ムギと王さま―本の小べや〈1〉 (岩波少年文庫)

  • 岩波書店
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レビュー : 46
  • Amazon.co.jp ・本 (283ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784001140828

作品紹介・あらすじ

幼い日々、古い小部屋で読みふけった本の思い出-それは作者に幻想ゆたかな現代のおとぎ話を生みださせる母胎となりました。この巻には、表題作のほか「レモン色の子犬」「小さな仕立屋さん」「七ばんめの王女」など、14編を収めます。小学5・6年以上。

感想・レビュー・書評

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  • 本に囲まれて育った著者による児童文学短編集。
    静かで豊かな語り口です。

    『ムギと王さま』
    ”わたし”がその村に行ったとき、村の人たちがたいそう可愛がっている「村のあほう」と呼ばれる若者がおりました。ふだんはただ畑に座って笑っているだけですが、なにかの拍子でとめどなく話をしつづけるのです。
    そして”わたし”が畑にいたときに、彼はお話を始めたのです。
    それは彼が昔むかしエジプトにいたころの話でした。彼は自分のお父さんのムギ畑をとても好きでした。しかしそこへ通りかかったエジプトの王さまは、自分こそがこの国一番の金持ちだということを示すためにそのムギ畑を焼いてしまったのです。
    彼は焼け残った数粒のムギを蒔きました。やがて王さまが死んだとき、彼のムギも王さまの捧げものとして一緒に埋められたのです。
    長い年月が経ち、エジプトの王さまのお墓が発掘されたときにも彼のムギはまだ残っていました。
    若者は言います。あの時の種から蒔いたムギが、いまこの畑で実っている。ほら、ほかのどの穂よりも高く、どの穂よりも輝いて。

    ###これこそ豊かな精神の語りというような物語。
    このようにその場でその相手に語れる人を”語り部”というのでしょう。

    『月がほしいと王女さまが泣いた』
    小さな王女さまはベッドから抜け出して空を見ていたのです。そしてきれいなお月さまを見てほしいと思ったのです。しかし月は手に届きません。そして王女さまはしくしくと泣きました。
    その様子を見た昼と夜の動物は、王女様に付きを上げるべきだと仲間に声をかけました。
    翌朝お城は、王女さまが誘拐されたと大騒動です。
    料理番は料理をやめ、それにならって女たちが仕事をやめ、だから男たちも仕事をやめ、その様子を見た近所の国は戦争の準備をして、そして昼と夜も役目を放棄してしまったのです。
    この騒動は王女さまが戻って収まったのですけどね。

    『ヤング・ケート』
    まだケートが若い娘で女中をしていたころ、ケートを雇っていた家では危険だからと外出を禁止していたのです。
    川には『川の王さま』がいるし、牧場には『みどりの女』がいるし、森には『おどる若衆』がいます。
    やがてケートが自分の家を持つときに、彼らの全員にあったけれど、それはとても楽しく気の合う人たちでした。
    だからケートは自分の子どもたちには外出を勧めて育てたんです。

    『名のない花』
    小さな娘の見つけたきれいなお花。だれもその名前を知りません。
    花は両親から、農場管理人の手に、それから学者さんの手に渡ってしまいました。
    そのまま名前のない花は忘れられてしまいました。
    でも娘さんは、大きくなってからも決してその花がどんなに綺麗だったかを忘れませんでしたよ。

    『金魚』
    小さな金魚が海の中で嘆きます。だって自分は月と結婚できなくて、太陽より偉くなれなくて、世界が自分のものにならないのですから。
    それを聞いた海のネプチューン王は笑っていいます、それではお前の望みを叶えてやろう。
    小さな金魚は、その小ささにふさわしい小さな世界で、その小ささにふさわしい小さな幸せを叶えました。それを見てネプチューン王は笑ったということです。

    『レモン色の子犬』
    殿さまの木こりのジョーが持っていたのは、母親の形見の指輪と、父親が作った椅子と、最後の小銭と取り替えたレモン色の子犬だけでした。
    そのころお城では王女さまが、どうしてもほしいものが有ると泣いていたのです。
    ジョーにはわかりました。その望みを自分がきっと叶えられることを。

    『貧しい島の奇跡』
    たいそう貧しい島がありました。その島の宝物は美しい一株の薔薇の花でした。
    ある時女王様がその貧しい島を訪ねてくることになりました。
    島ではこの美しいバラを見てもらおうと思いました。
    しかしそのバラは、女王様のために別のことに使われたのです。
    島には宝物がなくなってしまいました。
    しかし何年か経ち、島が洪水に襲われたときに、女王様はその島に自分に示した心遣に対して奇跡で応えたのでした。

    『モモの木をたすけた女の子』
    マリエッタは自分のモモの木をとても大事にして、まるで友達のように思っていました。
    マリエッタにはモモの木の声が聞こえたし、モモの木の話す山の様子も知ることができたのです。
    やがて山が噴火し、恐ろしい火が村に向かってきます。
    マリエッタは自分のモモにさよならのキスをしに戻ります。そしてモモの木の声を聞いたのです。

