ベーグル・チームの作戦 新版 (岩波少年文庫 140)

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  • Amazon.co.jp ・本 (227ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784001141405

作品紹介・あらすじ

ママがぼくらの野球チームの監督に、兄さんがコーチになったおかげで、ぼくのプライバシーはすっかり侵害されてしまった…。思春期をむかえた12歳の少年マークの目を通して、家族や友人たちとの日常をユーモラスに描く。小学4・5年以上。

感想・レビュー・書評

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  • これは面白かった。
    いつものごとく「グループの傍にいながら決してその一部にならない」でいるにはどうすれば良いのか、カニグズバーグが教えてくれる。
    タイトルの「ベーグル」が示す通り、ユダヤ人の家族の話。
    「チーム」はリトルリーグのこと。そして[作戦]が読みどころだ。
    でも野球だけじゃない。友情や性の問題、嫉妬によるいさかいや民族差別。
    家族への接し方。他人との距離のとり方。
    12歳から13歳の頃の少年の胸のうちは、日々熱い闘いなのだ。

    主人公は12歳のマーク。
    「バーミツバ」と言われるユダヤ教の成人式を控えている。
    ある日マークの母親が、婦人会の後援を得てマークのいるリトルリーグの監督に就任することになる。おまけに大学生の兄がコーチに任命された。
    町の8チーム中で最弱のチーム。勝とうという意欲もあまりない。
    ところがママは子どもたちの心をつかみ、巧みな作戦で試合に勝ち進んでいく。。

    母親が監督だなんて、マークにとっては悩みの種だ。
    野球のことで起きたこととただの男の子としての自分に起きたことを区別するのは難しい。二重の立場を、どううまく立ち回れるのだろう?
    友情を取り戻したい相手もいるし、好意を抱く女の子もいる。
    そんなマークは、試合で不正を見抜いてしまったりする。
    しかも優勝していたのに!
    色々な問題が次々に起きて、時には皮肉なポーカーフェイスで、また時には真正面からぶつかって、「フェアでありたい」と願いながら大切なものを守り抜き、無事に「バーミツバ」までたどり着く。
    大人なら「なんだそんなこと」だが、12歳のマークにとってはどれもこれも手抜きなど決して出来はしない大問題なのだ。

    何をやるにも全身全霊でやり抜くママが、なんとも魅力的に描かれる。
    雑誌「プレイガール」をベッドの隙間に隠したマーク。
    心配してつい口出しする叔母さんに言う言葉が、すごい説得力だ。
    「どんな子でも何か母親にかくすものが必要なのよ。」
    「小さいときには小さいプライバシー。大きくなったらもっと大きいプライバシーを許すようにしてあげないと、あんたをこそこそ人間にしてしまう」

    終盤の爽やかさは特筆もので、ここの一節にカニグズバーグの信条が見て取れる。
    「成長のほんの一部分だけが、みんなの前と家族の前で起こる。
    あとの大部分は、ひとりでいる時に起こる」

    貧しい会話を交わしながら群れるより、ひとりの時間を過ごした方が、はるかに子どもを成長させる。じっくり自分自身と向きあい、考える時間をもつこと。
    ひとり居を奨励する大人など滅多にいないが、マークの自立に欠かせなかったのがこの母親だと、読み終えてよーく分かる。
    成長の傍らには賢い大人の存在って本当に大事。こんなカッコいい大人になりたいものだ。

    キリっと引き締まった文章。
    明るいユーモアもいっぱいで、とりわけ登場人物たちの会話が本当に面白い。
    思春期の子がいるおうちの方にはぜひ。
    先生方も読んでくれたら、子どもたちはどんなに解放されるだろう。
    いじめに悩む子にも。そして友達つきあいに悩む子にも。
    大人にも、他人との距離のとり方をあらためて教えてくれる良書。
    「エリック・ホッファー」「プリズン・ブック・クラブ」そしてこの本。ああ、幸せの夏。

  • 大学に行き始めたとたん母親を名前で呼び出し、いちいち口ごたえ。一丁前ぶり始めた兄のスペンサー。
    家庭内の調和の乱れもさることながら、仲良くしていた友が疎遠になり、思春期の戸惑いにさらされる12歳の弟マーク。

    スペンサーへのあてつけかのように母はマークの所属するリトルリーグの監督を引き受け、スペンサーをコーチに指名することに。
    いっときはぎくしゃくするも、次第に家族はひとつの方向へ向かっていき絆が強まっていく。

