山賊の話」と、「王女さまと小ネコの話」のみの感想になります(猫丸さん、ありがとうございます^_^)。

    なりますが・・「王女さまと小ネコの話」!
    何故、これを1952年版に収録しなかったのかと、疑問に感じてしまう程の(1940年の「チャペック童話集 王女様と小猫の話」には収録されてるそうなのに)、とんでもない名作だと思いまして。
    私の文章で、どれだけ、それを伝えられるか分かりませんが、やるだけやってみましょう。

    まず、「山賊の話」ですが、人生、一寸先は闇なんて言葉が思い浮かぶような、ちょっと辛口な哀愁劇ですが、中野好夫さんの独特なセンスの訳に救われたり(アッパッパーのチーパッパとか)、ロトゥランドの人の良さを知った上での結末に、感慨深さの増す読後感でした。

    そして、「王女さまと小ネコの話」ですが、小ネコとタイトルにあるように、まず猫を愛する方には、きっと心に残るものがあるお話で、泣いている王女さまに、ある面白い“けだもの”を差し上げますと提案する、老婆の独特な表現が、なぞなぞのようで面白く、それを簡潔に書くと・・

    『エメラルドのような目をしていて、そのくせ誰も盗ってゆきはせず、長いひげがあって、毛皮からは火花が出るが火傷はせず、絹の足指をしているが擦り切れはせず、かくしには十六本の小刀を持っているが、もちろん肉を切るのではない』

    もちろん、答えは“猫”です。

    そして、王女さまは、その老婆が連れて来た黒猫の「ユーラ」を飼うことになるのですが、ここで猫の良さを引き出すために、犬の「ブフィノ」と個性を比較させる表現法が見事に思い、そこから実感できることは、『犬は犬、猫はあくまで猫なのであり、それと友達になることとは、全く別の問題である』ということで、こうした考え方に子供たちは、中々至らないのではと感じ、まさに少年文庫に適した内容だと思いました。

    その後、王女さまの好奇心から、ユーラが何者かにさらわれてしまい(!?)、ここからは、チャペックの本書ではお馴染みの、話が一気に違う方向に飛んで行く展開になりますが、このお話に関しては、最後の最後にちゃんと繫がる、ストーリーテリングの妙と面白さを存分に堪能できて、そこが、このお話の凄いところなのです。

    それからは、猫を取り戻すために探偵を7人も雇ったり、それが駄目だと分かると、アメリカの名探偵、「シドニー・ホール」が自ら志願して挑戦するのだが、これが何故か、世界一周旅行になるという・・なんでと、思わず苦笑してしまいそうだが、これはこれで面白くて、しかも意味があった。

    ところで、世界一周旅行において、長崎を訪れた時の、その賛美の表現が、チャペックの日本へのイメージを思わせるようで印象的でした。

    『そしてぼくの頭の上には、お日さまのかわりに大きなキクの花が一つさいている。なんとあたりの木立は、みんな美しいウルシぬりだ。岸辺の砂は一粒一粒洗い立てたように美しい。なにもかも清浄そのものだ。そこでぼくは、ははあ、これは日本だなと思った』

    さて、シドニー・ホールの世界一周旅行です。
    これには、誘拐犯を捕らえるための『逆転の発想』があったのですが、実は、更に逆転する意外な真相が明かされることになり、こうなると、もう物語がどう収束するのか、全く読めない。いったいどこに着地するんだといった感じです。

    最初は、単に、王女さまと黒猫ユーラの、ほんわかしたお話かと思っていたが、ユーラが誘拐された後の怒濤の展開、そして、更に物語はまだまだ終わらず、いきなり話が飛びますが(ネタばれを避けるため)、牢屋での一幕が今度は涙を誘う展開に。

    盗人がユリの花を一本欲しいと言う。
    文章は理解できるが、違う意味では理解できなかった、私自身を恥じる。
    美しい物を見る、人の心は、罪を犯した人でも変わらないし、牢屋で過ごす日々と幻想的な出来事によって、贖罪の意識を痛感していく囚人達を見ていると、こういう事も現実に起こるのかもと思わせる、そこには、チャペックの善悪の固定観念の枠を超えた、まるで彼自身に神のような慈悲深さを感じられるようで、そのどこまでも深いような優しさは、誘拐犯だと思い込んでいた、私の固定観念も変えてくれた。

    そもそも、あの行動は、ユーラを助けたかったことから始まっていたのではないか?
    そして、その後の、シドニー・ホールへの温情と、囚人達への優しさ、全てが、最初から彼の中では計算されていた、想定内の行動だったのではないのか?