    『西ノ森』
    アクセク王の若い王さまに、そろそろお妃さまを迎えるころになりました。
    王さまは詩を書いたのに、女中のシライナがそれをどこかにやってしまったのです!
    お妃さまを迎えるために、北、南、東の国に行く王さまですが、どうにもこうにも当てはまらないのです。
    そして壁で隔たった西の国に行ってみることにしました…。

    『手まわしオルガン』
    くらい道をゆく旅人の耳にはいった手まわしオルガンの音楽。
    旅人はうれしくなりました、そして一緒に踊りました。
    オルガン弾きは言います。オルガンはどこでも弾けるし、踊り手だってどこだっているもんさ。
    そう、森の中は、上から下まで音楽と踊りでいっぱいになりました。

    『巨人と小人』
    知恵も心も持たない巨人は世界を割るだけの力を持っていました。
    考える力と心を持つ小さな小人は世界を作り変えるだけの知恵を持っていました。
    天使たちは彼らが一緒になることを恐れていたのです。
    しかしその日が来てしまったのです…。

    『小さな仕立て屋さん』
    王さまのお妃選びが行われます。
    ドレスを仕立てた仕立て屋さんは、モデルとして自分がドレスを着てみせます。
    王さまの従卒の若者は、仕立て屋さんにダンスを申し込むのでした。

    『おくさまの部屋』
    「ああ、ああ、私はこの部屋に飽きてしまった!」次々に望みを変える若い奥さん。妖精さんは最後に彼女に自分の言葉の意味を分からせるのでした。

    『七ばんめの王女』
    お妃さまは王さまにたいそう大事にされていました。大事にされすぎて、御殿から出してもらえなかったのです。
    お妃さまはやがて七人の王女さまを産みました。
    王さまは「一番神の長い娘を跡継ぎにする」と言ったのです。
    お妃さまは、最後に産まれた王女さまだけは、自分の手で自分の本当に欲しかったものを手に入れられるように育てたのでした。

  • ファージョン(1881-1965)はイギリスの詩人・作家です。岩波少年文庫の扉の紹介文によると、父は流行作家、母はアメリカの有名な俳優の娘でした。芸術的な雰囲気に満ちた家庭で本に埋もれて育ち、正規の教育は受けませんでした。
    この短編集に収められた作品は不思議な味わいのあるものばかりです。それもこれも、義務教育を受けずに育てられ、自由な空想を羽ばたかせて書いた成果でしょうか。

    かなり良かったと思います。お気に入りの作家になってしまったのですが、中でも私がお気に入りの話は「レモン色の子犬」、「月がほしいと王女さまが泣いた」、「七ばんめの王女」ですね。

    「レモン色の子犬」は、面白いです。悲しさと美しさが共存したお話です。


    王さまの木こりのジョンがある日、年とって亡くなります。その息子のジョーは特技といっては木を切ることしかありませんでしたが、王様の執事に父親亡き後の木こりの職を志願するところから、物語ははじまります。
    木こりの仕事を一度は断られたジョーですが・・・王様の娘の王女さまと、意外なところで出逢います・・・。
    身分の低い木こりと、王女様の恋の行方は如何に・・・。そんな話です。


    「月がほしいと王女さまが泣いた」は楽しい作品です。ファージョンの作品は王様とか王子、王女様が登場することが多いのですが、ここでも無邪気というか、天真爛漫な王女サマが登場します。
    王女サマは五歳とか六歳なのですが、お月様がほしくて、屋根の上にまで登って、泣いています。「あたしお月様がほしいの」、と。
    その王女サマの一言がとんでもない騒動を巻き起こします。誤認逮捕の嵐、戦争の勃発・・・国中を、大混乱に陥れます・・・。

    ファージョンは、技術的に「繰り返す」ことを好きな作家ですね。「レモン色の子犬」でも、同じパターンを何度か繰り返して、ラストでカタルシスが訪れる、という構造です。
    作品的には児童書かもしれませんけれど、構造への意思があります。言い換えれば、自由に好き勝手に空想の翼を広げているように見えて、その実、裏では精緻な計算をしているということです。

    最上級の、上質の物語がここにあります。

    * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
     
    にゃんくの本『果てしなく暗い闇と黄金にかがやく満月の物語』より
    (あらすじ)

     七歳になるリーベリの元に、或る日、継母のケイとその娘ミミがやって来ます。継母に虐められ、リーベリは学校にも通えず、幼い頃から働かされ、友達すらいなくなります。
     リーベリの心の拠り所は、亡くなったママ・ジュリアが遺してくれた魔法の教科書だけ。リーベリは毎日魔法の勉強をし、早く大人になり自由な生活を送れる日が来ることを夢見る毎日です。
     成長したリーベリの唯一の仲間はぬいぐるみやカラスだけです。
     或る日、そんなリーベリは、海岸にひとり男が倒れているのを見つけますが……。