    大人になってからこの手の少年期の友情育み物語も悪くない。
    微笑ましくもあり、歯がゆくもあり、その上悪意の種と向き合うためのヒントもあり、ときにユーモラス、ときにシリアス。

    子ども向けレベルの内容で薄っぺらく感じることなんて全くなく、十分楽しめる。
    岩波少年文庫あなどれない。

  • 再読。
    12歳の少年の目を通した、家族と家族が関わることになった少年野球チームの話。そこにこの年頃によくある友人関係とか、地域事情とか、少年の家族が信仰しているユダヤ教という宗教の話が絡んでくる。そんな経験から『気付き』を得られ少しずつ大人への階段を登っていく主人公。どのエピソードも共感出来てしまう。読んでいる最中も、読み終わった後も、その余韻に浸っていたいとさえ感じる。これはフィクションなのに、この家族が、このコミュニティが、今も変わらず何処かに存在していて欲しいとさえ感じた、私にとっては稀有な作品だった。

  • アメリカの中流階級の子どもってこんなかんじなのかなあ。【2020年8月5日読了】

  • カニグズバーグを今まで数冊読んできたが、現時点で本作が一番好きだなと思った。
    (今まで読んだのは、クローディア、魔女ジェニファ、ジョコンダ夫人、ドラゴン、ティーパーティ、800番だと思う。全て大人になってから読みました。クローディアがデビュー作、ほぼ同時期の二作目が魔女、で今作が三作目。最初からレベルが高すぎる…!)

    少年、家族、友人、野球。
    アメリカのごく普通の少年。
    毎日起こる激しい変化。
    からっと明るいユーモアと、成長を見守る家族。
    小説が巧いとはこういうことだろう。

    解説めいたことを言うなら、本作は、まさに子供が大人になる儀式の瞬間を描いた作品。
    それは公的にはユダヤのバーミツバであるけど、ぼくの精神面では野球チームに母と兄が深く関わり、知りたくないことを知ってしまった瞬間(少年野球メンバー選抜が入札制だったのは初耳。自分の選手としての点数なんて知りたくなかったよね)であり、失ったかに見えた友情を少し取り戻した瞬間、親が自分のグラビア誌の隠し場所を知っていて放置してくれたことを知る瞬間、自分の服を直してくれたガールフレンドが野球の勝敗の不正についてヒントをくれた瞬間(しかも自分たちの!)、野球チームの優勝についての疑念を母に伝えられた瞬間だ。
    いくつもの大イベントが怒涛の勢いで続く。
    激しい海の波が細かく来るように、息つぎする間もないほど思春期は忙しい。
    いちいち波濤を数えていたらキリがないのだけど、大人になった私から見ると、乗り越える成長のスピードが著しくて、いつ越えたのかわからないほど。
    大きな流れが一つに繋がっていく。
    その全てが心地よい。たまらない。

    お母さんのキャラクター造形が素晴らしい。
    あっけらかんとして、勢いがあって、当初は反発していた野球チームの少年たちを徐々にファンにしていく様子が気持ちいい。
    他の保護者への言い分もズバッとしていて頼もしい。

    兄スペンサーもわかりやすく、弟にきつい歳の離れた兄だけど、ずっとフェアでいてくれたことが暖かくて優しい。
    数字でヒントをくれた父、別サイドから支えてくれたセルマおばさん、みんな大好きです。

    ユダヤ教徒たちの社会の話だけど、日本人には縁のないそれらが、鼻にはつかず、大きな流れとして受け入れられるのも、小説の仕掛け&訳文が上手いから。
    なんといっても、表面上、お母さんの神様はダイニングの電灯の上にいるに過ぎないのだから。

    そして、挿絵もカニグズバーグ本人によるものだったと初めて気づいた。
    絵も上手いんだなあ、と感心しきり。

    読みながら、アンダーラインを引きたいところがあちこちあって困った。ここにメモしておく。

    p67(セルマおばさんはハイヒールが土にめりこんで、足だけ動く様子は不恰好だった)
    ママが歩くと、まるでママ専用のそよ風といっしょに歩いているみたいで、ずっと素敵なんだ。

    p71(野球の上手な双子サイモン&シルベスターについて)
    思うにバリーみたいに努力して強くなったのより、サイモンやシルベスターみたいにとびぬけて強いほうが、ひとにやさしくしやすいのだろう。あの二人はフォード財団が寄付するみたいに、笑い顔とか有益な忠告を惜しまない。まだまだたっぷり持っているから、計算ずくであたえなくていいんだ。

