トムは真夜中の庭で (岩波少年文庫 (041))

制作 : スーザン・アインツィヒ  Philippa Pearce  高杉 一郎 
  • 岩波書店
3.94
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本棚登録 : 1183
レビュー : 151
  • Amazon.co.jp ・本 (358ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784001140415

感想・レビュー・書評

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  • フィリパ・ピアスの作品というと、だいぶ前に読んだ「「まぼろしの小さい犬」を先ず思い出す。
    満足度の非常に高い一冊で、まさかこちらの代表作が未読だったとは、気づきもしなかった。これではとてもひとにピアスの作品を紹介などできない。
    夏休みでもあるので、さっそく読んでみることにした。
    そして、こちらもまた心の底から満足した。
    まるで深く心地よい眠りから覚めた気分で、本の持つ力に久々に陶酔した。

    お話のテーマは「時間」。
    ある老女の失われた幼年時代に、主人公のトム少年が入り込むという幻想小説。
    緻密な構成と高い描写力で、ファンタジーとひと口で呼ぶにはもったいないほど。
    タイトルにある「真夜中の庭」の表現が実に詩情豊かで美しく、著者の自然に対する感受性の高さがよくあらわれている。
    真夏の太陽、稲妻や雷鳴、冬のキーンと引き締まった空気、冴え冴えとした月の光、特に真夜中の庭で真っ先に目に入るイチイの木やクラシカルな衣装を着た少女との出会いなど、まるで目の前に存在するかのような臨場感でストーリーが進んでいく。
    トムの心理描写も細かに描かれ、しかも語りすぎることがない。

    過去、そして現在とはなんなのだろう?
    夜の庭で知り合った少女・ハティとの時間のズレはあまりに切ない。
    トムはどうやって「時」を自由に出来るのか。
    ハティの生きる時間との差を、縮めて永遠にすることは可能なのか。
    そんなことを願いながら読んでいくと、終盤で小さな事柄のすべてがリークしていく。
    年をとるということは物語を育てることで、幼年時代もすべてひとりの人間の中に生きているということ。ハティの成長後の老女が、それを教えてくれる。

    ふたりの奇跡のような出会いもまた、幻想小説ならではのこと。
    トムとハティがしっかりと抱き合うラストは、しみじみと素敵だ。
    もうトムは「時」を手に入れようと泣かないだろう。成長を恐れないだろう。
    老女は、年老いてもなお夢見ることを楽しむだろう。

    時の旅人となり、私も真夜中の庭で会いたいひとがいる。
    イエス・キリストとブッダそのひとだ。
    でもまるで違う話になりそうなのでここでおしまい。
    夏休みが舞台の話を、この夏に読めて大満足だった。

  • ファンタジーの世界では、現実の世界から異界へ通じる秘密の抜け道と仕掛けが必要です。ナルニア国に通じる不思議なクローゼット、千と千尋の湯屋に通じる不思議なトンネル、ファンタージェンに導くあかがね色の古本。

    本書の登場人物トムもまた、古いお屋敷の裏庭に通じる扉と13時?を告げる古時計に導かれ、不思議な世界に入りこんでいきます。

    楽しみにしていた夏休み、弟ピーターの病気で家族と離れ、親戚の古いアパートで過ごすことになったトム。トムの迷い込んだ裏庭は夢か現か、世界が静かに眠っているいるはずの時間に広がる世界は、春の柔らかな陽射しに、木々が緑に芽吹き花咲く季節でもあり、真綿のようなまっしろな雪で覆われた冬の冷たい世界でもありました。

    あるはずのない不思議な裏庭で出会った少女ハティ。この世界でトムに気づくのは動物たちとハティだけ。小さな冒険を繰り広げながら、夢の世界を旅するトムですが会うたびごとに大人になっていくハティと、いつまでも子供のままの自分に、やがて夢の世界と自分の世界をつなぐ秘密に気づいていきます。

    夢は自在に時と空間、自分と他人を飛び越えていく。夢の世界を通じて自分の心の奥底を覗き込んでいるのなら、トムが真夜中に旅する世界はトムの夢なのか、だれかの夢なのか。