    それから思い出すのは、太后さまの見た夢の内容と言葉。

    『どんなことがおこるか わかるもんですか』

    そして、その後は、またまた温度差のある、ちょっと微笑ましくも甘い展開になり(しかも、猫の習性を見事に活用した粋な計らいが)、その夢のような場面は、今の歳で読んでも、とても素敵に思える。

    しかし、エンディングにその甘さは引き摺らず、そこにあったのは、公平さであり、見るべき所はちゃんと見るよといった、チャペックのメッセージを感じさせられたと共に、単純な夢物語の幸せでは無い、子供たちの未来における姿を真剣に考えているからこそ、その終わり方は、児童書のそれとして、とても相応しいのだと感じられました。

    • たださん
      なおなおさん、こんばんは。コメントありがとうございます。

      訳者「中野好夫」さんのことばに、『文学者としての、チャペックは、それこそ、恐ろし...
      なおなおさん、こんばんは。コメントありがとうございます。

      訳者「中野好夫」さんのことばに、『文学者としての、チャペックは、それこそ、恐ろしく器用な人で、劇も書けば、小説もつくるし、気のきいた探偵小説、じつに楽しい旅行記や随筆、そのうえ、ちょっとほかに真似てのない少年少女の読み物など、どれもみな一流の文学を書いています』とあり、更に、初めて新しいチェコスロヴァキア国を建てるにあたり、後に大統領になった、マサリックを助け、祖国の為に尽くしたそうですから、さぞ人格者だったのでしょうね。
      2023/01/14
    • なおなおさん
      たださん、詳しくありがとうございます。
      歴史的なことは無知で恥ずかしいのですが、お兄さんのヨゼフ・チャペックはホロコーストの犠牲者となり、カ...
      たださん、詳しくありがとうございます。
      歴史的なことは無知で恥ずかしいのですが、お兄さんのヨゼフ・チャペックはホロコーストの犠牲者となり、カレル・チャペックはゲシュタポが来る前に亡くなったと前に知りました。
      その時代背景から二人に興味がわいたのですよね。
      私も読めそうなものを見つけ、少しずつ読んでみますね(^^)
      2023/01/14
    • たださん
      なおなおさん、お返事ありがとうございます。

      私も決して詳しいわけではなくて、全て本書の、『訳者のことば』からの引用です。

      ただ、どうして...
      なおなおさん、お返事ありがとうございます。

      私も決して詳しいわけではなくて、全て本書の、『訳者のことば』からの引用です。

      ただ、どうしても本書を読みたくなったきっかけとしまして、本書が、東日本大震災の被災者に贈られた本の一冊だったということがあります。
      私には想像を絶するような、精神的負担やストレスを抱えた人達の、心の支えになるような本って、中々無いであろうと思うのですが、それでも素直に「あはは」と思わず笑ってしまうような、そんな温かさが根底に宿っている本書は、被災者の方々の魂の癒しにもなったのだろうといった思いに至り、チャペックの普遍的な素晴らしさを実感させられました。

      更に、笑いだけでは無かった点にも、チャペックの凄さはあると感じられたことが、本書で得た収穫でしたが、お兄さんのヨゼフがホロコーストの犠牲者なのは、知りませんでした。
      それを知ると、本書の味のあるイラストも違った一面を帯びてくるようで、やるせないものがありますし、こうした歴史の出来事から、もっと学び、考えないといけないなと、改めて痛感いたしました。

      なおなおさんでしたら、何でも読めると思いますよ(^^)
      2023/01/14
  • 短いお話が9話収録。妖精・魔法使い・カッパ(蛙男?)が出てきたりとファンタジー童話だが、大人も楽しめます。気に入ったお話を少しご紹介します。

    ---------------------------------
    「郵便屋さんの話」
    その名の通り郵便屋さんを主人公にしたお話で、ファンタジーとしては異色。
    働いていると、「この仕事は意味があるのか?」と地味な作業に愚痴りたくなることは一度はあるはず。
    一見地味な仕事だったとしても、誰かの人生を左右することもあるかもしれないと思わせるお話。

    「王女さまと子ネコの話」
    ある場面で、魔法使いが魔法で牢屋の中が草花でいっぱいにする。あまりの美しさに、死刑囚やサギ師たちが「天国にでも来てしまったのか?」と驚く。
    魔法使いがぶどう酒をつぐと、サギ師はうつぷしたまま、蚊の鳴くような声で断る。
    「わたしのように、たくさんの人をひどい目にあわせました人間が、どうしてこんなお酒をちょうだいできましょう」と。
    ---------------------------------