    P119(ママも兄スペンサーも役割をうまくこなした。セルマおばさんも得意の育児教育ネタで野球チームのお母さんたちの相手をこなした)
    だんだんはっきりしてきたのだけれど、何事にもつけても、人の考えを変えさせることなんか、だれにもできないものだ。大人は人の話を聞いて考えをかえたりしないものだ。ただ話し合って折り合いをつけるだけだ。これでセルマおばさんに新しいお得意の分野が開けた。ママが隊長、スペンサーが軍曹、そしてセルマおばさんは従軍説教師だ。

    日本の児童文学で、プレイガールをお金をとってチームメイトに見せている行為を描くのは難しいだろう。そのうえ、この作品のママはそういうグラビア雑誌を自然に許容し、次男の隠し場所もわかったうえでそっと放置してくれた。
    これがアメリカの1969年の作品なんだ。本当に凄い。
    さらっと食洗機も登場。こういう物質的な豊かさがママの時間や精神の自由を生んでいると思うと、日本の当時とは比べるまでもないし、今でも日本の家庭はまだまだアメリカのレベルには及ばないんだなあと思う。日本でこのレベルの児童文学が読めるのはいつになるだろう。


  • 野球チームの話なんて、バッテリー以来だなぁ。。と思いつつも、カニグズバーグと、これをおすすめして下さった皆さんの顔を信じつつ、苦手な野球のお話かぁ。。と読み始める

    あら!

    野球のルールはよく分からないけど、カニグズバーグが描く子どもたちの姿と、その周りの大人たちは、本当に素敵だから、やっぱり面白くって!少年の等身大の気持ちの動きと社会性が交差していく感じ…

    マークはいつも、忙しいママの不満ばかり呟いている。
    こともあろうに、ママが自分たちの野球チームの監督になるだなんて言い出した。
    そのうえ大学生の兄さんがコーチをするというのだ…

    ママと監督、兄さんとコーチ、
    こどもであり、弟であるぼくと、マーク。
    ふたつの立場。

    ママとマークの、ママ(ベッシー)と兄さんのスペンサーの、ママと妹のセルマおばさんとのおかしな喧嘩(セルマの夫ベンのあたまが禿げてるとかはげてないとかw)なんというか、そんなケンカシーンが、とてもリアルで面白い。ママに愛情がたっぷりあるからこそなんだけど!

    …友だちとのすれ違い、
    陰口、悪口、おかしな噂、そういうフェアじゃないことが苦手なマーク。ちっともかっこいい主人公の姿でないけれど、そこがいい。

    ベーグル、そう、ユダヤのパン。
    なんとも上手いことユダヤ人の象徴として使われています。
    クーキーとベーグルとのシーン、可愛らしい!

    これ、最初はロールパンと翻訳されていたと聞きますが、ロールパンじゃ、このシーン台無しじゃなかったのかしら…

    と、最後のちょっとした事件、魅力的なママの描かれ方、普通の生活の中の、ほんの、一コマをとっても魅力的に掘りおこしてくれるカニグズバーグのスタイル、本当に最高です!
    なんでこれ、絶版なんでしょ!

    やっぱりカニグズバーグ、読破しなくては。。

  • 母が自分の野球チームの監督、兄はコーチになってしまった少年の話。
    人物描写、人間関係の描写が非常に上手くて唸らされた。
    家族、学校、野球チームや教会。
    子供であっても、幾つもの重なり合った社会の中にいる。
    そこで何を尊重するのか、自分はどう生きていくのか、考えて試行錯誤する主人公の姿がとても良かった。

  • 面白い!思春期特有の家族への視点の変化とか、親友との距離感とか、表現が的確すぎてびっくりします。ママが素敵。出てくるセリフがどれもかっこよくて、こんな母親になりたいと思わずにいられません。これは手元に置いて読み返したい一冊。「そしてねずみ女房は星を見た」で紹介された本ですが、本当に読んでよかった!おすすめです!

  • 子供が大人になっていく,現代の通過儀礼のような感じもする物語.野球を通じて,母親が監督,兄がコーチになるという,2重生活のやりにくさ,友情の問題にほのかな恋愛感情など,子供らしい生き生きしたところに大人顔負けのウィットを効かせて,素晴らしい物語になっている.天真爛漫な母親も素敵だ.

  • http://d.hatena.ne.jp/honyakumystery/20130712/1373586073
    (1969年:『ベーグル・チームの作戦』とニューヨーク・メッツ)

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      知らなかった、「ロールパン」から「ベーグル」になったんだ。。。
      知らなかった、「ロールパン」から「ベーグル」になったんだ。。。
      2014/06/17
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