    河合隼雄、小川洋子の著作の中でも取り上げられた本書、こどもの頃に出会えたらよかったなあ、残念。

  • 読むべき名作選にリストアップされており、自宅にあったので読破しました。
    まず、ピーターとトムのほのぼのとした兄弟愛がいいですね。トムとの約束ごとを忠実性に守る弟が可愛い。
    最後に再会するハティとトムの様子に涙してしまいました。良かったね、ハティ。
    子どものころに読みたかったです。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「最後に再会するハティとトムの様子に」
      素晴しいですよね!
      「最後に再会するハティとトムの様子に」
      素晴しいですよね!
      2013/07/05
  • カテゴリは、間違いなくロマンスです。
    始まりから、ラストまでは、
    ファンタジーに続いていくのだけど、
    ラストには 時空も年齢も立場もリアルも超えた
    これまで見たこともない素敵なロマンスが あった。

  • 『時の旅人』、『トムは真夜中の庭で』、『黒ねこの王子カーボネル』。

    これは、先日、ネット上の本読み友達に、
    岩波少年文庫の中から選ぶのなら個人的にオススメだと言われた3冊。

    その人の好みだとしたら好みが似ている、
    私が好きそうだと薦められたのだとしたら、コワイと思った。

    結果としては両方で、どうやら好みが似ていて、
    しかも、コワイ友達を持ってしまったようである。

    その人には、この3冊から連想された本を紹介し、好評だったので、
    当てられてばかりの悔しさは少し薄れた感じではあるのだが。

    薦められたとき、黒ねこは未読で、あとの2冊は既読だった。

    『時の旅人』は、小学校高学年か中学生の頃に読んでおり、
    本書は大学院生時代に読んでいる。

    私が所属していた大学は、かつてその地域に
    公共図書館がなかった頃に公開図書室の役割を担っており、
    公共図書館ができて公開されなくなってからも、
    当時の蔵書とスペースが大学図書館の中に残っていていたのである。

    そのため、趣味と専門を兼ねて
    大学3年生以降に出会った児童書や絵本も多く、
    本書もそのひとつなのである。

    この3冊を含め、自分が好んで読んだ児童書は、
    時空間を旅するものが多いようだ。

    そして、時空間を旅する主人公、あるいは、
    主人公が出会う存在に共感したり憧れたりすることが多かったように思う。

    同じテーマの本を私はなぜ必要としたのか、今ならわかる気がしている。

    時空間を旅する主人公は、本書のトムもそうだが、
    物語の最初では、現状に大きな不満を抱いている。

    弟のピーターがはしかになったため、夏休みの間、
    おじさんとおばさんのところに預けられることになったトムも不平タラタラである。

      こんなにつまらないところにほうりこまれたのは、これがはじめてだ。

      ピーター、ぼくはここから出ていくためだったら
      ―どこでもいい、ここよりほかのどこかへいくためだったら、
      どんなことでもするよ。

    トムは弟のピーターにこんな手紙を書いている。

    これはただの不満といえば不満だが、
    この強力なまでのここにいたくないという思いは、
    本人が意識しようがしまいが、
    ここではないどこかへ主人公を連れて行く原動力となる。

    退屈で眠れなかった夜、トムは、大時計が13回時を刻む音を聞く。

    トムにはこんな音に聞こえた。

      おいでよ、トム。

      大時計が13時をうったよ。

      きみは、いったいどうするつもりなんだ?