    ↓ここから本を試し読みできます

    http://p.booklog.jp/users/nyanku

  • 子供の頃、友だちと分厚い本を読む競争をしていて、気付けば競争を忘れて引き込まれていました。競争をしていた時読んでいたのは「ファージョン作品集」ですが、本棚の幅を取るという大人の事情で、こちらが今手元にあります。
    子供の頃こんな物語に触れられるなんて、今思えばとても贅沢なことでした。
    お気に入りは「ヤングケート」「レモン色の子犬」「西ノ森」です。どれも本当と空想が混ざりあったような、不思議な味わいのある物語です。アーティーゾーニの描く挿し絵が、その不思議さにリアリティーを足しています。
    何よりも心を惹き付けてやまないのが、石井桃子による訳です。こんなに自由でいいんだろうか?というくらい楽しげで不思議な節回しで、ひらがなとカタカナの入り乱れた世界が広がっています。
    何度も繰り返し読む本があるのも、実はとても贅沢なことなのかもしれません。

  • 前書き「本の小部屋」は私の永遠のあこがれだなぁ
    そして、ファージョンにはやっぱり、アーディゾーニのイラストがいい
    C.S.ルイスやトールキンにポーリン-ベインズが似合うように。

  • 旧版のまえがきだけ前に読んだことがある。
    作者まえがきの本の子部屋に憧れる。
    本にまみれた家。
    溢れ出ている本。
    そんなところで子供時代を過ごしてみたい。

    元も素晴らしいのだろうが、さすが石井桃子さんというだけあっておとぎ話のような美しい訳が素晴らしい。
    擬人化された夜や太陽、生き物が生き生きとしている。

    幸せな結末の話、落ちに頼らない平坦な話、教訓的な少し風刺のきいた話…。

    「西の森」と「小さな仕立屋さん」が好き。

  • 短編集。子どもができたら、毎晩少しずつ読んであげたい。声に出して、耳から聞きたいおはなしばかりでした。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      ファージョンは良いですね、私は「マーティン・ピピン」が結構好きです。
      それとアーディゾーニのイラストも大好きです。
      ファージョンは良いですね、私は「マーティン・ピピン」が結構好きです。
      それとアーディゾーニのイラストも大好きです。
      2012/10/26
  • はじめて読んだのに
    遠い昔の記憶をくすぐるような、

    上質な
    おとぎ話。

  • 4-00-114082-9
    C8397\720E.

    岩波少年文庫082
    ムギと王様
    本の小部屋1

    2001年5月18日 第1刷発行
    著作:ファージョン
    訳者:石井桃子(いしい ももこ)
    発行所:株式会社 岩波書店
    NDC933.
    284P
    さし絵:エドワード・アーディゾーニ

    --------------
    作者まえがき
    ムギと王さま
    月がほしいと王女さまが泣いた
    ヤング・ケート
    名のない花
    金魚
    レモン色の子犬
    貧しい島の奇跡
    モモの木をたすけた女の子
    西の森
    手まわしオルガン
    巨人と小人
    小さな仕立て屋さん
    おくさまの部屋
    七番目の王女
    ----------------

    作者まえがき ここから楽しめる。この前書きのシーンを動画(映画)にしてもワクワクしそうです。
    リンゴ畑のマーティン・ピピン さて、読んだかな?もう一度手にしてみる必要がありそうです。
    --------------
    作者さんについて
    エリナー・ファージョン
    1881~1965
    イギリスの詩人・作家。ロンドン生まれ。
    父はユダヤ系ベンジャミン・ファージョン 流行作家、母はアメリカの有名な俳優の娘だった。
    芸術的な雰囲気に満ちた過程で本に埋もれて育ち、正規の教育は受けなかった。
    「リンゴ畑のマーティン・ピピン」で作家としての地位を確立
    D.H.ロレンス 、デ・ラ・メアなどと交流を深め、みずみずしい感性と想像力で美しい物語や死を紡ぎだした。
    「本の小べや」と名付けた自薦短編集でカーネギー賞と第1回国際アンデルセン賞を受賞。
    ---------------------------

    小学5.6年生以上
    裏表紙より
    幼い日々、古い小部屋で読みふけった本の思い出---
    それは作者に幻想豊かな現代のおとぎ話を生み出させる母胎となりました。この巻には、表題作他「レモン色の子犬」「小さな仕立て屋さん」「七ばんめの王女」など、14編を収めます。

    ※作品集はメモに

  • 散歩の途中に蹴った石ころになぜだか心惹かれてずっと持ち歩いてしまうような、一見宝石ではないけれどとても尊いものに思われる、優しいお話でした。最近こういう短編集が好きだな。いろんな景色を見られて楽しい。

  • 2019.8月。
    大人もおもしろいお話ばかりだった。ぐいーんと引き込まれる。物語のおもしろさよ。

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