    「王女さまと子ネコの話」を読み、私は〝レ・ミゼラブル〟のジャン・バルジャンとミリエル司教の場面と重なりました。慈悲によって、囚人の心が洗われていくようでした。「王女さまと子ネコの話」のこの場面、挿絵が聖人のように見えて綺麗です。

    猫丸さん、たださんの本棚から本書に興味を持ちました。ご紹介ありがとうございます。

    • たださん
      Reyさん、こんにちは。

      私の名前を出していただき、びっくりしましたが、嬉しいです。
      ありがとうございます(^_^)

      「王女さまと子ネコ...
      Reyさん、こんにちは。

      私の名前を出していただき、びっくりしましたが、嬉しいです。
      ありがとうございます(^_^)

      「王女さまと子ネコの話」は、今、思い返しても印象深く、一つのお話の中に様々な要素を盛り込みながらも、最終的に一つにまとめ上げた物語と、誰に対しても分け隔ての無い、慈悲深さを与えてくれた、作者の人間性の素晴らしさを実感させていただいた、私の好きなお話で、あの牢屋の場面も、何気ない描写に却って胸を打たれるものがありました。
      素敵なレビューをありがとうございます(*^_^*)
      2023/08/18
    • Reyさん
      たださん、こんにちは。

      私はカレル・チャペックを今まで知らなかったので、たださん達のレビューを読んでなかったら、たぶん手に取ることがなかっ...
      たださん、こんにちは。

      私はカレル・チャペックを今まで知らなかったので、たださん達のレビューを読んでなかったら、たぶん手に取ることがなかったと思います。なので、お礼をお伝えしたくて、お名前を書かせて頂きました(^^)驚かせてしまってすいません。。

      〝作者の人間性〟、確かにそうですね。
      「王女さまと子ネコの話」も含めた9話とも、教訓とかを押し付けるお話ではなく、優しく包み込む文章で、子どもたちに是非薦めたいと思いました。

      たださんの丁寧な文章でわかりやすいレビュー、こちらこそありがとうございます!
      2023/08/19
  • 私事。
    小学5年生の春、ケガで入院した。ベッドから動けなかった私は、直前に読んだ「長い長いお医者さんの話」を、付き添いしていた母に語ってきかせた。
    小学5年生でもあらすじが覚えられるような特徴あるストーリー展開。今読んでも、いつまでも、心が温かくなります。

  • 私的岩波少年文庫Best3の一つ。
    英語からの重訳でも中野好夫の訳は素晴らしい!

    • モランさん
      中野好夫さんの訳、私も好きです…。
      母と私で、共にヒドラの話がお気に入りでしたが、木こりと美味しそうなチーズパン?など、他にも色々と好きです...
      中野好夫さんの訳、私も好きです…。
      母と私で、共にヒドラの話がお気に入りでしたが、木こりと美味しそうなチーズパン?など、他にも色々と好きです。
      2013/04/20
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「私も好きです…。」
      チェコ語から訳された田才益夫や栗栖継も素晴しいですが、中野好夫の気風の良さみたいなのが、チャペックによく合ってる気がし...
      「私も好きです…。」
      チェコ語から訳された田才益夫や栗栖継も素晴しいですが、中野好夫の気風の良さみたいなのが、チャペックによく合ってる気がします。

      「ヒドラの話がお気に入り」
      昔々じゃないけど、竜が普通に出てくるコトに驚き、仔猫を拾ったように育てたり文句を言われたり。。。ここで教訓めいたコトを書くのは莫迦らしい気もしますが、やっぱり自分が正しいと思ったコトは遣り通さなきゃ!と思ってしまいました。。。
      2013/04/22
  • 表題作と郵便屋さんのお話は有名。
    そしてどちらもものすごく楽しい。
    えほんで読んでも楽しいけど、短編集なのでまだ長い物語の読めない子にもおすすめできる。

  • チャペックの有名な児童文学を、数ヶ月かけてのんびり読んだ。
    チャペック兄のゆるいイラストも、とても良かった。
    郵便やさんの話、幻想的な犬のダンスをみた犬の話、正直者のルンペンがかばんを見守り、一年間拘留された話が印象的だった。

  • チェコの作家、カレルチャペック氏の中編小説集。

    カレルチャペックは装丁が可愛くて、大学生の頃気に入っていてちょこっと読んでいました。
    こちらも装丁が可愛くて、手に取ってみることに。
    装丁デザインは和田誠さん。さすがですね。
    挿絵を手がけたのは兄のヨゼフチャペック氏。
    古さを感じさせないとってもお洒落なイラスト。才能のある兄弟ですね。
    (ちなみにこのカレルチャペック氏、「ロボット」ということばを作った人らしいです)