    しばらくこの「邸宅との心の対話」を続け、
    結局は、大時計の様子を階下のホールに見に行くことにしたのだ。

    だが、暗くて大時計はよく見えない。

    この邸宅の裏側で照らしている月明かりを入れよう、
    そうすれば文字盤が見えるかもしれない。

    ここで裏口を開けたことから世界は変わる。

    おじさんたちには、
    「裏口からそとに出てみたところでしょうがないよ」と言われていたのに、
    開けたところには庭園があったのだ。

    おじさんたちにうそをつかれたと憤慨するトムだったが、
    昼間にその場所に出て行ってみると庭園は存在しなかった。

    時計がひとつのむすびめと考えたトムは、時計を調べるが、
    描かれている絵に意味がありそうだというところまでしか
    そのときはたどり着かなかった。

    大時計が13時を打つのを聞いてから外に出ると
    庭園に行かれることがわかったトムは、
    毎晩のように庭に出て、探検していく。

      トムの目のまえにあらわれる庭園は、一日のうちの
      いろいろな時間、ちがった季節をあらわしていた。

    そして、どうやら時間は、行きつ戻りつしていることもわかってきた。

    トムは、それらを味わった。

    そのうち、庭にいる人たちがどんな人たちかもわかってくる。

    3人の少年、女の子、庭の手入れをする人、女中。

    動物達は、トムの姿を見ているが、人間たちは気づかない。

    ところが、実は、トムのことを見えている存在が何人かいることがわかった。

    そのひとりがハティだった。

    時を旅する者、そして、その存在が見える者。

    彼らは一緒に庭で遊ぶのだが、
    どちらも自分が自分の時間を生きていると思っているので、
    どっちが幽霊かなどと話すとけんかになったりする。

    トムは大時計が13時を鳴らすのを聞くと毎晩のように庭に出かけるが、
    ハティにとってはそれは毎晩ではなく、
    前に会ってからずっと経ってトムが現れるように見えている。

    トムは、時間について考えながら、その謎を自分なりに解き明かして行く。

      トムは「過去」のことを考えていた。

      「時間」がそんなにも遠くへおしやってしまった
      「過去」のことを考えていた。

      「時間」はハティのこの「現在」をとらえて、
      それを「過去」にかえてしまった。

      しかしそれは、いまここで、
      ほんのつかのまのあいだではあるが、
      トムの「現在」に―トムとハティの「現在」になっている。

    ただ頭の中で考えた理屈ではなく、実際に体感したもの、
    読者も一緒に体感したものだからこその説得力がある。

      こういえるんじゃないかな。

      人間は、それぞれべつべつな時間を持っているって。

      ほんとうは、だれの時間もみんな
      おなじ大きな時間のなかの小さな部分だけど。

    そして、こんな答えにたどり着くのだ。

      どっちからいったにしても、
      女の子は過去からきた幽霊じゃないし、
      ぼくも未来からあともどりした幽霊じゃないんだ。

      ぼくたちはどっちも幽霊じゃない。

      庭園だって幽霊じゃないんだ。

    そうやって自分なりの答えを掴んだトムにとっては、自分の時間よりも、
    ハティとの永遠の方が価値のあるもののように思えてきて、
    ある賭けに出るのだが・・・。

    一方、トムにはたったひと夏のことだが、庭の中の時間はどんどん進んでいて、
    ハティはいつしかどんどん大人になっていて・・・。

    さて、本書を再読した結果、
    私は本書の登場人物たちに大いに励まされることとなった。

    ある時期現実の生活が楽しかったり大変だったりして、
    「庭」のことを忘れてしまうことがあっても、
    一度、「庭」に来たことががある者は、「庭」の美しさを知っている者は、
    時を経ても「庭」に帰ってくることができるのだと教えてくれたのだ。

    私の庭は、本の中にある。

    そして、それは、やってきたときがいつでも今なのだ。

    私も本の中の人物も庭園もみんな幽霊なんかじゃないから。

  • わたしのファンタジーの原点はここです♪

  • 図書館で借りた .
    小学校のとき国語の教科書におすすめとして載ってた、、、
    気がした。
    10数年たってようやく読了。
    オチがだんだん読めてくるけど、
    それは大人の自分が読んでるからなのかな。
    逆にそのせいか、登場人物を暖かい目線で見ることができ、
    最後はほんわかしました。

  • 真夜中は特別な感じがします。
    空気が昼よりも澄んで、感覚も研ぎ澄まされてそうな・・・・・・
    うちの時計も13回鳴らないだろうか。

  • 弟の麻疹がうつらない様に、預けられた先の庭で経験する不思議な冒険物語。子供の「時間」と大人の「時間」とは、やはり流れ方や濃度が違うような気がします。同じ「時」を共有していても関心の有無で見えたり見えなかったり。トムと一緒に奇妙な旅をした気分です。どうせならピーターも一緒に遊べたらよかったのにな。

  • 時計が13時を打つなんて!かっこよくて、素敵な話でした。

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著者プロフィール

1920-2006。イギリスの児童文学作家。『トムは真夜中の庭で』(岩波書店)でカーネギー賞を受賞。短編の名手としても知られ、「二十世紀の児童文学作家の中でもっとも優れ、もっとも愛された一人」と賞賛された。

「2018年 『コクルおばあさんとねこ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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