星の林に月の船 声で楽しむ和歌・俳句 (岩波少年文庫 131)

  • 岩波書店 (2005年6月16日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (240ページ) / ISBN・EAN: 9784001141313

作品紹介・あらすじ

意味はわからずとも、まずは五七調のリズムの心地よさをたっぷり味わい、ことばの響きを楽しもう。『万葉集』の和歌から昭和初期の短歌、俳句まで、くりかえし口ずさんでほしい約200作をえらんだアンソロジーです。それぞれに短い鑑賞の手引きをそえました。

みんなの感想まとめ

言葉の響きやリズムを楽しむことができるこのアンソロジーは、和歌や俳句を通じて、短い言葉の中に潜む美しさやユーモアを感じさせてくれます。作品には約200作が収められており、五七調のリズムが心地よく、鑑賞...

感想・レビュー・書評

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  • 今年の中秋の名月は、昨夜の9月13日でした。眺めてみたものの、月にむら雲、なんだか朧月夜のようで、う~残念です。考えてみると、慌ただしい現代人がしげしげと夜空を眺めるのも、もしかするとこんなときだけかもしれません……。

    <天(あめ)の海に 雲の波立ち 月の船 星の林に こぎ隠る見ゆ> 柿本人麻呂(万葉集)

    難しい言葉や技巧の類は一つもありません。でも彼の詩情が溶け込んだ言葉は、1400年の時と空間を超えて飛び出していくようで、いま口ずさんでみても果てしない宇宙の広がりを感じます。そんな人麻呂の歌から本歌取りした本書の表題もひときわ光っています。

    本作は、詩人大岡信が、奈良時代から明治以降にいたるまでの、とびきりの詩歌を選んだアンソロジーです。現代語訳はわかりやすくて秀逸ですし、歌人の紹介や詩歌にまつわる小話が興味深い。歴史の大河のなかに、恋あり、涙あり、ゴシップあり……大人も十分楽しめる本になっています♪

    <あかねさす 紫野行き 標野(しめの)行き 野守は見ずや 君が袖振る> 額田王(万葉集)
    (あかね色に照り映える紫野をゆき、御料地の標野をゆき、なんと大胆なふるまいをなさるのかしら。番人がみとがめないでしょうか、私に袖振るあなたを)

    万葉集の女性歌人、額田王は私のお気に入りの歌人の一人です。1400年ほど前に書かれた歌なのに、今読んでもふわっと色香が漂いますし、それでいて素直で力強い歌を詠むのですよね。そんないい女と大海人皇子(おおあまのおおじ:後の天武天皇)は、恋人どおしだったのですが、彼の兄/天智天皇が額田王をみそめます。元カノになってしまった額田王のことが忘れられない大海人? いやいや皆の前で笑いを取ろうとする大人の男の余裕? それにしても艶めいたきわどい返し歌を詠んでいますね、ふふふ♪

    <紫の にほへる妹を 憎くあらば 人妻ゆゑに 我恋ひめやも> 大海人皇子(万葉集)
    (紫草で染めたように美しく照り映える女よ、もしあなたを気に入らないなら、人妻と知りながら、私がどうして恋などしましょう)

    ほかにも山部赤人、大伴旅人、大伴家持(旅人の息子)、山上憶良、大伴坂上郎女(旅人の妹)……豪華キャスト。それぞれのキャラクターが際立つような詩歌が選ばれていて、私が言うのもひどくおこがましいのですが、どの方も情感レベルに加えて、言の葉を操る技量がすこぶる高い!

    時代は下り、平安・鎌倉。主に『古今集』『新古今集』から、紀貫之、小野小町、後鳥羽院、藤原俊成、藤原定家、西行……といった耽美な世界を表現した歌い手たちがそろっています。さらに江戸時代も凄い。『源氏物語』のパロディ『好色一代男』の井原西鶴、あはれな『雨月物語』の上田秋成、与謝蕪村、良寛……そして世界的に有名な俳人といえば、

    <夏草や 兵どもが 夢の跡>
    <閑(しずか)さや 岩にしみ入る 蝉の声> 松尾芭蕉

    <春風や鼠のなめる隅田川> 小林一茶
    うまそうに雄大な川水をなめる、ちっこい後ろ姿が可愛らしい。

    <憂きことを海月(くらげ)に語る海鼠(なまこ)かな> 黒柳召波(与謝蕪村の弟子)
    あまり動かないなまこ、ふわふわ波に漂うくらげにうつうつと悩みを語っているのです。が……もうとっくにそこにはいないぞ、くらげ! まるで絵本の世界のようです(笑)。

    明治以降になると、与謝野晶子、高浜虚子、夏目漱石、芥川龍之介、山頭火、石川啄木、室井犀星、佐藤春夫、土屋文明、三好達治、若山牧水……。

    <柿くえば鐘が鳴るなり法隆寺> 正岡子規

    <水すまし 流れにむかひ さかのぼる 汝(な)がいきほひよ 微(かす)かなれども>
    斉藤茂吉
    おやおや、おまえの力強い勢いの素晴らしさ! と褒め上げておいて、微かな歩みだけどな、と微かに落とすあたりの遊び心にくすくすします。そういえば最近あまりあめんぼを見ていないな……不思議な生き物。