    タイトルの「長い長い郵便屋さんのお話」を含む、9つの物語。
    大体は自由奔放でハチャメチャ。といった雰囲気。

    郵便局やカレル広場の小人の話、お巡りさんが竜を退治する話、チェコの川に住むカッパの話、山に住む魔法使いと医者の話、森や野原にいる妖精たちの話…
    など、ファンタジー要素もあるんだけど、キラキラした雰囲気ではなく、ユーモアと皮肉、イタズラ心が効いた物語ばかり。
    少し理屈っぽさもあり、子供が読んだらちょっと小難しいかな。
    「長い長い郵便屋さんのお話」が好きかな。お手紙を触ったその温度で、送った人の感情やそのお手紙の大切さがわかるという小人が愛らしい。

    たまに海外小説もまた読んでいこうと思います♬

  •  チャペックは、以前『園芸家12ヶ月』を読んだだけだったが、これが大変面白かった。優れた比喩によって、彼独自のユーモアと園芸への愛情が十二分に描き出されていた。
     その次に、この『長い長いお医者さんの話』を読むことになった。『園芸家12ヶ月』ほどではないが、この本も面白かった。郵便屋さんのお話の、冒頭部分が非常に気にいった。確かに、郵便配達屋さんにも、童話があって然るべきである。
     「王女様と子猫の話」の魔法使いの話を読んでいる時、O・ヘンリーの短編に出てくる名探偵ベンプライスを思い出した(タイトルは「最後の改心」とかだったかな?)。相手の思惑を知りながら手助けをする魔法使いが、元泥棒だということについて知らないふりをするベンプライスの姿と被って見えたのだろう。
     収録されているいずれの話にも、「善いおじいさん」、「悪いおじいさん」というような、規範的性格が最初から与えられていないことは好ましかった。さらに言うと、善行を施した人たちが、ほどほどに報われていることも好ましかった。鼻白んでしまうようなお説教くささというものをあまり感じなかった。
     あと、カラスが「クラール」と今でも鳴き続けているという話も面白かった。

  • 初めて読んだのだけど、懐かしさのある童話集。
    日本の民話、童話とも共通するものを感じる。
    河童となっていたのは、原文では現地の妖怪のようなものなのかな?
    絵を見るとカエルなのかなとも思えたのだけど。
    文章も絵も温かくてユーモラス。
    郵便配達人の話と、犬が土を掘る理由の話が特に好き。

  • チェコの作家。カレル・チャペックの短編集。おとぎ話なのに郵便局とか自動車とかが普通に出て来て、現代っぽさもあります。だからなのか、本当にありそうな気がしてしまうのです。郵便屋さんの話が素敵でした。宛名のない郵便の宛先を探して旅する話。届いて本当に良かった。前にカッパがいるのはチェコと日本だけとMOEに書いてあったのだけど、そのカッパの話がありました。どうやっても日本のカッパで想像しちゃう。王女さまと小ネコの話も割とラストが好き。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      綾里未優さん
      ヨゼフの挿絵を見たら、誰もがカッパだと思うよ!
      綾里未優さん
      ヨゼフの挿絵を見たら、誰もがカッパだと思うよ!
      2020/10/15
    • 綾里 未優さん
      猫丸さん。
      コメント、ありがとうです。
      この本、大分前に読んだから記憶があやふやでして。
      挿絵、どうだっけ。出直してきます。
      猫丸さん。
      コメント、ありがとうです。
      この本、大分前に読んだから記憶があやふやでして。
      挿絵、どうだっけ。出直してきます。
      2020/10/15
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      綾里未優さん
      誰かさんのブログを拝借
      https://ayamoto.exblog.jp/20681629/
      綾里未優さん
      誰かさんのブログを拝借
      https://ayamoto.exblog.jp/20681629/
      2020/10/16
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著者プロフィール

一八九〇年、東ボヘミア(現在のチェコ)の小さな町マレー・スヴァトニョヴィツェで生まれる。十五歳頃から散文や詩の創作を発表し、プラハのカレル大学で哲学を学ぶ。一九二一年、「人民新聞」に入社。チェコ「第一共和国」時代の文壇・言論界で活躍した。著書に『ロボット』『山椒魚戦争』『ダーシェンカ』など多数。三八年、プラハで死去。兄ヨゼフは特異な画家・詩人として知られ、カレルの生涯の協力者であった。

「2020年 『ロボット RUR』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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