    <まるまると 肥えしなめくじ 夏茸(なつたけ)の 傘溶かしいが 己溶けしか>
    高安国世(たかやすくによ)
    まるまる肥えたなめくじが、夏キノコの傘をむしゃむしゃ溶かしていたが、あら? いつのまにかいなくなってしまった。自分自身が溶けてしまったか?
    ひゃ~なんだか冷えます。でも確かになめくじって忽然と消えてしまいます。わかるわかる。

    <夏の海 水兵ひとり紛失す> 渡辺白泉(はくせん)

    ***
    この本を眺めていると、知らない詩歌人がたくさんいて驚き、唖然として恥ずかしくなりますが、ソクラテス曰く無知の知はなによりも大事――といつも自分を笑いとばしながら――これからも少しずつ楽しんでいこうと思います。思えば学生のころは『万葉集』が好きで、奈良の明日香(飛鳥)や平城跡や吉野などをひたすら歩き、ひたすら日焼けしながらレンタル自転車を漕いで廻ったものです。でも当時は先人の詩歌をあまり理解できなかった私。今になってようやく楽しめるようになったかな……また訪ねてみたいです。

    季節の流れをこよなく愛し、自然や生き物たちと一体になった豊かな感受性と鋭い観察眼、それを表現する言葉の美しさに惚れぼれします。そしてなんといっても脈々と続く人間の営みに、ひたすら温かい眼差しを向ける詩人大岡信に感激します(大岡信『私の万葉集1~5』、『詩人・菅原道真―うつしの美学』も素晴らしい)。

    余談ですが、観月のチャンスを見いだしました。「中秋の名月」とならび,「十三夜の月」が古くから観月されてきました。旧暦9月13日のお月さん、今年は10月11日になるようです。ひどい大雨や災害は終息して、どこもかしこも涼しく晴れるといいな♪ 

    • やまさん
      アテナイエさん
      こんばんは。
      やま
      アテナイエさん
      こんばんは。
      やま
      2019/11/09
    • アテナイエさん
      やまさん、こんにちは!
      お読みいただきありがとうございます。心に残るような詩歌人がいたらうれしいです。
      やまさん、こんにちは!
      お読みいただきありがとうございます。心に残るような詩歌人がいたらうれしいです。
      2019/11/10
  • 万葉集をはじめとして、近代俳句・短歌までの大岡信による選集。
    今、俳句がブームですよね。自分もいつかとは思っているのですが・・・なかなか実現しません。
    日本語の美しさを実感しています。
    やばい!のひとことで何でも片付けてしまう風潮はなんだかねえ・・(あ、なんだかねえも同じか。)
    中高生に読んでもらいたいね。

  • 和歌と俳句。リズム、響き、情景、ユーモア、美しさ。短い言葉だからこそ感じるもの。よくわからなくても。言葉っておもしろい。

  • そろそろ
    名作文学

    教養コーナー
    を作ってもいい頃合いだと思います。
    で、そういうところに、こういう本もいれたいのだけど、これ、中身は凄くいい。
    めちゃくちゃいい!
    ただ、活字を変えてくれないと、読めない人が、でる……。
    筆文字書体が和歌に似合うのはわかるが、それだと読めない人が何%か、出るんです。
    表紙も子どもを惹きつけない……。

    岩波書店さま。
    10冊でいいので、乙女の本棚、とまではいわないが、いまの子どもたちが、うわぁ、という本を作ってくれまいか……。

    2021/11/15 更新

  • 大岡信が、少年少女たちにすすめるために選んだ、本当に大事にしたくなる言葉たち。
    短歌、俳句、詩。
    この本に収録されている者たちは、時代を超えて本当に大事にしたくなるものばかりです。
    大人でも十分満足します。

  • 世の中には俳句や和歌を趣味とする大人も多いけれど、あいにくそのての雅な趣味を持たずに大人になってしまった KiKi。  でも、久々にこの本で数多の和歌や俳句を読んでみると、今さらながら「日本語の美しさ」と「日本人の美意識」、「季節感」といったものに驚かされます。  この本に収録されている194編の作品の中で、既に KiKi がどこかで読んだことがあるものが約半数。  そのまた更に約半数が未だにちゃんと暗唱できる句だったのが嬉しかった(笑)。  最近ではすっかりご無沙汰の「百人一首」に含まれている詩もあり、そう言えば小学生の頃、100首全部を覚えたものだっけ・・・・などと感慨にひたったりもして・・・・。

    (全文はブログにて)

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著者プロフィール

昭和6年、静岡県三島市生まれ。詩人。東京芸術大学名誉教授。日本芸術院会員。昭和28年、東京大学国文学科卒業。『読売新聞』外報部記者を経て昭和45年、明治大学教授、63年東京芸大教授。平成2年、芸術選奨文部大臣賞受賞。平成7年恩賜賞・日本芸術院賞、8年、1996年度朝日賞受賞。平成 9年文化功労者。平成15年、文化勲章受章。著書に『大岡信詩集』(平16 岩波書店)、『折々のうた』(昭55〜平4 岩波書店)など多数。

「2012年 『久保田淳座談集 空ゆく雲 王朝から中世へ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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